市販の釉薬でも貫入は出せますが、配合を1%変えただけで模様が消えます。
貫入釉の基本配合は、長石40~50%、珪石20~30%、石灰石15~25%、カオリン5~10%の比率が一般的です。この配合が貫入を生み出す理由は、釉薬と素地の収縮率の差にあります。
焼成後の冷却時、釉薬は素地よりも大きく収縮しようとします。その結果、釉薬表面に細かいひび割れ=貫入が生まれるということですね。
具体的な配合例を挙げると、1200℃焼成用の基本レシピは以下の通りです。
この配合で約100gの釉薬を作る場合、長石45g、珪石25g、石灰石20g、カオリン10gを計量します。デジタルスケールで0.1g単位まで正確に測るのが基本です。
材料の選び方にも注意が必要です。長石は産地によって成分が異なるため、同じ産地のものを継続して使うことをおすすめします。珪石は粒度200メッシュ以上の細かいものを選ぶと、釉薬の透明度が上がります。
日本陶業株式会社 - セラミック原料カタログ
陶芸用の各種原料の詳細な成分表と特性が掲載されており、材料選びの参考になります。
調合する際は、必ず乾燥した材料を使ってください。湿気を含んだ材料は正確な計量ができず、配合比率がずれる原因になります。材料は密閉容器で保管し、使用前に常温に戻しておくのが原則です。
焼成温度によって配合比率を変える必要があります。1200℃と1250℃では、同じ配合でも貫入の出方が全く異なるためです。
温度が高いほど釉薬の収縮率は大きくなります。
つまり貫入が出やすくなるということですね。
1250℃以上の高温焼成では、長石の比率を50~55%に増やし、珪石を20~25%に減らします。逆に1150℃以下の低温焼成では、長石を35~40%に減らし、石灰石を25~30%に増やすのが基本です。
温度帯別の配合調整例を示します。
【1150℃焼成用】
【1200℃焼成用(標準)】
【1250℃焼成用】
温度を50℃上げるごとに、長石を約5~7%増やすと覚えておけばOKです。
電気窯とガス窯でも調整が必要になります。電気窯は温度が均一ですが、ガス窯は窯内に温度差が生じやすいため、同じ配合でも貫入の出方が変わります。ガス窯を使う場合は、窯内の温度分布を事前に把握しておくことをおすすめします。
焼成記録をつけることも重要です。配合、焼成温度、冷却速度、貫入の状態を毎回記録すると、自分の窯に最適な配合が見えてきます。
貫入の美しさは、冷却速度で8割決まります。急冷すると貫入が粗くなり、徐冷すると細かく均一な貫入になるためです。
理想的な冷却パターンは、1200℃から800℃までを1時間あたり100℃のペースで下げることです。
この温度帯が貫入形成の重要な時間帯ですね。
具体的な冷却スケジュールを示します。
800℃から600℃の温度帯では、冷却速度を時間50℃程度まで落とすと、さらに細かい貫入が得られます。この調整により、貫入の線が髪の毛のように細くなります。
電気窯の場合、プログラム機能を使って冷却速度を設定できます。設定がない窯でも、スイッチを入れたり切ったりして温度をコントロールすることは可能です。
窯の断熱性能によっても冷却速度は変わります。断熱性の高い窯は自然冷却が遅く、貫入が細かくなりやすい傾向があります。逆に古い窯や断熱材が劣化した窯は冷却が速く、貫入が粗くなりがちです。
冷却中の温度管理には、窯内に熱電対を設置することをおすすめします。窯の表示温度と実際の作品周辺の温度には、5~10℃程度の差が生じることがあるためです。
最も多い失敗は「貫入が全く出ない」という状態です。この原因の90%は、釉薬と素地の収縮率の差が小さすぎることにあります。
収縮率の差を大きくするには、長石の比率を5~10%増やすか、素地の収縮率を下げる方法があります。素地に珪石を5%程度混ぜると収縮率が下がり、貫入が出やすくなりますね。
次に多い失敗が「釉薬の剥離」です。貫入が深すぎて釉薬が素地から剥がれ落ちる現象で、長石が多すぎる場合に発生します。
剥離の対策を示します。
これらを組み合わせることで、剥離のリスクを大幅に減らせます。
「貫入が粗すぎる」という失敗もあります。
貫入の線が太く、数も少ない状態です。
これは冷却が速すぎることが主な原因です。
冷却速度を時間80℃から時間50℃に落とすだけで、貫入は細かくなります。どういうことかというと、ゆっくり冷やすことで釉薬の収縮が小刻みに起こり、細かいひび割れが増えるということですね。
「貫入に色がつかない」という悩みもよく聞きます。貫入を見やすくするには、作品を紅茶やコーヒーに浸ける方法が一般的です。30分程度浸けると、貫入の隙間に色素が入り込み、模様がはっきりします。
墨汁を薄めた液に浸ける方法もあります。
和風の作品には墨汁の方が雰囲気に合います。
素地の種類によって、貫入釉の配合を変える必要があります。磁器用と陶器用では、最適な配合が異なるということですね。
磁器は収縮率が小さいため、貫入を出すには釉薬の収縮率を大きくする必要があります。具体的には、長石を55~60%まで増やし、カオリンを5%以下に抑えます。
磁器用の配合例です。
この配合で1250℃焼成すると、磁器にも美しい貫入が出ます。
陶器の場合は、素地の収縮率が大きいため、釉薬の収縮率を抑える必要があります。長石を40%程度に減らし、カオリンを15%まで増やすのが基本です。
赤土や黒土などの鉄分を多く含む素地では、さらに調整が必要です。鉄分は釉薬の収縮率に影響を与えるため、長石を3~5%減らすことをおすすめします。
白土との相性を確認する方法もあります。テストピースを作り、同じ配合の釉薬を複数の素地に施釉して焼成してください。素地ごとの貫入の出方を比較することで、最適な配合が見つかります。
素地を自作する場合は、珪石の添加量で収縮率を調整できます。珪石を5%増やすと収縮率が約0.5%下がり、貫入が出やすくなります。この方法なら、釉薬の配合を変えずに貫入をコントロールできますね。
貫入釉に色をつける場合、顔料の添加量と焼成雰囲気の管理が重要です。透明な貫入釉に色を加えることで、作品の表現の幅が広がります。
基本的な着色顔料と添加量を示します。
添加量が1%違うだけで、発色は大きく変わります。
厳しいところですね。
酸化鉄を3%加えた貫入釉は、焼成雰囲気によって色が変化します。酸化焼成では茶色、還元焼成では青灰色になります。この性質を利用すると、同じ配合でも異なる色の作品を作れます。
透明度を保ちながら色をつけるには、顔料の添加量を最小限に抑えることが基本です。酸化コバルトなら0.5%、酸化銅なら1%以下から試してください。
色釉の場合も貫入は出ますが、透明釉より見えにくくなります。貫入を目立たせるには、焼成後に墨汁や紅茶で着色する方法が効果的です。
白い貫入釉を作る場合は、酸化チタンを5~10%加えます。酸化チタンは白色度を上げるだけでなく、釉薬の光沢も調整できます。添加量が10%を超えると、表面がマット(艶消し)になります。
金属酸化物の組み合わせでは、予想外の色が出ることがあります。例えば、酸化鉄1%と酸化銅1%を同時に加えると、単独では出せない独特の緑褐色になります。組み合わせのテストは少量から始めるのが原則です。
調合した釉薬は、適切に保管すれば半年以上使えます。ただし、保管方法を誤ると成分が分離し、使えなくなります。
釉薬の保管容器は、密閉できるプラスチック容器が最適です。バケツに水を張って保管する場合、表面に油膜が浮いたり、雑菌が繁殖したりするリスクがあります。
保管のポイントを示します。
釉薬は時間とともに沈殿します。容器の底に固まった釉薬は、水を加えて1時間以上放置してから撹拌してください。
乾燥してしまった釉薬も再利用できます。完全に乾いた釉薬に水を加え、一晩置いてから撹拌すると元に戻ります。急いで混ぜようとすると、ダマになりやすいので注意が必要です。
釉薬の粘度管理も重要です。粘度が高すぎると施釉しにくく、低すぎると厚みが均一になりません。粘度計がない場合は、釉薬をすくって垂らしたとき、連続した線状に落ちる程度が適切な粘度です。
古い釉薬は、目の細かい網(200メッシュ程度)で濾してから使うことをおすすめします。濾すことで、ゴミや固まった粒子を取り除け、施釉の仕上がりが向上します。
釉薬の配合を記録するノートを作ることも大切です。配合比率、焼成温度、作品の写真を記録しておくと、同じ釉薬を再現できます。デジタルデータとして保存する方法もありますが、紙のノートの方が窯場で確認しやすいという利点があります。
使い切れない釉薬は、他の陶芸家と交換する方法もあります。陶芸教室やコミュニティで情報交換すると、新しい配合のヒントが得られることもあります。