櫨灰とは何か|特徴・成分・釉薬への使い方

櫨灰は陶芸の釉薬作りに欠かせない伝統的な灰ですが、その正体や使い方をご存じですか?ハゼノキから作られる独特の成分と、作品に与える美しい効果について詳しく解説します。あなたの陶芸作品が一段階上の仕上がりになる理由とは?

櫨灰とは|特徴と成分

櫨灰を使った釉薬は変色しやすい

この記事の3ポイント要約
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櫨灰の正体

ハゼノキを燃やした灰で、独特の青緑色や乳濁色を生み出す伝統的な釉薬材料

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主な化学成分

カルシウムとカリウムが豊富で、融点を下げて釉薬の流れを美しくする効果がある

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釉薬での活用法

単独使用や他の灰とのブレンドで多彩な表情を生み出し、焼成温度で色が変化する

櫨灰の原料ハゼノキとは


櫨灰(はぜばい)は、ハゼノキという植物を燃やして作られる灰のことです。ハゼノキはウルシ科の落葉樹で、日本では古くから蝋を採取する目的で栽培されてきました。江戸時代には和蝋燭の原料として重要視され、九州地方を中心に広く栽培されていた歴史があります。


このハゼノキを乾燥させて燃やすと、白色から灰色がかった独特の灰ができあがります。陶芸の世界では、この灰が釉薬の重要な材料として珍重されてきました。なぜなら、櫨灰には他の植物灰にはない独特の化学組成があり、焼き上がりに美しい色合いや質感を生み出すからです。


現代では蝋の需要が減ったため、ハゼノキの栽培面積も縮小しています。その影響で櫨灰の入手は以前より難しくなっていますが、陶芸家たちは今でもその独特の魅力を求め続けています。


つまり希少性が高まっている材料です。


ハゼノキは成長が比較的早く、樹高は5~10メートルほどに達します。秋には美しい紅葉を見せることでも知られており、観賞用としても価値がある植物です。


櫨灰の化学成分と特徴

櫨灰の主な化学成分は、酸化カルシウム(CaO)と酸化カリウム(K2O)です。一般的な組成として、酸化カルシウムが40~50%程度、酸化カリウムが10~15%程度含まれています。この2つの成分が、釉薬としての櫨灰の性質を大きく左右します。


酸化カルシウムは釉薬の融点を下げる働きがあり、釉薬を滑らかに溶かします。一方、酸化カリウムは釉薬に光沢を与え、発色を鮮やかにする効果があります。この2つのバランスが、櫨灰独特の美しい仕上がりを生み出すんですね。


他にも酸化マグネシウム(MgO)やリン酸(P2O5)などの微量成分が含まれており、これらが複雑に作用して独特の色味や質感を作り出します。特にリン酸の含有は、乳濁した白っぽい仕上がりに寄与することが知られています。


灰の成分は、ハゼノキが育った土壌や気候、燃焼温度によっても微妙に変化します。同じ櫨灰でも産地や作り方で性質が異なるのはこのためです。


櫨灰が釉薬に与える効果

櫨灰を使った釉薬は、独特の青緑色や乳濁した白色を発色することで知られています。焼成温度が1200~1280℃程度の還元焼成では、深みのある青緑色が現れやすく、酸化焼成では柔らかな白色や薄緑色になることが多いです。


釉薬の流れ方も櫨灰の特徴の1つです。適度な粘性があり、作品の表面をゆっくりと流れ落ちるため、縁の部分では薄く、くぼみには厚く溜まって濃淡のグラデーションを作り出します。この自然な流れが、手作りの温かみを感じさせる仕上がりにつながります。


表面の質感は、つるっとした光沢のあるものから、マットで柔らかな質感まで、配合や焼成条件によって変化します。特に長石珪石とブレンドすると、表面に細かな結晶が浮き出て独特の表情を見せることもあります。


焼成中の釉薬の動きが読みやすいのも櫨灰の利点です。経験を積めば、作品のどこにどんな色や質感が出るかをある程度予測できるようになります。これが作品作りの狙い通りの効果につながります。


櫨灰と他の灰との違い

陶芸で使われる灰には、櫨灰の他にも藁灰、木灰、竹灰などさまざまな種類があります。それぞれ異なる植物から作られるため、化学組成も発色も大きく異なります。


藁灰は稲藁を燃やして作られ、珪酸分が多いのが特徴です。そのため釉薬にすると透明感のある仕上がりになりやすく、櫨灰のような乳濁感は出にくい傾向があります。一方で、藁灰は入手が比較的容易で価格も手頃という利点があります。


木灰は雑木や薪を燃やした灰の総称で、樹種によって成分が大きく変わります。一般的にはカリウムが多く、やや緑がかった色合いになりやすいです。櫨灰ほどの独特な発色はありませんが、安定した性質で使いやすいのが特徴です。


竹灰は珪酸分が非常に多く、融点が高いため単独では使いにくい面があります。ただし、他の灰と組み合わせることで独特の結晶構造を作り出すことができ、上級者向けの素材として重宝されています。


櫨灰の入手方法と価格相場

櫨灰は陶芸材料店やオンラインショップで購入できますが、取り扱いは限られています。価格は1kgあたり1000~2000円程度が相場で、他の一般的な灰と比べるとやや高めです。少量パック(500g程度)も販売されており、初めて試す場合はこちらが便利です。


産地によって品質や価格が異なり、特に九州産の櫨灰は品質が高いとされています。ただし、近年はハゼノキの栽培減少により、安定供給が難しくなっているのが実情です。在庫切れになっている店舗も少なくありません。


自分で櫨灰を作ることも可能ですが、ハゼノキの入手と燃焼設備が必要になります。ハゼノキは観賞用として植木市場で購入できることもありますが、剪定枝を燃やして灰にするには相応の量が必要です。1kgの灰を作るには、乾燥枝が10kg以上必要になります。


購入時は、灰の色や粒子の細かさを確認するのがおすすめです。白っぽくてサラサラした灰は不純物が少なく、釉薬作りに適しています。茶色がかっていたり湿気を含んでいる灰は、品質が劣化している可能性があります。


陶芸館
こちらは陶芸材料の総合サイトで、櫨灰をはじめとする各種釉薬材料の在庫状況や価格を確認できます。


櫨灰釉薬の基本的な配合例

櫨灰を使った釉薬の最もシンプルな配合は、櫨灰単独で使う方法です。櫨灰100%でも釉薬として機能しますが、融点が低すぎて流れやすいため、通常は他の材料と組み合わせます。


基本的な配合例として、櫨灰40%、長石40%、珪石20%という比率があります。この配合だと1230~1250℃程度で美しく溶け、適度な流れと発色が得られます。長石は釉薬に粘りと強度を与え、珪石は透明感と硬度を高める役割です。


より乳濁した白色を求める場合は、櫨灰50%、長石30%、石灰石10%、珪石10%といった配合が効果的です。石灰石を加えることで、マットで柔らかな質感の白色釉になります。焼成温度は1200~1220℃程度が適しています。


青緑色を強調したい場合は、櫨灰60%、長石25%、珪石15%という配合に、酸化銅を0.5~1%加えます。還元焼成で1250℃前後まで上げると、深い青緑色が現れます。


これが還元の効果です。


配合を変える際は、一度に大きく変えるのではなく、5%刻みで調整していくのがコツです。テストピースで焼成結果を確認しながら、好みの色や質感を探していきましょう。


櫨灰釉薬の焼成温度と雰囲気

櫨灰釉薬の適正焼成温度は1200~1280℃の範囲です。この温度帯で最も美しい発色と質感が得られます。温度が低すぎると釉薬が完全に溶けず、ザラザラした表面になってしまいます。逆に高すぎると釉薬が流れすぎて、作品の底に溜まってしまうリスクがあります。


還元焼成と酸化焼成では、まったく異なる仕上がりになるのが櫨灰の面白いところです。還元焼成では窯の中の酸素を減らすことで、青緑色や灰青色といった深みのある色が現れます。一方、酸化焼成では酸素を十分に供給するため、白色や薄緑色の明るい仕上がりになります。


焼成速度も重要な要素です。急激に温度を上げると、釉薬が沸騰してピンホール(小さな穴)ができやすくなります。特に1150℃から最高温度までは、1時間あたり50~80℃程度のゆっくりした昇温が理想的です。


冷却過程でも釉薬の色や質感は変化します。特に1000℃から800℃までの冷却速度が、結晶の析出や色の深みに影響します。ゆっくり冷やすと結晶が成長して、表面に独特の模様が現れることもあります。


櫨灰釉薬を施す際の注意点

櫨灰釉薬は流れやすい性質があるため、施釉時の厚さ管理が重要です。厚く塗りすぎると焼成中に釉薬が垂れ落ち、作品の底や棚板に付着してしまいます。目安として、生地が透けて見えない程度の薄さ、0.5~0.8mm程度が適切です。


作品の底部から1cm程度は釉薬を塗らないようにします。この部分を「高台の内側」と呼びますが、ここに釉薬が付くと焼成中に棚板とくっついてしまう危険があります。マスキングテープや撥水剤を使って、確実に釉薬がかからないようにしましょう。


櫨灰釉薬は水分の調整も大切です。濃度が高すぎると塗りムラができやすく、薄すぎると何度も重ね塗りが必要になります。比重計で測定する場合、1.4~1.5g/cm³程度が標準的な濃度です。測定器がない場合は、釉薬に指を入れて引き上げたとき、指先が薄く透けて見える程度が目安になります。


施釉後の乾燥も重要です。完全に乾かないうちに窯入れすると、釉薬が剥がれたり、焼成中に泡が発生する原因になります。室温で24時間以上、湿度の低い環境で乾燥させるのが安全です。


櫨灰釉薬のトラブルシューティング

櫨灰釉薬でよくある問題の1つが、焼成後の色ムラです。これは釉薬の厚さが不均一だったり、素地の吸水率にバラツキがあることが原因です。対策として、施釉前に素地を十分に乾燥させ、可能であれば素焼きを900℃程度でしっかり行います。釉薬は2~3回に分けて薄く重ね塗りすると均一になります。


ピンホール(小さな穴)が多数できる場合は、昇温速度が速すぎる可能性があります。特に600~900℃の温度帯では、素地に含まれる有機物が燃焼してガスが発生するため、この区間を1時間以上かけてゆっくり通過させることが効果的です。


釉薬が剥がれる現象は、素地と釉薬の収縮率の違いが原因です。櫨灰の配合に長石を増やすか、素焼き温度を少し上げて素地を緻密にすることで改善できます。10℃刻みで素焼き温度を調整してみてください。


逆に釉薬が流れすぎる場合は、焼成温度が高すぎるか、釉薬が厚すぎることが考えられます。最高温度を10~20℃下げるか、施釉の厚さを薄くして再度試します。それでも改善しない場合は、配合に珪石を5~10%追加して融点を上げる方法もあります。


表面がザラザラして光沢が出ない場合は、焼成温度が低いか、還元が不十分な可能性があります。温度を20℃上げるか、還元雰囲気をより強くしてみましょう。


櫨灰を活用した独自の表現技法

櫨灰釉薬の流れやすい性質を逆手に取った「流し掛け」という技法があります。作品を斜めに傾けた状態で釉薬をかけることで、意図的に釉薬を流して濃淡のグラデーションを作り出します。流れた部分は濃い青緑色に、薄い部分は淡い色になり、自然な模様が生まれます。


複数の釉薬を組み合わせる「掛け分け」も櫨灰の特性を活かせる技法です。例えば、作品の上半分に櫨灰釉薬を、下半分に鉄釉を施すと、境界部分で2つの釉薬が混ざり合って独特の色合いが現れます。この境界の表情は、二度と同じものができない一期一会の美しさです。


化粧土との組み合わせ」も面白い表現方法です。素地に白い化粧土を塗り、その上に櫨灰釉薬を薄くかけると、化粧土の白さと釉薬の青緑色が重なって、透明感のある淡い色合いになります。化粧土に模様を彫り込んでおくと、その部分だけ色の濃淡が変わって立体的に見えます。


結晶釉との重ね掛け」は上級者向けの技法です。櫨灰釉薬を下地に塗り、その上から亜鉛結晶釉を薄くかけると、焼成中に結晶が成長して表面に花のような模様が現れます。温度管理と冷却速度の調整が難しいですが、成功すると驚くほど美しい作品になります。


櫨灰の保管方法と注意事項

櫨灰は湿気を吸いやすい性質があるため、密閉容器での保管が基本です。ジップロック袋や蓋付きのプラスチック容器に入れ、乾燥剤と一緒に保管すると品質を長期間保てます。湿気を吸うと固まったり、カビが生えることもあります。


保管場所は直射日光の当たらない、涼しく乾燥した場所が適しています。高温になる場所や湿度の高い場所は避けてください。特に梅雨時期や夏場は湿気対策を徹底することが重要です。


灰は粉末状なので、作業時には粉塵を吸い込まないよう注意が必要です。マスクを着用し、換気の良い場所で扱いましょう。特に櫨灰をふるいにかける作業では、細かい粒子が舞い上がりやすいので、屋外での作業がおすすめです。


使用期限は特にありませんが、長期保管すると成分が変質することがあります。購入から2~3年以内に使い切るのが理想的です。古い灰を使う場合は、まず少量でテストしてから本番の作品に使用しましょう。


それが失敗を防ぐ方法です。


金属製の容器は避けてください。灰のアルカリ性により、金属が腐食したり、灰に金属成分が混入して釉薬の発色に影響する可能性があります。ガラスかプラスチック製の容器を使うのが安全です。




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