主煙道を掃除しないと年間2万円以上燃料を損します
主煙道は、陶芸窯において焼成室で発生した煙や燃焼ガスを煙突へ導く通路のことです。登り窯や穴窯などの伝統的な窯だけでなく、ガス窯や電気窯の一部にも設けられています。窯の底部や側面から煙突基部まで続く構造で、窯内の気流をコントロールする役割を担います。
この通路の設計次第で、窯内の温度分布が大きく変わります。主煙道の断面積が小さすぎると排気が滞り、窯内に煙が充満して不完全燃焼を起こします。逆に大きすぎると熱が逃げすぎて、目標温度に達するまでの時間が長くなり燃料を無駄に消費します。適切な断面積は、焼成室の容積や使用する燃料の種類によって決まります。
多くの陶芸家は、窯を購入したときの設計をそのまま使い続けています。しかし、制作する作品の種類や焼成温度が変われば、最適な煙道の条件も変わります。主煙道の構造を理解することが、安定した焼成の第一歩です。
主煙道の構造は、作品の色ムラや焼きムラに直接影響します。煙道の位置が偏っていると、窯内で気流の偏りが生じ、一部の作品だけ温度が低くなります。例えば、煙道が窯の片側だけにある場合、反対側の作品は十分な熱を受けられず、釉薬の溶け方が不均一になります。
登り窯では、各室をつなぐ煙道の高さや角度が重要です。煙道の床面が焼成室の床面より5cm以上高いと、熱気が次の室へスムーズに流れず、下段の作品が過焼成になるリスクがあります。逆に低すぎると、炎が勢いよく流れ込みすぎて、上段の作品に焦げや歪みが発生します。理想的な高さは、焼成室の床面と同じか、わずかに低い程度です。
穴窯の場合は、主煙道の長さと傾斜が焼成時間を左右します。煙道が長すぎると排気の抵抗が増え、窯内の温度上昇が遅くなります。一般的には、焼成室の長さの1.5倍程度が目安とされています。傾斜は5〜10度が適切で、これより緩いと煙の流れが弱く、急すぎると熱が逃げすぎます。
作品の仕上がりを安定させるには、煙道の設計を見直す必要があります。既存の窯でも、煙道の入口に調整用のダンパーを設置することで、気流をコントロールできます。ダンパーの開閉度合いを変えることで、窯内の温度分布を微調整できます。これは特に、複数の作品を同時に焼く場合に有効です。
主煙道には、焼成のたびに煤や灰が堆積します。薪を使う窯では、燃焼時に発生する微細な炭素粒子が煙道の内壁に付着します。ガス窯でも、不完全燃焼が起きると同様の堆積物が発生します。この堆積物は、煙道の断面積を徐々に狭めていきます。
断面積が30%減少すると、排気の流速が約40%低下します。これは、川の流れが狭い場所で遅くなるのと同じ原理です。排気が滞ると、窯内の酸素供給が不足し、燃料が完全に燃焼しなくなります。不完全燃焼の状態では、同じ温度に達するために通常の1.5〜2倍の燃料が必要になります。
実際の例として、週に1回焼成する工房で計算してみます。1回の焼成で薪を50kg使うとして、年間では2,600kgです。薪の価格を1kgあたり30円とすると、年間78,000円です。煙道の清掃を怠り、燃料消費が1.3倍になれば、年間で約24,000円の追加出費になります。2年間放置すれば、この損失は5万円近くに膨らみます。
清掃の頻度は、使用する燃料と焼成回数によります。薪窯なら10回の焼成ごと、ガス窯なら20回ごとが目安です。清掃には専用のブラシやスクレーパーを使い、煙道内の堆積物を掻き出します。奥まで手が届かない場合は、針金に布を巻き付けた道具を自作すると便利です。
煙道清掃を記録しておくと、堆積の傾向がわかります。ノートやスマホのメモアプリに、清掃日と取り除いた灰の量を記録するだけでOKです。
主煙道の断面形状には、丸型、角型、楕円型などがあります。
それぞれの形状で、煙の流れ方が異なります。
丸型は気流の抵抗が最も少なく、スムーズな排気が可能です。角型は施工がしやすい反面、四隅に煤が溜まりやすく、清掃の手間が増えます。
楕円型は、縦長と横長の2種類に分けられます。縦長の楕円型は、熱気が上昇する力を利用して排気効率を高めます。登り窯のように、自然通風を利用する窯に適しています。横長の楕円型は、幅広い焼成室の底部から均等に排気を集めるのに向いています。
大型の平窯でよく使われる形状です。
断面積の計算も重要です。焼成室の床面積1平方メートルあたり、煙道の断面積は0.02〜0.03平方メートルが目安とされています。例えば、床面積が2平方メートルの小型窯なら、煙道の断面積は0.04〜0.06平方メートル、つまり20cm×20cmから25cm×25cm程度が適切です。はがきの横幅が約10cmなので、はがき2枚分×2枚分くらいの広さです。
形状を変更する際は、既存の煙道を完全に作り直す必要はありません。煙道の入口部分に整流板を設置することで、気流の向きを調整できます。整流板は、ステンレス板や耐火レンガを加工して作ります。斜めに設置することで、煙の流れを特定の方向へ誘導し、窯内の温度ムラを軽減できます。
主煙道と副煙道は、役割が異なります。主煙道は焼成室から直接煙を排出する主要経路です。一方、副煙道は窯内の気流を微調整するための補助的な通路で、主煙道と並行して設置されます。登り窯では、各室に副煙道を設けることで、室ごとの温度を個別に調整できます。
副煙道の有無で、焼成の自由度が変わります。副煙道がない窯では、すべての焼成室が連動して温度変化します。つまり、一つの室の温度を上げると、他の室も一緒に上がってしまいます。副煙道があれば、特定の室だけ温度を下げたり、冷却速度を速めたりできます。これは特に、異なる種類の作品を同時に焼く場合に便利です。
副煙道を追加する改造も可能です。既存の窯の側面に小さな開口部を作り、調整用のダンパー付きの煙道を接続します。開口部の大きさは、主煙道の断面積の20〜30%程度が目安です。大きすぎると主煙道の排気力が弱まり、小さすぎると調整効果が得られません。
どの場合に副煙道が必要かを判断する基準があります。焼成室が2つ以上ある窯、還元焼成と酸化焼成を使い分ける窯、作品の種類が多様な工房では、副煙道の設置が推奨されます。逆に、小型の単室窯で同じ種類の作品だけを焼く場合は、主煙道だけで十分です。副煙道の設置費用は、材料費と施工費で5万〜15万円程度です。焼成の幅を広げたい場合には、検討する価値があります。
主煙道の材質は、高温に耐える耐火性と、熱サイクルに対する耐久性が求められます。
最も一般的なのは耐火レンガです。
アルミナ含有率が40%以上のレンガは、1,300度以上の高温にも耐えます。価格は1個300〜500円程度で、小型窯の煙道なら30〜50個で構築できます。
セラミックファイバーボードも選択肢の一つです。
軽量で断熱性が高く、施工が容易です。
厚さ25mmのボードなら、1,000度までの温度に対応します。ただし、機械的強度が低いため、煙道の内壁にレンガを併用する必要があります。ファイバーボードは1枚2,000〜3,000円で、煙道全体で5〜8枚使います。
ステンレス製の煙道も、ガス窯では使われます。SUS310Sなどの高耐熱ステンレスは、1,000度程度まで耐えられます。金属製のため、レンガより軽く、既存の構造への追加が簡単です。価格は長さや直径によりますが、1mあたり1万〜3万円程度です。
ただし、薪窯のような高温には向きません。
材質の劣化サインを見逃さないことが重要です。耐火レンガにひび割れや欠けが見られたら、交換のタイミングです。特に、煙道の曲がり部分は熱応力が集中しやすく、劣化が早く進みます。ひび割れから熱が漏れると、窯全体の効率が下がり、最悪の場合は構造体の損傷につながります。年に1回は目視点検を行い、必要に応じて部分補修や交換をします。
劣化を防ぐには、急激な温度変化を避けることが基本です。焼成後は、窯を自然冷却させ、煙道への負担を減らします。また、煙道の外側に断熱材を巻くことで、外気との温度差を小さくし、熱応力を軽減できます。グラスウールやセラミックファイバーブランケットを使えば、煙道の寿命を1.5倍程度延ばせます。