燐酸塩鉱物とは、リン原子を中心に4個の酸素原子で構成されるリン酸イオンPO₄³⁻を主要化学成分として持つ鉱物群を指します。結晶構造の基本はケイ酸塩鉱物と類似しており、P原子を中心に4個の酸素原子で構成するPO₄の正四面体が基本単位となっています。燐酸塩鉱物は種類が非常に多く、現在200種以上が知られています。
参考)宝石の国「フォスフォフィライト」で大注目!リン酸塩鉱物13種…
燐酸塩鉱物は化学成分を基準として、無水酸性リン酸塩、無水リン酸塩、含水酸性リン酸塩、含水リン酸塩、無水含水酸基・ハロゲンリン酸塩、含水含水酸基・ハロゲンリン酸塩、その他のリン酸塩などに分類されます。これらの鉱物は生物の作用によるもの、ペグマタイトなどに含まれるものなど、様々な成因で形成され、希土類元素、ウラン、トリウムなどを含むものが多いという特徴があります。
参考)リン酸塩鉱物とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書
燐酸塩鉱物の多くは火成岩・堆積岩・変成岩の各岩石の副成分として、非常に広く産出されます。無機リンの燐酸塩鉱物はペグマタイト鉱床や熱水鉱床に見られ、有機物としての燐は動物の骨などの化石質鉱床や鳥や蝙蝠の糞によるグアノ鉱床として産出します。リン酸肥料を生産するために採掘される主要な資源となっているほか、食品保存料や防腐剤、化粧品、殺菌剤、セラミックス製造などに利用されています。
燐酸塩鉱物の中で最も主要な鉱物は燐灰石(アパタイト)です。燐灰石は独立した鉱物種ではなく、燐灰石スーパーグループに属する鉱物のグループ名であり、現在アパタイトグループは独立種として承認された12の鉱物で構成されています。単に燐灰石と言った場合には、最もふつうに産出する弗素燐灰石(Fluorapatite)を指しているとされています。
参考)アパタイト~特徴・歴史・魅力を解説!
以下、主要な燐酸塩鉱物とその化学式を一覧で示します。
主要な燐酸塩鉱物
参考)パイロモルファイト(緑鉛鉱)
参考)モナズ石 - Wikipedia
参考)燐酸塩鉱物
これらの燐酸塩鉱物は結晶系も多様で、六方晶系、斜方晶系、単斜晶系、正方晶系など様々な結晶構造を持ちます。トルコ石やアパタイト、ラズライトなど、宝石質のものも多く含まれています。
参考)主な鉱物 : リン酸塩・ヒ酸塩・バナジン酸塩鉱物 - P35…
燐酸塩鉱物には、透明で美しい色を持つ宝石質の鉱物が多数含まれています。アパタイトは化学組成の違いによって多彩な色をもち、青、水色、黄、緑、紫、クリアなど様々な色が存在します。特にマダガスカルで採れるネオンブルー・アパタイトは、非常に爽やかな青色を呈することで知られています。
参考)燐灰石 - Wikipedia
アパタイトのカラーの違いによって12種類もの別種が認められており、アパタイトは宝石名であると同時に、これらの鉱物種を総称するグループ名でもあります。ブルーアパタイトは同じリン酸塩鉱物であるトルコ石と並んで、自然界では珍しい非常に爽やかな青を呈するのが特徴です。モース硬度は5と、宝石にするにはやや柔らかいとされていますが、美しい輝きをしているため、鉱物標本としては人気が高いです。
参考)専用スタンド付き、自然界では珍しい爽やかなブルーを呈する燐灰…
トルコ石は、水酸化銅アルミニウム燐酸塩であり、発色原因は銅です。バリサイトはアルミニウムを含む水和リン酸アルミニウム鉱物で、緑色は少量のクロムによるものです。バリサイトとトルコ石は外観が似ており混同されることがありますが、通常バリサイトの方がより深い緑色を示します。ターコイズかバリサイトか判然としないものは、時に市場で「バリコイズ」という変則的な名称で呼ばれることもあります。
参考)『バリサイト』「トルコ石」に似た緑色のリン酸塩鉱物
カコクセナイトは、アメジストに内包され産出することが多く、一見するとゴールドルチルのような見た目ですが、細長い三角形のような扇形が特徴の鉱物です。褐色から金色を呈し、アメジストや水晶の中から伸びるように入っている神秘的な結晶として人気があります。ただし、モース硬度は3-4と低く脆いため、単体で身につけることには適していません。
参考)宝石図鑑 石言葉
燐酸塩鉱物の中には、希土類元素(REE)を豊富に含む重要な資源鉱物が含まれています。モナズ石とゼノタイムは、希土類元素の主要な供給源として知られる燐酸塩鉱物です。モナズ石は世界の希土類元素資源の50%以上を占める炭酸塩岩関連鉱床において、最も重要なREE鉱物の一つです。
参考)https://www.mdpi.com/2079-9276/6/4/51/pdf?version=1506516972
モナズ石は化学式(Ce,La,Nd,Th)PO₄で表され、ペグマタイト、花崗岩、片麻岩、砂岩などに含まれます。通常、小さな孤立した結晶として発生し、しばしば砂鉱床で見つかります。インドの鉱床は特にモナズ石に富んでいることで知られています。モナズ石に含まれる希土類元素はイオン半径が小さく、セリウム族の希土類元素が主体です。最も重要なセリウム族の希土類元素リン酸塩鉱物であるモナズ石は、8-10%のトリウムを含んでいます。
参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-62540619/" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-62540619/amp;mdash; 研究課題をさがす
一方、ゼノタイムは化学式YPO₄で表され、イオン半径が大きいイットリウム及びイッテルビウムのリン酸塩です。東南アジアではモナズ石とゼノタイムが、スズ石、ジルコン、チタン鉄鉱回収時の重要な副産物となっていました。中国がイットリウムの生産を増加した1988年以前は、マレーシアのゼノタイムが世界で最大の供給源でした。
参考)https://www.gsj.jp/data/chishitsunews/06_08_01.pdf
モナズ石とゼノタイムは、希土類元素リン酸塩鉱物群の中でも特に重要な位置を占めています。含水リン酸塩であるラブドフェンやワインシェンカイトを空気中で加熱すると、無水リン酸塩であるモナズ石やゼノタイムが生成されます。ラブドフェンを加熱した場合、希土類元素の種類によってモナズ石型になるかゼノタイム型になるかが決まり、La~Gd、またはCe+Yのときはモナズ石型に、YまたはErのときはゼノタイム型に変わります。
燐酸塩鉱物は世界中で産出され、その用途は多岐にわたります。経済的に最も重要なものは、リン鉱石の主成分をなす燐灰石です。リン鉱石(phosphate rock)は、主にリンを抽出するために採掘され、リンは農業(肥料)、食品生産、化学工業など、多くの工業用途において不可欠です。
参考)https://www.prominetech.com/ja/news/how-is-phosphorite-rock-mined-for-industrial-applications/
リン鉱石の採掘は、鉱床の場所と深さに応じて、露天掘り、地下鉱山、浚渫などの技術を使用して行われます。採取後、リン酸塩岩石は処理プラントに運ばれ、そこでより小さな破片に砕かれ、不純物を除去するためにふるい分けられます。最終製品は工業用途に適したリン酸濃縮物となり、肥料製造(リン酸、リン酸アンモニウム)やその他の化学プロセスのために工業施設に輸送されます。
宝石質の燐酸塩鉱物については、透明で大きく色の美しいものは宝石となりますが、そのようなものはめったに採ることができないため、小さなものが様々なアクセサリー用に加工されています。バリサイトの主な産地は、アメリカユタ州の他、ドイツ、オーストラリア、ポーランド、スペイン、ブラジルなどです。ブラジルは燐酸塩鉱物に関連する鉱物学的発見が多い地域としても知られています。
参考)Redirecting...
希土類元素を含む燐酸塩鉱物は、レアアース資源として重要です。炭酸塩岩関連のREE鉱床は、世界中のすべての大陸(南極大陸を除く)に広く分布しており、現在バヤン・オボやマウント・ウェルドで採掘されている鉱床を含め、30以上の炭酸塩岩関連REE鉱床でモナズ石が優勢です。これらの鉱床におけるモナズ石のThO₂含有量は一般的に低く(2wt%未満)、選鉱の際のThO₂汚染の懸念が少ないという利点があります。
燐酸塩鉱物の結晶構造は、ケイ酸塩鉱物と類似した基本構造を持ちながらも、独自の特徴を有しています。P原子を中心に4個の酸素原子が配置した正四面体構造(PO₄)が基本単位となり、これが様々な金属イオンと結びつくことで多様な鉱物種が形成されます。
参考)リン酸塩鉱物(りんさんえんこうぶつ)とは? 意味や使い方 -…
燐酸塩鉱物の分類体系において、国際鉱物学連合が採用しているシュツルンツ分類では、燐酸塩鉱物は「08 リン酸塩鉱物・ヒ酸塩鉱物・バナジン酸塩鉱物」に分類されます。さらに細分化すると、「無水、無外来アニオンリン酸塩鉱物」や「含水リン酸塩鉱物」などのサブカテゴリーに分けられます。主に英語圏で使われるダナ分類でも同様に、「リン酸塩鉱物、砒酸塩鉱物、バナジン酸塩」に分類され、そこから「無水リン酸塩等」などに細分類されます。
参考)ベルリナイト - Wikipedia
燐酸塩鉱物は結晶系も多様です。燐灰石や緑鉛鉱、ミメット鉱、バナジン鉛鉱はいずれも六方晶系に属します。バリッシャー石は斜方晶系、モナズ石は単斜晶系、ゼノタイムは正方晶系と、鉱物種によって異なる結晶構造を持ちます。ベルリナイトのように三方晶系で石英と同様に鏡映異性体を持つ希少な鉱物も存在します。
参考)燐酸塩鉱物等
燐酸塩鉱物の化学的分類においては、リン酸イオンPO₄³⁻、砒酸イオンAsO₄³⁻、バナジン酸イオンVO₄²⁻を構造を造る陰イオンとして持つかどうかが重要な基準となります。これらの鉱物群は、構造的にも化学的にも密接な関係にあり、燐灰石グループのように燐酸塩、砒酸塩、バナジン酸塩の間で固溶体を形成する例も知られています。
参考:地質標本館による燐酸塩鉱物の分類と特徴に関する詳細情報
燐酸塩鉱物等
参考:リン酸塩鉱物の200種以上の多様性と宝石質鉱物の解説
宝石の国「フォスフォフィライト」で大注目!リン酸塩鉱物13種…