レアアース日本採掘の現状と南鳥島海底資源開発の可能性

日本が中国依存から脱却するため注目する南鳥島レアアース泥。2026年1月から始まる試掘プロジェクトの技術課題、埋蔵量、環境への配慮など、国産資源確保への道のりはどこまで進んでいるのでしょうか?

レアアース日本採掘

📊 日本のレアアース採掘プロジェクト概要
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南鳥島海底資源

水深約6,000mの海底に世界需要数百年分のレアアース泥が埋蔵

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2026年1月試掘開始

JAMSTEC主導で前例のない深海採掘技術の実証実験を実施

🇨🇳
中国依存脱却

供給の約60%を中国に依存する現状からの自立を目指す

レアアース日本の埋蔵量と南鳥島海域の資源価値

 

日本の排他的経済水域である小笠原諸島・南鳥島周辺の海底には、世界を驚かせる規模のレアアース資源が眠っています。2018年に早稲田大学や東京大学などの研究チームが行った調査で、この海域には世界需要の数百年分に相当するレアアース泥が存在することが明らかになりました。特に注目されるのは、ジスプロシウムなどの重希土類を中心とした産業的規模の開発が可能な埋蔵量で、コバルトやニッケルといった重要属も豊富に含まれています。

 

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水深約5,500~6,000メートルという深海に賦存するレアアース泥は、日本が将来的に自給自足体制を構築し、中国への依存から脱却できる可能性を示す重要な資源です。南鳥島海域のレアアース泥には、電気自動車のモーターや風力発電に不可欠なネオジムやジスプロシウムが高濃度で含まれており、その資源価値は計り知れません。2022年10月に政府が採掘に乗り出すと発表して以降、経済安全保障の観点から国内外の関心が高まっています。

 

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この海域が特に高濃度のレアアースを含む理由として、魚の骨や歯に由来するリン酸カルシウムがレアアースを吸着・濃集させたという研究結果もあり、自然の営みが生み出した貴重な資源と言えます。日本が世界第3位のレアアース供給国になる可能性も指摘されており、実現すれば日本の産業構造に大きな変革をもたらすでしょう。

 

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レアアース採掘技術と海底からの回収システム

南鳥島沖でのレアアース泥採掘には、深海6,000メートルという過酷な環境に対応した革新的な技術が必要です。海洋研究開発機構(JAMSTEC)が開発を進めているのは「サブシープロダクションシステム」という解泥・揚泥機で、海底の泥を解きほぐして海上まで汲み上げる仕組みです。この技術の核心となるのが「エアリフト方式」で、パイプに圧縮空気を送り込んで泥水に空気を混ぜ、浮力を利用して引き揚げる方法が採用されています。

 

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JAMSTECは2022年10月に水深約3,000メートルでの採鉱装置の試験に成功しており、今後残りの3,000メートル分のパイプを追加することで、南鳥島沖におけるレアアース泥採鉱への道が開かれます。2026年1月から始まる試掘では、深さ約5,500メートルの海底からレアアースを含む泥を回収するという前例のない挑戦が行われる予定です。政府は2023年度に技術開発に着手し、5年以内の試掘を目指すという方針を示しています。

 

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採掘技術の確立には、揚泥管の長距離化、海底での泥の解きほぐし効率の向上、採鉱効率の実証など多くの技術的課題が残されています。内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)が研究開発を主導し、2025年6月にはJAMSTECが3週間にわたる現地調査を実施するなど、着実に準備が進められています。東洋エンジニアリングや三井海洋開発といった民間企業も参画し、レアアース泥を回収する作業に取り組んでいます。

 

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日本レアアース供給の現状と中国依存リスク

日本のレアアース調達は、現在でも約60%を中国からの輸入に依存しており、経済安全保障上の大きなリスクを抱えています。中国は世界のレアアース生産の約70%(27万トン/2024年)、精錬に至っては約90%という圧倒的なシェアを握っており、その供給支配は地政学的緊張の火種となっています。2010年のレアアースショックでは、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事故を契機に、中国が日本向けレアアースの量を前年の5万トンから3万トンに削減すると発表し、日本産業界に大きな打撃を与えました。

 

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この教訓を受けて、日本政府や産業界は中国依存度を下げるため、備蓄量の増加、リサイクル技術の開発、他国の鉱山開発プロジェクトへの投資など様々な対策を講じてきました。2023年4月には日本政府がオーストラリアとレアアース供給の安定化に関する協力で合意し、共同備蓄も視野に入れています。しかし、これらの努力にもかかわらず、中国依存度は依然として高い水準にあります。

 

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2025年には米中貿易摩擦の影響で中国がレアアースの輸出規制を強化し、日本国内の自動車メーカーが一時生産停止に追い込まれる実害も発生しました。東京大学大学院の鈴木一人教授は「重希土類の種類によっては中国でしか採れない」と指摘し、現状では依存せざるを得ないと述べています。陸上では鉱床の規模が小さく品位も低いため、日本国内での商業採掘が難しいことも、海外調達中心の構造を生んでいます。

 

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レアアース鉱山開発における環境課題と持続可能性

レアアースの採掘や生産には深刻な環境負荷が伴い、これが持続可能な資源開発の大きな障壁となっています。採掘に伴う環境破壊だけでなく、レアアース鉱石がウランやトリウムといった放射性物質を含んでいることが重大な問題です。採掘や製錬の過程で大量の放射性物質や有害物質・廃棄物が発生し、適切に処理されないと土壌や地下水、地表水の汚染につながります。

 

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中国では長年のレアアース生産により、一部地域で深刻な環境汚染が報告されており、国際的な批判も受けています。地表を壊し削る採掘作業は、その地域の生態系を破壊し、回復に長い年月を要します。特にイオン吸着型粘土鉱床では、降雨による斜面の不安定化や安全係数の低下といった問題も指摘されており、レアアース採掘に特有のリスクがあります。

 

参考)https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/19475705.2023.2277127?needAccess=true

南鳥島沖の海底採掘プロジェクトでは、こうした環境への配慮が重要な課題となっています。深海生態系への影響を最小限に抑える採掘技術の開発、海洋汚染の防止、生物多様性の保全など、環境保護に万全を期す姿勢が求められます。持続可能なレアアースの採掘・生産には、環境に配慮した採掘技術の開発、有害物質の適切な処理、リサイクルの促進が不可欠です。日本の海底資源開発が成功すれば、環境負荷の低い新しいレアアース採掘のモデルケースとなる可能性があります。

レアアース用途とリサイクル技術の最前線

レアアースは現代社会において極めて広範な用途を持ち、その重要性は年々高まっています。主な用途として、永久磁石(希土類磁石)、ガラス研磨材・添加剤、触媒、蛍光体などが挙げられます。特に電気自動車(EV)や風力発電のモーター用磁石として使われるネオジムやジスプロジウムは、脱炭素社会の実現に不可欠な材料です。セリウムは自動車の排出ガス中の有害物質を無害化する触媒として、ユウロピウムやテルビウムは蛍光灯や液晶テレビのバックライト用蛍光体として使用されています。

 

参考)https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2022/08/material_flow2021_REE.pdf

世界のレアアース需要は今後10年間で約60万7,000トンに倍増すると予想され、特に永久磁石向けの需要が急増しています。米国の需要は年間17%の成長率を示すとの予測もあり、供給不足への懸念が高まっています。こうした状況を背景に、レアアースのリサイクル技術の開発が急速に進んでいます。

 

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福岡県では使用済み蛍光管から蛍光体を回収し、レアアースまで分離精製してリサイクルする仕組みづくりに取り組んでおり、九州で1年間に排出される使用済み蛍光管すべてが回収されれば、約57トンのレアアースが回収できると推定されています。三菱電機グループでは「共振減衰型脱磁法」を使った自動解体装置を開発し、使用済みルームエアコンからレアアース磁石を自動的に取り外して回収することに成功しました。産業動物と早稲田大学は共同でリサイクル技術の開発を進めており、2030年頃の実用化を目指しています。こうしたリサイクル技術の確立は、供給安定とコスト低減に直結する重要な取り組みです。

 

参考)レアアースリサイクル|福岡県リサイクル総合研究事業化センター

日経新聞:南鳥島レアアース試掘の詳細と環境保護への取り組み
東洋経済:国産レアアース開発の経済的意義と課題
JOGMEC:レアアースの供給状況と世界の鉱山開発動アースの供給状況と世界の鉱山開発動向

 

 


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