シリカ(二酸化ケイ素)は化学式SiO₂で表される単純な酸化物で、地殻を構成する最も基本的な物質の一つです。一方、ケイ酸塩は1個または数個のケイ素原子を中心とし、電気陰性な配位子が取り囲んだ構造を持つアニオンを含む化合物の総称で、シリケートとも呼ばれます。ケイ酸塩アニオンは他のカチオン(ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)と結合し、電気的に中性な化合物を形成する点が大きな特徴です。
参考)ケイ酸塩 - Wikipedia
シリカはケイ素周りが負電荷を帯びないため、追加のカチオンを含まない特別な例として、ケイ酸塩の一種と考えられることもあります。ケイ酸とは、ケイ酸ナトリウムなどのケイ酸アルカリの濃溶液に酸を加えると生成される白色無定形の膠状物体を指し、二酸化ケイ素と水が結合したものですが、その水の割合は一定していません。このゲル状のケイ酸を加熱乾燥させると順次水を失い、最終的に二酸化ケイ素のキセロゲル(シリカゲル)となります。
参考)ケイ酸塩 - Wikipedia
水溶液系におけるケイ酸・ケイ酸イオンは、溶液濃度・pH・温度・共存物質などに依存して、微粒子やゲルを生じる様々な反応を起こすのが特徴です。これは鉱物結晶中での決まった組成・分子量をもつケイ酸塩とは大きく異なる性質といえます。
参考)ケイ酸とケイ酸塩の化学
ケイ酸塩鉱物の結晶構造の基礎は[SiO₄]⁴⁻正四面体(珪酸四面体)で、Si(ケイ素)を中心として4つのO(酸素)が各頂点に配列しています。ケイ素原子は4個の酸素原子によって囲まれた四面体構造をとり、鉱物の種類によってこの四面体が連なる度合いは異なります。
参考)set-mclass
四面体の結合様式により、ケイ酸塩鉱物は以下のように分類されます:
参考)【ケイ酸塩鉱物とは?】鉱物の王様を博物館で学ぼう!|鉱物 博…
これらの構造の違いは、鉱物の性質に大きな影響を与えます。例えば雲母のように層状構造を持つ鉱物は、簡単に薄くはがれる性質があり、古くは窓ガラスの代わりにも使われていました。
陶磁器の釉薬において、シリカ(ケイ酸)とケイ酸塩は異なる重要な役割を担っています。釉薬は基本的に塩基性酸化物(釉薬を溶かす)、中性酸化物(接着)、酸性酸化物(ガラス化)の三大要素で構成されます。
参考)釉薬(ゆうやく)とは
シリカ(SiO₂)は酸性原料として「溶けてガラスになる」役割を持ち、塩基性の原料と化学反応を起こして溶ける性質があります。シリカは一言でいえば「ガラスの素」であり、天然の水晶や硅石、長石や粘土、藁灰に含まれています。釉薬中でシリカを加える利点は、ガラス質が増えることで強度と光沢が得られ、釉薬の耐火度が上がって流れにくくなる効果も期待できます。
参考)釉薬の3大要素
一方、ケイ酸塩は釉薬の基本的な構造を形成します。ゼーゲル式で表される釉薬の組成において、SiO₂(シリカ)の割合は他の成分に比べ数倍大きな値をとるように調合されます。釉薬は1300℃近い環境で焼成され、冷却過程でガラス転移温度を下回りガラス化した状態となり、ケイ酸のアモルファス(非結晶質)な構造を形成します。
釉薬の融解において、ケイ酸塩は塩基性酸化物との相互作用によって重要な役割を果たします。塩基性の原料(草木灰、石灰石など)は酸性原料と反応して「釉薬を溶かす」作用があります。陶磁器が焼き締まる温度帯(800℃~1,300℃)で釉薬が溶けるためには、塩基性原料を使って融解を促進する必要があります。
具体的には、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ成分がシリカの融解を促し、釉薬がガラス化する温度を適切に保つ働きをします。ケイ酸(SiO₂)は釉薬中で電子受容性を持つ酸として振る舞い、釉薬の融融温度を上昇させる働きがあります。ケイ酸を加えすぎると釉薬が溶ける温度が上昇し、仕上がりが不透明になる傾向がありますが、逆に少なすぎると粘性が小さくなりもろくなります。
珪酸ソーダ(水ガラス)は、Ca、Mg、Al、Baなどの無機塩類と反応して不溶性の珪酸塩金属水和物や珪酸を同時に生成してゲル化する特性があります。この反応で得られる珪酸化合物は、珪酸と金属イオンの存在量に応じてさまざまな特性を示します。
参考)珪酸ソーダの特性|製品情報|東曹産業株式会社
ケイ酸塩とシリカを識別する際、以下の観点が有効です。
結晶性と非結晶性の違い
シリカは結晶性と非結晶性の両方の形態で存在します。ケイ素と酸素が合体した化合物シリカは、石英や水晶のもととなる結晶になることがあります。結晶性シリカ(珪石や水晶)は規則的な構造を持ち、これをバラバラにして再度不規則に組み合わせたものが非晶質シリカ(合成シリカ)です。
参考)シリカ、シリコン、シリコーンの違いわかりますか??
水溶性の違い
ケイ酸ナトリウムNa₂SiO₃は塩であるにもかかわらず、水への溶解度が低い特徴があります。これはSiO₃²⁻が長鎖状の分子であり、水中に拡散しにくいためです。一方、水溶性ケイ素は身体に吸収される形態として、ミネラルウォーターや健康食品、医薬品にも幅広く使われています。
参考)シリカとケイ素の名称の違いとは?シリカ水の使用方法を解説
物理的特性の観察
シリカの純度がほぼ100%のガラスをシリカガラス(石英ガラス)と呼びます。純粋な二酸化ケイ素は無色透明ですが、自然界には不純物を含む有色のものも存在します。ケイ酸塩鉱物は、金属イオンの種類や組み合わせによって多様な色彩や物理的性質を示します。
参考)二酸化ケイ素 - Wikipedia
日本化学会誌「ケイ酸とケイ酸塩の化学」
この学術論文では、シリカとケイ酸塩の基礎的な化学的性質や水溶液系における反応の特徴について詳しく解説されており、材料合成や液相反応法の理論的背景を学ぶのに有用です。