雲母の用途(工業)電気絶縁から塗料、化粧品まで幅広い活用

雲母(マイカ)は電気絶縁性や耐熱性に優れた天然鉱物で、工業分野では電気機器の絶縁材、ヒーター、コンデンサ、塗料、化粧品など多様な用途に使われています。白雲母と金雲母の2種類があり、それぞれ異なる特性を持ちます。雲母の工業利用にはどのような特徴があるのでしょうか?

雲母の用途(工業)

工業分野で活躍する雲母の主な用途
電気絶縁材料

優れた絶縁性を活かし、コンデンサや電気機器の絶縁体として使用され、耐電圧性能と安定性を提供します

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耐熱材料・ヒーター

高い耐熱性を持ち、マイカヒーターとして家電製品や工業用ヒーターの発熱体絶縁に利用されています

塗料・化粧品

真珠光沢を持ち、塗料の填料や化粧品の光輝性顔料として、製品に独特の質感と機能性を付与します

雲母の電気絶縁材料としての用途

 

雲母は天然鉱物の中でも特に優れた電気絶縁性を持ち、重電機器から家電製品まで幅広い電気機器の絶縁材料として使用されています。雲母を誘電体に利用した電子部品であるマイカコンデンサは、19世紀半ばに発明された歴史ある製品で、薄くはがした雲母板と銀箔をサンドイッチ状に交互に重ねた構造を持ちます。誘電率は50Hzにおいて6.5~9と他の物質と比較しても高く、薄膜状であるため誘電体として最適な特性を備えています。マイカコンデンサは材質が物理的に安定しており、周波数特性が良好で高耐圧という特徴があります。近年ではセラミックコンデンサの性能向上により市場シェアは縮小していますが、高周波用途など特定分野では今も重宝されています。また、半田ごてなどの絶縁体として利用され、電気を通しにくい性質が工具の安全性を高めています。

 

雲母のヒーター・耐熱材料としての用途

雲母は高い耐熱性を持つため、発熱体を絶縁する材料として工業・業務用ヒーターに広く採用されています。マイカヒーターは、ニクロム線などの発熱体を上下のマイカ(雲母)板で挟み込み、高温接着剤による熱圧成形で一体化した構造です。この構造により、薄型の平板構造を実現しながら優れた絶縁性と耐熱性を発揮します。穴あけや切りかけ加工が可能なため、アイロン、電気ポット、コーヒーメーカー、炊飯器、暖房便座などの家庭用電化製品に多数使用されているほか、OA機器、自動販売機、工業用ホットプレート、型の保温装置などの産業機器にも利用されています。加熱物に直接接触させることができるため熱効率が良く、昇温速度が速いという利点があります。合成雲母は天然金雲母中のOH基をFで置換した分子式KMg3(AlSi3O10)F2で表される物質で、天然雲母に比べて耐熱温度が著しく高く、マイカレックス(集成マイカ)用原料として大量生産されています。

 

雲母の塗料・填料としての工業用途

雲母は塗料や製紙、プラスチック製造時に混ぜる填料(てんりょう)として幅広く使用されています。二酸化チタンで被覆された雲母(チタンコーテッドマイカ)は、無毒性、耐候性、耐光性、耐熱性、耐薬品性に優れ、真珠光沢を持つ顔料として自動車や建築物の塗料、絵具の金属色に利用されます。この処理により、雲母は装飾性と機能性を兼ね備えた材料となります。製紙分野では、セリサイト(絹雲母)と呼ばれる雲母が印刷用塗工紙の基紙に内添されます。雲母は他の顔料に比べてアスペクト比が大きいため、基紙に内添させることで高い不透明度を付与できることが広く知られています。特にセリサイトは高いISO白色度も有することから、高い不透明度と高い白色度を同時に得ることができます。プラスチック製造では、樹脂に混ぜることで剛性、寸法安定性、耐熱性、制振性、防食性、耐候性、バリア性、絶縁性、滑性(滑り性・摺動性)などの特性を向上させます。金雲母は軟質マイカで白雲母に比べやわらかく、横からの応力に対して板状構造が剥がれやすいため高アスペクト比となり、製品に添加すると白雲母と同量であれば剛性・寸法安定性の効果がより大きくなります。

 

雲母の化粧品・美容用途における工業利用

雲母は化粧品分野において体質顔料および光輝性顔料として広く使用されています。マイカという名称はラテン語で「輝く」という意味を持つmicareが由来で、その名の通り真珠のような光沢が特徴です。原石である白雲母や金雲母を粉砕して得られる含水ケイ酸アルミニウムカリウムが主成分となります。マイカを化粧品に配合することで、伸びのよさ、なめらかさ、肌への密着性が向上し、すべすべとしたツヤのある肌を演出できます。皮膚刺激性がほとんどなく安全性が高いため、敏感肌など肌質を選ばずに使用可能です。元来、体質顔料としてタルクが使用されることが多かったのですが、特に乾燥肌にはタルクよりもマイカが適しているとされ、近年マイカを配合する化粧品が増加しています。具体的には、口紅、リップグロス、マニキュア、リキッドファンデーション、パウダーファンデーション、コンシーラー、プレストパウダー、アイライナー、マスカラ、パウダーチーク、日焼け止めなど幅広いメイクアップ製品に使用されています。白粉にも配合されることがあり、すべすべ感やパール感を付与する目的でファンデーションなどメイク用アイテムへの応用が主流です。

 

雲母の特殊な工業用途と活用事例

雲母には一般的な用途以外にも、特殊な工業分野での活用例が存在します。金属加工用の切削油として、金属などの切削加工を行う際に摩擦抑制と冷却のために雲母が配合されています。雲母の層状構造が潤滑性を提供し、加工時の摩擦熱を効果的に抑えることができます。また、風化した黒雲母はバーミキュライトと呼ばれる土壌改良用の土として、農業や園芸用に利用されています。雲母に熱を加えると内部の水分が蒸発して膨張し、水分が抜けた後は多くの空洞ができるため、保水性と通気性に優れた土壌改良材となります。使い捨てカイロの素材としても使用されることがあります。耐熱性を活かして、ガラス窓の代替や耐熱製品の内部確認窓としても利用されます。浮世絵版画では、雲母摺(きらずり)と呼ばれる技法があり、膠(ゼラチン)に加水して雲母を混ぜて加熱した液を作り、刷毛で塗ることでパール塗料のような独特の光沢を画面に与えます。手鑑(てかがみ)をつくる際には、雲母の粉末を塗布した台紙に古筆を貼り付けることが行われ、後に古筆を台紙から引き剥がす必要が生じたときに雲母が剥離するため、古筆自体への損傷を抑えることができるという特性が利用されています。白雲母(マスコバイト、Muscovite)は硬質マイカと呼ばれ含有不純物が少なく電気絶縁性に特に優れており、金雲母(フロゴパイト、Phlogopite)は軟質マイカと呼ばれ耐熱性に特に優れているという違いがあり、用途に応じて使い分けられています。

 


胡粉ネイル 金雲母(きんうんも)