ケイ酸肥料効果で作物生育促進と病害虫抵抗性向上

ケイ酸肥料は作物の茎や葉を丈夫にし、光合成を促進するだけでなく、病害虫への抵抗性を高める効果があります。水稲をはじめ野菜や果樹にも有効なケイ酸肥料の効果と施用方法について、具体的なデータとともに解説します。陶器や食器にも含まれるケイ酸が、なぜ植物の生育に重要なのでしょうか?

ケイ酸肥料効果

ケイ酸肥料がもたらす3つの主要効果
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植物組織の強化

茎や葉を丈夫にし、倒伏を防ぎながら受光態勢を改善して光合成を促進します

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病害虫抵抗性の向上

葉の表面にケイ化細胞を形成し、病原菌の侵入や害虫被害を物理的に防ぎます

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環境ストレス耐性の強化

高温・低温・乾燥などの非生物的ストレスへの耐性を高め、安定生育を実現します

ケイ酸による植物組織強化と光合成促進効果

 

ケイ酸を吸収した作物は、葉の表面直下にある柵状組織と海綿状組織が厚くなり、光を効率的に乱反射させることで光合成能力が大幅に向上します。植物は主に葉が太陽の光を受けて光合成を促進させますが、ケイ酸の存在により葉肉が厚くなり、光エネルギーを最大限に活用できる仕組みが構築されます。
参考)ケイ酸の特徴と効果、肥料の種類と簡単で効果的な使い方

水稲の場合、ケイ酸を吸収することで受光態勢が改善され、根の活性も保たれます。葉が直立して垂れ下がりを抑制することで、間接的に光合成能力が高まり、結果として生育促進や品質向上に繋がります。実際の研究データでは、ケイ酸を添加した水稲において光合成速度の向上と成長促進が確認されています。
参考)https://www.zennoh.or.jp/operation/hiryou/pdf/qa_keisankouka.pdf

茎や根などの組織も硬く丈夫になることで樹勢が向上し、水稲では倒伏しにくくなる効果も報告されています。植物体内に吸収したリン酸の転流(栄養の分配)も促進されるため、根への光合成産物の供給量が増加し、強健な作物を育てることが可能になります。
参考)ケイ酸の特徴|肥料として期待できる効果を解説 | コラム |…

ケイ酸肥料による病害虫抵抗性向上メカニズム

ケイ酸肥料を施用すると、植物の葉や茎の表面にガラス質の「ケイ化細胞」が形成されます。この物理的な保護層により、植物組織が硬く丈夫になり、病原菌の侵入や害虫による被害を物理的に防ぐことができます。
参考)ケイ酸で作物の抵抗性を高めよう!種類と効果的な使い方

水稲におけるいもち病への効果は特に顕著で、葉に含まれるケイ酸が病原菌の侵入を物理的に防いでいることが確認されています。また、紋枯病や小粒菌核病に対しても効果があり、これはケイ酸施用によって植物体内の窒素含有率が低下することが理由とされています。
参考)ケイカル(ケイ酸カルシウム)肥料の成分と特徴・効果、使い方

ケイカル肥料の病害虫対策効果について詳しく解説(農家web)
園芸作物でも同様の効果が認められており、イチゴやキュウリなどのウドンコ病、ウリ科作物のつる割れ病などで防除効果が実証されています。イチゴの場合、ケイ酸濃度250mg/kgの液体ケイ酸カリ肥料を株あたり100mlで2回灌注することで、殺菌剤と同等の発病抑制効果が得られたという研究結果があります。​
害虫に対しては、ニカメイチュウの幼虫に対して生育阻害効果があることが実験で確認されています。このように作物自体が元気になり耐性能力が向上すれば、減農薬につながる可能性があり、農業経営の負担軽減にも貢献します。​

ケイ酸肥料施用による土壌改良と根の活性化

ケイ酸質資材の中でも、ケイ酸カルシウム(ケイカル)はアルカリ性を示すため、酸性土壌の中和効果が期待できます。高品質米を安定生産するためには、土壌pHが6.0~6.5、ケイ酸が20~50mg/100g含まれることが重要とされています。
参考)ケイ酸で稲を守る!倒伏&高温障害を防ぐ効果と肥料の使い方を徹…

JA全農による高品質米生産のための土づくり指針(PDF)
ケイ酸肥料を施用すると、まず根の生育が促進され、作物の吸収力が高まります。根がしっかり張ることで養水分を効率的に取り込めるため、干ばつ時や高温期でも生育不良を起こしにくくなります。土壌中の可給態ケイ酸が増すことで、アルミニウムや二価鉄などの有害な金属イオンの無毒化を助ける効果もあります。​
水稲では根の活性が保たれることで根腐れが起きにくくなり、結果として光合成が盛んになります。根の発育が良くなる一方で、生育初期の地上部の成長は対照区に劣ることが多いものの、長期的には強健な植物体が形成されます。
参考)ケイ酸が効いている作物の特徴 - パルアップ株式会社 福岡県…

ケイ酸加里肥料は水に溶けにくい性質を持つため、徐々に溶けて長く効き、雨水や灌水によって肥料分が河川や地下水に流亡しにくい環境にやさしい肥料です。
参考)https://www.zennoh.or.jp/kt/farming/hiryou/pdf/fertilizer02.pdf

ケイ酸肥料の種類と特徴的な使用方法

代表的なケイ酸肥料として、珪酸塩(ケイカル)系肥料と高炉スラグ由来のスラグ系肥料が挙げられます。ケイカル系は水に溶けにくい特徴がある一方で、少しずつ土壌にケイ素を供給するため、長期的な効果が期待できます。​

肥料の種類 主な成分 特徴 施用量の目安
ケイ酸カルシウム(ケイカル) ケイ酸、カルシウム アルカリ性、酸度矯正効果あり 水稲:120~200kg/10a
けい酸加里肥料 ケイ酸、加里、苦土 生理的中性、pH変化小 水稲基肥:40~60kg/10a
液体ケイ酸肥料 ケイ酸ゾル 速効性、葉面散布可能 1,000倍希釈での散布
シリカゲル肥料 ケイ酸90% 高濃度、水稲専用 製品による

水稲の場合、基肥(元肥)施用では耕起前に全面的に散布し、施用量は土壌成分によりますが40~60kg/10a程度が目安です。中間追肥として施用する場合は、出穂45~35日前に30~40kg/10a程度を散布します。水稲のケイ酸と加里の吸収量は生育後半(幼穂形成期以降)にかけて多くなるため、中間追肥は吸収が旺盛になる直前の効率的なタイミングで行うことが重要です。
参考)施肥方法

けい酸加里工業会による効果的な施肥方法の解説
畑作物の場合は、主に土作りのときの基肥として施用され、葉菜類(ハクサイやレタス)、根菜類、果菜類(トマト、キュウリ、イチゴ)、果樹や花木にも有効です。ケイ酸加里は徐々に溶けて長く効き、ミネラルバランスを整えて作物の品質を向上させるため、施設栽培やマルチ栽培にも最適です。
参考)けい酸加里肥料/液体肥料の特徴と効果、使用方法について

ケイ酸と陶器食器の意外な共通点と家庭での活用法

陶器や食器に興味のある方にとって、ケイ酸は意外にも身近な物質です。陶磁器の主原料である珪石(石英)は二酸化ケイ素(SiO2)で構成されており、これが高温で焼成されることでガラス質の美しい釉薬や硬質な器が生まれます。植物がケイ酸を吸収して細胞壁を硬く強化するメカニズムは、陶器が高温で焼き固められてガラス質の強固な構造を持つプロセスと本質的に類似しています。

 

家庭菜園での活用では、もみ殻がケイ酸供給源として優れています。もみ殻に多く含まれるケイ酸を土壌に混ぜ込むことで、野菜の茎葉を丈夫にし、病害虫への抵抗性を高めることができます。特にトマトやキュウリなどの果菜類では、ケイ酸の施用によって収量の向上が期待でき、玉伸びが良くなるため規格M以上の割合が高まります。
参考)もみ殻に多く含まれるケイ酸について。ケイ酸が野菜に与える効果…

プランター栽培では液体ケイ酸肥料が便利で、1,000倍に希釈して葉面散布することで速効性が期待できます。ケイ酸ゾル化した主成分が光合成を促進して植物の生理を整え、根、葉、茎を丈夫にして耐病性、耐虫性を高めます。
参考)濃縮 ケイ酸水溶液 S-C【1L】−吸収しやすい活性ケイ酸ゾ…

🌱 家庭菜園でのケイ酸活用ポイント

  • もみ殻を土壌改良材として活用し、自然なケイ酸供給を実現
  • 液体ケイ酸肥料を定期散布することで、病害虫予防と成長促進を両立
  • 果菜類の栽培では基肥としてケイ酸カリを施用し、糖度向上と品質改善を図る
  • 連作障害の土壌改善効果により、同じ場所での栽培を継続可能に

興味深いことに、食器を丈夫にするケイ酸の原理が、植物を健康で強靭に育てる技術に応用されているのです。陶器製作で培われたケイ酸に関する知見が、現代農業において作物の品質向上と持続可能な栽培技術の発展に貢献しています。​