リン酸塩は食品添加物として広く使用されていますが、過剰摂取による健康被害が指摘されています。最も重要な健康リスクは、カルシウムの吸収阻害です。リンを摂りすぎるとカルシウムが利用されず排泄されてしまい、骨がもろくなる骨粗鬆症のリスクが高まります。カルシウムとリンの摂取割合は1:1~1:2程度が理想とされており、1:0.5~1:2の範囲であれば吸収・利用に支障がないとされています。
腎臓への負担も深刻な問題です。リン酸塩(無機リン)を過剰に摂取すると、腎臓の機能に大きな負担がかかり、腎臓疾患のリスクが上昇します。特に腎臓の機能が低下している人は、リン摂取を制限する必要があります。リンの過剰摂取は、腸管におけるカルシウムの吸収を抑制するとともに、急激な血清無機リン濃度の上昇により、血清カルシウムイオンの減少を引き起こし、血清副甲状腺ホルモンの異常を招く可能性があります。
さらに、リン酸塩の摂りすぎはミネラル(亜鉛や鉄分、カルシウム)の吸収を妨げるため、亜鉛による味覚障害、鉄不足による貧血、免疫力低下などの症状が現れることがあります。インスタント食品や加工食品をよく食べる場合、これらの健康リスクに特に注意が必要です。
食品添加物としてのリン酸塩には、20種類以上の種類があり、国によって安全性が確認されたものだけが食品衛生法で使用できると定められています。主な種類として、リン酸のカリウム塩類またはナトリウム塩類各3品目、ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ポリリン酸とメタリン酸のカリウム塩およびナトリウム塩があります。
リン酸塩は、ハムやソーセージの結着剤やプロセスチーズの乳化剤、pH調整剤、酸味料、製造用剤などに使われ、加工食品の食感や見た目、味を向上させる働きがあります。日本人の食事摂取基準で定められた耐容上限量は、18才以上の男性・女性とも3000mg/日となっており、この量を超えて摂取した場合、過剰摂取による健康障害が発生するリスクがあります。
厚生労働省が継続して行っているマーケットバスケット方式による調査結果を見ると、総リン酸塩類のリンとしての一日摂取量は、265.6mg(20歳以上の平均値)と見積もられています。この量は、食品由来のリンの平均摂取量(男性1063mg、女性で925mg)よりも少ない量です。現在の日本における食品添加物由来のリン摂取量は、耐容上限量までにはかなり余裕があるとされていますが、加工食品の取りすぎには注意が必要です。
リン酸塩を含む加工食品として、特に注意すべきものはソーセージ類・ハム類・サラダチキンなどの食肉加工品、プロセスチーズ、練り製品などです。調査によると、リン酸塩とpH調整剤の両方を含むソーセージ15種の平均リン含有量は180.3mg/100gで、含まないソーセージ2種の84.1mg/100gと比較して約2倍以上になっています。
食品には、もともとリンが多く含まれています。各種リン酸塩が食品添加物などに広く使われているため、加工食品の利用が多いと過剰摂取になりがちです。よく問題となるのは、リン酸塩からのリンの過剰摂取であり、国立健康・栄養研究所のデータベースによると、加工食品の取りすぎはリンの過剰摂取につながり、カルシウムの吸収を阻害するなどの健康影響があるので注意が必要とされています。
2014年のマーケットバスケット方式による調査結果では、総リン酸塩類からのリン摂取量は203.4mgで、安全側にたって小児における対MTDI比を算出しており、17.6%と高めに出ていますが、「これらの食品添加物については、安全性上、特段の問題はないと考えられた」と結論づけています。ただし、個人の食生活によっては摂取量が大きく異なるため、加工食品を頻繁に食べる習慣のある人は特に注意が必要です。
鉱物学的な観点から見ると、リン酸塩鉱物は1個のリンと4個の酸素から構成される多原子イオン(PO₄³⁻)を持つ鉱物群の総称です。リン酸の水素を金属元素で置き換えた化合物を主とする単塩、複塩から成り、水やハロゲン元素を含むことが多いのが特徴です。代表的なものとして、リン灰石、モナズ石、人形石などがあります。
リン酸塩鉱物は地球上で偏在性が強い元素であるリンを含むため、「ある場所にはあるが、ない場所にはない」という特徴があり、希少性が高い鉱物グループとなっています。生成環境としては、火成岩の共存鉱物としてマグマからの生成、接触変成作用、熱水作用、温泉水(鉱泉水を含む)からの沈殿、陸水からの沈殿(生物の作用を含む)などの場合があります。
工業原料として利用可能なリンを採取できるリン鉱石は、リン酸塩鉱物を主成分とした鉱石であり、主成分はリン酸カルシウムCa₃(PO₄)₂です。リンは自然界に単体としては存在せず、地殻中においてリン酸カルシウムなどのリン酸塩として存在します。また海鳥の活動によりその糞などの集積によるリン酸の濃縮作用が行われグアノの構成鉱物として生成する場合もあり、リン酸資源として利用されています。
リン酸塩の安全な摂取を管理するためには、まず加工食品の摂取頻度を見直すことが重要です。食品添加物由来のリンは全体の摂取量に対して数%程度とわずかですが、加工食品中心の食生活では知らず知らずのうちに摂取量が増加します。過剰になると危険なものはたくさんあり、ナトリウム(塩)だって過剰に摂取したら健康被害が発生しますし、現代日本人は塩の摂取量が多すぎると言われています。
リン酸塩の使用は栄養バランスの問題ですので、バランスの良い食事を心がけることが最も効果的な対策です。カルシウムを十分に摂取することで、リンとのバランスを保つことができます。乳製品に含まれるリンはカルシウムと共存しているため、リンの摂取割合が適切に保たれやすい食品です。
特に腎臓病や骨粗鬆症の患者、高齢者は、医師や管理栄養士の指導のもと、リン摂取を制限する必要があります。一方、過剰摂取は副甲状腺機能の亢進や骨代謝障害を引き起こす可能性があるため、定期的な健康診断で血液検査を受け、リンとカルシウムのバランスをチェックすることも大切です。食品表示をよく確認し、「リン酸塩」「リン酸Na」「ポリリン酸Na」などの表示がある製品の摂取頻度を意識的に管理することで、健康リスクを軽減できます。
食品添加物「リン酸塩」の摂取量と安全性評価についての詳細情報
リンの働きと1日の摂取量に関する健康長寿ネットの解説