正方晶系は7つの結晶系の1つで、特徴的な結晶構造を持っています。この結晶系は、上下前後左右の3本の結晶軸が直角に交わり、そのうち上下軸(c軸)の長さが他の2本(a軸とb軸)と異なるという特性があります。結晶の形としては、正方形の底面と長方形の側面を持つ直角の角柱となり、基本的には直方体ですが、四角柱や両錘体で現れるものが多く見られます。
参考)正方晶系 - Wikipedia
正方晶系にはブラベー格子として「単純正方格子」と「体心正方格子」の2種類が存在します。単純正方格子は単純な立方格子が伸びたもので、体心正方格子は面心立方格子または体心立方格子が伸びたものです。この結晶構造は、立方晶系の正六面体格子を1つの格子ベクトルに沿って伸ばすことにより得られるため、立方晶系と近縁関係にあります。
参考)結晶構造の基本タイプ
正方晶系の結晶は、他の結晶系と比較して独特の対称性を持っています。結晶軸のパラメーターとしては、2本の軸(a軸とb軸)の長さが等しく、3本目の軸(c軸)は90度の角度を保ちながら長さが異なるという特徴があります。
正方晶系に属する代表的な鉱物として、まずジルコン(車石)が挙げられます。ジルコンは正方晶系の代表的な宝石で、地球上で広く産出され、オーストラリア・ジャックヒルズで産出されたジルコンは地球で最も古い鉱物として知られ、44億年前に形成されたものです。ジルコンは高い屈折率により、ほぼ比類のない輝きと信じられないほどの「輝き」を持ち、二重屈折という特徴も持っています。
参考)https://www.gemselect-japan.com/japanese/gem-info/zircon/zircon-info.php
金紅石(ルチル)も正方晶系の重要な鉱物で、二酸化チタン(TiO₂)の結晶です。ルチルは正方晶系の結晶で、各パラメーターはa=4.584Å、c=2.953Åという数値を示します。金紅石はチタンの酸化物として、アーク溶接棒のフラックス原料や化粧品、コンデンサーなどに幅広く利用されています。
参考)金紅石 - Wikipedia
黄銅鉱(CuFeS₂)は正方晶系に属する銅の鉱石で、4面体の金色の自形をなすことが特徴です。銅鉱脈の中心部の隙間に見られることが多く、安山岩の割れ目に銅などを溶かした200~300℃の熱水が入ってできたものです。白榴石(リューサイト)は、カリウム・アルミニウムの珪酸塩鉱物で、高温(625℃以上)では等軸晶系ですが、低温型は正方晶系となり、白色でざくろ石によく似た24面体の結晶になります。
参考)https://www.gsj.jp/data/chishitsunews/84_06_g1.pdf
正方晶系鉱物の産地は世界中に広く分布しています。ジルコンの最大の産地は西アフリカのシエラレオネ共和国で、2008年には世界シェアの30%を占めていました。また、ブラジル・ミナスゼライス州ポソス・デ・カルダスでも良質なジルコンが産出され、カンボジアも主要な産地として知られています。
参考)結晶の世界(後編)【近山コレクション見聞】 - JEWELR…
金紅石は高温・高圧下で生成された変成岩や火成岩の随伴鉱物としてよく見られ、巨大な結晶は主にペグマタイト、スカルン、特に変質花崗岩で多く採取されます。日本国内でも正方晶系鉱物は産出しており、秋田県尾去沢鉱山では黄銅鉱が浅熱水性鉱脈鉱床に産し、自形結晶の集合をなすものが見つかっています。
参考)ルチル(rutile/金紅石)~組成・特徴・歴史・産地など宝…
白榴石はカリウムに富み、ケイ酸分に乏しい火山岩中にのみ産出します。ウガンダ、コンゴ民主共和国、オーストラリア、アメリカのワイオミング州、イタリアなどが主産地ですが、日本では未発見とされています。三重県南部の紀州鉱山(熊野市紀和町)では正方晶系の黄銅鉱が産出し、真鍮色で条痕は緑黒色を示します。
参考)白榴石(ハクリュウセキ)とは? 意味や使い方 - コトバンク
正方晶系鉱物は工業分野で重要な役割を果たしています。金紅石(ルチル)は、細かく粉末化すると明るい白を示すため、塗料、プラスチック、紙など、鮮やかな白色が求められる製品に混ぜて用いられます。また、ナノサイズまで細かくしたルチル粒子は紫外線吸収力が強いため、UVカットの日焼け止め製品にも利用されています。
チタンの鉱石としての金紅石は、航空機や宇宙ロケットの構造材として注目されています。チタンは鉄に比べて軽く、アルミニウムよりはるかに強い(アルミの1.5倍の重さで、強度は6倍)という特性があり、耐熱性かつ表面に不動態を作り耐腐食性も良好です。F15戦闘機のエンジンフレームには、6アルミ4バナと称する合金が使用されています。
参考)https://lapisps.sakura.ne.jp/gallery2/129rutil.html
黄銅鉱は銅の重要な鉱石として、電線や伸銅品の原料となります。銅は高い導電性、熱伝導性を持ち、安価で加工性が良いことから、電力分野での架空送電線や地中送電線、通信分野での各種ケーブル、電気機械・電気電子分野での電線として様々な産業分野で多用されています。人工のルチルは無色透明で極めて高い屈折率を持ち、光沢はダイヤモンドと同じ「金剛光沢」であることから、ダイヤモンドの代用品として利用されることがあります。
参考)https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2022/09/material_flow2021_Cu.pdf
正方晶系鉱物は、その美しい結晶形態と独特の光学特性から、鉱物コレクターにとって魅力的な対象となっています。鉱物標本を集める際には、結晶系別に集めるという切り口があり、正方晶系という特定の結晶系に焦点を当てたコレクションは学術的にも興味深いものです。
参考)結晶系
ジルコンは宝石品質のものが多く、その高い屈折率による輝きと二重屈折による独特の光学効果が鑑賞のポイントです。色によって異なる意味や効果を持ち、採掘されたときから色味のあるものや、人の手で加熱処理を施されて着色されたものがあります。特にブラジル・ミナスゼライス州産のジルコンは、結晶の形状が美しく、コレクターの間で高く評価されています。
参考)ジルコンの意味は? 効果や浄化方法、相性の良い宝石も徹底解説
金紅石の針状結晶が石英(水晶)の中に入ったものは「針入り水晶」や「ルチルクォーツ」と呼ばれ、金色の針状ルチルが内包された「ゴールドルチルクォーツ」は財運や成功の象徴として人気があります。また、ルビーやサファイアの中に入り込んだルチルの結晶は、反射光が星状に広がって見えるスター効果を生み出し、非常に価値が高いとされています。
参考)ゴールドルチルクォーツの意味・効果や特徴とは href="https://fukuenkaku.com/apps/note/archives/2070" target="_blank">https://fukuenkaku.com/apps/note/archives/2070amp;#8211;…
正方晶系鉱物の標本を集める際には、産地による違いに注目するのも面白い視点です。同じ鉱物種でも産地によって結晶の形状や色などの特徴が異なることがあり、ベテランコレクターは標本を見るだけでどこの産地の標本か言い当てることができるほどです。結晶面が明瞭な自形結晶は特に価値が高く、隣り合う結晶面のなす角度は鉱物ごとに決まっている(面角一定の法則)ため、同定の際の重要な手がかりとなります。
参考)http://www.eeyan.biz/mineral_kirikuchi.html
正方晶系の結晶構造と点群についての詳細な解説(Wikipedia)
ジルコンの鉱物データと特徴、産地情報の詳しい説明
金紅石(ルチル)の組成と特徴、用途についての専門的な情報