奥高麗茶碗の特徴と歴史、見分け方、価値の決まり方

奥高麗茶碗は朝鮮陶工による国産茶碗として茶人に愛されてきました。その独特の造形や釉薬の美しさ、高取焼との違いなど、知っておくべきポイントは多岐にわたります。あなたは奥高麗茶碗の本当の価値を見極められますか?

奥高麗茶碗の魅力と基礎知識

高取焼と混同されがちですが奥高麗茶碗は別物です。


この記事の3つのポイント
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奥高麗茶碗とは何か

江戸初期に朝鮮陶工が日本で焼いた茶碗で、高取焼の源流となった貴重な陶器です

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見分け方のコツ

土の質感、釉薬の流れ方、高台の削り方など、細部に現れる朝鮮陶工の技術を読み取ります

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価値を決める要素

銘の有無、伝来、景色の良さ、時代性など複数の観点から評価されます

奥高麗茶碗の歴史的背景と成り立ち


奥高麗茶碗は、慶長5年(1600年)前後に黒田長政が朝鮮から招いた陶工・八山(はっさん)によって福岡県の鷹取山で焼かれた茶碗を指します。


これは高取焼の始まりでもあります。


八山は文禄・慶長の役で連れてこられた朝鮮陶工の一人でした。彼は朝鮮李朝の技術を持ち込み、日本の茶人好みの作風を生み出しました。当時の茶人たちは朝鮮茶碗を珍重していたため、国内で朝鮮風の茶碗が作られることは画期的な出来事だったのです。


「奥高麗」という名前の由来には諸説あります。最も有力なのは、高取焼の初期作品を「古高取」と呼び、さらにその初期の作品を「奥高取」と呼んだという説です。いずれにしても、高取焼の最初期の貴重な作品群を指す言葉として定着しました。


つまり奥高麗は高取焼の源流です。


製作期間は比較的短く、八山の初期活動期である17世紀初頭のわずか数十年間に限られます。そのため現存数は非常に少なく、市場に出回ることも稀です。茶道具として使われたものが多いため、茶会記や茶道具の伝来記録に名前が残っているものもあります。


奥高麗茶碗の特徴的な造形と釉薬

奥高麗茶碗の最大の特徴は、朝鮮李朝の技法と日本の茶の湯文化が融合した独特の美意識にあります。


形は井戸茶碗熊川茶碗といった朝鮮茶碗の影響を受けつつ、やや背が低く、口縁がゆるやかに開いた形状が多く見られます。高台は朝鮮茶碗特有の竹節高台や兜巾(ときん)高台を採用し、削り跡が荒々しく残されています。


厚みは不均一で、手取りは軽めです。ろくろ目が明瞭に残り、作為のない自然な歪みが「景色」として評価されます。


釉薬には以下のような種類があります。

  • 藁灰釉(わらばいゆう):わら灰を主原料とした黄褐色の釉薬で、流れや溜まりによって濃淡が生まれます
  • 鉄釉:黒褐色に発色し、茶碗の一部に掛けられることが多い
  • 白化粧:白土を化粧掛けしてから透明釉を掛ける技法で、柔らかな白色を呈します

釉薬の掛け分けや流れ、釉切れの部分に現れる土の色が「景色」として鑑賞されます。これは意図的に作り出すことが難しく、偶然性の美として茶人に愛されてきました。


土は鉄分を含んだ赤褐色または黄褐色です。高取の山土を使用しており、焼き上がると温かみのある色調になります。素地には細かな砂粒が混じり、ざらりとした質感が特徴的です。


奥高麗茶碗と高取焼の違いと見分け方

奥高麗茶碗と後の高取焼を区別するポイントはいくつかあります。


最も重要なのは製作年代です。奥高麗は17世紀初頭の数十年間、八山の初期作品を指します。一方、高取焼は江戸時代を通じて続いた窯で、時代ごとに作風が変化しています。


土の質感が異なります。奥高麗は粗めの土を使い、砂粒が目立ち、素地の色も不均一です。後期の高取焼はより精製された土を使い、なめらかな質感になっていきます。


釉薬の掛け方にも違いがあります。奥高麗は釉薬が不均一で、流れや溜まり、釉切れが顕著に見られます。これは当時の技術的な制約もありますが、それが「景色」として価値を持ちます。後期の高取焼は技術が洗練され、より均一な施釉になっていきます。


高台の削り方を見ることも重要です。奥高麗の高台は荒削りで、削り跡が明瞭に残ります。竹節や兜巾といった朝鮮茶碗特有の形状を持ち、削りの強さから陶工の手癖が読み取れます。


形の歪みも判断材料です。奥高麗は自然な歪みが大きく、左右非対称なものが多くあります。これは轆轤技術が未熟だったというより、意図的に歪みを残した可能性もあります。


後期になるほど整った形状になっていきます。


どういうことでしょうか?
実際に手に取って確認できる場合は、重さと手取りを確かめてください。奥高麗は見た目より軽く、厚みの不均一さから持ったときのバランスが独特です。また、口縁に触れたときの感触も判断材料になります。


伝来や箱書きがあれば、それが最も確実な判断材料です。茶道具は代々受け継がれる中で、誰が所有し、どの茶会で使われたかが記録されています。これらの記録が奥高麗であることを裏付ける重要な証拠となります。


奥高麗茶碗の価値と評価基準

奥高麗茶碗の価値は複数の要素から総合的に判断されます。


最も重要なのは銘の有無です。著名な茶人によって銘が付けられた茶碗は価値が大きく上がります。小堀遠州、古田織部、千利休といった茶人の関与が確認できれば、文化財級の評価を受けることもあります。


伝来の明確さも重要です。どの大名家や茶人の手を経たか、どの茶会で使われたかという記録が残っていると、歴史的価値が加わります。箱書きや茶会記に記載があるものは特に評価が高まります。


景色の良さは審美的評価の核心です。釉薬の流れ、溜まり、発色の妙、土の見え方、歪みの美しさなど、見る者を魅了する「景色」があるかどうかが問われます。これは数値化できない要素ですが、茶人の目利きによって判断されます。


作品の状態も価値を左右します。ひび割れ、欠け、金継ぎの有無などが確認されます。ただし、茶道具の場合は完璧な状態よりも、使い込まれた痕跡や金継ぎが「景色」として評価されることもあります。


時代を経た風格が重視されるのです。


希少性は価格に直結します。奥高麗茶碗は製作期間が短く、現存数が少ないため、市場に出ること自体が稀です。特に無傷で伝来が明確なものは、数百万円から数千万円の値がつくこともあります。


鑑定書の有無も重要です。日本陶磁協会や古美術商の鑑定書があると、真贋の保証となり、取引の際の信頼性が高まります。ただし、鑑定には専門知識が必要で、素人判断は危険です。


数百万円は珍しくありません。


時代性も評価基準の一つです。江戸初期という特定の時代に作られた歴史的価値が認められています。当時の政治情勢、文化背景、茶の湯の発展といった文脈の中で、奥高麗茶碗が果たした役割が評価されるのです。


奥高麗茶碗を鑑賞する際の独自視点

奥高麗茶碗を鑑賞する際、通常の美術品とは異なる視点が必要になります。


まず、茶碗を手に取る所作から鑑賞が始まります。茶道では茶碗の正面を避けて持ち、両手で包み込むように持ち上げます。この時、重さ、手に馴染む感触、温度の伝わり方を感じ取ります。奥高麗茶碗は見た目より軽く、不均一な厚みが独特の手取りを生み出します。


次に正面を定めます。茶碗には「正面」があり、最も景色が美しい部分が正面とされます。釉薬の流れ、色の変化、土の見え方など、最も見せたい部分を探します。


高台を見ることも重要です。茶碗を裏返し、高台の削り方、土の色、釉薬の掛かり具合を観察します。高台内の「兜巾」の形や削り跡から、陶工の技術や個性が読み取れます。朝鮮陶工特有の荒々しい削りが、奥高麗の証となることもあります。


口縁の歪みを楽しむのも奥高麗ならではです。完全な円形ではなく、微妙に歪んだ口縁は、轆轤を回しながら手で形を整えた痕跡です。この歪みが自然な景色を生み、一点ものとしての個性を際立たせます。


光の当たり方で表情が変わります。自然光、蛍光灯、ろうそくの明かりなど、光源によって釉薬の色や質感が変化します。茶室では障子を通した柔らかい光で鑑賞されることが多く、その中で茶碗が最も美しく見えるよう計算されています。


実際に茶を点ててみることです。


茶碗は使うための道具であり、実際に茶を点て、飲むことで本来の価値が発揮されます。茶が注がれたときの色の見え方、茶碗の温度、口当たりの感触など、使ってこそわかる良さがあります。


季節との調和も考慮されます。夏には涼しげな色合いの茶碗、冬には温かみのある茶碗というように、季節感に合わせて茶碗を選ぶのが茶道の楽しみです。奥高麗茶碗は土の温かみがあるため、秋から冬にかけて好まれることが多いです。


他の茶道具との取り合わせも鑑賞のポイントです。茶入、茶杓、花入など、他の道具との色合いや雰囲気の調和を考えます。茶会全体の演出の中で、奥高麗茶碗がどのような役割を果たすかを想像することも、鑑賞の深さにつながります。


経年変化を愛でる視点も大切です。長年使われた茶碗には、茶渋が染み込み、独特の色合いになっています。金継ぎの痕も、茶碗が生きてきた歴史の証です。新品の完璧さよりも、時を経た風格が茶道具の価値なのです。


歴史の重みを感じられますね。


最後に、自分なりの見立てを持つことです。専門家の評価も重要ですが、自分がその茶碗のどこに惹かれるのか、どんな思いを抱くのかを大切にします。茶道具は人との対話であり、自分だけの鑑賞眼を育てることが、より深い楽しみにつながります。




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