実は、ソーサーはもともと飲み物を「注いで飲む器」として使われていた。
ソーサー(英語: saucer)とは、コーヒーカップやティーカップの下に置く受け皿のことです。洋食器においては、マグカップを除くほぼすべてのカップにソーサーが付属するのが基本とされています。材質は陶器や磁器が主流ですが、ステンレス・真鍮・アルミ・木製など多様な素材が存在します。
ところが「受け皿」という認識は、現代における意味に過ぎません。ソーサーの語源をたどると、フランス語の「saucer(ソースをかける・パンでソースを拭う)」にたどり着くという説もあり、その発音は英語に取り込まれていきました。
陶器に興味がある方ならご存じかもしれませんが、もともとカップとソーサーは「セットで使う前提」で生まれた器ではありませんでした。ソーサーが受け皿として使われるようになったのは、西洋の茶文化が発達した17〜18世紀のことです。それ以前は、カップとソーサーという組み合わせ自体が存在しなかったのです。
つまり、ソーサーとは単なる「置き台」ではなく、歴史の流れの中で役割を変えながら今日の形になった器だということです。
「ソーサーはカップの付属品」が基本です。しかし、その役割の本質を理解すると、陶器選びの視点がぐっと広がります。
参考:ソーサー - Wikipedia(カップとソーサーの形状の変遷・材質の種類について詳しく解説されています)
ソーサーの歴史は、1610年にオランダの東インド会社が日本から緑茶の輸入を開始したことをきっかけに始まります。ヨーロッパにお茶の文化が広まるにつれ、中国や日本から輸入された茶器も注目を集めました。
当時の茶器には取っ手がなく、熱い飲み物をそのまま持つことができませんでした。意外ですね。そこで、飲み物を受け皿(ソーサー)に移し、表面積を広げることで冷ましてから飲む習慣が生まれたのです。この頃のソーサーは現代のものと異なり、底が深く、液体をしっかり溜められる形状をしていました。
お茶を受け皿に移して飲む文化を最初にヨーロッパ全土に広めたのは、オランダの宮廷です。1745年頃にアムステルダムで描かれた絵画にも、ソーサーに液体を移して飲む人物の姿が残されており、この習慣が上流階級の正式なマナーだったことがわかります。
転機が訪れたのは1715年頃です。ドイツの名窯「マイセン」で取っ手付きのカップが作られるようになりました。これが基本です。取っ手付きカップの普及により、飲み物をソーサーに移す必要性が薄れていきます。そして20世紀初頭には「ソーサーから飲むのは野蛮で不作法」という認識が定着し、現代の使い方へと完全に移行しました。
このように、ソーサーは約300年間で「飲む器」から「置き台・受け皿」へと役割が逆転した、非常に珍しい食器なのです。これは使えそうです。陶器を語る場面でも、こうした歴史的背景を知っているだけで会話の深みが増します。
参考:横山美術館 note「ソーサーはコーヒーや紅茶を注いで飲むためのものでした」(絵画資料をもとにカップ&ソーサーの変遷を詳しく解説)
現代において、ソーサーの主な役割は次の3つです。
マナーの面では、まずスプーンの置き方がポイントになります。お客様にお出しする際、スプーンはカップの手前に置きます。これは、奥に置くと使おうとした時にカップにぶつかって音がたってしまうからです。使用後のスプーンはカップの奥側へ移動させるのが正解です。
ソーサーを持つかどうかについては、テーブルの高さで判断します。ダイニングテーブルのようにソーサーと体の距離が近い場合はソーサーを置いたままカップだけを持ちます。一方、立食パーティーのようにテーブルが腰より低い位置にある場合は、ソーサーを左手で胸のあたりに持ち、右手でカップを口元へ運ぶのがスマートです。
カップに音を立てないことが条件です。砂糖をかき混ぜる際もスプーンがカップの内側に当たらないよう、中心あたりをそっと動かしましょう。カップをソーサーに置く時も、静かにゆっくり下ろすのが基本です。
デザインのあるカップの場合、絵柄をお客様の方へ向けて置くのも大切なマナーです。茶道で茶碗の柄を客に向けることに近い感覚で、洋食器でも「器でのおもてなし」は重視されています。
参考:全日本コーヒー協会「コーヒーソーサーの使用目的とマナーを解説」(スプーンの置き方・ソーサーの選び方まで幅広く解説)
陶器に興味がある方にとって、ソーサーを選ぶ上で素材の違いは重要なポイントです。ソーサーに使われる素材は大きく「陶器」と「磁器」の2つに分かれます。それぞれの特徴を理解すると、用途やライフスタイルに合ったものを選びやすくなります。
| 比較項目 | 🏺 陶器 | ✨ 磁器 |
|---|---|---|
| 原料 | 陶土(土もの) | 陶石・カオリン(石もの) |
| 焼成温度 | 800〜1,250℃程度 | 1,200〜1,400℃程度 |
| 質感・見た目 | ざらっとした温かみのある質感 | なめらかで光沢があり薄手 |
| 重さ | やや重め | 軽め |
| 吸水性 | あり(釉薬なしは特に高い) | ほぼなし |
| 代表的な産地 | 益子焼・萩焼・備前焼 | 有田焼・マイセン・ウェッジウッド |
陶器のソーサーは土の温かみが感じられ、手作り感のある風合いが魅力です。ただし吸水性があるため、使用後はしっかり乾燥させることが大切です。水分が残ったまま放置するとカビや臭いの原因になります。陶器のソーサーを使うなら乾燥に注意すれば問題ありません。
磁器のソーサーは薄くて軽く、汚れが落ちやすいのが特徴です。繊細な絵柄を施しやすいため、マイセン(ドイツ)やウェッジウッド(イギリス)といった世界的ブランドのカップ&ソーサーのほとんどは磁器で作られています。
また、金銀の装飾が施されたソーサーは食洗機・電子レンジ非対応のものが多い点も要注意です。購入前に必ず商品説明を確認しましょう。
カップを先に割ってしまい、ソーサーだけが手元に残った経験がある方は少なくないはずです。陶器に愛着があればあるほど、処分するのはもったいなく感じるものです。痛いですね。実は、ソーサー単体にも意外な活用法が多く存在します。
最もシンプルな方法は、小皿・取り皿として使うことです。ソーサーはもともと15〜18cm程度の浅い皿形状をしており、漬物・おつまみ・ケーキなどをのせるのにちょうど良いサイズです。はがきの短辺が約10cmなので、その1.5〜1.8倍程度のイメージです。
次に人気が高いのが、植木鉢の受け皿としての活用です。カップを置くための中央の窪みも植木鉢の形状にフィットしやすく、水をためる受け皿として機能します。ソーサーだという印象も薄れるため、インテリアとして自然に溶け込みます。
さらに、急須の下に置く使い方も近年注目されています。和の急須の下にあえて洋食器のソーサーを合わせることで、異素材・異文化のミックス感が生まれ、テーブルコーディネートのアクセントになります。
陶器好きな方であれば、欠けたソーサーをモザイク工芸(金継ぎや割り絵付け)の素材として再利用するのも一つの選択肢です。日本の金継ぎ技法を使えば、ひびや欠けをあえて金で修復し、世界に一つだけの器として復活させることができます。
余ったソーサーを無駄にしないことが原則です。陶器の良さを最後まで活かす視点を持つことが、真の器好きに通じる姿勢ではないでしょうか。
参考:読売新聞「発言小町 ソーサーだけ余っちゃった 使い道」(実際の活用アイデアが多数集まっています)
ソーサーの素材と歴史的背景を理解したうえで、具体的なブランドや産地を知っておくと選択肢が広がります。カップとのセット購入が基本ですが、どのブランドにどんな特徴があるか把握することで、失敗のない一品を見つけやすくなります。
まず世界的に有名なのがマイセン(Meissen / ドイツ)です。1710年創業という300年以上の歴史を持ち、ヨーロッパで最初に硬質磁器の製造に成功した窯元です。カップ&ソーサーの製造でも先駆け的存在で、取っ手付きカップが普及するきっかけを作った歴史的な窯でもあります。定番の「ブルーオニオン」柄のカップ&ソーサーは、現在でも1セット数万円〜数十万円で取引されるほどの価値を持ちます。
次にウェッジウッド(Wedgwood / イギリス)です。1759年創業のイギリスを代表するブランドで、「ワイルドストロベリー」などの優美なデザインが特徴です。陶磁器ながらも繊細な白磁を多用し、女性的な美しさで世界中に愛好家がいます。
日本国内では有田焼(佐賀県)が代表格です。透き通るような白磁に鮮やかな染付が映え、17世紀から輸出向け陶磁器として世界に広まりました。伝統的な技法を受け継ぎながらも現代的なデザインを取り入れたブランドも多く、陶器ファンには見逃せない産地です。
益子焼(栃木県)は、素朴で温かみのある陶器として人気です。ざらりとした土の質感が、カジュアルなカフェスタイルのテーブルによく合います。磁器のような華やかさはありませんが、日常使いのソーサーとしての耐久性や親しみやすさは抜群です。
ブランドを選ぶ際は、日常使いなのか来客用なのかを先に決めておくことが条件です。日常使いなら益子焼や萩焼などの国内産陶器が使いやすく、来客用やギフトにはマイセン・ウェッジウッドなどの世界的ブランドがおすすめです。ただし、金彩装飾があるものは食洗機・電子レンジ非対応が多いため、購入前に必ずスペックを確認しましょう。
参考:ゴールドプラザ「世界の高級食器ブランド一覧|ヨーロッパの名窯とその魅力」(マイセン・ウェッジウッドをはじめとする世界の名窯を幅広く解説)