赤だけで描かれた器も色絵と呼ぶのが一般的です。
色絵とは、透明な釉薬をかけて本焼成した陶磁器の表面に、赤・緑・黄・紫・青などの上絵の具で模様を描き、約800度の低温で焼いて仕上げる技法のことです。
この技法は「上絵付け」とも呼ばれます。
参考)https://arterrace.jp/jp/columns/detail?id=1022
一方、赤絵は基本的に色絵と同じ技法を指す言葉ですが、赤色を主調とした彩色を施した陶磁器を特に指すこともあります。中国では「五彩」と呼ばれ、赤、緑、黄、青、黒の釉薬で彩色した陶磁器を指します。
つまり両者は同義です。
日本では有田地方で柿右衛門が赤絵を創始したことへの思い入れから、色絵ではなく赤絵という呼び方が好まれています。ただし、赤を使用していない黄・紫・青などの上絵の具だけで彩色した有田焼についても赤絵と呼ばれることがあるため、定義は曖昧な部分もあります。
色絵の最大の特徴は「二度焼き」という技法にあります。まず素地に透明釉薬をかけて1200度以上の高温で本焼成し、その後表面に上絵の具で絵付けを施してから約800度の低温で再度焼成します。
参考)色絵の二度焼技法と発色。色絵の贋作とは。|株式会社 栄匠堂
この低温焼成により、高温では使えない多彩な色の絵の具を使用できるようになります。和絵の具では赤は酸化第二鉄、緑は酸化銅、黄はアンチモニー、紫はマンガン、藍は酸化コバルトが呈色剤として用いられます。
800度というのは家庭用オーブンの約3倍の温度です。
この温度設定が色絵の鮮やかな発色を生み出す鍵となっています。下絵付けでは釉薬の下に絵の具を置くためぼやけた雰囲気になりますが、上絵付けでは色彩がはっきりと表現できるメリットがあります。ただし、和絵の具は焼成前と焼成後で色が大きく変化するため、色の調整にはテストピースを何度も焼成して調合を試みる必要があります。
参考)赤絵と色絵/宋赤絵・柿右衛門・藤本能道・色絵磁器・釉描加彩|…
色絵磁器の起源は中国にあり、12世紀から14世紀頃に初めて作られました。中国の宋時代には赤を主調とした牡丹文などを描いた「宋赤絵」が華北磁州窯系の窯で作られ、これが中国最古の色絵とされています。
日本では1640年代に初代柿右衛門が赤絵の焼成に成功したことが大きな転機となりました。酒井田家に伝わる文書『赤絵初りの覚』には、1647年頃に初代柿右衛門が苦労の末に色絵磁器の焼成に成功したことが記されています。
参考)江戸時代前期 - 柿右衛門とその歴史|一般財団法人 柿右衛門…
これが有田焼の歴史を変えました。
初代柿右衛門は柿の実からヒントを得て赤色を生み出し、それ以降赤色は柿右衛門を象徴する色となりました。柿右衛門窯には代々受け継がれる「赤の配合帳」があり、この秘伝の書は「赤絵具覚」と呼ばれ、赤の配合・調合は本人にしか許されない一子相伝の技術です。近年の発掘調査でも、1640年代には有田で色絵磁器の生産が始まったことが明らかになっています。
参考)柿右衛門の赤|有田焼
色絵と赤絵という呼び方は、実は産地によって使い分けられています。有田地方では柿右衛門が赤絵を創始したことへの強い思い入れから、色絵ではなく赤絵という言葉を使うことが多いのです。
この背景には、初代柿右衛門が日本で初めて赤絵の技法を開発したという誇りがあります。1670年代に確立された「柿右衛門様式」は、白磁の余白を生かした構図に暖色系の絵の具を多用する特徴があり、これが有田の色絵の流行様式となりました。
参考)https://www.arita-marukei.com/?mode=grpamp;gid=1988362amp;page=6
産地の誇りが呼び方に表れています。
一方、中国では色絵のことを「五彩」と呼びます。これは赤、緑、黄、青、黒の五つの色を使うことに由来しています。日本でも九谷焼では赤・緑・紫・群青・黄の五彩を「九谷五彩」と呼び、この五彩を厚く盛り上げて塗る彩法を用いています。呼び方は異なっても、基本的な技法は同じです。
参考)九谷焼伝統の様式
色絵や赤絵の作品を購入する際には、真贋の見極めが重要になります。色絵には後絵付という問題があり、本焼きと上絵付けが同時代に同じ窯場でされたものでなければ、半真半贋といえる作品も存在します。
具体的には、古い時代の染付に後世になってから上絵付けを施して年代を偽るケースがあります。たとえば天啓時代の染付に後から絵付けをして天啓赤絵として販売するような例です。
見極めには専門知識が必要です。
購入を検討する場合は、信頼できる骨董店や専門家に相談することをおすすめします。作品の来歴や窯元の情報を確認し、可能であれば鑑定書の有無も確認すると安心です。また、現代作家の作品であれば、作家本人や正規取扱店から購入することで真贋の心配を避けられます。初心者の方は、まず手頃な価格帯の現代作品から始めて、色絵の魅力を実際に手に取って感じてみるのが良いでしょう。
色絵に使用される絵の具には、伝統的な和絵の具と明治時代以降に導入された洋絵の具の二種類があります。和絵の具は中国大陸から伝えられたもので、焼成前と焼成後で色が大きく変化する特徴があります。
和絵の具は赤、青、黄、緑、紫などの原色ものに限られており、中間色を表現することはできません。そのため、作家は限られた色の中で表現を工夫する必要があります。一方、洋絵の具は焼成前と焼成後で色がほとんど変わらず、絵の具を混ぜることもでき、様々な色の種類があります。
洋絵の具は色の予測が容易です。
和絵の具を使う場合は、本焼をした白い器に模様の輪郭を描き、成分の違う和絵の具でそれぞれの部分を塗ってから約800度で焼成します。洋絵の具を使う場合は、本焼をして赤紫色になった器に色を分けたい部分にテープを貼り、それぞれの面に色や模様をつけてから焼き、さらに金や銀の色をつけて再度焼成します。下絵の具の研究が進んだ明治時代には、板谷波山や真葛香山がほぼ書かれた絵がそのままの色合いで焼き上がる下絵作品を製作しました。
大阪の骨董品店こがん堂店主が教える赤絵と色絵の違い
色絵と赤絵の技法的な違いや焼成方法について、専門家が詳しく解説しています。
柿右衛門とその歴史
初代柿右衛門が赤絵を創始した経緯や、柿右衛門様式の確立について歴史的資料に基づいた情報が掲載されています。