プラチナ彩を施した器を「銀色に変色しにくい」と思っているなら、実はその認識で大切な作品が数万円単位のダメージを受けることがあります。
プラチナ彩(白金彩)とは、本焼きした陶磁器の表面にプラチナ(白金)の液を塗布し、低温で焼き付ける上絵付け技法のことです。金彩・銀彩と同じく「上絵付け」のカテゴリに属しますが、その素材の性質がまったく異なります。
金彩との最大の違いは「変色への強さ」です。金は化学的に非常に安定しており、経年でも光沢が維持されやすいのに対し、プラチナは純度100%に近い状態でないと変色しやすいという特性を持っています。これが、プラチナが陶芸には「不向き」とされてきた歴史的な理由です。
焼成温度についても明確な違いがあります。本焼成で1,300℃以上の還元磁器(有田焼などの高火度焼成品)にプラチナ彩を施す場合、上絵付けの焼成は800〜850℃で行います。一方、1,200〜1,250℃程度の酸化磁器や陶器質、ボーンチャイナの場合は700〜750℃が適切です。温度を間違えると光沢が出ない、あるいは膜が剥がれるという失敗につながります。
日本金液株式会社のガイドによると、焼成中は400〜450℃になるまで窯の蓋を2〜3センチ開けておく必要があります。これは金属液に含まれる有機物の燃焼時にガスが発生するためで、酸素不足のまま焼くと表面が曇って仕上がりが台無しになるからです。この工程は金彩でも同様ですが、プラチナ彩では特にシビアです。
焼成温度が条件です。
💡 参考情報:金液・プラチナ液の正しい使い方・焼成方法の詳細(日本金液株式会社)
日本金液株式会社|金彩・プラチナ彩の使用方法と焼成温度の解説
プラチナ彩を用いた陶芸技法には、大きく分けて2系統の代表的なアプローチがあります。
ひとつ目は「染錦プラチナ彩」です。これは有田焼・伊万里焼の産地で展開されている技法で、藤井錦彩窯が独自に確立したスタイルとして広く知られています。1,300℃で焼成した白磁の表面に、プラチナで絵付けをした後、800℃で焼き付けるという工程を踏みます。重要なのは、色を1色使うたびに1回ずつ焼成を繰り返すという点です。1点の作品が完成するまでに、6回から10回の焼成工程が必要になります。これは単純計算でも窯を入れる回数が1回の技法の6〜10倍かかるということであり、製作期間の長さが作品の価値に直結しています。
ふたつ目は「純プラチナ彩」です。陶芸家・山本一洋氏(佐賀県伊万里市)が世界で初めて確立した、高純度のプラチナを陶磁器に焼き付ける独自技法です。これが特別な理由は、純度の高いプラチナを使えば使うほど変色のリスクが高まるという素材の矛盾を、独自の研究で克服した点にあります。プラチナを塗って焼く・液だれを磨くという作業を4〜5回繰り返し、さらに白・青の釉薬部分を焼き付けるなど、気の遠くなるほど細かな工程を重ねていきます。
この2系統の違いを端的に言えば、染錦プラチナ彩は「伝統工芸との融合」であり、純プラチナ彩は「素材への挑戦から生まれた革新技法」です。つまり発展の軸が異なります。
光の当たる角度によってプラチナの光沢が微妙に変化し、絶えず輝き続けるという表情の豊かさが、プラチナ彩ならではの最大の魅力です。金彩が「一定の温かみと強い輝き」なら、プラチナ彩は「冷たく気品のある変化する光」と表現できます。
| 技法名 | 産地・作家 | 特徴 | 焼成回数目安 |
|---|---|---|---|
| 染錦プラチナ彩 | 有田焼(藤井錦彩窯など) | 染付との融合、伝統工芸ベース | 6〜10回 |
| 純プラチナ彩 | 伊万里(山本一洋氏) | 高純度プラチナ使用、現代的革新 | 4〜5回(プラチナのみ)+釉薬 |
| 一般プラチナ彩 | 各地の陶芸教室・工房 | プラチナ液を1〜2回焼成 | 1〜2回 |
💡 参考情報:有田焼・染錦プラチナ彩の製法や特徴(藤井錦彩窯公式)
山本一洋(やまもといちよう)氏は、変色しやすいという理由から長らく陶芸には不向きとされてきた純プラチナを、独自の技法で陶磁器に定着させることに成功した、世界でただ一人の陶芸家です。
佐賀県伊万里市で若くして独立した山本氏は、プラチナ100%に近い高純度の素材を使い、その固有の光沢を安定して焼き付けるための研究を重ねました。その結果生まれた純プラチナ彩は、見る角度によって光の表情が変わる独自の輝きを持ちます。これが国内外で「セラミックの宝石」と高く評価される理由です。
国際的な評価は具体的な数字にも表れています。2010年、スペインのバレンシア国立陶器博物館で個展が開催されましたが、現存する個人作家の展覧会としてはほとんど前例がなく、期間中の来館者数は開館以来の記録を更新しました。その後も展示会の予定は数年先まで埋まり続けました。
作品の価格帯も、その希少性と技術の密度を反映しています。骨董品・美術品の買取専門業者・緑和堂の実績によれば、「純プラチナ彩花瓶」の買取価格は25万円に達した事例があります。また、オークションでは香合が12〜18万円で出品されるなど、小品であっても高い市場価値を持ちます。
惜しまれることに、山本一洋氏は2025年3月に逝去されました。三越銀座での遺作展(2025年5月開催)は追悼と感謝を集めた特別な展覧会となり、作品の希少性はさらに高まっています。
意外ですね。
なお、山本氏の純プラチナ彩技法は、文様を立体的に盛り上げる「金盛り」的な下地処理とプラチナ彩を組み合わせた手法でもあります。表面の凹凸がプラチナの光をさらに複雑に反射させ、写真では到底伝えきれない立体的な輝きを生み出します。
💡 参考情報:山本一洋氏の技法と作品世界(KSBニュース)
プラチナ彩の器を手に入れたとき、多くの人が真っ先に疑問に思うのが「電子レンジに入れていいのか」「食洗機は使えるのか」という点です。これは知っているかどうかで、大切な器の寿命が大きく変わります。
電子レンジは絶対にNGです。金彩・銀彩・プラチナ彩などの金属加工が施された陶磁器は、電子レンジに入れると火花が出たり、塗装が剥がれたりする危険があります。有田焼の取り扱い案内(まるぶん)でも「電子レンジ使用不可」として明確に記載されています。1回でも誤って使えば、プラチナ彩の表面が剥落する可能性があります。
これは単なる見た目の問題ではありません。プラチナ層が剥がれれば、修復は基本的に不可能です。数万〜数十万円の価値を持つ作品であれば、その損失は金銭的にも、精神的にも大きなものになります。
食洗機については、原則として避けるのが安全です。高温洗浄と強い水流が組み合わさる食洗機の環境は、プラチナ層に対してじわじわとダメージを蓄積させます。業務用食器として利用されるケースでは、プラチナは通常のセラミックプリントに比べて皮膜が非常に薄く、高温洗浄の繰り返しで剥がれが起きるリスクが高いことが確認されています。
プラチナ彩の器は、ぬるま湯と中性洗剤を使い、柔らかいスポンジで優しく手洗いするのが基本です。
電子レンジNGが原則です。
💡 参考情報:金彩・銀彩・プラチナ彩の器の電子レンジ・食洗機での扱い方(有田焼まるぶん)
陶芸教室でプラチナ彩に挑戦したいと考えたとき、多くの人は「金彩と同じ感覚でできる」と思いがちです。しかし実際には、プラチナ液の取り扱いは金液よりも神経を使う部分がいくつかあります。
まず素材の選び方です。プラチナ液はセラミックマーカー(サインペン状)タイプから本格的な液体タイプまで幅があります。陶芸ショップ等で入手できるセラミックマーカーのプラチナタイプは、混色や重ね描きを避け、薄めに描くことが推奨されており、焼成温度は750℃前後が目安です。初心者が最初に触れるなら、こうした使いやすいツールから入るのが現実的です。
次に作業環境の重要性です。プラチナ液(金液全般)には揮発性・引火性の有機溶剤が含まれています。作業中に多量に吸引すると有機溶剤中毒を起こす危険があるため、必ず換気のよい場所で作業し、保護手袋・保護メガネ・必要に応じてマスクを着用します。着火源(裸火・静電気など)から遠ざけることも必須です。これは金液でも同様ですが、プラチナ液も同じルールが適用されます。
プラチナ液は湿気を非常に嫌います。湿度の高い日や梅雨の時期に作業すると、表面が曇って仕上がりが悪くなることがあります。除湿器やエアコンを使って室内の湿度を下げてから作業するのが理想的です。
塗り方のコツとして、一度乾いた面に重ね塗りをすると下の膜を溶かしてムラが生じます。一度で均一に塗り切ることを意識してください。また、厚く塗りすぎると剥がれやちぢみの原因となり、逆に薄すぎると発色しません。初めてのときは必ずテストピースで試し焼きをしてから本番に臨むのが失敗を防ぐ最善策です。
これは使えそうです。
陶芸教室でプラチナ彩を学びたい場合、カリキュラムに「上絵付け」や「金銀彩」が含まれている教室を選ぶと、プラチナ彩に近い技法環境を体験できます。窯元主催の体験会や、伝統工芸の技法に力を入れた陶芸教室では、基本的な上絵付けの技法を通じてプラチナ彩への入口を学べる場合があります。
💡 参考情報:陶芸教室での技法体験カリキュラム例(彩泥窯)
彩泥窯|陶芸教室の技法カリキュラム一覧(上絵付け・金彩など)