通常の金液で仕上げた食器を電子レンジに入れると、火花が散って金彩が剥がれます。
陶芸の世界で「金彩」と聞くと、有田焼や京焼のような高級食器に施された美しい金色の装飾を思い浮かべる方が多いでしょう。その金彩を実現するために使われるのが「金液」です。金液とは、純金を王水(塩酸と硝酸を3対1で混合した液体)に溶かして作った塩化金酸と樹脂を化学反応させた「金レジネート」を主成分とし、そこにビスマスなどの付着剤やロジウムなどの表面剤を加えて液状に仕上げたものです。
焼成すると金以外の有機物はすべて燃焼・揮発し、釉薬の表面に厚さ約0.1μm(マイクロメートル)という超薄膜の金属皮膜だけが残ります。0.1μmとは人間の髪の毛の直径(約70μm)の700分の1以下という極めて薄い膜ですが、光を反射する能力が高く、あの鏡のような輝きが生まれます。これが金液の仕組みです。
金液は上絵付けの最終工程で使われます。本焼成が終わった器の表面に塗布し、700〜850℃という比較的低温の「上絵窯(赤絵窯)」で焼き付けます。つまり、金彩は素焼き→本焼きとは別に、もう一度窯に入れる工程が必要ということです。
焼成後の皮膜の純度はおよそ95%の金で、24Kで言えば約23K相当です。ただし、金液に表示されている「11%」「8%」などの数字は溶液全体に対する金の含有率であり、焼成後の皮膜純度とは別の概念なので混同しないようにしましょう。
参考になる公式情報として、日本金液株式会社(国内最大手の金液メーカー)の金彩解説ページも合わせて確認することをお勧めします。
金彩と注意点(金液の種類・使用方法・安全性)|日本金液株式会社
金液には大きく分けて「ブライト金」「マット金」「ハーフマット金」「フレークタイプマット金」の4種類があります。それぞれ仕上がりが大きく異なるため、作品のデザインや用途に応じた選択が重要です。
ブライト金は最も一般的なタイプで、沈殿物を含まない透明な液体です。焼成後は鏡のような鏡面光沢のある金皮膜が得られます。撹拌しなくても使用できるのが利点で、細い線描きや食器のふち取りなど、精密な作業に向いています。含金率は5〜20%程度のラインナップがあり、標準的によく使われるのは11%です。
マット金は、ブライト金液に純金粉末を加えたものです。ここが重要なポイントです。金粉が沈殿しやすいため、使用前に必ずビンをよく振って均一にしてから使う必要があります。撹拌が不十分だと上澄み液だけを塗ることになり、焼成後にブライト金のように光沢が出てしまい、意図したマットな質感が得られません。焼成後はジルコンサンドで磨くことで、より深みのある艶消しの金色に仕上がります。
撹拌が命です。
ハーフマット金はブライト金とマット金の中間の仕上がりになるもので、磨かなくてもある程度のマット感が得られます。フレークタイプマット金は金箔をすり潰したフレーク状の金粉を使用したもので、磨かなくても上品なきらめきが出やすく、凹凸のある複雑な形状の作品にも塗りやすいのが特長です。
| 種類 | 仕上がり | 撹拌 | 焼成後の磨き |
|---|---|---|---|
| ブライト金 | 鏡面光沢 | 不要 | |
| マット金 | 艶消し | 必須⚠️ | 推奨(ジルコンサンド) |
| ハーフマット金 | 半艶 | 推奨 | 任意 |
| フレークタイプ | 上品なきらめき | 推奨 | 任意(ヘアライン調) |
また、色調の点でも「赤金」「青金」の違いがあります。金液に銀成分が含まれていないと赤みがかった色調になり、銀成分を多く加えるほど青みのある色調(青金)になります。購入時に確認しておくと良いでしょう。
金液を使う上で最も失敗しやすいのが焼成温度の管理です。温度が適切でないと、皮膜が曇る・剥がれる・茶色く焦げる(「金燃え」)などのトラブルが発生します。
素地の種類によって適温は明確に異なります。
なぜ素地によって温度が変わるのかというと、金液の焼成適温は釉薬の軟化温度によって決まるからです。本焼成が1300℃以上で焼かれた還元磁器の釉薬は硬く、800℃前後の金液焼成では釉薬がほとんど動きません。一方、1200〜1250℃程度で焼かれた酸化磁器や陶器の釉薬は相対的に軟らかいため、温度を上げすぎると釉薬が少し溶け出し、金皮膜を飲み込んでしまいます。これが「釉薬に金が喰われる」と呼ばれる現象です。
温度管理が条件です。
さらに特殊なケースとして、ボーンチャイナ(骨粉やリン酸カルシウムを含む高級磁器)は釉薬が非常に軟らかく、高温焼成すると釉薬が動いてクラックが入ることがあります。ボーンチャイナには専用のボーンチャイナ用金液を使うか、温度を低めに設定するのが原則です。
また、同じ陶器でも上絵の具の上に金液を重ねて焼成する場合は注意が必要です。すでに焼き付けた上絵の具の上に金液を塗る場合、金液が「もぐる」(沈み込む)のを防ぐため、通常より50〜100℃低い温度で焼成することが推奨されています。この点は見落としがちなので覚えておきましょう。
金液は11%の含金率の場合、残りの約89%が樹脂と有機溶剤です。これらは焼成過程で燃焼してガスになります。このガスが窯内に充満して酸欠状態になると、金皮膜が曇ったり付着力が落ちたりする原因になります。これが「ガス抜き」が必要な理由です。
具体的な操作手順は次のとおりです。まず常温から400〜450℃になるまでは窯の蓋を2〜3cm開けたまま昇温します。この段階で樹脂などの有機物がほぼ完全にガス化して外に逃げていきます。400℃を超えてガスの発生が確認できなくなったら蓋を閉め、そのまま適正温度まで上げて10分程度保持し、その後自然冷却します。
これが原則です。
昇温速度も重要で、100℃/時間程度のペースでゆっくり上げることが推奨されています。急昇温すると有機物が一気に燃えてガスが大量発生し、ガス抜きが追いつかなくなります。また、同じ窯内に転写紙(転写絵付け)を貼った製品を一緒に焼成する場合は、転写紙の樹脂・オイルも加熱で分解してガスを発生させるため、ガス抜きはより慎重に行う必要があります。
失敗の代表例と原因をまとめておきます。
特にピンホールは対策が明確です。塗布前に素地表面をアルコールなどで丁寧に拭き取り、皮脂やホコリを完全に除去してから作業することで防げます。金液を扱う際は素手を避け、手袋をして作業するか、塗布直前に素地に触れないよう注意しましょう。
金液は高価な材料である一方、安全面での注意が必要な素材でもあります。知らずに扱うと健康被害につながる可能性があるため、正しい知識を持っておくことが重要です。
まず換気の問題です。金液には揮発性と引火性を持つ有機溶剤が含まれており、密閉した空間で使用すると蒸気を吸入して有機溶剤中毒を起こす恐れがあります。作業は必ず換気を十分に確保した部屋で行い、気分が悪くなったらすぐに作業を中断して新鮮な空気のある場所に移動してください。締め切った室内での使用は禁物です。
また金液は消防法上、危険物第4類第2石油類または第3石油類に分類されます。これは灯油と同じ引火性を持つことを意味します。使用中は火気・裸火・着火源から遠ざけ、静電気にも注意が必要です。
保管方法にも注意点があります。
金液が増粘していたり固まりが見られる場合、2つのケースが考えられます。溶剤が揮発して固まった場合は金油を少量加えると再溶解します。しかし、空気中の水分と反応して固まった場合は金液がボロボロになり使用不可です。テストピースで事前確認してから本番作品に使うことを習慣にすると、貴重な金液のムダを防げます。
作業後は必ず手洗い・うがいを行い、皮膚に付着した場合はシンナーや金油で拭き取ってから石鹸で洗い流してください。
金液の保存・安全・よくある失敗とその解決策|日本金液株式会社FAQ
陶芸で金彩を施した食器を制作する場合、「電子レンジで使えるかどうか」は非常に重要な問題です。通常の金液(ブライト金など)で仕上げた食器は、電子レンジに入れるとバチバチと火花を散らしてスパークが起きます。これは焼成後の金皮膜が純金に近い金属薄膜(約23K相当)であり、導電性が非常に高いためです。
意外なのは、スパークしても食器や電子レンジが必ずしも壊れるわけではない点です。スパークした部分の金皮膜は断線して外観が損なわれますが、食器が割れたり電子レンジが即故障したりするわけではないとメーカーは説明しています。ただし火花は出るため、見た目や安全面でのリスクは確実にあります。
これは使えないと考えるべきです。
電子レンジで使用できる食器を制作したい場合は、「電子レンジ対応金液」を使う必要があります。この金液には特殊な加工が施されており、焼成後の金皮膜に導電性がないため、電子レンジ内でもスパークが起きません。ただし注意点が2つあります。
1点目は、電子レンジ対応金液は通常の金液より発色が幾分暗くなるという点です。光沢感は出ますが、通常のブライト金のような鮮やかな金色と比べると色調がやや落ちます。
2点目は、電子レンジ対応金液と通常金液を絶対に混ぜてはいけないという点です。混合すると絶縁性が失われ、電子レンジ対応の意味がなくなります。電子レンジ対応金液を使用する際は、金猪口・筆・金油などもすべて新品または専用のものを使用し、通常金液との接触を避けてください。
制作した食器を使う方に「この器は電子レンジで使えるか」を伝えることは、作り手としての大切な責任でもあります。プレゼント作品や販売作品には必ず明記しておくと親切です。

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