御本手は酸化焼成では出ません。
御本(ごほん)とは、陶器の表面に現れる淡い紅色やピンク色の斑点模様を指す陶芸用語です。素地や化粧に含まれる鉄分が、焼成時の特定の条件下で化学反応を起こし、自然に発色したものです。
参考)http://www.tougeishop.com/glossary/p2162.php
この現象は絵の具や釉薬の顔料によるものではありません。還元焼成という特殊な焼き方によって現れる窯変の一種なのです。
つまり窯変ということですね。
参考)御本手とは?
意図的に描いた模様ではなく、器自身が自ら発色してくれた結果であり、そこに偶然性の美しさがあります。焼成条件、素地の成分、釉薬の種類など様々な要素が複雑に絡み合って初めて御本手が現れるため、同じ条件で焼いても毎回同じ模様にはなりません。
陶芸において御本手は侘び寂びの精神を体現する表現として、茶道具を中心に高く評価されています。
参考)御本とは - 骨董品用語
「御本」という名前の由来は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけての茶碗注文の方法にあります。当時、日本の茶人たちは朝鮮半島に茶碗の「御手本」(見本)を送り、それに基づいて茶碗を焼いてもらっていました。
具体的には、茶碗の形や大きさを紙に書き、それを切り抜いた「切形」と呼ばれる型紙を朝鮮に送付していたのです。釜山などの窯で注文を受けて焼かれたこれらの茶碗が「御本茶碗」と呼ばれるようになりました。
高麗茶碗の中でも御本茶碗は特に人気が高く、赤い斑点が出ている茶碗が御手本として朝鮮で焼かれました。焼き上がりの発色に侘び寂びの風情があることから、日本各地で御本写(御本茶碗を模倣した作品)も生まれるようになりました。
御本茶碗には絵御本、御本判使、御本呉器、御本堅手、御本三島、砂御本など多くの種類が存在します。
作行がおとなしめなのが特徴です。
参考)「御本茶碗」茶道で定番の高麗茶碗 茶道具を知るともっと面白い…
御本手の発色には還元焼成という特殊な焼成方法が不可欠です。還元焼成では、窯内の酸素が不足した状態を意図的に作り出します。
参考)焼き物を科学する⑩:燻す焼成で、変わる発色 - ヒトツチ
この環境下では、素地に含まれる鉄分が酸化鉄(FeO)や金属鉄(Fe)に変化し、淡い紅色やピンク色に発色するのです。酸化焼成では酸素が充分に供給されるため、鉄分は酸化鉄(Fe2O3)として赤褐色や茶色に発色し、御本特有の淡い紅色にはなりません。
参考)鑑賞の手引
温度管理も重要な要素です。還元の開始温度や維持温度、冷却時の雰囲気によって発色が大きく変わります。冷却中に還元雰囲気を維持することで、釉及び素地の発色に変化が生じることが研究で確認されています。
一度酸化焼成した作品を再度還元焼成しても、御本の斑点を出すのはほぼ無理です。酸化と還元は両極端な焼き方のため、すでに化学変化が終わった素地の色をほぐして再発色させることは困難なのです。
素地の鉄分含有量、釉薬の種類、焼成温度、還元のタイミングと濃度など、複数の条件が揃って初めて美しい御本手が現れます。
参考)素材による特徴
電気窯でも還元焼成は可能です。本格的な方法としては、還元焼成用に製造された専用の電気窯に、プロパンガスまたは都市ガス用のバーナーを装着し、燃焼ガスを吹き込む方式があります。
ただし、現在使用中の一般的な電気窯を途中で還元仕様に改造することはできません。
専用窯が必要です。
簡易的な方法としては、木炭を使用する方法があります。備長炭が最も適しており、作品の周りに点々と置いて焼成します。
サヤ鉢の中で行うとより効果的です。
焼成中の窯にバーナーで火を入れるだけで簡単に還元がかかりますが、使用する窯の選定には注意が必要です。窯の構造や換気条件によっては安全上のリスクがあるため、事前に専門家に相談することをおすすめします。
還元焼成には温度管理と雰囲気コントロールの知識が求められます。初心者には難易度が高いですが、陶芸教室などで専門家の指導を受けながら挑戦すると失敗を減らせます。
御本茶碗の価値を見極めるには、まず状態の確認が基本となります。傷や汚れが少なく、保存状態が良いものは高い評価を受ける傾向があります。
参考)茶道具の価値を見極めるためのポイントとコツ|骨董品買取 緑和…
次に製作された時期や作家の情報を確認することが重要です。千利休と関係の深い楽茶碗などは高額で取引されることが多く、所有者にとって大きな資産となります。
高台(茶碗の底部)は、手作りであるかどうかを確認する重要なポイントです。本物の茶碗は、高台部分に微妙な不均一さや作家の意図が反映されています。
作家銘も真贋を判断する大きな手がかりです。本物では力強く自然な筆使いが見られますが、偽物は整いすぎていることが多いのです。古い茶碗には使用や時間の経過による自然な変化があり、逆に偽物は新品のような仕上がりであることが一般的です。
付属品や共箱が揃っていることも価値を左右する大きな要素となります。鑑定を依頼する際は、茶道具に精通した専門の鑑定士を選ぶことで、より正確な価値判断が得られます。
御本茶碗は歴史的背景や作家性が価格に直結するため、購入や売却の際には複数の専門家の意見を聞くことが賢明です。