昇焔式窯は、炎が窯の下部から上部へ昇っていく構造の薪窯です。焚口で薪を燃やすと、炎が作品の周囲を下から上へ舐めるように通過します。この炎の動きが、作品に独特の焼き色や景色を作り出します。
日本の伝統的な穴窯や登り窯の多くは、この昇焔式の構造を持っています。窯の中で炎が自然に上昇する力を利用するため、煙突の位置は窯の上部に設置されます。
炎の流れが下から上へという一方向になるのが特徴です。
この構造により、窯の中で温度差が生まれやすくなります。下部は高温になりやすく、上部はやや低温になる傾向があります。作品を置く位置によって、焼き上がりの色や質感が変わってきます。
昇焔式窯の基本構造は、焚口・燃焼室・焼成室・煙突の4つで構成されます。焚口で薪を燃やすと、炎は燃焼室で勢いを増し、焼成室を通って煙突へ抜けていきます。
炎が作品に直接触れるのが昇焔式の大きな特徴です。この直火焼成により、作品表面に薪の灰が降りかかり、溶けて自然釉となります。これが「火色」と呼ばれる独特の景色を生み出します。
窯の中の温度分布は場所によって100℃以上の差が出ることもあります。
焼成中は窯の温度管理が重要になります。薪の投入量やタイミングを調整しながら、目標温度まで徐々に上げていきます。一般的な陶器の焼成では1200〜1300℃、磁器では1300℃以上まで温度を上げます。
温度測定には、ゼーゲルコーンという三角錐の指示体を使います。特定の温度で溶けて倒れる性質を利用して、窯の中の温度を視覚的に確認できます。最近では熱電対を使った電子温度計も併用されています。
倒焔式窯は、炎が一度上昇した後に下へ折り返す構造です。煙突が窯の底部に設置されており、炎は天井で反射してから下降します。この炎の動きにより、窯の中の温度が均一になりやすいのが特徴です。
昇焔式と倒焔式の最大の違いは、作品への炎の当たり方にあります。昇焔式では炎が直接作品に触れますが、倒焔式では間接的に熱が伝わります。どういうことでしょうか?
昇焔式は作品に激しい景色が出やすく、倒焔式は落ち着いた仕上がりになります。
焼成時間も異なります。昇焔式は炎が直接作品に当たるため、比較的短時間で焼成が完了します。一方、倒焔式は熱の回り方が穏やかなため、じっくり時間をかけて焼き上げることが多いです。
燃料効率の面では、倒焔式の方が優れています。炎が窯の中を二度通るため、熱を無駄なく利用できます。ただし、構造が複雑になるため、建設費用は昇焔式より高くなる傾向があります。
作品の種類によって、どちらの窯が適しているか変わってきます。備前焼や信楽焼のように、激しい景色を求める場合は昇焔式が選ばれます。繊細な色彩や均一な仕上がりを求める場合は、倒焔式が適しています。
電気窯は電熱線で加熱する窯で、温度管理が非常に正確です。プログラム制御により、昇温・保持・冷却を自動で行えます。窯の中の温度も均一になりやすく、失敗が少ないのが利点です。
ガス窯はプロパンガスや都市ガスを燃料とする窯です。炎の雰囲気を作れるため、還元焼成が可能になります。温度調整もバルブ操作で比較的簡単に行えます。
薪窯の燃料費は電気窯の約3倍かかります。
昇焔式窯(薪窯)の最大の魅力は、作品に唯一無二の景色が生まれることです。灰が降りかかり、炎が直接触れることで、人工的には再現できない表情が出ます。しかし、温度管理の難しさや燃料コストの高さがデメリットとして挙げられます。
電気窯の設置費用は小型(0.1立方メートル)で15〜30万円程度です。ガス窯は30〜60万円程度、昇焔式窯は100万円以上かかることが一般的です。敷地面積も、電気窯なら畳1枚分で済みますが、薪窯には最低でも20〜30平方メートル(約6〜9坪)が必要です。
電気代で比較すると、小型電気窯の1回の焼成で約3000〜5000円です。ガス窯は5000〜8000円程度、薪窯は薪代だけで1万円以上かかることもあります。加えて、薪窯は焼成に2〜3日かかるため、人件費も考慮する必要があります。
メンテナンス面では、電気窯が最も手間がかかりません。電熱線の交換が数年に一度必要になる程度です。
ガス窯はバーナーの清掃が定期的に必要です。
薪窯は焼成ごとに灰の掃除が必要で、数年に一度は窯の補修も必要になります。
それぞれの窯に適した作品があるということですね。
昇焔式窯での焼成は、温度管理と薪の投入タイミングが重要です。急激な温度上昇は作品の割れや変形を招きます。最初の8〜10時間は、ゆっくり温度を上げる「あぶり」の時間が必要です。
薪の種類によって炎の性質が変わります。松や杉などの針葉樹は火力が強く、温度が上がりやすい反面、すぐに燃え尽きます。広葉樹の楢や樫は火持ちが良く、安定した温度を保てます。
焼成中の煙対策も重要な課題です。
住宅地での薪窯焼成は、煙による近隣トラブルのリスクがあります。事前に近隣住民への説明と了解を得ることが必須です。焼成日を事前に知らせ、洗濯物を干さないよう配慮を求めるなどの対応が必要になります。
窯詰めの配置にも技術が要ります。炎の通り道を考えて作品を配置しないと、一部だけ焼き不足になったり、逆に焼き過ぎたりします。窯の下部には耐火度の高い作品を、上部には低めの温度で焼ける作品を配置するのが基本です。
焼成後の冷却も慎重に行います。
急冷すると作品が割れる原因になります。
窯の温度が200℃以下になるまで、2〜3日かけてゆっくり冷まします。その間は窯の扉を開けず、自然に冷えるのを待ちます。
昇焔式窯の設置には、法的な制約があります。建築基準法では、窯は「工作物」として扱われ、一定規模以上の場合は建築確認申請が必要です。また、消防法による火災予防の規制も受けます。
設置場所の選定では、隣家との距離が重要です。火災予防条例により、木造建築物から一定距離(多くの自治体で3〜5メートル以上)離す必要があります。煙の影響を考えると、さらに余裕を持った距離が望ましいです。
自治体によっては野焼き規制の対象になる場合があります。
薪の確保も長期的に考える必要があります。1回の焼成で軽トラック2〜3台分の薪を消費します。年に4〜6回焼成するなら、軽トラック10台分以上の薪が必要です。薪の保管場所として、窯とは別に20〜30平方メートルのスペースが要ります。
薪は伐採後すぐには使えません。十分に乾燥させるため、最低でも1年、できれば2年寝かせます。つまり、常に2年分の薪をストックしておく必要があります。薪の購入費用は、樹種や地域によって異なりますが、軽トラック1台分で5000〜1万円程度が相場です。
窯の維持管理にも継続的なコストがかかります。耐火レンガの補修は5〜10年に一度必要になり、費用は30〜100万円程度です。窯の寿命は使用頻度にもよりますが、一般的に20〜30年程度とされています。
技術習得にも時間がかかることを覚悟する必要があります。安定した焼成ができるようになるまで、少なくとも10〜20回の焼成経験が必要です。失敗作が出ることも想定して、材料費や時間に余裕を持つことが大切です。
経験者から学ぶのが最も効率的な方法です。陶芸教室や工房で薪窯焼成の体験をしてから、自分の窯を持つか判断するのが賢明です。日本各地には薪窯焼成のワークショップを開催している施設もあり、実際の作業を体験できます。
日本陶磁器産業振興協会のサイトでは、全国の陶芸施設や窯元の情報が検索できます。薪窯焼成を学べる場所を探す際の参考になります。
昇焔式窯で焼かれた作品には、電気窯では出せない「景色」があります。灰が溶けて作る自然釉、炎が直接触れた部分の火色、還元焼成による色の変化など、偶然と必然が重なり合った表情が生まれます。
備前焼は昇焔式窯の代表的な焼き物です。釉薬を使わず、土と炎だけで表現される景色は、一つとして同じものがありません。胡麻(ゴマ)・緋襷(ひだすき)・桟切(さんぎり)など、炎と灰が作り出す模様には、それぞれ名前がついています。
作品の価値は焼き上がりの景色で大きく変わります。
信楽焼も昇焔式窯の伝統を受け継ぐ産地の一つです。ビードロと呼ばれる緑色のガラス質の景色や、焦げによる黒褐色の肌が特徴です。土に含まれる石が窯の中で焼けて、独特の質感を生み出します。
越前焼では、自然釉が厚く溜まった部分が見どころです。長時間の焼成により、灰が何層にも重なって複雑な色合いを作ります。緑がかった灰釉が流れるように垂れた様子は、まさに薪窯ならではの表現です。
現代作家の中にも、昇焔式窯にこだわる人が多くいます。電気窯の均一な美しさとは対極にある、野性的で力強い表現を求めて、あえて扱いの難しい薪窯を選択します。失敗のリスクも高いですが、成功したときの作品の魅力は格別です。
作品の市場価値も、焼成方法によって評価が変わります。同じ作家の同じ形の作品でも、薪窯焼成のものは電気窯焼成より高値で取引されることが一般的です。手間とコスト、そして唯一無二の景色が、その価格差を生み出しています。
収集家の中には、特定の窯や焼成方法にこだわる人もいます。「この窯で焼かれたものでなければ」という愛好家の存在が、伝統的な薪窯を維持する原動力になっています。