耐火度の低い匣鉢は1回で崩れて作品を潰します。
匣鉢(こうばち)は、陶磁器を焼成する際に素地を火炎や灰、その他の影響から保護するために用いられる耐火性の容器です。「さや」「えんごろ」「ぼし」など、地域によってさまざまな呼び方があります。
特に白い磁器を焼く際には、直接炎が当たらないよう保護する役目が不可欠でした。江戸中期から明治時代にかけて、信楽町勅旨では磁器製の神仏具を焼くために匣鉢が盛んに使われていたという歴史があります。
参考)https://www.rakuten.ne.jp/gold/ishidaseikaen/toppage_01/ishidashoukai/shigaraki-saya.html
この技術は古くは中国の景徳鎮で発展し、朝鮮半島を経て九州に伝来しました。登り窯技術の中に匣鉢の技術も含まれていたということですね。
現代では電気窯が主流になり、匣鉢が不要になるケースも増えています。それでも薪窯や穴窯での焼成、特殊な雰囲気焼成を行う際には今でも重要な道具です。
匣鉢には丸型、角型、溝付きなど、焼成する作品の形状や大きさに応じてさまざまな種類があります。日本ガイシなどの専門メーカーでは、ムライトコーディライトを素材とした匣鉢を製造しており、基材に加えてさまざまなコーティング技術を施した製品を提供しています。
参考)焼成用サヤ(匣鉢)
窯詰めの方法によっても選ぶ匣鉢が変わります。品物を匣鉢に入れて積み重ねる窯詰法を「匣鉢積」といい、入れる品物の形状や大きさによって匣鉢の形状・大きさも工夫されるのです。
参考)匣鉢・鞘 さや
穴あきタイプの匣鉢も存在し、炭化焼成など特殊な焼成方法に対応します。炭の形状によって使う道具が変わるため、目的に応じた選択が重要です。
現代では、リチウムイオン電池正極材などの工業原料の焼成にも匣鉢が使用されており、陶芸の枠を超えて幅広い用途があります。
つまり産業用途でも活躍しているということです。
参考)◆匣鉢の使用例 - YOGO CERAMIC 匣鉢の製造・販…
匣鉢選びで最も重要なのは耐火度です。焼成火度に十分耐えられるように耐火粘土でつくられている必要があり、耐火度が低いと高温に耐えられず崩れてしまいます。
信楽の遺跡から出土した匣鉢を調査したところ、耐火度の低い粘土を使ったものは1回の使用で破損し、内部の神仏具が押しつぶされている状態が確認されています。
これは使用者にとって大きな損失ですね。
収縮しないことも必須条件です。収縮が大きいと窯中で焼成中に倒壊する危険があり、何十段にも積み重ねられた匣鉢が崩れれば窯全体の作品が台無しになります。
熱の急変に対する強さも見逃せません。火入れの際および焚き上げ後の冷却時に破損すると内容品を損じるため、シャモット粒の大きさを研究した製品を選ぶと安心です。匣鉢は破損しなければ何度でも使用できますが、高火度に対しては使用命数が短いことを覚えておけばOKです。
日本ガイシの焼成用サヤ製品情報では、耐反応性に優れたコーティング技術を持つ匣鉢が紹介されており、用途に応じた最適な製品選びの参考になります。
窯詰めでは匣鉢を何十段にも積み重ねるため、安定性の確保が最優先です。積み重ねた際にバランスが崩れると倒壊のリスクが高まり、窯全体の作品に被害が及びます。
匣鉢と作品の間には適切な隙間を確保する必要があります。隙間が狭すぎると焼成中の膨張で作品が匣鉢に触れてしまい、広すぎると作品が動いて破損する可能性があります。
登り窯での焼成では、窯内部の位置によって温度や炎の当たり方が大きく異なります。薪の灰が自然釉となって高温で溶け出しビードロとなる場合や、酸化焼成による緋色が見られる場合など、窯内部での位置が匣鉢の状態に影響を与えるのです。
炭化焼成や還元焼成など特殊な雰囲気焼成を行う場合は、穴あきタイプの匣鉢を使うことで炭や木材との接触を調整できます。焼成の狙いによって匣鉢の選択と配置を変える必要があるということですね。
匣鉢は基本的に繰り返し使用できる道具ですが、使用回数を重ねると劣化していきます。特に高火度での使用では命数が短くなるため、定期的な点検が欠かせません。
使用後の匣鉢には釉薬や灰が付着していることがあります。次回使用時に作品に悪影響を与えないよう、表面の汚れをきれいに落とす必要があります。ただし強く叩いたり削ったりすると亀裂が入る可能性があるため、慎重な扱いが基本です。
ひび割れや欠けが見つかった匣鉢は使用を中止すべきです。焼成中に崩れると中の作品だけでなく、周囲の作品にも被害が及ぶリスクがあるためです。
現代では、産業廃棄物となった古い匣鉢を植木鉢として再利用する試みも行われています。窯変による独特の景色を持つ匣鉢は、時代を超越した味わいがあり、園芸用途でも人気です。使えなくなった匣鉢にも新たな命を吹き込めるということですね。
古い匣鉢には窯変のさまざまな姿が写し出されており、信楽焼の窯変を解説する上で貴重な資料にもなります。
厳しいですね、使い捨てにするのは。