結晶片岩特徴と種類や色と分布産地

結晶片岩は地下深くで高温高圧の変成作用を受けてできた岩石で、片理という独特の縞模様を持ち、緑色片岩や黒色片岩など原岩や鉱物により多彩な色を示します。この美しい変成岩には、どんな秘密が隠されているのでしょうか?

結晶片岩の特徴

この記事でわかること
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片理構造の魅力

平たく剥がれる独特の構造と光沢ある表面が美しい

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多彩な種類と色

原岩や鉱物組成により緑色、黒色、桃色など変化に富む

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日本各地の分布

三波川帯を中心に関東から九州まで帯状に広がる

結晶片岩の片理構造とは

 

結晶片岩は地下深くで高い温度と圧力を受けることでできる変成岩で、最大の特徴は「片理」と呼ばれる縞模様を持つことです。片理とは、黒雲母、白雲母、角閃石などの鉱物が規則正しく一定方向に配列することで生じる構造で、この縞目に沿って平たく剥がれるように割れる性質があります。割れた面は「片理面」と呼ばれ、光沢があり、造岩鉱物が一方向に並んで見えることがあります。

 

参考)結晶片岩

この片理面を観察すると、鉱物の配列方向である「線構造」を確認できます。結晶片岩は強い圧力を受けているため、露頭では波打ったように押し曲げられた「しゅう曲」構造がしばしば観察されます。このしゅう曲は、地殻変動による強烈な圧力の痕跡であり、結晶片岩が形成された際の激しい地質活動を物語っています。

 

参考)https://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/rock/metamorphicrock/regionalmetamor-1.html

片理構造は単なる見た目の特徴だけでなく、結晶片岩の物理的性質にも大きく影響します。片理面に沿って割れやすい性質は、古くから石材として加工しやすい特性として利用されてきました。また、片理面は鉱物の種類によって異なる光沢を示し、白雲母を多く含む場合は銀白色にきらきら輝き、石墨を含む場合は脂肪光沢を呈します。

 

参考)結晶片岩(ケッショウヘンガン)とは? 意味や使い方 - コト…

結晶片岩の形成条件と変成作用

結晶片岩は約300〜500℃の温度と約3000〜8000気圧(地下約10〜25km)という高圧条件下で形成される広域変成岩です。この形成過程は「広域変成作用」と呼ばれ、プレートの沈み込みなどによって広範囲にわたって圧力や温度が上昇することで発生します。

 

参考)http://www.ibk-hg-chigaku.sakura.ne.jp/kenkyu/No49.pdf

変成作用における温度と圧力は、原岩の鉱物組成や組織を変化させる主要な物理的条件です。特に高温であるほど変成作用の速度は上昇し、再結晶作用が活発になります。結晶片岩の場合、低温高圧型の変成作用により、薄板状の変成鉱物がゆっくりと成長し、偏った圧力を受けて片理面が発達します。

 

参考)対の変成帯

中生代ジュラ紀から白亜紀にかけて、東アジア東縁の海底に堆積した砂岩、泥岩、火山岩、チャートなどが、中生代白亜紀末から新生代にかけて大陸縁辺の地下深くへ押し込められました。この際、低角度の衝上断層によって堆積物が寸断され、地下の高い圧力と熱により変形・変成して三波川結晶片岩が誕生したのです。変成度が高くなると片麻岩に、再結晶があまり進んでいない場合は千枚岩になります。

 

参考)http://www.ranhaku.com/web03/c1/1_02.html

結晶片岩の種類と色の違い

結晶片岩は原岩の種類と鉱物組成により、多様な種類と色彩を示します。緑色片岩は苦鉄質火成岩を原岩とし、緑泥石緑簾石、アクチノ閃石などを含むため、全体が緑色を呈します。緑泥石を多く含む部分は濃い緑色、緑簾石が多い部分はウグイス色になり、細かい縞模様を形成します。

 

参考)http://www2u.biglobe.ne.jp/~HASSHI/wakayamashist.html

黒色片岩は泥岩を原岩とし、石墨を多く含むため灰黒色〜黒色を呈します。片理面は石墨や白雲母の存在により脂肪光沢があり、ハンマーで簡単に傷がつくほど柔らかいのが特徴です。片理面以外の方向から見ると、石英・長石類に富む白い層と石墨に富む黒い層が互い違いの縞になっていることが多く、これは変成過程で成分が分離してできた構造です。
参考)用語の解説|地質を学ぶ、地球を知る|産総研地質調査総合センタ…

紅簾石片岩はマンガンを多く含む緑簾石族の鉱物である紅簾石を含み、特徴的な桃赤色を呈します。主にマンガンを含むチャートが変成作用を受けてできたもので、石英に富み白雲母も含まれます。**藍閃石片岩(青色片岩)**は低温高圧下で安定な藍閃石を多く含み、深い青色を呈する結晶片岩です。水に濡らすと鮮やかな濃い青色に見え、緑簾石を伴うことも多くあります。
参考)結晶片岩 - Wikipedia

他にも、白雲母と石英を多く含み白っぽい白雲母片岩、石英に富み淡灰色や淡灰緑色を呈するケイ質片岩、普通角閃石を主成分とする黒っぽい角閃石片岩など、多彩な種類が存在します。これらの色と鉱物組成の違いは、原岩の化学組成と変成作用の温度によって規定されます。

結晶片岩の分布と産地

日本における結晶片岩の最も代表的な産地は三波川変成帯です。三波川変成帯は中央構造線の南側に位置し、関東山地から群馬県、長野県を経て、紀伊半島、四国中央部、九州東端まで約1000kmにわたって東西方向に帯状分布しています。

 

参考)https://www.chubu-geo.org/data/geo/pdf/chishitsu_07.pdf

関東地方では埼玉県の長瀞渓谷が特に有名で、荒川の岩畳を形成する結晶片岩が国の天然記念物に指定されています。長瀞の結晶片岩は茶色のしま模様から「虎岩」と呼ばれ、埼玉県立自然の博物館前でも観察できます。同様の結晶片岩は嵐山渓谷や群馬県藤岡市の神流川とその支流である三波川にも見られ、19世紀に三波川地域で詳しく研究されたことから三波川結晶片岩という名称が使われるようになりました。

四国では徳島県の大歩危・小歩危が著名で、結晶片岩が渓谷の特異な景観をなしています。青色片岩は特に徳島県高越地域にまとまって見られ、紅簾石片岩は埼玉県や四国中央部に多く産出します。三波川帯以外では、北海道中央部を南北に貫く神居古潭帯、近畿北部から中国地方中部の三郡変成帯などにも結晶片岩類が分布しています。

結晶片岩の鉱物組成と原岩

結晶片岩の鉱物組成は、変成作用の温度と原岩の化学組成によって決定されます。泥質堆積岩が低温で結晶片岩になった場合、白雲母、緑泥石、曹長石などが主成分となり、高温では黒雲母、ざくろ石、藍晶石などが生成します。塩基性火成岩からは、低温では緑泥石、緑簾石、アクチノ閃石を主成分とする緑色片岩ができ、高温では斜長石や普通角閃石を主成分とする角閃岩が形成されます。

原岩の違いは化学組成の違いと言ってもよく、泥質、砂質(珪長質)、珪質、石灰質、苦鉄質(塩基性)などがあげられます。例えば、泥岩が変成すると黒色片岩に、砂岩が変成すると白雲母片岩やケイ質片岩に、チャートが変成するとケイ質片岩や紅簾石片岩に、玄武岩などの苦鉄質火成岩が変成すると緑色片岩や角閃石片岩になります。

 

参考)https://www.jasdim.or.jp/gijutsu/ganseki/henseigan/henseigan.html

副成分鉱物としては、リンカイ石、クナビ石、磁鉄鉱などが少量含まれることがあります。また、変成度が中程度の結晶片岩では、赤〜褐赤色粒状の鉄ばんざくろ石(アルマンディン)や白〜淡褐灰色鱗片状の白雲母(フェンジャイト)を伴うこともあります。これらの鉱物組成の違いが、結晶片岩の多様な外観と物理的性質を生み出しています。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/gkk1952/3/6/3_6_660/_pdf

結晶片岩の利用と建材としての価値

結晶片岩は古くから石材として広く利用されてきました。片理面に沿って平たく割れやすい性質は、加工しやすさという大きな利点となっています。特に変成度の高い結晶片岩類である「三波石」は、青緑色や赤色の美しい縞模様を持ち、庭石や植栽の基礎として高い人気があります。

 

参考)第 10回  コンニャク石に学ぶセラミック

石垣や礎石、墓石などへの利用も盛んで、耐震性や耐久性に優れた特性が評価されています。一部の結晶片岩は厚さ2センチ程の石を積み重ねた壁や屋根瓦として使われ、加工しやすく柔らかいという特性を利用して窓枠のアーチ部分などにも用いられてきました。現代では石塀や石倉などの建築材料としても活用されています。

意外なことに、結晶片岩の片理構造と鉱物組成は、セラミックス開発のヒントにもなっています。細かい鉱物の結晶粒がびっしりと凝集した構造に着目し、電子セラミックスや圧電セラミックスとして、センサーや電子機器にも応用されているのです。また、内部クラックが外部からの応力を緩和する性質から、地震に強い建物の基礎や建築材料としての研究も進められています。

倉敷市立自然史博物館による結晶片岩の詳細な分類と写真解説
糸魚川ジオパークによる結晶片岩の基礎知識と特徴の解説
板村地質研究所による結晶片岩産地の採集ガイド

 

 


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