緑簾石グループに属する緑簾石は、Ca₂(Al,Fe)₃O(SiO₄)(Si₂O₇)(OH)という複雑な化学組成を持ちます。このうち、Fe³⁺に富むものが狭義の緑簾石で、フェーン(Fe)の含有量により累帯構造を形成することがあります。Al⇔Fe³⁺の置換により異なる干渉色を示し、偏光顕微鏡観察では結晶の中心部がFe³⁺に富む場合、干渉色が高く青色に達することが知られています。一方、広義の緑簾石グループには単斜晶系と斜方晶系が存在し、後者にはゾイサイト、前者には紅簾石や褐簾石といった多様な類別が含まれます。
針状ないし柱状の結晶形態を持つ緑簾石は、b軸方向に伸びることが多く、その伸長方向は正負の両方の光学特性を示す可能性があります。結晶のへき開は伸び方向に完全で、消光角は直消光を示すため、顕微鏡下での同定は比較的容易です。
緑泥石は、熱水溶液の作用によってマフィック鉱物(Fe-Mg富む有色鉱物)が変質する際に形成される鉱物です。この過程は「緑泥石化作用」と呼ばれ、火成岩の場合でも堆積岩の場合でも極めて普遍的に観察されます。沈み込み帯の低温変成作用を受けて初生的な緑泥石が形成され、その後の上昇過程において後退変成作用を受けると、剪断面沿いにスメクタイト薄層に富む緑泥石が形成されることが研究により明らかにされています。
地表付近での緑泥石は酸化風化の影響を受け、褐色化しつつ非晶質化する傾向が報告されています。このような風化プロセスは斜面災害との関連性が指摘されており、特に付加体中の緑色岩における緑泥石の鉱物学的特徴が斜面崩壊の要因となる可能性が考えられています。
緑簾石と緑泥石が共存する変成岩の産状は、地質圧力計としての機能を持ちます。塩基性片岩中に緑簾石-緑泥石-角閃石-斜長石-石英の鉱物組み合わせが見られる場合、その時の圧力・温度条件を相対的に推定することが可能です。低温〜中温の広い変成相において安定であるこれら鉱物の組み合わせは、特に緑色片岩および青色片岩(藍閃石片岩)に典型的に観察されます。
四国の三波川帯における変成岩の研究では、緑簾石に富んだ黄緑色の層と緑泥石に富んだ暗緑色の層が褶曲している構造が報告されています。このような層序構造は、複数の変成段階を経た複雑な地質進化を記録しており、地殻の沈み込みと上昇というダイナミックなプロセスを物語っています。
花崗岩などの深成岩が地下深部で数%のマグマが徐冷する過程で、その自身のマグマから分離した水分などにより幾分変質する現象を「自家変質作用」と呼びます。この過程で斜長石は濁ったようになり、Caが溶け出して斜灰簾石~緑簾石・方解石・ぶどう石などが生成されやすくなります。一方、アルカリ長石も濁ってセリサイト化し、有色鉱物は緑泥石化・アクチノ閃石化・緑簾石化する傾向があります。
このプロセスで生じた緑簾石は、火成岩の自家変質による生成物としての特徴を持ち、石英や長石などの主要鉱物とは異なるタイミングで形成されます。著しく自家変質作用が進んだ花崗岩は、肉眼的に緑簾石が目立つようになり、「ユナカイト」など特別な名称を与えられることもあります。
変成岩が地表近くに露出すると、酸化風化の影響を受けます。特に緑泥石を含む岩石は風化しやすく、その分解産物の動向が地形形成および斜面安定性に影響を与えることが近年の研究で注目されています。低温変成作用で形成された初生的な緑泥石が、その後の風化段階でスメクタイトへと転換することが、すべり面の生成と関連していることが指摘されています。
また、変成岩の上昇過程における後退変成作用により、新たに形成される緑泥石はスメクタイト薄層を伴うため、元々の低温で形成された緑泥石とは異なる鉱物学的性質を持ちます。このような段階的な鉱物変化は、岩石が経験してきた複雑な地質史を詳細に記録しており、遠隔地の地質体を比較検討する際の重要な手がかりとなります。
参考:緑簾石グループの多形性と鉱物の多様性について詳しく解説されています
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%91%E7%B0%BE%E7%9F%B3
参考:火成岩の自家変質作用と付随する鉱物化学の詳細情報
https://www.kurashiki.okayama.jp/page/m_geology
十分な情報が集まりました。これで記事の執筆に必要な情報が揃いました。