緑色片岩は、玄武岩などの塩基性火成岩が低温・低圧の広域変成作用を受けることで生成される結晶片岩です。その形成条件は摂氏200℃から450℃、圧力が2キロバールから10キロバールという比較的穏やかな環境です。凝灰岩や火山砕屑岩、珪質堆積岩も緑色片岩の源岩となることがあり、多様な元岩から同じ岩石が形成される特異性を持っています。
四国に分布する緑色片岩の大部分は、ジュラ紀中期(約2億~1億5000万年前)に形成された岩石です。白亜紀に地下15~30キロメートルの深さで低温高圧型の変成作用を受け、その後地表に押し上げられました。この地質史的な背景が、四国の緑色片岩に独特の特性をもたらしています。
緑色片岩の緑色は、含有される主成分鉱物に由来します。特に緑泥石・蛇紋石・緑簾石が緑色の外観を生み出す主要な鉱物です。このほか、片理構造を形成する白雲母、硬度の高い石英、斜長石、角閃石なども豊富に含まれています。
興味深い点は、変成時の圧力条件によって含有鉱物が大きく異なることです。変成度が低い場合は「緑泥片岩」と呼ばれ、緑泥石の割合が高くなります。一方、変成時の圧力が高かった場合は、藍閃石やローソン石を含有することになり、狭義には別の分類である「青色片岩」となります。このため、四国産の緑色片岩でも地域によって微妙な鉱物組成の違いが見られます。
四国産の代表的な緑色片岩である伊予青石は、この鉱物構成の特異性が景観美につながっています。白色、緑色、青色の層が複雑に重なった縞模様は、異なる源岩が重層的に変成作用を受けた証拠です。採取後、表面がざらざらしているのは、薄い層状結晶が風化によって剥離する過程を示しています。
三波川変成帯は、中央構造線の南側を東西に走る広大な変成岩帯です。中部地方から始まり、近畿地方、四国地方を横切って、九州の佐賀県まで延伸しています。四国地方では特に発達が著しく、東西約100キロメートル、南北約50キロメートルの範囲に広がっており、吉野川の流域に一部が属しています。
三波川変成帯内での岩相分布には明確なパターンがあります。泥岩は泥質片岩に、砂岩は砂質片岩に、そしてチャートは各種の石英片岩に変成されます。緑色岩類は一般に緑色片岩(塩基性片岩)となりますが、興味深いことに、砂質片岩と緑色片岩の分布はほぼ排他的です。つまり、同一の露頭面で両者が共存することはほとんどないのです。
三波川変成帯内では、細かな地層の折りたたみ現象により、泥質片岩と緑色片岩の互層が観察されることがあります。この現象は、付加体の岩石が白亜紀に地下深部へ沈み込み、その後上昇する過程で複数回の変形を受けたことを示唆しています。地すべりが多発する地帯でもあり、三波川変成帯南縁は著しく破砕されています。
四国産の緑色片岩は古くから「伊予の青石」と呼ばれ、建築材料や景観美を求める造園家に珍重されてきました。特に愛媛県の西条市周辺が主要な産地です。その分布は中央構造線の南側に集中しており、加茂川流域が古来からの採取地として知られています。
文化的には、江戸時代から明治時代にかけて伊予青石の需要が高まりました。東京都江東区の清澄庭園は、豪商・紀伊国屋門左衛門の時代に築かれ、後に岩崎弥太郎が買い取った回遊式林泉庭園で、全国から集められた名石の中でも伊予青石は重要な景石として配置されています。伊予青石は通常の庭石と異なり、細かく割れやすい特性を持つため、熟練の庭師による特殊な組み方が要求されます。
1976年には石材加工機械が進歩し、1978年から墓石建立が盛んになり、1985年には青石を磨く技術が飛躍的に向上しました。これにより、庭園以外の用途にも伊予青石の利用が拡大しました。現在、ホームセンターで庭石として販売されることも多いため、一般住宅の庭園でもこの貴重な地質遺産を見かけることができます。
四国の緑色片岩には、通常の地質学的分類では説明しきれない複雑な特性があります。一つの顕著な例は、同じ三波川変成帯内でも、地域によって源岩の堆積環境が異なる点です。秩父帯との境界付近では、緑色岩類にチャートや泥岩が伴われることが多く、これは海底火山活動と泥の堆積が同時に起きていたことを示唆しています。
さらに興味深いのは、超塩基性岩の一部が火山噴出物起源である可能性です。泥と一緒に海底に堆積した超塩基性物質が、後に変成作用を受けた可能性が指摘されています。この仮説が正しければ、緑色片岩の中に火山活動の直接的な証拠が保存されていることになります。
四国中央部では、三波川帯と秩父帯の関係が特に複雑です。別子地域の五良津西部岩体周辺では、テクトニック・メランジェという複雑な構造が認められており、地殻変動の激しさを物語っています。これらの研究は、単に地質の記載にとどまらず、西南日本の形成過程を理解する上で欠かせない情報を提供しています。
地質調査総合センター - 日本の地質情報に関する基礎的なデータベースと地質図が提供されており、三波川変成帯の詳細な地質図が公開されています
伊予青石物語 - 伊予青石の産地としての歴史、採掘方法、文化的価値、および全国の名庭における使用例について詳しく記載されています
ジオパーク秩父 - 三波川結晶片岩の特性を示す野上下郷石塔婆など、三波川帯の地質遺産と岩石の応用例について学べます