光検出器の核心は、光のエネルギーを電気のエネルギーに変換する光電効果です。半導体材料に光子が入射すると、価電子帯に位置する電子が光のエネルギーを吸収し、伝導帯へと移動する能力を得ます。この現象により、電子とホールの対が生成され、これらのキャリアが電極間を移動することで電流が発生します。
参考)フォトダイオードの動作原理と特性 - ケイエルブイ
特に興味深いのは、半導体における光起電力効果です。p型半導体とn型半導体の接合部では、光電効果が起こると接合部に電位差が生じる現象が発生します。この電位差によって生成された電子とホールが分離され、外部回路に電流を流すことが可能になります。フォトダイオードはこの光起電力効果を利用して、入射した光の量を電気信号として検出する仕組みです。
参考)フォトダイオード
光検出器の感度は、入射光量と光電流の関係によって決まります。シリコンフォトダイオードの光電流は入射光量に対して優れた直線性を持っており、センサーとして利用しやすいのが特徴です。この直線性により、微弱な光から強い光まで、幅広い範囲で正確な光量測定が可能になります。
光検出器の性能を左右する重要な要素が、使用される半導体材料の選択です。最も一般的なのはシリコン(Si)で、可視光から近赤外線領域において高い感度を示します。シリコンフォトダイオードは、光電子増倍管と比較して低価格で、受光面における感度ムラが少なく、特別な電源を必要としないという長所を持っています。
通信波長帯である1.3~1.55μm付近の近赤外線を検出する場合、ゲルマニウム(Ge)が多用されます。ゲルマニウムはシリコンよりもバンドギャップが小さいため、長波長の光を吸収できます。しかし、ゲルマニウムの統合は製造工程が複雑になるという課題があり、全シリコン型の光検出器の開発も進められています。
参考)Redirecting...
💎 注目の材料:ダイヤモンド結晶
近年、単結晶ダイヤモンドを用いた革新的な放射線検出器が開発されています。ダイヤモンドは高い熱的・化学的安定性、高速応答性など、光検出器にとって理想的な物性を持つ半導体材料です。原子番号が6の炭素からなるため生体組織に等価な材料であり、医療分野での応用に適しています。化学気相成長(CVD)によって高純度のダイヤモンド合成技術が確立され、検出器特性が大幅に向上しました。
参考)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000068096.html
単結晶ダイヤモンド放射線検出器の詳細情報(PR TIMES)
その他、酸化ガリウム(Ga₂O₃)は太陽光に対して不感な紫外線検出器として期待されています。炭化シリコン(SiC)は高温環境での動作や紫外線検出に優れた特性を示します。このように、検出したい波長帯や使用環境に応じて、最適な半導体材料の結晶が選択されます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10181614/
光検出器には用途に応じて様々な種類が存在します。最も基本的なのがPINフォトダイオードで、p型半導体層、真性(intrinsic)半導体層、n型半導体層の3層構造を持ちます。真性半導体層は光を吸収して電子とホールの対を生成する役割を担い、電極を取り付けることで電流として取り出します。
参考)https://annex.jsap.or.jp/photonics/kogaku/public/37-01-kaisetsu4.pdf
📊 主要な光検出器の種類
| 検出器タイプ | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| PINフォトダイオード | 基本構造、広帯域応答 | 一般的な光検出 |
| アバランシェフォトダイオード(APD) | 内部増幅機能、高感度 |
微弱光検出、光通信 |
| シリコンフォトマルチプライヤー(SiPM) | 単一光子検出、低電圧動作 |
医療機器、PET装置 |
| フォトトランジスタ | 電流増幅機能内蔵 |
光スイッチ、センサー |
アバランシェフォトダイオード(APD)は、従来のフォトダイオードの性能を大幅に向上させた高性能光検出器です。p⁻層が光を吸収して電子とホールの対を生成し、生成された電子は強い電界によってp層に向かって加速されます。加速された電子は半導体の原子と衝突し、新たな電子とホールの対を連鎖的に生成します。
シリコンフォトダイオードの分光感度特性は、波長によって大きく異なります。入射光の波長と光電感度との関係を分光感度特性といい、受光感度や量子効率で表されます。最近では、ナノ構造を取り入れたブラックシリコン技術により、200nmから1000nmまでほぼ理想的な応答特性を実現した検出器も開発されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10288819/
アバランシェ効果は、光検出器の感度を飛躍的に向上させる重要な物理現象です。電子雪崩(Avalanche)とは、加速された電子が半導体の原子に衝突して電子とホールを生成し、生成した電子がまた別の原子に衝突して次々と電子とホールを発生させていく連鎖反応です。この現象により、電子とホールが何倍にも増えるため、微弱な光でも大きな電流が流れて検出できます。
参考)フォトダイオード(PD)の構造や原理とは
⚡ アバランシェ増幅のメカニズム
アバランシェ増幅が起こるためには、半導体に非常に高い電界を印加する必要があります。セレン系材料では電界が70 V/μmを超えると、正孔衝突電離が発生します。シリコンやゲルマニウムでは、降伏電圧(ブレークダウン電圧)以上のバイアス電圧を印加することで、電子雪崩が開始されます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3482457/
なだれのような連鎖によって移動電子が爆発的に増える現象がアバランシェ増幅です。この効果により、微弱な光でも大きな電位変化を引き起こせるため、フォトダイオードの受光感度を大きく上昇させることが可能です。効果の程度は増倍率と呼ばれ、材料や構造、印加電圧によって数十倍から数千倍まで変化します。
参考)APD(アバランシェフォトダイオード)|光学ソリューションサ…
単一光子を検出できるシングルフォトンアバランシェダイオード(SPAD)は、降伏電圧以上のバイアス電圧を印加するガイガーモードで動作します。フォトンが検出されるとアバランシェが発生し、そのアバランシェを止めるためにバイアス電圧を降伏電圧以下に下げ、再び高感度にするために降伏電圧以上に戻します。この技術はLiDARやマルチゾーンToFセンサーなどに使用されています。
参考)半導体(APD)シングルフォトンカウンターの原理|ID Qu…
光検出器の性能を評価する上で、分光感度と量子効率は極めて重要なパラメータです。分光感度は波長ごとの光電変換効率を示し、A/W(アンペア/ワット)の単位で表されます。量子効率(EQE: External Quantum Efficiency)は、入射した光子のうち何パーセントが電子に変換されるかを示す指標です。
参考)BQE-100分光感度・量子効率測定装置
測定には、校正されたシリコンフォトダイオードで各波長における照射光量を測定し、その照射光量をもとに測定サンプルの電流値を測定する方法が用いられます。専用ソフトウェアにより、各種太陽電池および光電変換素子等の分光感度や量子効率の自動表示が可能です。
🔬 量子効率の向上技術
量子効率を向上させるために、様々な技術が開発されています。フォトントラッピング(光閉じ込め)ナノ構造を持つアバランシェフォトダイオードでは、850nm波長において従来の16%から60%以上へと吸収効率が向上しました。また、表面プラズモン励起を利用した設計により、紫外線領域での検出効率が大幅に改善されています。
参考)http://arxiv.org/pdf/2412.01691.pdf
低迷光マルチチャンネル分光検出器の採用により、紫外領域での迷光を大きく低減することも可能です。従来の検出器では紫外領域の迷光が高く検出されていましたが、迷光を除去する技術の開発により、この問題が解決されました。最新のマルチチャンネル分光検出器は従来品に比べて迷光量を約1/5に削減し、紫外域においても精度の高い測定を可能としています。
参考)量子効率測定システム QE-2100
温度制御機能を備えた測定システムでは、50~300℃の範囲で量子効率の温度依存性測定が可能です。これにより、実際の使用環境における光検出器の性能を正確に評価できます。分光感度スペクトルと基準太陽光の演算により、短絡電流密度(Jsc)を求めることもできるため、太陽電池の性能評価にも活用されています。
光検出器は現代社会のあらゆる場面で活用されています。光通信分野では、1.3~1.55μm帯の近赤外線を検出するために、ゲルマニウムやInGaAs系の光検出器が使用されます。高速光通信では、ギガヘルツ以上のゲーティング周波数を持つアバランシェフォトダイオードが重要な役割を果たしています。最近では、グラフェンを用いた光検出器がゼロバイアス動作で220GHzの帯域を達成し、世界最速レベルの性能を実現しています。
参考)世界最速、グラフェン光検出器のゼロバイアス動作220 GHz…
🏥 医療分野での革新的応用
医療分野では、光を使った非侵襲的な診断・治療技術が急速に発展しています。近赤外線を使った深部体温の計測技術では、赤外線検出器にピンホールを設置し、内部から放射される赤外線だけを捉えることで、速く正確な体温測定が可能になります。血管内視鏡の開発では、レーザー光を1点に集光して高速走査させることで、血管内部を映像化するレンズレス設計が研究されています。
参考)光による身体のデータ計測で 医療の可能性を広げる
PET(陽電子放出断層撮影)装置には、シリコンフォトマルチプライヤー(SiPM)センサーが導入されています。SiPMは単一光子レベルの検出が可能な高感度設計で、従来のAPDやPMTに比べて小型・低電圧・低ノイズという利点があります。微弱光検出を目的とした医療機器分野において、PMTやAPDからSiPMへの置き換えが急速に進んでいます。
浜松ホトニクス SiPMセンサー製品情報
🌍 環境モニタリングと産業応用
環境モニタリング分野では、太陽光発電システムの日射量測定や大気中の粒子検出、水質分析に光センサーが応用されています。フーリエ変換分光法では、ランプ光源、マイケルソン干渉計、光検出器という簡易な構成で、広帯域スペクトルを高い分解能で取得でき、化学分析などに50年以上使用されています。太陽光を光源とした環境ガス計測にも用いられ、実験室のみならずフィールドでも活躍しています。
参考)波形制御技術を用いた高速フーリエ変換分光法
スマートデバイスでは、周囲の光の強さを監視して自動的にディスプレイの明るさを調整する機能や、カメラのオートフォーカス機能に光センサーが活用されています。産業分野では、食品の品質管理における異物検出、紫外線・可視光・赤外線の環境測定など、多岐にわたる用途があります。
光検出器の歴史を振り返ると、天然鉱石が重要な役割を果たしていたことがわかります。20世紀初頭、方鉛鉱(PbS)や黄鉄鉱(FeS₂)などの結晶に細い金属針を点接触させると検波器となることが発見されました。この鉱石検波器は、天然の半導体結晶が持つ整流作用を利用したもので、ラジオの黎明期に広く使われました。
参考)https://www.tdk.com/ja/tech-mag/hatena/010
💎 天然鉱石から人工結晶へ
鉱石検波器は、現代の半導体素子のルーツと言えます。方鉛鉱や黄鉄鉱などの天然鉱石が持つ電気的特性は、後の半導体研究の基礎となりました。しかし、天然鉱石は品質のばらつきが大きく、安定した性能を得ることが困難でした。
この課題を解決したのが、人工的に結晶を成長させる技術です。化学気相成長(CVD)法により高純度の半導体結晶を合成できるようになり、検出器の性能が飛躍的に向上しました。シリコン単結晶の製造技術は成熟し、現在では直径300mm以上のウェハが量産されています。ダイヤモンドについても、ホモエピタキシャル成長法により高品質な単結晶が得られるようになり、放射線検出器として実用化されています。
テルル(Te)を用いた光検出器は、可視光から赤外線、テラヘルツ波、ミリ波まで、極めて広い波長帯をカバーする超広帯域検出を実現しています。金属-テルル-金属という単純な構造で、光励起電子-正孔対の生成と電磁誘導井戸効果という2種類の光電効果の相乗作用により、高性能な検出が可能です。このように、材料科学の進歩により、天然鉱石の時代からは想像もできなにより、天然鉱石の時代からは想像もできなかった高性能な光検出器が実現されています。