光起電力効果は、半導体に光を照射することで起電力が発生する現象であり、太陽電池やフォトダイオードなど多くの光電変換デバイスに応用されています。この効果はpn接合やショットキー接合といった整流作用を持つ半導体の界面で発生し、内蔵電場によって電子と正孔が空間的に分離されることが特徴です。pn接合とは、n型半導体とp型半導体を接合した構造で、接合面付近には空乏層と呼ばれるキャリアの少ない領域が形成されます。この空乏層には内蔵電位差が存在し、光照射によって生成された電子と正孔を効率的に分離する役割を担っています。
半導体のpn接合において、n型半導体には電子(負のキャリア)が多く存在し、p型半導体には正孔(正のキャリア)が多く存在します。両者が接触すると、接合界面でキャリアの拡散が起こり、n型側の電子がp型側へ、p型側の正孔がn型側へ移動します。この移動によって接合部付近にキャリアのいない空乏層が形成され、n型側にはプラスの電荷(イオン化ドナー)、p型側にはマイナスの電荷(イオン化アクセプター)が残ります。この電荷分布により、n型側からp型側へ向かう内蔵電場が生じ、この電場がキャリアを引き戻そうとするドリフト電流が発生します。熱平衡状態では、拡散電流とドリフト電流が釣り合い、正味の電流はゼロになっています。
光起電力効果の詳細な原理については、こちらで専門的な解説を確認できます(Wikipedia)
光起電力効果の核心となるのが内部光電効果です。半導体の禁制帯幅(バンドギャップ)よりも大きなエネルギーを持つ光がpn接合に照射されると、価電子帯の電子が光子のエネルギーを吸収して禁制帯を越え、伝導帯へ励起されます。この過程で伝導電子(光電子)が発生し、価電子帯には電子の抜け穴である正孔が残ります。このようにして生成された電子と正孔のペアを光キャリアと呼びます。
空乏層で発生した光キャリアは、内蔵電場の影響を強く受けます。内蔵電場は電子をn型半導体側へ、正孔をp型半導体側へと移動させる力を及ぼし、ドリフト電流を増大させます。この電子と正孔の分離によって、p型半導体とn型半導体の間にフェルミ準位のズレが生じ、これが光起電力となります。興味深いのは、光照射によって熱平衡状態が崩れ、空乏層の内部電場が光キャリアを効率的に分離し続けることで、持続的な起電力が発生する点です。
光起電力が発生したn型半導体とp型半導体に電極を取り付けると、n型側が負極、p型側が正極となります。外部回路を接続することで、n型側から外部回路を通ってp型側へ電子が移動し、電流として電力を取り出すことができます。この仕組みにより、光のエネルギーが直接電気エネルギーに変換されるのです。
太陽電池における光起電力の詳細な発生メカニズムと電流取り出しの仕組みがこちらで解説されています
半導体のバンドギャップは、光起電力効果において極めて重要な役割を果たします。バンドギャップとは、価電子帯と伝導帯の間のエネルギー差であり、電子が励起されるために必要な最小エネルギーを表します。光子のエネルギーがバンドギャップ以上でなければ、電子は励起されず光キャリアは生成されません。例えば、シリコン太陽電池のバンドギャップは約1.1eVであり、これに対応する波長は約1100nmです。つまり、1100nm以下(可視光から近赤外)の波長の光のみが吸収され、電気に変換されます。
バンドギャップの大きさは、太陽電池の変換効率に大きく影響します。バンドギャップが小さすぎると、光子1個あたりの発生電圧(開放端電圧)が低下し、効率が下がります。逆にバンドギャップが大きすぎると、吸収できる光の波長範囲が狭くなり、多くの光子が吸収されずに素通りしてしまいます。理論的には、単接合の太陽電池で最大効率を得られるバンドギャップは約1.4eV付近とされ、このときの理論効率上限(ショックレー・クワイサー限界)は約30.5%とされています。これは、太陽光スペクトルとバンドギャップの最適なバランスによって決まる値です。
バンドギャップより大きなエネルギーを持つ光子が吸収された場合、過剰なエネルギーは熱として失われます。例えば紫外線のような高エネルギー光子は、バンドギャップを大きく超えるエネルギーを持っていますが、その差分は電気エネルギーに変換されず熱となって散逸します。これが結晶シリコン太陽電池の変換効率が理論上29%程度に制限される主な理由の一つです。
高効率太陽電池開発における変換効率の限界と多接合技術の詳細がこちらで紹介されています(NEDO)
空乏層は光起電力効果において電子と正孔を分離する「反応場」として機能します。空乏層とは、pn接合界面付近に形成されるキャリアの密度が極めて低い領域で、ここには強い内蔵電場が存在します。この電場の強度は通常10⁴~10⁵ V/cm程度に達し、光によって生成されたキャリアを瞬時に分離する十分な力を持っています。
空乏層の幅は半導体のドーピング濃度(不純物濃度)によって変化します。ドーピング濃度が低いほど空乏層は広くなり、多くの光を吸収できる反面、キャリアの移動時間が長くなります。逆にドーピング濃度が高いと空乏層は薄くなり、応答速度は速くなりますが光吸収量が減少します。太陽電池では効率を高めるため、空乏層だけでなく、その周辺の中性領域で発生した光キャリアも拡散によって空乏層まで到達し、内蔵電場によって分離されます。この拡散距離は少数キャリアの拡散長と呼ばれ、材料の品質を表す重要な指標となっています。
意外なことに、空乏層での光吸収だけでは太陽電池の効率は不十分です。実際には空乏層の外側のn型領域やp型領域で発生した光キャリアも、拡散によって空乏層に到達すれば電流に寄与します。そのため、高効率な太陽電池を作るには、キャリアの拡散長を長くすることが重要で、これには半導体材料の高純度化や結晶欠陥の低減が必要です。現代の高品質シリコンウエハーでは、拡散長が数百マイクロメートルに達することもあり、薄い太陽電池でも高い効率を実現できています。
産総研による太陽電池の発電原理解説では、空乏層とキャリア分離の詳細なメカニズムが図解されています
光起電力効果は1839年、フランスの物理学者アレクサンドル・エドモン・ベクレルによって発見されました。当時19歳だったベクレルは、父の研究室で電極を電解液に浸した装置に光を当てると電流が流れる現象を偶然発見しました。これが世界初の光起電力効果の観測であり、太陽光発電技術の原点となりました。しかし、この発見から実用的な太陽電池が開発されるまでには100年以上の歳月を要しました。
1954年、アメリカのベル研究所のピアソン、フラー、シャピンの3人の研究者が、シリコンのpn接合を用いた初の実用的な太陽電池を発明しました。変換効率は約6%と今日の基準では低いものでしたが、宇宙開発分野で大きな成功を収めました。1958年に打ち上げられた人工衛星ヴァンガード1号に搭載された太陽電池は6年間も機能を維持し、同時期の化学電池を使った衛星が21日しか動作しなかったことと比べて、その優位性が実証されました。
興味深いことに、鉱物分野でも光起電力効果に関連する研究が進んでいます。例えば、自然界に存在する硫化鉱物のテトラへドライトは、銅と硫黄を多く含み、熱電変換性能が高いことが発見されています。熱電効果は光起電力効果とは異なる物理現象ですが、どちらもエネルギー変換において半導体材料の特性を活用する点で共通しています。また、ビスマスフェライトなどの強誘電体材料では、ドメイン境界と呼ばれる特殊な構造において光起電力効果が発現することが報告されており、バルク光起電力効果という新しい研究分野が注目を集めています。これらの材料は従来のpn接合とは異なるメカニズムで光起電力を発生させ、理論的にはショックレー・クワイサー限界を超える可能性も示唆されています。
産総研による鉱物を用いた熱電発電の研究成果がこちらで紹介されています
光起電力効果は太陽電池だけでなく、フォトダイオードなどの光センサーにも広く応用されています。太陽電池とフォトダイオードは基本構造が同じですが、用途が異なります。太陽電池は最大電力を取り出すことを目的とし、フォトダイオードは光の強度を正確に測定することを目的としています。フォトダイオードは、pn接合に逆バイアス電圧を印加して使用されることが多く、これによって空乏層が広がり、応答速度が向上します。
PINフォトダイオードは、p型とn型の間に真性(intrinsic)半導体層を挟んだ構造を持ち、高速応答性と低暗電流を実現しています。この構造では、真性層に電圧をかけることで光照射時の電子・正孔の移動が加速され、ナノ秒オーダーの高速応答が可能になります。そのため、光通信の受信機など、高速信号処理が必要な用途に最も多く使用されています。さらに高感度が求められる用途には、アバランシェフォトダイオード(APD)が用いられます。APDは高電圧を印加することで、光キャリアが雪崩増倍(アバランシェ増倍)を起こし、微弱光でも検出できる高い感度を実現しています。
ショットキー接合においても光起電力効果は発生します。ショットキー接合は金属と半導体の接合であり、pn接合と同様に接合界面に内蔵電位差が形成されます。半導体部分に光が当たると光キャリアが生成され、内蔵電場によってキャリアが分離されて光起電力が発生します。ショットキー接合太陽電池は、pn接合太陽電池よりも製造プロセスが簡単で、逆方向飽和電流は高いものの、高速動作が求められる特殊な用途に利用されています。
フォトダイオードの動作原理と各種タイプの詳細な特性がこちらで解説されています
光電効果には大きく分けて外部光電効果と内部光電効果の2種類があり、光起電力効果は内部光電効果の一種に分類されます。外部光電効果は、1887年にドイツの物理学者ヘルツが発見し、翌1888年にハルヴァックスが詳細に観察した現象で、金属に紫外線などの短波長光を照射すると電子が金属表面から飛び出す現象です。この効果はアインシュタインによって量子論的に説明され、1921年のノーベル物理学賞受賞につながりました。外部光電効果は光電子増倍管などに応用されています。
一方、内部光電効果では電子は物質外部に放出されず、物質内部でキャリアの状態が変化します。光起電力効果もこの内部光電効果の一つで、半導体内部で電子が価電子帯から伝導帯へ励起され、内蔵電場によって電子と正孔が分離されることで起電力が発生します。もう一つの内部光電効果として光導電効果があり、これは半導体に光を照射することで伝導電子が増加し、電気抵抗が減少する現象です。光導電効果は光スイッチには利用できますが、それ単独では起電力を発生しないため、太陽電池には利用できません。
光起電力効果と光導電効果の最も重要な違いは、電場の有無です。光導電効果は単に光によって自由キャリアが増加する現象ですが、光起電力効果はpn接合などの内蔵電場がキャリアを分離することで起電力を発生させます。この違いが、光起電力効果を電源として利用可能にしている本質的な理由です。また、外部光電効果は真空中への電子放出が必要なため、仕事関数以上のエネルギーを持つ光が必要ですが、内部光電効果(光起電力効果)はバンドギャップ以上のエネルギーがあれば起こるため、より広い波長範囲の光を利用できる利点があります。
光起電力効果と光電効果の違いについて、こちらで詳しく比較されています