バンドギャップ波長関係|半導体の発光特性を支配する物理法則

半導体デバイスの発光色はなぜ素材で決まるのか?バンドギャップエネルギーと波長の関係を理解すれば、LED・太陽電池・レーザーの動作原理が見えてきます。価電子帯と伝導帯のエネルギー差がもたらす光学特性の秘密とは?

バンドギャップと波長の関係

バンドギャップ波長関係の基本
バンドギャップとは

価電子帯と伝導帯のエネルギー差で、半導体の電気的・光学的性質を決定する基本パラメータ

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波長の決定メカニズム

バンドギャップエネルギーが光子エネルギーと等しい時、発光または吸収が生じ、波長が決まる

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計算公式

波長(nm) = 1240 / バンドギャップエネルギー(eV) で相互変換可能

バンドギャップエネルギーと波長の物理的関係

 

半導体における光の発射と吸収は、バンドギャップエネルギーによって厳密に支配されています。価電子帯と伝導帯のエネルギー差がバンドギャップを定義し、この値が光子エネルギーと等しくなる時にのみ光と物質が相互作用します。

 

参考)LEDの発光波長

バンドギャップエネルギーをEg[eV]とした場合、発光される光の波長λ[nm]は以下の公式で計算できます。波長(nm) = 1240 / Eg(eV)です。この公式における1240という定数は、プランク定数と光速から導かれた値で、光子エネルギーの基本式 E = hc/λ を変形したものです。

 

参考)波長⇔バンドギャップエネルギー変換ツール

例えば、赤色LEDに使用されるGaAs半導体のバンドギャップは約1.42eVであり、この場合の波長は約873nmの赤外光に相当します。一方、AlAsのバンドギャップは2.16eVで、波長は574nmの黄色光になります。同じ材料系でも、組成を変えることでバンドギャップを調整し、発光波長を任意に制御することが可能です。

 

参考)半導体のバンドギャップを操る技術 - 半導体事業 - マクニ…

バンドギャップ波長関係を支配する電子遷移メカニズム

半導体の発光過程は電子と正孔の再結合によって生じます。外部から電圧を加えると、n型半導体側から電子が、p型半導体側から正孔がpn接合領域に流入します。この接合層で電子と正孔が同じ場所に存在する時、再結合が発生し、バンドギャップエネルギーに相当する光を放出します。

 

参考)半導体レーザー

伝導帯の電子が価電子帯に落ちる際、その際に生成される光子のエネルギーは常にバンドギャップエネルギーと等しくなります。これは量子力学の基本原理に基づいており、発光光の波長は材料の組成によってのみ決定されることを意味します。逆に、バンドギャップより短い波長(高エネルギー)の光が入射すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、この現象は光吸収として観測されます。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/isj/50/3/50_3_238/_pdf

バンドギャップ波長関係の太陽電池での応用

太陽電池の変換効率は、バンドギャップと吸収波長の関係により大きく影響を受けます。バンドギャップより長波長(低エネルギー)の光は透過してしまうため利用できず、バンドギャップより短波長の光のみが電流を生成します。

 

参考)太陽電池関連分析技術 バンドギャップ測定

最適な太陽電池材料のバンドギャップは約1.4eV(886nm付近)とされています。これは得られる電流と電圧の兼ね合いから導かれた値で、バンドギャップが大きすぎると利用可能な波長範囲が狭くなり、小さすぎると短波長の光を無駄にしてしまいます。多接合型太陽電池では複数のバンドギャップを持つ材料を積層することで、広範囲の波長を効率的に吸収し、変換効率を向上させています。

バンドギャップ波長関係によるLED発光色の制御

LED製造において、バンドギャップと波長の関係を理解することは、発光色の制御に直結します。AlGaAs系化合物半導体では、AlとGaの組成比を変えることでバンドギャップを0.6~2.16eVの範囲で調整でき、赤外域から黄色までの発光色を得られます。

 

参考)光センサゼミナール|KODENSHI CORP.

InGaN系半導体はさらに広い波長範囲をカバーでき、紫外から赤外までの発光が可能です。しかし、長波長発光を目指すほどインジウム含有量が増加し、これに伴って結晶品質が低下する「グリーンギャップ問題」が生じます。このように、バンドギャップと波長の関係は、LED開発における材料選択と設計最適化の根本となっています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4454147/

バンドギャップ波長関係と温度依存性の実務的課題

半導体のバンドギャップは温度に依存する性質を持ちます。温度上昇に伴ってバンドギャップが縮小し、発光波長は長波長側にシフトします。特にAlGaAs系赤外LEDではバンドギャップが狭く温度変化に敏感であり、高温下では発光効率が著しく低下する課題があります。

 

参考)今更聞けない!?赤外光と赤外LEDを徹底解説

この温度依存性は、太陽電池やLEDの信頼性設計に重要な考慮事項となります。バンドギャップと波長の関係式は室温(25℃)基準で与えられることがほとんどであり、実際の運用環境での性能を予測する際には、温度係数を含めた詳細な検討が必要です。また、最先端の研究では、光照射によってバンドギャップが動的に変化する現象も報告されており、2D半導体では光照射で約140meVのバンドギャップ縮小が観測されています。

 

参考)光で変わる!?2D半導体WS₂の不思議なバンド構造|ヨルワシ…

参考:バンドギャップエネルギーと発光波長の相互変換ツール
https://semi-journal.jp
(波長とバンドギャップエネルギーの計算式および実装例が提供されています)
参考:OPTRONICS ONLINE - 半導体レーザーとバンドギャップの関係
https://optronics-media.com
(バンドギャップエネルギーと光の放出メカニズムについて詳細な解説があります)
参考:日本分光株式会社 - 太陽電池向けバンドギャップ測定技術
https://jasco.co.jp
(実測でのバンドギャップ測定手法とバンドギャップ測定手法とその太陽電池への応用が説明されています)

 

 


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