釉剥げ原因と修復方法|陶器の欠損を防ぐコツ

陶器の釉剥げは作品の価値を大きく損なう深刻な問題です。原因から修復方法、予防策まで、知っておくべき知識を網羅的に解説します。あなたの大切な作品を守る方法を知りたくないですか?

釉剥げ原因と対策

釉薬を塗り直せば簡単に直ると思っていませんか?

この記事のポイント
⚠️
釉剥げの主な原因

素地との密着不足や焼成温度の問題、化学的な不適合が釉剥げを引き起こします

🔧
修復の基礎知識

プロの修復技術から自宅でできる応急処置まで、状況に応じた対処法を紹介

予防のポイント

釉薬の選び方と素地との相性、適切な焼成管理で釉剥げを未然に防ぐ方法

釉剥げが起きる主な原因とメカニズム


釉剥げは、釉薬と素地の熱膨張率の違いによって発生する現象です。焼成時に釉薬と素地が異なる速度で膨張・収縮すると、その境界面に応力が集中します。この応力が釉薬の接着力を超えると、釉薬が素地から剥離してしまうのです。


熱膨張率の不一致が主因です。


陶芸家の調査では、釉剥げトラブルの約60%が熱膨張率の不適合に起因しています。例えば、磁器素地(熱膨張率3.0×10⁻⁶/℃程度)に陶器用の釉薬(熱膨張率5.0×10⁻⁶/℃程度)を施すと、冷却時に釉薬が過度に収縮して剥離リスクが高まります。この数値差は、わずか0.2mmの厚みの釉層でも、10cm四方の面積では約0.02mmのズレを生じさせる計算になります。これは髪の毛1本分の5分の1程度ですが、陶器の世界では致命的な差です。


素地と釉薬の相性が悪いということですね。


もう一つの重要な原因は、素地の吸水率です。吸水率が高い素地(10%以上)に低温焼成の釉薬を施すと、素地が水分を吸収して膨張し、釉薬を押し上げて剥離させることがあります。特に梅雨時期や湿度の高い環境では、この現象が顕著に現れます。国内の陶芸教室で報告される釉剥げの約30%が、この吸水率関連のトラブルだとされています。


日本セラミックス協会の技術資料では、熱膨張率と釉剥げの関係について詳細なデータが公開されています
施釉の厚みも見逃せません。釉薬を厚く塗りすぎると(0.5mm以上)、重力によって釉薬自体の重さで剥離しやすくなります。逆に薄すぎると(0.1mm以下)、素地の凹凸を完全に覆えず、焼成時に気泡が入って剥離の原因になります。適切な厚みは0.2〜0.3mm程度、つまりクレジットカード2枚分くらいです。


厚みの管理が重要ということです。


焼成時の昇温速度も釉剥げに影響します。急激に温度を上げると(1時間あたり150℃以上)、素地と釉薬の温度差が大きくなり、熱応力が集中して剥離リスクが高まります。特に600〜800℃の石英転移点付近では、素地が急激に膨張するため、この温度帯をゆっくり通過する必要があります。理想的な昇温速度は1時間あたり80〜100℃程度です。


釉剥げ修復の実践的な方法

釉剥げが発生した陶器の修復には、大きく分けて3つのアプローチがあります。完全修復、部分修復、そして装飾的なカバーです。


修復方法は状況次第で選びます。


完全修復を目指す場合、専門の陶芸修復士に依頼するのが確実です。プロの修復では、剥がれた部分の素地を研磨し、新たに釉薬を調合して塗布し、再焼成を行います。費用は作品のサイズや剥離の程度によって異なりますが、小皿サイズで1万5千円〜3万円程度、大皿では5万円を超えることもあります。


修復期間は通常2〜4週間です。


ただし再焼成にはリスクがあります。元の焼成温度と異なる温度で焼くと、既存の釉薬が変色したり、追加の歪みが生じる可能性があります。特に絵付けがある作品では、再焼成によって絵柄が変質するリスクが高いため、慎重な判断が必要です。


プロに頼むのが基本です。


自宅での応急処置として、陶芸用のエポキシ樹脂接着剤を使う方法があります。剥がれた釉薬片が残っている場合は、素地と釉薬片の両面を脱脂綿とアルコールで清掃し、エポキシ樹脂で接着します。硬化には24時間かかりますが、接着後は食器として使用できる耐熱性(120℃まで)と耐水性を持ちます。


ただしこの方法は応急処置です。エポキシ樹脂は経年劣化するため、5〜10年で再度剥離する可能性があります。また、電子レンジや食洗機の使用は避けるべきです。修復用エポキシ樹脂は東急ハンズやネット通販で2千円程度で購入できます。


装飾的なカバーとして、金継ぎ風の修復も人気です。釉剥げ部分に漆を塗り、その上から金粉や銀粉を蒔く方法です。完全な修復ではありませんが、剥離部分を美しく隠し、作品に新たな価値を与えることができます。伝統的な本漆による金継ぎは高度な技術が必要ですが、初心者向けの合成漆キット(3千円程度)も市販されています。


文化庁の伝統工芸技術に関する資料では、金継ぎの歴史と技法について詳しく解説されています
剥離範囲が広い場合(表面積の30%以上)や、構造的な強度に影響する部分の剥離は、修復よりも作り直しを検討した方が賢明です。修復費用が新作制作費用を上回ることもあり、経済的にも時間的にも効率的ではないからです。


釉剥げを防ぐ素地と釉薬の相性

釉剥げを未然に防ぐには、素地と釉薬の相性を理解することが最も重要です。熱膨張率の近い組み合わせを選ぶことが基本になります。


相性チェックが予防の鍵です。


陶芸用粘土と釉薬のメーカーは、通常、製品カタログに熱膨張率を記載しています。例えば、信楽粘土の熱膨張率は約4.5×10⁻⁶/℃、瀬戸粘土は約4.0×10⁻⁶/℃です。これに対応する釉薬として、信楽粘土には熱膨張率4.3〜4.7×10⁻⁶/℃の釉薬、瀬戸粘土には3.8〜4.2×10⁻⁶/℃の釉薬を選ぶと安全です。差は±0.3×10⁻⁶/℃以内に収めるのが理想的です。


熱膨張率の差が大きすぎるとどうなりますか?
差が0.5×10⁻⁶/℃を超えると、釉剥げだけでなく、貫入(釉薬表面の細かいひび割れ)や剥離の原因になります。特に、釉薬の熱膨張率が素地より大きい場合、冷却時に釉薬が強く収縮し、素地を圧迫して応力が蓄積されます。この状態で衝撃を受けると、釉薬が一気に剥離するのです。


テストピースを作ることも重要な予防策です。本番の作品を作る前に、同じ素地と釉薬の組み合わせで小さなテストピース(5cm角程度)を3〜5個作り、同じ焼成プログラムで焼成します。焼成後、24時間冷却してから目視で釉剥げや貫入をチェックし、さらに1週間後に再確認します。遅延剥離(焼成後数日から数週間後に発生する剥離)を検出するためです。


テストは必須ということですね。


釉薬の調合レシピを記録しておくことも大切です。特に独自に調合した釉薬の場合、成功した組み合わせを再現できるよう、以下の情報を記録します。


  • 使用した粘土の種類と産地
  • 釉薬の成分と配合比率(重量%)
  • 施釉の厚み(mm単位)
  • 焼成温度と昇温速度
  • 冷却速度徐冷温度

この記録をノートやデジタルデータで管理すると、釉剥げトラブルが起きた際の原因究明にも役立ちます。スマートフォンの陶芸記録アプリ(Pottery Logなど、無料〜500円程度)を使えば、写真付きで管理できて便利です。


焼成温度と釉剥げの関係性

焼成温度の管理は、釉剥げ予防の最重要ポイントの一つです。不適切な温度設定は、どんなに相性の良い素地と釉薬の組み合わせでも釉剥げを引き起こします。


温度管理が成否を分けます。


各釉薬には、適正焼成温度範囲が存在します。例えば、低火度釉薬は800〜1100℃、中火度釉薬は1150〜1230℃、高火度釉薬は1230〜1300℃です。この範囲を外れて焼成すると、釉薬が素地に十分溶着しなかったり、逆に過度に溶けて流れてしまい、剥離の原因になります。


温度が20℃違うだけでも影響があります。中火度釉薬を1200℃で焼成すべきところを1220℃で焼くと、釉薬の流動性が高まりすぎて厚みが不均一になり、薄い部分から剥離しやすくなります。逆に1180℃で焼くと、釉薬が完全に溶けきらず、素地との界面に気泡が残って密着力が弱まります。


これは厳しいところですね。


電気窯の温度ムラも釉剥げの原因です。特に家庭用の小型電気窯では、窯内の上部と下部で20〜30℃の温度差が生じることがあります。下段に置いた作品は設定温度より低温で焼成され、釉薬が未熟成になるリスクがあります。この対策として、焼成前に窯内の複数箇所(上・中・下の3点以上)に熱電対を設置して温度分布を測定し、作品の配置を調整することが推奨されます。


昇温速度も重要な要素です。急激な昇温(1時間あたり150℃以上)は、素地の内部と表面に温度差を生じさせ、熱応力を増大させます。特に厚手の作品(厚み1cm以上)では、表面だけが先に焼き締まり、内部が追いつかずに歪みが生じて釉剥げにつながります。


適切な昇温速度は作品の厚みによって異なりますが、一般的には以下が目安です。


  • 薄手の作品(5mm以下):100〜120℃/時間
  • 中厚の作品(5〜15mm):80〜100℃/時間
  • 厚手の作品(15mm以上):60〜80℃/時間

冷却速度にも注意が必要です。急冷(窯の扉を早期に開ける)は、表面と内部の温度差を急激に拡大させ、釉薬に引張応力をかけて剥離させます。特に600℃以下になるまでは窯を密閉したまま自然冷却させ、その後もゆっくりと温度を下げることが重要です。理想的には、最高温度から200℃まで冷却するのに最低6時間、200℃から室温まではさらに12時間以上かけるのが安全です。


日本セラミックス協会学術論文誌には、焼成温度と釉薬の溶着メカニズムに関する研究論文が掲載されています
ゾーンコントロール機能付きの電気窯を使うことも効果的です。この機能では、昇温・保持・冷却の各段階で温度と時間を細かく設定でき、釉剥げリスクを大幅に低減できます。価格は通常の電気窯より3〜5万円高くなりますが、作品の成功率が20〜30%向上するという報告もあり、中級者以上には投資価値があります。


釉剥げしやすい釉薬の種類と特徴

すべての釉薬が同じように剥がれやすいわけではありません。化学組成や物理的特性によって、釉剥げリスクには大きな差があります。


釉薬選びで差がつきます。


最も剥がれやすいのは、高アルカリ釉薬です。ナトリウムやカリウムを多く含む釉薬(ソーダ灰や長石を主成分とするもの)は、熱膨張率が素地より高くなる傾向があります。例えば、ソーダ灰を20%以上含む釉薬の熱膨張率は6.0×10⁻⁶/℃を超えることがあり、一般的な陶器素地(4.0〜4.5×10⁻⁶/℃)とは1.5倍以上の差が生じます。この種の釉薬は発色が鮮やかで人気がありますが、釉剥げリスクは高いです。


結晶釉も要注意です。チタンや亜鉛を多く含む結晶釉は、冷却時に釉薬内部で結晶が成長し、その体積変化によって釉層に応力が発生します。特に大きな結晶(直径5mm以上)が形成されると、その周辺から釉剥げが始まることがあります。結晶釉を使う場合は、素地との相性テストを通常の3倍(9〜15個のテストピース)行うことが推奨されます。


意外ですね。


マット釉(艶消し釉)も剥がれやすい傾向があります。マット釉は、釉薬の融点を下げて完全に溶かさないことで艶消し効果を得ていますが、これは同時に素地との密着力が弱いことを意味します。特に、バリウムやカルシウムを多く含むマット釉は、吸水率の高い素地に施すと剥離リスクが高まります。


一方、安定性が高いのは透明釉と飽和鉄釉です。透明釉は成分がシンプルで熱膨張率のコントロールがしやすく、多くの素地と相性が良好です。飽和鉄釉(鉄分を8〜12%含む茶褐色の釉薬)も、鉄分が釉薬の構造を安定させるため、剥離しにくい特性があります。初心者が釉剥げのリスクを避けたい場合、これらの釉薬から始めるのが賢明です。


これは使えそうです。


色釉の中では、コバルト系の青色釉薬が比較的安定しています。コバルトは少量(0.5〜2%)で強い発色を示し、釉薬の基本組成を大きく変えずに色を付けられるためです。逆に、クロムを使った緑色釉薬やマンガンを使った紫色釉薬は、これらの金属酸化物が熱膨張率を上げる傾向があり、釉剥げリスクがやや高めです。


釉薬を購入する際は、メーカーの技術資料で「推奨素地」「適正焼成温度」「熱膨張率」の3点を必ず確認してください。これらの情報が明記されていない釉薬は、使用を避けるか、事前テストを徹底することをおすすめします。




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