内掛けを後回しにすると、仕上がりが台無しになります。
陶芸で「釉薬を掛ける」といっても、掛ける場所によって呼び方が変わります。器の外側の面(胴体・外壁)に釉薬を施すことを「外掛け」、器の内側(内壁・底面)に施すことを「内掛け」といいます。どちらも同じ釉薬を使う場合もあれば、外掛けと内掛けで異なる色の釉薬を組み合わせることもあり、これが「掛け分け」という表現方法につながります。
釉薬は焼成温度(1,200〜1,300℃程度)でガラス質に溶けて器の表面を覆い、強度・耐水性・発色を生み出す素材です。そのため、内掛けを省略すると内側から水が染み込み、カビや汚れの原因になります。一方、外掛けを省略すると器の外観が無釉のままになり、装飾としての釉薬効果が得られません。つまり、両者はそれぞれ別々の役割を担っています。
混同しやすいのが「ずぶ掛け」との違いです。ずぶ掛けとは器全体を釉薬のバケツに沈める方法で、外掛けと内掛けを同時に行う手法です。しかし、ずぶ掛けが難しい形状(口の細い水差しや急須など)では、内側に釉薬を注ぎ入れてから外側を別に掛ける、という内掛け・外掛けの分割手順が不可欠になります。形状に応じて使い分けるのが基本です。
| 項目 | 外掛け | 内掛け |
|---|---|---|
| 施釉する面 | 器の外壁・胴体 | 器の内壁・底面 |
| 主な手法 | ずぶ掛け・霧吹き掛け | 注ぎ入れ・回し掛け |
| 役割 | 外観の発色・装飾 | 耐水性確保・内側の発色 |
| 施釉の順番 | 内掛けの後 | 外掛けの前(先) |
内掛けが先、外掛けが後という順番が基本です。この順番を守ることが、失敗のない釉掛けの出発点になります。
「どちらから掛けても同じではないか」と思いがちですが、これは大きな誤解です。内掛けを先に行い、完全に乾燥させてから外掛けするのが正しい手順です。逆の順番で施釉すると、素焼きの素地が持っている吸水力(毛細管現象による釉薬の吸着力)が内掛けの時点ですでに失われており、後から掛ける釉薬が素地に十分付着しないという問題が生じます。
素焼き作品の素地には細かい気孔がたくさんあり、この気孔が釉薬の水分を吸い取ることで釉薬の成分だけが表面に残ります。これが施釉の原理です。外掛けを先にしてしまうと、その時点で素地の吸水力の多くが消費されます。そのまま内掛けを行っても釉薬の付着が弱く、焼成後に剥がれたり縮れたりするリスクが高まります。
実際に陶芸の失敗例として多いのが、この順番の間違いです。内掛け後は必ず最低でも数時間、理想的には一晩乾燥させてから外掛けに進みましょう。急ぐ場合でも、石油ストーブの上に乗せて1時間ほど乾燥させれば水分を十分飛ばせます(やけどに注意)。乾燥が不十分なまま外掛けすると、内掛けで染み込んだ水分が残っており、素地全体の吸水力が落ちた状態になります。
また、素地自体が薄い作品の場合は特に注意が必要です。薄い素地は容積が少なく、内掛けの釉薬の水分だけで吸水力が飽和してしまいます。このため「内掛けと外掛けを別日に分ける」「釉薬をやや濃いめにして短時間で施釉を終わらせる」といった工夫が必要になります。
乾燥させることが条件です。ここを飛ばすと、焼成後に後悔する可能性が高くなります。
実際の施釉作業では、まず素焼き作品の表面をはたき(もしくは柔らかいブラシ)で軽く払い、埃を取り除きます。濡れた雑巾で拭くのは基本的にNGで、素地が水分を吸ってしまいます。ただし高台周りなど釉薬が溜まりやすい部分は、水筆で湿らせると釉薬の縮れ防止に効果的です。
次に高台に撥水剤(釉抜き剤)を塗ります。撥水剤は釉薬をはじく性質があるため、窯の棚板に溶着しやすい高台部分に塗っておくことで、焼成後の剥がし作業が楽になります。撥水剤は完全に乾かしてから内掛けに進みます。
内掛けの手順:
釉薬をよくかき混ぜた後、計量カップや柄杓で器の内側に注ぎ込みます。口の広い器(茶碗・鉢など)であれば、釉薬を内側に注いで器全体をくるくると水平に回し、均一に行き渡らせてから素早く排出します。この時、釉薬を入れたまま長く置くと厚掛けになり、焼成時に剥げたり縮れたりする原因になります。標準的な厚みは0.5〜1.0mm程度です。内掛け後は完全に乾燥させます。
外掛けの手順:
内掛けが完全に乾燥したことを確認したら、外掛けを行います。ずぶ掛けの場合は、釉薬バケツに器を沈めます。このとき、バケツの表面に溜まっている水(上澄み)を柄杓で横にどかしてから作品を沈めると、均一な施釉ができます。沈める時間は「1・2・3」と心の中で数えるくらいが目安で、作品の厚みや素地の吸水力によって調整します。引き上げたら余分な釉薬を柄杓の縁で取り、板の上に置いて指跡を筆で補修します。
これは使えそうです。道具をあらかじめ手元に揃えておくと、作業がスムーズに進みます。
内掛けと外掛けで異なる色の釉薬を使うことを「掛け分け」といいます。たとえば内側に白系の透明釉、外側に飴釉や瑠璃釉を掛けることで、一つの器に2色の表情が生まれます。この技法は美的表現の幅を大きく広げるもので、陶芸教室でも中級〜上級の課題として扱われることが多い手法です。
掛け分けを成功させる鍵となるのが「撥水剤」の使い方です。撥水剤は水をはじく性質を持つ液体で、釉薬を掛けたくない部分に塗っておくと、その部分に釉薬が乗らないようにできます。内掛けが終わって乾燥した後、内側の釉薬の上端(縁から2〜3cm程度)に撥水剤を塗っておくと、外掛けの際に釉薬が内側に流れ込んでも境界線がきれいに出ます。撥水剤は完全に乾かしてから外掛けを行います。
なお、撥水剤を内掛けの釉薬そのものに混ぜる方法もあります。この場合、内掛け釉薬自体が撥水性を持つため、後から外掛けしても内側に浸透しにくくなります。陶芸家・石堂聖幸氏もこの手法を実践しており、内掛けした釉薬が外掛け釉薬を自然にはじいて境界線がきれいに仕上がると紹介しています。
掛け分けの境界線を水平にそろえたい場合は、マスキングテープを使う方法も有効です。釉薬を掛ける前にテープを器に水平に貼り、テープの上端まで釉薬を掛けた後、テープを剥がすことで水平なラインが作れます。ただしテープを使う場合は、テープを貼ったまま長時間放置しないようにします。素焼きの素地にテープの糊が残ると、そこが釉薬の密着不良を引き起こす可能性があります。
参考リンク(撥水剤を使った掛け分けの実例解説)。
釉薬の掛け分け(撥水剤とズブ掛けを組み合わせた実践的な手順)|陶芸教室ハナツユ
施釉のプロが口をそろえて言うのが「厚みの管理こそが釉薬掛けの本質」という点です。内掛けでも外掛けでも、適切な厚みは0.5〜1.0mm程度が基本です。これはちょうどはがき1枚程度の薄さです。この厚みを守ることで、釉薬が均一に溶け、想定通りの発色や光沢が得られます。
厚すぎる場合はどうなるか。釉薬が厚掛けになると焼成時に流れやすくなり、器が窯の棚板に溶着するリスクが生じます。特に黒釉や天目釉は2〜3mm程度の厚掛けでないと黒く発色しない特性を持つ場合もありますが、それ以外の釉薬では「流れて棚板にくっついてしまった」という最も多い失敗につながります。逆に薄すぎると発色が弱くなり、釉薬の艶も出ません。
厚みのチェック方法は意外とシンプルです。施釉後に爪で軽く釉薬を引っ掻いてみると、厚みが感覚でわかります。プロは手の感覚と素地の吸い込む音でおおよその厚みを判断しますが、初心者にはボーメ比重計を使った濃度管理が便利です。ボーメ計の値が40〜50度の範囲に収まっていれば標準的な濃度です。
また、内掛けと外掛けで同じ釉薬を使っていても、施釉の時間差によって厚みに差が出る場合があります。内掛けで「1・2・3」のテンポを守り、外掛けでも同じリズムを意識することで、内外のバランスが取りやすくなります。釉薬は一晩放置するとすぐに沈殿が始まるので、施釉の前には必ず柄杓でよくかき混ぜてから使いましょう。沈殿したまま使うと上澄みの薄い部分だけが掛かり、ムラの原因になります。
参考リンク(釉掛け失敗の原因と対処法:比重・厚み・事前クリーニングなど詳解)。