外掛けから先に始めると、釉薬が内側に垂れ込んで作品ごと丸ごとやり直しになることがあります。
陶芸を始めると、「内掛け」と「外掛け」という言葉にすぐ出合います。どちらも釉薬を器に掛ける手法ですが、対象となる面がまったく異なります。
内掛けとは、器の内側(口の中や胴の内面)に釉薬を施す作業のことです。ひしゃくや注ぎ口の付いた道具を使い、内側に釉薬を注ぎ込みながら器をぐるりと回転させて全体に行き渡らせます。やや複雑な動作に見えますが、現在は内掛け用のポンプや専用ひしゃくが市販されており、初心者でも扱いやすくなっています。
外掛けは、器の外側の面に釉薬を施す作業です。器の内側に指を入れて落ちないようしっかり持ち、釉薬のバケツに口縁部まで沈めて引き上げます。このとき器が斜めに傾くと、内側と外側に隙間が生まれて釉薬が均等に掛かりません。これが基本です。
この2つは単なる「内か外か」という違いだけでなく、施釉する順番・道具・ポイントがそれぞれ異なります。それを混同すると失敗につながります。
つまり、内掛けと外掛けはセットで理解するのが原則です。
| 項目 | 内掛け | 外掛け |
|---|---|---|
| 施釉する面 | 器の内側・胴内面 | 器の外側・胴外面 |
| 主な道具 | ひしゃく・注ぎ口付きカップ・内掛けポンプ | 釉薬バケツ・トング |
| 施釉の順番 | 先に行う(基本) | 内掛けの後に行う |
| 主な失敗 | 回転不足によるムラ・色の片寄り | 傾きによる斑・内側への垂れ込み |
「なぜ内側から先に掛けるの?」と疑問に思う方は多いです。理由を知っておくと、手順をしっかり守れるようになります。
一番の理由は、素焼き素地の吸水性にあります。素焼きされた粘土は非常に高い吸水性を持っており、釉薬の水分をぐんぐん吸収します。内掛けを先に終わらせると、内側の釉薬がすぐに素地に吸収されて表面が乾き始めます。その乾燥した状態で外掛けに進むことで、外側の釉薬が内側に垂れ込むリスクを大幅に減らせます。
逆に外掛けを先にしてしまった場合、外側の釉薬がまだ乾ききっていない状態で内側に釉薬を注ぐことになります。その結果、器の内外で水分が飽和状態になり、掛けた釉薬が流れやすくなってムラが出ます。厄介なのは、いったん内側に垂れ込んだ釉薬はスポンジで拭き取って作業をやり直す必要があり、時間も手間も大幅にロスする点です。
実際の製陶所の現場では、「釉薬は掛けづらい場所から先に」というのが鉄則とされています。内側は手が届きにくく、道具も必要になるため、内側を先に仕上げてから外側に移るほうが効率よく均一に仕上がるのです。
内掛けが先、が基本です。
また、内掛けが終わったあとも少し時間を置くことが重要です。目安として1〜2分ほど表面が白っぽく乾いてから外掛けに進むと、境界のにじみや垂れが格段に少なくなります。急がないことが、実は時間の節約につながります。
外掛けはシンプルに見えて、実は注意点がいくつかあります。特に初心者が陥りやすいのが「釉薬の厚みのコントロール」と「高台の処理忘れ」の2つです。
釉薬の厚みは、バケツへの浸け時間で調整します。一般的な目安は3〜5秒で0.5〜1.0mm程度の厚さになります。これは葉書1枚(約0.1mm)の5〜10枚分の厚さとイメージするとわかりやすいです。浸け時間が長すぎると釉薬が厚くなりすぎ、焼成中に溶けて流れ落ちるリスクが上がります。逆に短すぎると薄くなって発色が弱くなります。
また、器の肉厚が厚いほど吸水量が多くなるため、同じ時間でも釉薬が厚めに付きます。大きな作品は短めに、薄手の作品は少し長めに浸けて調整するのが基本です。
外掛けでもう一つ忘れてはいけないのが、高台(底の部分)の釉薬拭き取りです。高台に釉薬が残った状態で本焼きすると、窯の棚板に釉薬が溶け込んで器がべったり貼り付いてしまいます。これが「棚板への溶着」で、力任せに剥がすと器も棚板も破損します。
高台拭きは、水に浸して軽く絞ったスポンジで丁寧に拭き取ります。汚れた面で拭いても意味がないので、スポンジの清潔な面を使うのがコツです。1回のスポンジで4個分拭けるようになれば、熟練者の域です。
棚板への溶着を防ぐことが条件です。
また外掛けのときに器を傾けると、口縁部に釉薬が不均等に掛かります。水平を意識してまっすぐバケツに沈めること、そして引き上げるときも素早く一定のスピードで行うことが、ムラのない仕上がりへの近道です。
釉薬の流れが気になる場所(口縁周辺など)は、あらかじめ薄めに掛けておくと焼成後の流れ落ちリスクを減らせます。
参考:釉薬掛けにおける作品の吸水性と浸け時間の関係についての解説
陶芸Q&A:大きな作品ほど短時間浸す理由(林泰彦 陶芸サイト)
内掛けと外掛けで異なる釉薬を使いたい場合、あるいは器の上半分と下半分で釉薬を変えたい場合に活躍するのが撥水剤(釉抜き剤)です。
撥水剤とは、塗布した部分が釉薬を弾くようになる陶芸専用の薬剤です。油性タイプと水性タイプがあり、油性のものは撥水力が高い反面、有機溶媒を使用しているため取り扱いに注意が必要です。紫色に着色されているものが多く、どこに塗ったかひと目でわかるようになっています。
掛け分けの手順は以下の通りです。
撥水剤を使うときに注意したいのは、「垂れ」と「乾燥不足」の2つです。筆に撥水剤を含ませすぎると、意図しない場所に垂れてしまいます。一度ついた撥水剤は拭き取れず、ヤスリで削り落とすか最悪もう一度素焼きし直すしかありません。筆はしっかりしごいて余分な液を落としてから塗り始めましょう。
また凹凸のある部分や彫り込んだ溝には撥水剤が溜まりやすく、乾くまでに時間がかかります。「乾いたかな」と思っても少し待つ余裕が大切です。
境界の処理だけ覚えておけばOKです。
なお撥水剤は最終的に焼成で燃え尽きてしまうため、完成品には何も残りません。装飾目的でストライプや模様の形に塗れば、その部分だけ素地が見える個性的な仕上がりにもなります。釉薬との組み合わせを変えることで表現の幅が大きく広がります。
参考:撥水剤の基本的な使い方と失敗事例の解説記事
陶芸の撥水剤:注意点と使い方の応用(陶芸主婦Nao / note)
内掛けと外掛けを理解した次のステップとして、「重ね掛け」と「掛け分け」という2つの応用テクニックがあります。この2つは混同されがちですが、意味がまったく異なります。
重ね掛けは、同じ場所に2種類以上の釉薬を重ねて掛けることです。下の釉薬の上からさらに別の釉薬を乗せることで、単色では出せない複雑な色彩や奥深い表情が生まれます。たとえば透明釉を下掛けし、その上から鉄釉を重ねると、焼成後に鉄の発色が透明釉を通して奥から滲み出るような風合いになります。
掛け分けは、異なる種類の釉薬を重ならないよう分けて掛けることです。内側と外側で異なる釉薬を使う場合も、ここに分類されます。境界線をはっきりさせたい場合は撥水剤を使い、あえてにじませたい場合は境界近くを薄掛けにするなど、表現の意図によって方法を選べます。
重ね掛けで注意したいのが釉薬の流れやすさです。2層分の釉薬が溶けて一気に流れると、高台から棚板へ落ちて溶着します。高台周辺と口縁部の釉薬を意識的に薄くしておくことで、流れ落ちのリスクを下げられます。
また重ね掛けをする際は、下の釉薬が完全に乾いてから上の釉薬を掛けることが重要です。乾燥が不十分なまま重ねると、下層の釉薬が剥離したり、釉薬同士が混ざって意図しない色になることがあります。
内掛けと外掛けに異なる釉薬を使うのは、最もシンプルな掛け分けといえます。たとえば内側に白系の透明釉、外側に鉄釉を使えば、内外でまったく異なる表情の器が完成します。この組み合わせを試すだけでも、陶芸の表現の奥深さが実感できます。
釉薬の化学反応を意識することが、次のステップです。
参考:釉薬の重ね掛けテクニックと色の出方の仕組みについての詳細解説
釉薬の基本と応用|色の出方と重ね掛けのテクニック(陶芸家・亀井俊哉 / note)

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