目止めをしないまま梨地テクスチャの器を使うと、1回の使用で油染みが取れなくなることがあります。
「梨地」とは、果物の梨の皮のように細かい凹凸がある表面のことを指します。もともとは布地の織り方(梨地織り・アムンゼンなど)を指す言葉でしたが、陶器の世界では釉薬をかけない「素地仕上げ」や、マット釉によって生まれるざらざらとした表面質感にも同じ「梨地」という言葉が使われます。
陶器の素地(生地)とは、釉薬が乗る前の粘土そのものの状態、あるいはその風合いを残した仕上げのことです。釉薬なしで焼き締めた焼締め陶器や、粉引きのような白化粧土を施した器なども、表面に細かな凹凸を持つ「梨地的なテクスチャ」を持っています。この素朴な土肌の質感こそが、多くの陶器ファンを魅了する最大の魅力でもあります。
見た目の美しさは申し分ありません。ただし、です。その凹凸は同時に複数の実用上のデメリットも生み出します。美しい梨地・素地の器を長く、安全に使い続けるために、具体的なデメリットと対処法を一つずつ確認していきましょう。
陶器の吸水率は最大で10%近くに達することがあります。磁器の吸水率がほぼ0%であるのと比べると、この差は非常に大きいものです。梨地・素地仕上げの陶器はとくに吸水率が高く、液体がスポンジのように内部まで染み込んでいきます。
問題はその先です。染み込んだ水分や油分が乾燥しきれないまま放置されると、カビの温床になります。また、醤油・コーヒー・ワインなどの色の濃い液体は、凹凸のある素地に触れた瞬間から内部に浸透し始め、気づいたときには取れないシミになっています。これは時間の問題です。
「目止め」をしないまま使い始めるのがリスクです。目止めとは、米のとぎ汁や片栗粉を溶いた水で器を煮沸し、でんぷん質を素地の細かい穴に浸透させる処理のこと。この作業によって吸水率を大幅に下げることができます。目止め済みの器でも、使用後は長時間水につけ置きせず、しっかり乾燥させてから収納するのが基本です。
梨地テクスチャの器を使う場面を考えると、油料理や色の濃いものを盛り付ける機会は多いはず。そういった使い方をするときは、使用前に一度器を水に浸してから料理を盛ると、汚れが染み込みにくくなります。吸水に注意すれば大丈夫です。
陶器の吸水率や素地の特性について詳しく調べたい場合は、以下の公的資料が参考になります。
磁器と陶器の違い|土岐市公式ウェブサイト(吸水率の違いを数値で解説)
梨地テクスチャの陶器が持つ最も見落とされやすいデメリットが、「メタルマーク」の問題です。メタルマークとは、スプーンやフォーク、ナイフなどの金属製カトラリーが器の表面に擦れた際に残る、黒や灰色の線状の汚れのことです。
なぜ梨地・マット釉の器に付きやすいのかというと、表面の微細な凹凸が原因です。釉薬が均一にとろけた光沢仕上げの器と違い、梨地的なマット釉の表面は顕微鏡レベルで見ると細かい凸凹が無数に存在します。この凹凸が金属をわずかに削り取り、その粉が溝に入り込むことでメタルマークが生じます。スプーン1本動かすだけでも起こり得ます。
困るのは、通常の食器洗い用中性洗剤ではほとんど落ちないことです。「汚れが付いた?」と思って普通に洗っても、黒い跡はびくともしません。対処法としては、クレンザーや酸性洗剤を使った手洗い、またはメラミンスポンジを水に濡らしてやさしくこする方法が有効です。ただし力を入れすぎると釉薬面を傷つけることもあるため、注意が必要です。
陶器の素地肌(梨地的なビスク焼成の部分)には、とくにメタルマークが付着しやすい特性があります。もし梨地風の白磁や粉引きの器を使うなら、金属カトラリーを使う際はゆっくりと丁寧に動かすことを意識するだけでも、付着リスクを減らせます。これが条件です。
やきものの取り扱いについて|株式会社セラミック・ジャパン(メタルマークの発生原因を解説)
梨地・素地仕上げの陶器のデメリットとして、使い始める前には気づきにくいのがこれです。陶器の底面(高台)は釉薬がかかっていないため、素地がそのまま露出しています。この部分はとくにざらつきが強く、砂粒がまだ残った状態のものもあります。
ガラス製のテーブルや高級木材のダイニングテーブルに梨地仕上げの陶器をそのまま置くと、一度置いただけで細かい傷がつくことがあります。「お気に入りのテーブルに気づかないうちに傷がたくさん入っていた」というのは、陶器好きにとって経験しやすいトラブルです。
対処法は2通りあります。ひとつは、器を使う前に高台部分を#1000番前後の耐水サンドペーパーでやさしく研磨してざらつきを落とすこと。もうひとつは、ランチョンマットやコースターを使って、器が直接テーブル面に触れないようにすることです。いずれも簡単な対策で十分に予防できます。
この問題は素地仕上げや焼き締め系の器ほど顕著です。備前焼や信楽焼のような焼き締め陶器を使う場合は、裏面の確認を先にするのが鉄則です。見た目の素朴な風合いが気に入って購入した器こそ、底面のチェックを忘れずに行いましょう。サンドペーパーは#1000番が基本です。
陶芸のプロが教える陶器の仕上げ方・底のざらざらを取る方法|陶工房手島
梨地・素地仕上げの陶器は、日常のお手入れにも注意が必要です。磁器と違い、陶器は基本的に食洗機NGとされているものがほとんどです。理由は、多孔質(穴だらけ)の素地が水分を吸収した状態で食洗機の高温乾燥にかかると、内部の水が膨張してひび割れや釉薬の剥離が起こるリスクがあるからです。
とくに梨地的な荒目の土を使った器や、素地が露出した焼き締め系の作品は、食洗機の水圧と熱に非常に弱い傾向があります。高さ約10万円もする有名作家の器が食洗機1回でひび割れた、という事例は決して珍しくありません。
また、つけ置き洗いも厳禁です。水の中に長時間浸すと、素地が大量の水分を吸ってしまいます。その状態で放置するとカビの原因になります。洗い方のポイントは、使用後すぐに柔らかい