カンラン石特徴色結晶産地用途見分け方

マグネシウムと鉄を含むケイ酸塩鉱物であるカンラン石は、特徴的な黄緑色とガラス光沢を持ち、地球マントルの主要構成鉱物として知られています。この記事では産地や用途、識別方法など、カンラン石の魅力的な特徴について詳しく解説しますが、あなたは宝石ペリドットとしての一面もご存知でしたか?

カンラン石特徴

カンラン石の主な特徴
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化学組成と結晶系

マグネシウムと鉄のケイ酸塩鉱物で、斜方晶系の結晶構造を持つ

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色彩と光沢

黄緑色からオリーブ色のガラス光沢が特徴的

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地質学的重要性

地球マントル最上部の主要構成鉱物として存在

カンラン石の化学組成と結晶構造

 

カンラン石は、マグネシウムや鉄を含むネソケイ酸塩鉱物のグループ名で、一般式は(Mg,Fe)₂SiO₄で表されます。苦土カンラン石(Mg₂SiO₄)と鉄カンラン石(Fe₂SiO₄)との間で連続固溶体を形成し、両者の割合によって様々な組成のカンラン石が存在します。マントルを構成するかんらん岩中のカンラン石は、マグネシウムが約90%、鉄が約10%の割合で含まれており、(Mg₁.₈Fe₀.₂)SiO₄程度の組成を持つとされています。

 

参考)カンラン石 - Wikipedia

結晶系は斜方晶系に属し、構造は酸素イオンの六方最密充填配列として説明できます。八面体サイトの半分がマグネシウムまたは鉄イオンで占められ、八面体サイトの1/8が珪素イオンで占められる構造となっています。少量のマンガン、ニッケル、チタンなども含まれることがあります。

 

参考)かんらん石とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書

結晶構造におけるSiO₄四面体が独立して存在するネソケイ酸塩という特徴は、カンラン石の物理的性質に大きく影響しています。この構造により、カンラン石は高い硬度と密度を持ちながら、特定の方向に弱い劈開が見られるという性質を示します。

 

参考)https://www.gsj.jp/data/gcn/gsj_cn_vol1.no8_225-226.pdf

カンラン石の色と形態的特徴

カンラン石の色は、一般に淡黄緑色、暗緑色、または褐色を呈します。特にマグネシウムに富む苦土カンラン石は、オリーブ色から黄緑色の美しい色合いを持ち、英名のolivineもオリーブに似た色に由来しています。鉄成分が多くなるにつれて色は濃くなり、鉄カンラン石では褐色から黒色を示します。

 

参考)かんらん石

Wikipedia「カンラン石」
形態については、カンラン石は通常粒状または短柱状の結晶として産出します。火山岩中では短柱状の自形結晶が見られることもありますが、多くの場合は不規則な外形を持つ他形粒状で存在します。玄武岩中の斑晶として含まれる場合、直径2mm以下の小さな粒として観察されることが多く、丸い形や紡錘形を示す特徴があります。

風化すると角が取れて丸みを帯び、氷砂糖のような形やラグビーボール状、サイコロ状になることが知られています。ガラス光沢を持ち、透明感のある外観が特徴的ですが、風化によってもともとの緑色が薄黄色から赤茶けた色に変化し、透明感が失われていきます。

 

参考)かんらん石(橄欖石)

カンラン石の物理的性質

カンラン石の物理的性質は、その組成によって変化します。比重は3.2から4.4の範囲にあり、マグネシウムに富む苦土カンラン石では3.22程度、鉄に富む鉄カンラン石では4.39程度となります。鉄の含有量が増えると屈折率と比重が高まる傾向があります。

 

参考)カンラン石(かんらんせき)とは? 意味や使い方 - コトバン…

モース硬度は6.5から7で、かなり硬い鉱物に分類されます。この硬度により耐摩耗性に優れ、工業用途にも利用されています。劈開は{010}と{100}に弱く見られますが、不規則な割れ目が多いのも特徴です。

 

参考)薄片観察

カンラン岩の物性と産業利用について詳しい情報
光学的性質として、カンラン石は二軸性の光学特性を示し、偏光顕微鏡下では無色透明に見えます。クロスニコル下では結晶方位の違いによって色とりどりの鮮やかな干渉色を示し、特に鮮やかなピンク色から青色の偏光が特徴的です。塩酸に容易に侵されるという化学的性質も持ち、これが風化や変質の一因となっています。

 

参考)http://www.ha.shotoku.ac.jp/~kawa/KYO/CHISITSU/dezital_henkoh/k081/what.html

カンラン石の産地と産状

カンラン石は地球マントル最上部の大部分を占める主要な構成鉱物であり、玄武岩などの塩基性岩や超塩基性岩に多く含まれています。マントルのかんらん岩が地表に噴出したものや、火成岩として固まったものから見つかります。

 

参考)マントル深部由来の玄武岩に炭酸塩の痕跡を発見—地球表層とマン…

世界の主要産地として、ノルウェーは工業用カンラン石の最大生産国で、世界の約50%を産出しています。2004年のデータでは、年間8,500キロトンの採掘量のうち、ノルウェーが3,500キロトン、日本が2,000キロトン、スペインが700キロトンを占めていました。

JAMSTECによるマントルとカンラン石の研究情報
日本国内では、玄武岩や一部の輝石安山岩中にカンラン石が含まれています。香川県五色台の讃岐岩中には高ニッケルカンラン石が見られ、鹿児島県の開聞岳周辺の海岸砂にはカンラン石が特徴的に含まれています。京都府丹後町では、マントル直送と考えられるピクライト質玄武岩中にカンラン石が発見されており、岩石学的に重要な産地となっています。

 

参考)https://journal.kagoshima-nature.org/archives/NK_039/039-032.pdf

宝石品質のペリドットは、紅海のゼビルゲット島(セント・ジョンズ島)と北ミャンマーが最高級品質の産地として知られ、その他にノルウェー、オーストラリア、ブラジル、アメリカからも産出します。

 

参考)ペリドッドとは|意味・効果・特徴を解説

カンラン石の変質と風化過程

カンラン石は変質しやすい鉱物として知られており、その周りや割れ目に沿って蛇紋石に変わる性質があります。この蛇紋岩化作用は、上部マントルを構成するかんらん岩が水の影響を受けることで進行します。同じ条件下では、カンラン石のほうが斜方輝石よりも蛇紋石になりやすく、最終的には輝石も蛇紋石化します。

 

参考)産総研:研究者

風化作用については、カンラン石はpH1から12の範囲の水溶液への溶解速度が研究されており、pH、塩類の濃度、温度、鉱物と液体界面の表面積などが影響を与える主な要因となっています。さらに結晶学的方位や二次鉱物コーティングの形成も溶解速度に影響することが指摘されています。

 

参考)https://u-gakugei.repo.nii.ac.jp/record/49432/files/24349380_73_14.pdf

風化が進むとカンラン石の表面にエッチピットが形成され、低温の風化作用によって独特の溶解パターンが生じます。この過程で、もともとの緑色が薄黄色から赤茶けた色に変化し、透明感が失われていくことが観察されます。紫外線や水の作用も変質を促進する要因となり、カンラン石の風化変質は地球表層だけでなく宇宙空間や他の惑星表層でも起こりうる現象として研究されています。

カンラン石の用途と宝石としての価値

カンラン石は多様な用途を持つ鉱物で、工業用途と宝石用途の両面で利用されています。工業面では、砕いて砂状にしたオリビンサンドが鋳物砂として使用され、耐火性が高くゼーゲルコーンでSK37-38の耐火性を示します。マグネシア系耐火物の原料としても重要で、かんらん岩は非常に硬質で耐火性に富む岩石として認識されています。

 

参考)カンラン岩について

溶鉄造滓材としての用途では、MgOの作用により鉄以外の滓(スラグ)を分離するのに使用されます。その他、コンクリート用骨材、肥料、護岸用途などにも利用されています。近年では、二酸化炭素の吸収という環境対策への応用も試みられており、水がある環境下で二酸化炭素と急速に反応して風化する性質を利用したProject Vestaという試みが行われています。

ペリドット(カンラン石)の特性と工業利用の詳細情報
宝石としての用途では、苦土カンラン石のうち緑色で特に美しいものがペリドットと呼ばれ、8月の誕生石として人気があります。透明な暗緑色の美しいカンラン石は古代から宝石として用いられており、明るい油性光沢を帯びた透明な外観が特徴です。カンラン石自体はありふれた鉱物ですが、宝石になるほど上質なものは稀少で、大きなものは非常に珍しく高い価値があるとされています。ペリドットの石言葉には「夫婦愛」があり、夫婦やカップルのお守りとしても人気を集めています。

 

参考)https://www.goodfellow-japan.jp/jp/blog/peridot.htm

カンラン石と他の鉱物との見分け方

カンラン石を他の鉱物と識別するには、いくつかの特徴的な性質に注目する必要があります。まず色彩では、カンラン石特有の黄緑色からオリーブ色が重要な識別ポイントとなります。「ハチミツ」の色に似たうるんだような光沢が個人的な識別の目安として挙げられることもあります。

顕微鏡観察では、カンラン石は玄武岩やはんれい岩などの塩基性火成岩に見られ、丸い形や紡錘形を示すことが多い点が特徴です。オープンニコルでの観察では無色透明ですが、鉱物の周囲が風化して茶色になっていることが多く見られます。クロスニコルで観察すると、様々な色に変化しますが、鮮やかなピンク色から青に偏光するのが特徴的で、この干渉色のパターンは他の造岩鉱物との重要な識別基準となります。

輝石類との比較では、カンラン石は1方向に劈開が見られることがあり、劈開が縦あるいは真横に向いた時に直消光します。一方、単斜輝石は90度で交わる2方向の劈開を持ち斜消光する点が異なります。物理的性質では、カンラン石のモース硬度6.5~7という値は、輝石(5~6)よりも硬く、石英(7)と同程度であることも識別の手がかりになります。

 

参考)http://www.jiban-fluorite.com/mineral/peridot.html

形態的には、風化したカンラン石が氷砂糖のような形やコロコロしたサイコロ状になる特徴も識別に役立ちます。園芸用の赤玉土を洗って取り出すことで、風化したカンラン石を観察することもできます。

カンラン石の取り扱いと保存上の注意点

カンラン石は変質しやすい性質を持つため、取り扱いには注意が必要です。特に塩酸に容易に侵されるという化学的性質があるため、酸性環境を避けることが重要です。保管時は、湿気や水分との接触を最小限にすることで、風化や変質の進行を遅らせることができます。

宝石品質のペリドットを扱う場合も、同様の注意が必要です。カンラン石の酸化は、鉄カンラン石成分の初期分解とその後の苦土カンラン石成分との反応により発生し、磁鉄鉱と斜方輝石を生成します。この酸化過程を抑制するため、直射日光や高温多湿の環境を避けることが推奨されます。

野外で採集したカンラン石標本は、表面の風化が進みやすいため、採集後は丁寧に洗浄し、乾燥させた状態で保管することが望ましいでしょう。風化によって色が変化し、透明感が失われることがあるため、長期保存には適切な環境管理が不可欠です。特に博物館や教育機関で標本として保管する場合は、温度と湿度を管理した収蔵環境が理想的です。

カンラン石が語る地球深部の物語

カンラン石は地球マントルを知る上で極めて重要な鉱物です。マントル深部由来の玄武岩に含まれるカンラン石を分析することで、地球内部の化学組成や温度・圧力条件を推定することができます。特にクック-オーストラル諸島やコモロ諸島などの海洋島(大陸から遠く離れた海の中にある火山島)は、マントル深部を知りえる重要な場所として注目されています。

マグマが上昇して地表に噴き出して冷え固まる過程で、まずカンラン石が結晶化し、続いて残った液から単斜輝石が結晶化していきます。そのため、最初に形成されたカンラン石にはマグマ源、つまりマントルの組成が最も反映されやすいことになります。HIMU火山岩(特定の地球化学的特徴を持つ火山岩)の低いアルミニウム濃度と高いカルシウム濃度は、そのマグマ源が肥沃なかんらん岩であることを示しています。

マントル由来のかんらん岩とカンラン石の研究例
地球表層と深部の物質循環という観点では、プレートテクトニクスによって海洋プレートとともに沈み込んだ炭酸塩に富むかんらん岩が、マントル深くにたまり、マントルプルームにより再び上昇して火山のマグマ源となるプロセスが明らかになっています。このようにカンラン石は、地球のダイナミックな活動を記録する鉱物として、地球科学研究において中心的な役割を果たしています。

マントルの底を不均質にしているのが肥沃なかんらん岩であることが、海洋島で採集した火山岩の分析から示されており、カンラン石の詳細な化学組成分析は地球深部の理解に不可欠な情報源となっています。

 

 


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