角閃岩は斜長石と普通角閃石を主成分とする変成岩で、その鉱物組成が大きな特徴となっています。角閃石は複雑なケイ酸塩鉱物で、モース硬度5~6、比重3.1~3.3という物理的性質を持っています。角閃石には直閃石、透閃石、陽起石、普通角閃石、藍閃石など100を超える種類があり、それぞれ異なる化学組成を示します。
参考)角閃岩(かくせんがん)とは? 意味や使い方 - コトバンク
普通角閃石は暗灰緑色ないし灰褐色を呈し、長柱のような形状で縦に割れやすい性質があります。角閃石の結晶は2方向の完全なへき開を持ち、へき開の角度は約120°となっています。このへき開面はガラス光沢や樹脂光沢が強く、この独特の輝きが角閃石を見分ける重要なポイントです。
参考)https://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/rock/zougankoubutu/amphibole.html
斜長石は白色から灰色を呈し、角閃石との組み合わせによって角閃岩特有の外観を作り出します。角閃岩には多少の石英や磁鉄鉱を含むことが多く、時には黒雲母や緑簾石も含まれることがあります。これらの副成分鉱物の種類や量によって、角閃岩の性質や外観に変化が生じます。
角閃岩は暗緑色から黒色を呈する緻密な岩石で、その色合いが最も目立つ特徴の一つです。水に濡らすと色がより鮮明になり、特に藍閃石を含む角閃岩では特徴的な青色がはっきりと現れます。角閃岩の外観は含まれる鉱物の種類や変成度によって異なり、普通角閃石を主体とするものは黒っぽく、アクチノ閃石を含むものは緑色を帯びる傾向があります。
参考)角閃岩
角閃岩はしばしば片理構造や縞状構造を持ち、これは変成作用の際に鉱物が一定方向に配列することで形成されます。片理面には鉱物、特に角閃石が一方向に並び、直線状の筋が見えることがあり、これを線構造と呼びます。片麻状構造を示す角閃岩もあり、非常に複雑な形状で麻糸が絡み合ったような模様を呈することがあります。
参考)https://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/mineral-rock-sirabekata/rock44/rocks-sosiki/metamor-sosiki/metamor-sosiki.html
塊状で片理が弱い角閃岩も存在し、このような岩石は閃緑岩に似た外観を示すこともあります。細粒から中粒の結晶が集まった組織を持ち、へき開面がキラキラと光る様子が観察できます。角閃石の結晶が微細な場合、高倍率のルーペを使うことで針状や繊維状の細長い結晶構造を確認できます。
参考)https://gbank.gsj.jp/ld/dlform/?url=%2Fdata%2F50KGM%2FPDF%2FGSJ_MAP_G050_10058_1957_D.pdf
角閃岩は玄武岩や安山岩など黒っぽい火成岩が地下深くで高い温度と圧力を受けることで生成される変成岩です。角閃岩ができる温度条件は約500~800℃とされ、角閃岩相と呼ばれる変成条件下で形成されます。この変成作用は、プレート境界や大陸衝突帯などの地殻変動が活発な場所で起こります。
参考)関東山地古生代前期木呂子角閃岩の年代学
変成作用の過程では、元の火成岩中の鉱物が新しい温度・圧力条件に適合して再結晶し、角閃石と斜長石を主体とする鉱物組成へと変化します。若干の水を含む環境下で変成作用が進行し、角閃石の生成には水の存在が重要な役割を果たします。変成度が高くなると、角閃岩相から高角閃岩相、さらにはグラニュライト相へと移行することもあります。
参考)c:meta.txt
角閃岩の全岩化学組成は、元の玄武岩や安山岩の組成によく似ており、若干の水分を除けば大きな違いはありません。これは変成作用が主に鉱物の再結晶と再配列によって進行し、化学組成の大規模な変化を伴わないためです。ただし、元の火成岩が酸化マグネシウムに富む場合には、普通角閃石のほかにカミントン閃石や直閃石を含む角閃岩が生成することがあります。
日本国内では、関東山地の木呂子角閃岩が古生代前期(約430Ma)の変成作用を受けた例として知られています。この角閃岩はmagnesiohornblendeと曹長石を主成分とし、ジルコンU-Pb年代約480Maの火成年代と角閃石の40Ar/39Arプラトー年代約430Maの変成年代を示しています。
角閃岩は日本各地の変成岩帯に広く分布しています。神奈川県の丹沢層群では、塩基性岩(玄武岩)が熱と圧力を受けて角閃岩に変成した例が見られ、黒色から暗緑色の細粒から中粒の岩石として産出します。糸魚川地域でも角閃岩の産出が確認されており、沈み込み帯の変成作用によって形成された岩石として地質学的に重要です。
参考)https://nh.kanagawa-museum.jp/kenkyu/epacs/museum2/a20.htm
飛騨片麻岩類の中にも角閃岩が層状やレンズ状をなして無数に産出し、片麻岩との明瞭な境界を示しています。これらの角閃岩は細粒で暗緑色を呈し、微弱な片理を持つことが多いです。北海道の日高変成帯では、角閃岩相の変成作用を受けた岩石が広範囲に分布しており、変成度の地域的変化を研究する上で重要なフィールドとなっています。
参考)https://www.gsj.jp/data/chishitsunews/94_06_05.pdf
岡山市磯尾では片状角閃岩が産出し、角閃石と斜長石の鉱物学的特性から角閃岩相に属する広域変成岩であることが確認されています。岩手県田野畑鉱山からは新種の角閃石である神津閃石が発見されており、角閃岩に関連する鉱物学的研究の重要な産地となっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/ganko1941/68/1/68_1_1/_pdf
角閃岩は細かく砕くことができ、建物の建設材料、舗装、表面仕上げに使用されています。中央ヨーロッパの新石器時代初期の文化では、角閃岩が様々な用途に利用されていた記録が残っています。現代でも角閃岩は建築用石材として一定の需要があり、その緻密な組織と適度な硬度が評価されています。
参考)カクセンガン(角閃岩) (Amphibolite) - Ro…
石材として利用される際には、角閃岩の色合いや片理構造が装飾的な効果を生み出します。暗緑色や黒色の美しい外観は、建築物の内外装に独特の雰囲気を与えます。角閃岩は適度な強度を持ちながらも加工が比較的容易で、切削や研磨によって様々な形状や表面仕上げが可能です。
埼玉県では角閃石安山岩などの加工石材を用いた横穴式石室が古墳時代に築造されており、当時から角閃石を含む岩石の加工技術が発達していたことがわかります。金沢市の戸室石は角閃石安山岩で、赤色と青色を呈する溶岩として古くから石垣や基礎石、庭園の石組に使用されてきました。このように角閃石を含む岩石は日本の伝統的な石材文化においても重要な位置を占めています。
参考)戸室石について|戸室物産株式会社
角閃岩の耐久性や耐火性、防湿性といった特性も建築材料として評価される要因となっています。ただし、風化に対する抵抗性は産地や鉱物組成によって異なるため、使用する際には適切な選択と処理が必要です。
角閃岩を他の岩石と見分けるには、いくつかの重要なポイントがあります。まず色彩に注目し、暗緑色から黒色を呈する緻密な岩石であることを確認します。次に片理構造や縞状構造の有無を観察し、鉱物が一定方向に配列しているかをチェックします。
参考)https://nh.kanagawa-museum.jp/kenkyu/epacs/museum2/a15.htm
ルーペを使って詳細に観察すると、角閃石の長柱状の結晶と斜長石の粒状結晶を識別できます。角閃石のへき開面が光を反射してキラキラと輝く様子は、角閃岩を特定する際の重要な手がかりとなります。硬度を調べる場合、針で表面を突いてみると、角閃石は硬度5~6のため少し傷がつく程度で、黒雲母のように簡単に薄くはげることはありません。
参考)雑記帳 - 角閃石
鉱物コレクションや地学教育の観点から、角閃岩は変成作用の理解を深める優れた教材となります。元の火成岩から変成岩への変化を示す典型的な例として、プレートテクトニクスや地殻変動のメカニズムを学ぶ際に活用できます。フィールドワークで角閃岩を採取する際は、片理構造の方向性や共存する鉱物の種類を記録することで、その地域の変成作用の歴史を読み解く手がかりが得られます。
角閃岩に含まれるザクロ石(暗赤色)や緑簾石(黄緑色)といった副成分鉱物の存在は、変成条件や化学組成の違いを示す指標となります。これらの鉱物を詳しく調べることで、より専門的な岩石学的研究へとつなげることができます。また、角閃岩の年代測定を行うことで、その地域の地質史や変成イベントの時期を特定することが可能です。
神奈川県立生命の星・地球博物館の角閃岩に関する詳細情報
角閃岩の基本的な特徴と神奈川県産の標本について、写真付きで詳しく解説されています。
糸魚川ジオパークの角閃岩解説ページ
角閃岩の生成条件や鉱物組成について、初心者にもわかりやすく説明されています。
コトバンクの角閃岩の項目
角閃岩の定義、組成、成因について角閃岩の項目
角閃岩の定義、組成、成因について、辞典的な正確な情報が記載されています。