ドルトン倍数比例の法則と陶磁器ブランドの意外な関係

化学の基礎を築いたドルトンの倍数比例の法則と、英国王室御用達の陶磁器ブランド・ロイヤルドルトンには、創業者の名前という興味深い共通点があります。この2つの「ドルトン」にはどのような背景と歴史があるのでしょうか?

ドルトン倍数比例の法則と陶磁器

この記事で分かること
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化学法則の基礎

ジョン・ドルトンが発見した倍数比例の法則と原子説の関係性を解説します

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陶磁器ブランドの歴史

ロイヤルドルトンの創業者ジョン・ドルトンと食器ブランドの発展過程

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2つのドルトンの共通点

化学者と陶磁器メーカー創業者、同じ名前に隠された時代背景

ドルトンの倍数比例の法則とは何か

 

倍数比例の法則は、1803年にイギリスの化学者ジョン・ドルトンによって発見された化学の基本法則です。この法則は「2種類の元素AとBが化合して複数の異なる化合物を作るとき、一定質量のAと化合するBの質量の間には、簡単な整数比が成り立つ」という内容を示しています。
参考)倍数比例の法則 - Wikipedia

具体例として、炭素と酸素からなる一酸化炭素と二酸化炭素を考えてみましょう。炭素12gを基準にすると、一酸化炭素には酸素16gが含まれ、二酸化炭素には酸素32gが含まれます。つまり一定量の炭素に対して化合する酸素の質量比は16:32、すなわち1:2という簡単な整数比になります。これが倍数比例の法則の実際の現れ方です。
参考)化学の基本相法則まとめ(質量保存・定比例・原子説・倍数比例・…

この法則の発見は、ドルトンが原子説を提唱する上で重要な証拠となりました。原子は分割できない粒子であるため、炭素原子1個に対して酸素原子が非整数個結合するような化合物は存在しないという考え方が、倍数比例の法則が成立する理由です。ドルトンは原子説の考え方に基づいて倍数比例の法則を予想し、これを実験で確認することで発見に至りました。
参考)4つの化学の基本法則|原子説・分子説の周辺を総まとめ

化学者ジョン・ドルトンの生涯と業績

ジョン・ドルトン(1766年9月6日-1844年7月27日)は、イギリスの化学者、物理学者、気象学者として多岐にわたる業績を残しました。彼の最も重要な功績は、近代化学の基礎となる原子説を提唱したことです。ドルトンの原子説は、質量保存の法則や定比例の法則を見事に説明できる理論として、化学界に一大センセーションを巻き起こしました。
参考)ジョン・ドルトン - Wikipedia

ドルトンが原子説に到達したのは、大気や気体の物理特性を研究する過程で、倍数比例の法則が何故成り立つのかを考察した結果でした。1803年10月21日に発表された液体による気体の吸収に関する論文で、ドルトンは「気体を構成する究極の粒子の数および質量に依存するのではないか」と記しており、これが原子説の萌芽となりました。
参考)ドルトンの原子説とは?矛盾が生じた理由を歴史から解説

興味深いことに、ドルトンの初めての科学論文は1798年に発表されたもので、自身が抱えていた色覚異常(色盲)に関する研究でした。これは色盲に関する最初の明確な記述として、後の病態生理学や遺伝学研究の基礎となりました。また、ドルトンは分圧の法則(ドルトンの法則)も発見しており、混合気体の研究にも大きく貢献しています。
参考)混合気体の圧力

ロイヤルドルトンの陶磁器ブランド創業史

ロイヤルドルトンは1815年にジョン・ドルトン(John Doulton)によって創業されたイギリスの陶磁器メーカーです。化学者のジョン・ドルトン(John Dalton)とは別人ですが、同じ「ドルトン」という名前を持つ人物が同じイギリスで活躍していたという興味深い一致があります。陶磁器メーカーの創業者は1793年にロンドンの南西の町フラムで生まれ、ジョン・ワットとの共同出資によってロンドンのランベスに磁器工場を創業しました。
参考)ロイヤルドルトンの高い価値のヒミツを解説!4つの代表作と高く…

創業当初は炻器ストーンウェア)のビールピッチャーや水差しなどを製作する小さな企業でしたが、1835年に息子のヘンリー・ドルトンが事業に参加してから大きく飛躍します。ヘンリーは蒸気機関を轆轤(ロクロ)に応用して生産効率を劇的に向上させ、排水設備やトイレなどの大量生産で成功を収めました。
参考)フリーダイヤル

1877年からはボーンチャイナを取り入れ、芸術的なテーブルウェアの創造に乗り出します。ヘンリー・ドルトンはロンドンの都市化に大きく貢献した功績が認められ、1887年にヴィクトリア女王より陶工として初めてのナイト称号を授与されました。そして1901年にはエドワード7世よりロイヤルの称号を与えられ、社名を「ロイヤルドルトン」とすることが許されたのです。
参考)ROYAL DOULTON(ロイヤル・ドルトン)買取|ブラン…

ドルトンの原子説と陶磁器製造技術の関連性

一見無関係に見える倍数比例の法則と陶磁器製造ですが、19世紀のイギリスでは化学の知識が産業革命の中で実用技術と密接に結びついていました。ドルトンが原子説を発表した1808年は、産業革命によってイギリスの製造業が急速に発展していた時期と重なります。陶磁器製造においても、釉薬の配合や焼成温度の管理には化学的な知識が不可欠でした。
参考)https://wabbey.net/blogs/blog/royaldoulton

ロイヤルドルトンが導入したボーンチャイナの製造技術も、実は化学反応の精密なコントロールを必要とします。一般的な磁器よりも低温で2次焼成を行うことで、高温では退色してしまう顔料を使用でき、繊細な表現が可能になるのです。このような技術革新の背景には、化学の基本法則の理解が大きく貢献していました。
参考)ロイヤルドルトンのアンティーク食器 商品一覧【公式】Hand…

また、ヘンリー・ドルトンが蒸気機関を轆轤に応用したことは、熱力学や気体の法則といった物理化学の知識が製造技術に応用された好例です。化学者ドルトンが研究していた気体の性質や分圧の法則は、窯の中での気体の挙動を理解する上でも重要な知見でした。こうした科学と技術の融合が、19世紀イギリスの産業発展を支えたのです。
参考)ロイヤルドルトンとは

食器コレクターが知っておくべき倍数比例の法則の実例

倍数比例の法則を理解するための代表的な実例として、銅の酸化物が挙げられます。銅と酸素からなる化合物には酸化銅(I)と酸化銅(II)の2種類があります。酸素の質量を16gと固定すると、酸化銅(I)には銅が128g含まれ、酸化銅(II)には銅が64g含まれます。このとき銅の質量比は128:64、つまり2:1という簡単な整数比になります。
参考)定比例の法則と倍数比例の法則の違い

この法則は、窒素と酸素の化合物でも確認できます。窒素酸化物には5つの異なる種類が存在し、それぞれN₂O、N₂O₂、N₂O₃、N₂O₄、N₂O₅という化学式で表されます。一定量の窒素に対して化合する酸素の質量は、1、2、3、4、5という単純な整数の倍数関係になっており、倍数比例の法則の理想的な例となっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8872959

陶磁器の釉薬や顔料も化学物質の組み合わせですから、原理的には倍数比例の法則が適用されます。例えば青色の顔料であるコバルトの酸化物や、緑色を出す銅の化合物など、発色の美しさは化学組成の精密さに依存しています。ロイヤルドルトンが得意とする繊細な色彩表現も、こうした化学の基本法則に基づいた技術の結晶と言えるでしょう。​

倍数比例の法則が示すドルトン原子説の独創性

倍数比例の法則は、ドルトンの原子説を裏付ける重要な証拠として機能しました。当時、質量保存の法則(1774年、ラボアジエ)や定比例の法則(1799年、プルースト)は既に知られていましたが、これらの法則が「なぜ」成り立つのかという理論的な説明は存在しませんでした。ドルトンは、物質が分割できない粒子である「原子」から構成されているという仮説を立て、この仮説から倍数比例の法則が必然的に導かれることを示したのです。youtube​​
ドルトンの原子説は次の4つの要点から構成されていました。①物質はこれ以上分割できない粒子の原子からできている、②同じ元素の原子は質量も性質も等しい、③化合物は2種類以上の原子が一定の割合で結合した複合原子からできている、④化学変化は原子と原子の繋がり方が変わるだけで新しく原子が生まれることはない、という内容です。
参考)化学用語解説

ただし、ドルトンの原子説には後に誤りであることが判明した部分もあります。原子がさらに原子核と電子に分割できること、同じ元素でも質量の異なる同位体が存在すること、そして原子ではなく「分子」という概念が必要であることなどが、後の研究で明らかになりました。それでも、倍数比例の法則の発見と原子説の提唱は、近代化学の基礎を築いた革命的な業績として高く評価されています。
参考)https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/kori/science/ayumi/ayumi15.html

日本化学教育学会:ドルトンと原子の概念形成に関する詳細な学術研究
ドルトンの原子説がどのように生まれたかを詳しく知りたい方は、上記のリンクで専門的な解説を読むことができます。

 

現代の食器製造技術に生きる化学の基本法則

現代のロイヤルドルトンをはじめとする高級陶磁器ブランドでは、化学の基本法則を応用した最先端の製造技術が使われています。ボーンチャイナの白さと透明性は、牛骨灰を含む精密な配合によって実現されており、その組成比は化学的に厳密に管理されています。釉薬の発色や焼成温度の制御においても、定比例の法則や倍数比例の法則といった化学の基本原理が活かされているのです。​
ロイヤルドルトンの特徴である淡い色調と繊細な絵付けは、低温での2次焼成技術によって可能になっています。高温では退色してしまう顔料でも、適切な温度管理によって美しい発色を保つことができます。これは化学反応の速度や平衡が温度に依存するという化学の原理に基づいた技術です。
参考)フリーダイヤル

また、現代の陶磁器製造では、X線回折分析や電子顕微鏡などの最新技術を用いて、原子・分子レベルでの構造解析が行われています。これにより、従来は職人の経験と勘に頼っていた釉薬の配合や焼成条件を、科学的に最適化することが可能になりました。ドルトンが発見した化学の基本法則は、200年以上経った現在でも、美しい食器を生み出すための基盤となっているのです。​

2人のドルトンが生きた19世紀イギリスの時代背景

化学者ジョン・ドルトン(1766-1844)と陶磁器メーカー創業者ジョン・ドルトン(1793年生まれ)は、ともに産業革命期のイギリスで活躍した人物です。18世紀後半から19世紀にかけてのイギリスは、蒸気機関の発明や機械化の進展によって製造業が急速に発展し、「世界の工場」と呼ばれるようになりました。この時代、科学的な知識が実用技術と結びつき、産業の発展を支える基盤となっていました。
参考)ロイヤルドルトンhref="https://green-chan.blogspot.com/2021/10/royal-doulton.html" target="_blank">https://green-chan.blogspot.com/2021/10/royal-doulton.htmlamp;#65288;Royal Doulton)…

化学者ドルトンは、大気の研究から始まって気体の法則、そして原子説の確立へと研究を進めました。一方、陶磁器のドルトンは排水設備や衛生陶器の大量生産でロンドンの都市化に貢献し、その後テーブルウェアの芸術性を追求しました。両者とも、科学と技術の融合によってイギリス社会を変革した点で共通しています。
参考)ロイヤルドルトン - Wikipedia

「ドルトン」という姓は、イギリスでは比較的一般的な名前であり、2人の間に直接的な血縁関係はありません。しかし、同じ時代に同じ国で活躍し、それぞれの分野で革新的な業績を残した2人の「ドルトン」の存在は、19世紀イギリスにおける科学と産業の黄金時代を象徴していると言えるでしょう。陶器や食器に興味を持つ方にとって、その背景にある化学の歴史を知ることで、より深くブランドの価値を理解できるはずです。
参考)イギリス陶磁器ブランド ロイヤルドルトンとは

 

 


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