窒素酸化物排出基準と陶器焼成工程の大気環境管理

窒素酸化物の排出基準は大気環境保全に重要な役割を果たしています。陶器や食器製造での焼成工程でも規制対象となることをご存知ですか?

窒素酸化物排出基準

窒素酸化物排出基準の重要ポイント
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施設ごとの排出規制

ボイラーや焼却炉など施設の種類と規模に応じて60~950ppmの排出基準が設定されています

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総量規制基準

地域や工場ごとに窒素酸化物の排出総量を制限する規制が適用されます

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環境保全への影響

酸性雨や光化学スモッグの原因物質として厳格な管理が求められています

窒素酸化物排出基準の法的枠組みと施設分類

 

大気汚染防止法に基づく窒素酸化物の排出基準は、ばい煙発生施設の種類ごとに詳細に定められています。陶器や食器の製造工程で使用される焼成炉やボイラーなどの施設は、この規制の対象となります。排出基準は施設の種類と規模によって異なり、ガス専燃ボイラーでは燃焼能力が重油換算で50リットル/時以上の場合60ppm、4~50リットル/時では100ppm、1~4リットル/時では130ppmと細かく設定されています。
参考)窒素酸化物に係る規制基準

排出基準と比較される窒素酸化物の濃度は、標準酸素濃度に補正して算出されます。具体的には、C=(21-On)/(21-Os)×Csという計算式により、実際の測定値を基準値と比較可能な数値に変換します。この補正方式により、排出ガスを単に希釈して基準をクリアするような不適切な対策を防止しています。陶芸工房や食器メーカーにおいても、電気窯以外の燃料を使用する焼成施設では、この基準への適合が求められます。
参考)https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/air-standard_collection-files-4-3-1_haisyutu

施設の設置時期によって適用される排出基準が異なる点も重要です。昭和48年から段階的に規制が強化されており、新設される施設ほど厳しい基準が適用される仕組みとなっています。このため、陶器製造事業者が新たに窯を導入する際には、最新の排出基準を満たす設備を選択する必要があります。
参考)ばいじんとNOxの排出基準値一覧

窒素酸化物総量規制の仕組みと対象工場

排出基準に加えて、一定規模以上の工場には総量規制基準が適用されます。窒素酸化物の総量規制では、工場または事業場に設置されているすべての窒素酸化物に係るばい煙発生施設を定格能力で運転する場合に使用される燃料および原料の量を重油換算したものが、1時間あたり2.0キロリットル以上の事業場が特定工場等として規制対象となります。
参考)大阪市:大阪市総量規制に係るばい煙発生施設使用計画届出 (……

総量規制基準は、個々の施設ごとの排出基準だけでは環境基準の達成が困難な地域において導入されています。東京都や大阪府などの大都市圏を中心に適用されており、工場全体からの窒素酸化物排出量に上限が設定されます。陶器製造においても複数の焼成炉を稼働させる大規模な工場では、この総量規制への対応が必要になります。
参考)窒素酸化物(NOx)総量規制の導入| 石油危機と安定経済成長…

総量規制基準の算出方法は、ばい煙発生施設を定格で運転する場合における窒素酸化物の許容排出量として定められます。地域の大気環境の状況に応じて、通常の総量規制基準よりさらに厳しい特別の総量規制基準が適用される場合もあります。このため、事業者は立地する地域の規制内容を十分に確認し、計画的な排出管理を行うことが求められます。
参考)窒素酸化物・硫黄酸化物対策に関する指導要綱/千葉県

窒素酸化物が環境と健康に与える影響

窒素酸化物(NOx)は、主に一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO₂)から構成され、大気環境に深刻な影響を及ぼす物質です。二酸化窒素は赤褐色の刺激臭を持つ気体で、高濃度になると人の呼吸器系に悪影響を与えることが知られています。喉や気管、肺などの呼吸器を刺激し、気管支炎や喘息などの原因となります。
参考)排出物質:窒素酸化物(ちっそさんかぶつ)|わたしたちの生活と…

窒素酸化物は酸性雨の原因物質でもあります。大気中で水分と反応して硝酸となり、これが降水として地上に降り注ぎます。酸性雨は森林を枯らし、水質汚染を引き起こし、土壌の酸性化を進めます。農作物の生育にも悪影響が出るため、生態系全体に深刻なダメージを与える恐れがあります。陶器や食器の表面処理に使用される釉薬の原料採取地域でも、酸性雨による環境影響が懸念されます。
参考)窒素酸化物の環境影響と排煙脱硝装置を用いた対策の重要性

さらに、窒素酸化物は太陽光の紫外線と反応して光化学オキシダントを生成し、光化学スモッグの原因となります。これにより視界が悪化し、目や喉に刺激を与え、呼吸器疾患のリスクが高まります。二酸化窒素に係る環境基準が国によって設定されているのは、これらの健康影響を看過できないためです。
参考)https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/s51/2086.html

窒素酸化物低減のための燃焼技術と処理装置

窒素酸化物の排出を抑制するには、発生源での対策と排出後の処理の両面からのアプローチが必要です。まず重要なのが低NOx型燃焼技術の導入です。この技術は、燃焼時における酸素濃度の調整や燃焼温度の最適化によって、窒素酸化物の生成を抑制します。
参考)排ガス処理装置でNOx対策を強化!排出量削減方法も解説

具体的な方法としては、低空気比燃焼、空気予熱温度の低下、二段燃焼、排ガス再循環(EGR)などがあります。低NOxバーナーは代表的な技術で、火炎の分割や混合の工夫により、局所的な高温域を避けることで窒素酸化物の発生を抑えます。陶器の焼成工程でも、これらの燃焼改善技術を適用することで排出量を削減できます。
参考)https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=viewamp;serial=1826

排出後の処理としては、排煙脱硝装置が効果的です。選択的触媒還元法(SCR)は、アンモニアなどの還元剤と触媒を使って、窒素酸化物を窒素と水に分解する方法です。また、無触媒脱硝法(SNCR)は触媒を使わずに高温域で還元剤を噴霧することで脱硝を行います。ただし、燃焼条件の調整によって窒素酸化物が減少する一方で、一酸化炭素やばいじんが増加する可能性もあるため、全体のバランスを見ながらの最適化が求められます。
参考)https://www.env.go.jp/earth/coop/coop/document/02-apctmj1/02-apctmj1-0708.pdf

窒素酸化物測定方法と監視体制

窒素酸化物の排出基準への適合を確認するため、適切な測定方法が定められています。日本産業規格(JIS)K0104に定める方法による測定が基本とされ、連続分析法を用いる場合はJIS B7982に定める自動計測器を使用します。測定方法には、化学発光法や吸光光度法、紫外線吸収法などがあります。
参考)5-1-3 窒素酸化物計測器|JEMIMA 一般社団法人 日…

化学発光法(乾式測定法)は、一酸化窒素とオゾンの反応により生じる化学発光を検出する方式で、現在広く使用されています。吸光光度法(湿式測定法)は、ザルツマン試薬を用いて試料大気中の窒素酸化物を吸収させ、吸収液の吸光度を測定する方式です。紫外線吸収法は、窒素酸化物による紫外線の吸収量の変化を光電的に測定する方式です。
参考)https://www.nies.go.jp/igreen/explain/air/sub.html

測定は定期的に実施する必要があり、窒素酸化物については2か月を超えない作業期間ごとに1回以上の測定が求められる場合があります。総量規制基準が適用される特定工場等では、より頻繁な測定と報告が義務付けられています。陶器製造事業者も、これらの測定義務を遵守し、適切な排出管理を行うことが重要です。継続的な監視により、環境負荷を最小限に抑えながら、安定した生産活動を維持することができます。
参考)ばい煙の排出規制

陶器焼成における窒素酸化物管理の実践方法

陶器や食器の製造工程では、焼成炉が主要な窒素酸化物発生源となります。特にガスや重油を燃料とする窯では、燃焼温度が1200℃以上に達することが多く、高温燃焼により窒素酸化物が発生しやすい環境にあります。電気窯は熱源として電気を使用するため大気汚染防止法の規制対象外ですが、燃料燃焼式の窯は排出基準の適用を受けます。
参考)ばい煙発生施設の種類

陶芸工房や小規模な窯元でも、重油換算で50リットル/時以上の燃焼能力を持つボイラーや焼成炉を設置する場合は届出が必要です。神奈川県などでは条例により、大気汚染防止法よりも厳しい上乗せ基準を設定している地域もあります。このため、事業者は国の基準だけでなく、地方自治体の条例も確認する必要があります。
参考)窒素酸化物の規制基準2|横須賀市

排出基準を遵守するための実践的な対策としては、まず燃料の選択が重要です。有機窒素化合物含有率の低い燃料を使用することで、窒素酸化物の発生を抑制できます。次に、焼成温度の管理と燃焼条件の最適化が効果的です。局所的な高温域をなくし、燃焼温度を適切に制御することで排出量を削減できます。また、定期的な設備点検とメンテナンスにより、常に良好な燃焼状態を維持することが大切です。​
環境省のばいじんとNOxの排出基準値一覧では、施設種類ごとの詳細な基準値を確認できます
窯の新設や更新を検討する際には、低NOx型バーナーを搭載した最新の焼成設備を選ぶことで、初期段階から排出基準に適合した運用が可能になります。大規模な製造拠点では、排煙脱硝装置の導入も検討すべきです。これにより、製品の品質を保ちながら環境負荷を低減し、持続可能な陶器・食器製造が実現できます。​
窒素酸化物の排出管理は、陶器や食器製造業においても重要な環境課題です。適切な燃焼技術の導入と継続的な測定・監視により、法規制を遵守しながら質の高い製品づくりを続けることができます。環境保全と事業活動の両立を目指し、計画的な対策を進めることが求められています。