実は、オールドノリタケのカップ&ソーサーは当時の日本では一度も売られていませんでした。
オールドノリタケとは、1884年(明治17年)から第二次世界大戦終結の1945年(昭和20年)までの約60年間に、森村市左衛門を創始者とする森村組(前期)と日本陶器(後期)が製造した磁器製品の総称です。現代の「ノリタケ」ブランドとは、製造方法も背景も根本的に異なります。
ノリタケ誕生のきっかけは、幕末に鎖国が解かれた日本から大量の金が海外に流出していたことでした。危機感を抱いた森村市左衛門は、福沢諭吉の助言を受けて「貿易で外貨を稼ぎ、日本の金銀を取り返す」という方針を打ち立てます。その結果、1876年から海外での陶磁器販売を始め、1904年に名古屋に日本陶器合名会社を設立。アメリカ向けに高品質な洋食器を輸出していきました。
特筆すべき点は、オールドノリタケのカップ&ソーサーは国内で一般販売されたことが一度もなかったという事実です。製造期間の約60年間、ほぼすべての製品がアメリカを中心とした海外市場に向けて出荷されていました。そのため当時の日本人には目に触れる機会がほとんどなく、国内でのコレクターが増えたのは1990年代に入ってから。「アンティーク誌」や「婦人雑誌」に取り上げられてから「オールドノリタケ」という呼び名が定着したとされています。
一方、輸出先のアメリカでは、1970年代にすでに専門誌が発行されるほど骨董愛好家の間でブームが起きていました。これが、オールドノリタケが「日本国内よりも海外で先に評価された陶磁器」である理由です。
アンティーク食器・オールドノリタケの詳しい歴史については、軽井沢のアンティークショップ「ベルリネッタ」による元ノリタケデザイナーへのインタビュー記事が参考になります。
【アンティーク入門:vol.11】オールドノリタケの価値と魅力|ベルリネッタ軽井沢
オールドノリタケのカップ&ソーサーが現代の量産食器と一線を画す最大の理由は、職人が一つひとつ手作業で施した絵付け技法にあります。これらの技法は今では再現が難しく、それが稀少価値と直結しています。
代表的な技法として、まず「盛上(もりあげ)技法」が挙げられます。ケーキのデコレーションのように、泥漿(でいしょう)と呼ばれる液状の素地材料をチューブ状の道具「一陳(いっちん)」で絞り出し、ふっくらとした点や線を描いていく方法です。完成まで数ヶ月を要する作品もあったとされており、職人技の極致といえます。
「金盛技法」は、盛上で描き出した模様に筆で金液を塗り重ねていく技法で、金の浮き彫りのような効果を生み出します。カップの縁や取っ手周辺にこの技法が施された作品は、特に人気が高く買取相場も高くなる傾向があります。
さらに「エナメル盛技法」は、宝石のような透明感とガラス状の光沢を持つ盛上で「宝石盛」とも呼ばれ、ブルー・ピンク・ブラウンなどの色で施されます。アールヌーボー期(1900年代初頭)の作品に多く見られます。
「ラスター彩」はアールデコ期(1920〜30年代)の作品に特徴的で、虹色に輝く金属光沢が現代では再現が非常に難しい技法です。元ノリタケデザイナーである齋藤秀雄氏(国家資格陶磁器製造技能士1級)は「ラスター彩の発色の鮮やかさと独特の光沢がノリタケ・アール・デコの最大の魅力」と語っています。
これらの技法の多くは、明治時代の職人が手作業で量産する前提で生み出されたものであり、現代の転写シール技術とは根本的に異なります。つまり、オールドノリタケのカップ&ソーサー1客には、1人の職人の数日〜数週間分の仕事が込められている、ということです。
ノリタケ公式による技法と現代への継承については以下のページで詳しく解説されています。
デザイン・技法 次代へと継承されていく職人技|ノリタケ食器公式
オールドノリタケに興味を持ったとき、最初にぶつかる壁が「裏印(バックスタンプ)」の読み方です。裏印は製品の底面に印刷・刻印されたマークで、製造年代・販路・品質を示す重要な情報源となります。
まず知っておきたいのは、オールドノリタケのバックスタンプは約30種類以上存在し、大きく「Nipponもの(ニッポンもの)」と「Noritakeもの(ノリタケもの)」の2系統に分かれるという点です。1921年以前に製造されたアメリカ輸出品には「Nippon」表記が入り、それ以降は「Noritake」表記に切り替わりました。これは当時のアメリカの関税法(マッキンレー法)が「原産国名の英語表記」を義務付けていたためで、「Nippon」を日本語の英語読みとみなしてアメリカが輸入禁止にしたことが転換点となっています。
年代別の主な裏印の目安として、以下のような流れがあります。
偽物の見分け方として重要なのは、印刷の精度と色味です。本物のバックスタンプは当時の手作業または手動プレスで押されているため、わずかにかすれやにじみが出るのが特徴です。鮮明すぎる印刷や現代的なフォントが使われているものは要注意です。また、質感と重さも判断基準になります。オールドノリタケは磁器(ポーセリン)で作られており、手に取ったとき一定の重さと滑らかさを感じるはずです。
バックスタンプを確認したい場合は、専門的に解説している資料として、アンティーク食器専門店「アンティークテーブルウェア」の詳細解説ページが参考になります。
オールドノリタケの食器(ティーカップ)の歴代バックスタンプ(刻印・マーク)を解説|アンティークテーブルウェア
オールドノリタケのカップ&ソーサーを売却や評価する際、「一体いくらになるのか」は誰もが気になるポイントです。結論からいえば、相場は1客数百円〜数十万円と幅が非常に大きく、年代・デザイン・状態・セット枚数の組み合わせで大きく変わります。
過去の買取実績をもとにした参考相場は以下の通りです(買取価格のため、販売価格はより高くなります)。
| 品名・種類 | 買取参考相場 |
|---|---|
| チョコレートポット カップ&ソーサー | 〜24,000円前後 |
| 花鳥文 コーヒーセット | 〜25,000円前後 |
| 幾何学文 モカセット | 〜45,000円前後 |
| 風景文 モカセット | 〜60,000円前後 |
| 伊万里写 カップ&ソーサー | 〜70,000円前後 |
| 百老文 コーヒーセット | 〜90,000円前後 |
| ジュールフライングスワン カップ&ソーサー | 42,000円前後 |
参考:エアリユース・日晃堂・ヒカカク!各社買取実績
高額査定につながる条件は大きく3つあります。まず「年代の古さ」です。1921年以前の「Nipponもの」、特に1910年以前の作品はそれ以降のものと比べて希少価値が高く、同じデザインでも査定額が数倍になることがあります。次に「デザインと技法」です。盛上・金盛・エナメル盛・ラスター彩などの手作業技法が施されたものは評価が高く、特にアールヌーボー期の繊細な絵付けは現代でも再現不可能なため、コレクター需要が非常に高い状態です。
3つ目は「状態と付属品」です。カップとソーサーがセット、さらに元箱付きであれば査定額が大幅に上がります。欠けやひびは減額対象ですが、希少なシリーズであれば多少の傷があっても買取可能なケースがあります。金彩の剥がれは特に減点が大きいため、保管時は金彩部分への強い摩擦や食洗機の使用に注意が必要です。
査定前に裏印の種類を写真に撮り、シリーズ名や年代の特定をしておくと、スムーズに高額査定が期待できます。これが条件です。
オールドノリタケの買取おすすめ業者・買取相場まとめ|高く売れるドットコム
オールドノリタケのカップ&ソーサーというと「飾る」か「売る」かという発想になりがちです。しかし、実際のコレクターやアンティーク食器の専門家の間では、「使わずに飾る」という楽しみ方が主流になりつつあります。これは意外な事実かもしれません。
特にデミタスカップ(エスプレッソ用の小ぶりなカップ)のオールドノリタケは、一般的なコーヒーカップよりもひとまわり小さいため、棚やガラスケースに複数並べて飾りやすいという特性があります。デミタスカップの容量はおよそ60〜90ml程度(一般的なコーヒーカップの約半分)であり、飾るスペースを取らないため、マンションの限られたスペースでも実現しやすいコレクションスタイルです。
実際、アンティーク食器専門店「アンティークテーブルウェア」の店長・妹尾氏は「デミタスカップを購入されるお客様の多くはインテリア目的」と語っており、「輸出用作品は実用使いではなく装飾が華やかなのでインテリアに向いている」と述べています。つまり、オールドノリタケのカップ&ソーサーは、使うための食器ではなく「見る食器」として設計されていた側面が強かったわけです。
インテリアとして取り入れる場合、飾り方のポイントが2つあります。まず「異なるパターンを複数並べる」こと。アールヌーボー期の花柄とアールデコ期の幾何学模様を並べることで、明治〜昭和にかけてのデザインの変遷が視覚的に楽しめます。次に「光の当て方」です。金彩やラスター彩は光の方向によって見え方が大きく変わるため、スポットライトやLED照明が効果的です。
また、「使って楽しみたい」という場合は、金彩がないシンプルなデザインを選ぶのが賢明です。金彩があるものへの食洗機使用は厳禁で、食洗機1回で数万円の価値が損なわれる可能性があります。これが大きなデメリットです。手洗い・自然乾燥が保管の基本と覚えておけばOKです。
コレクション入門として手の届きやすい価格帯を探している場合、メルカリやヤフーオークションでの過去180日間の「オールドノリタケ カップ&ソーサー」落札件数は43件、平均落札価格は約6,476円(ヤフオクションデータより)となっており、1万円以下でも良質な品に出会える機会は意外と多いです。
さらに発展的なコレクションや本格的な鑑定に興味が出たら、名古屋にある「ノリタケの森」ミュージアムを訪れることをおすすめします。当時のデザイナーが手描きした画帖類100点余りが常設展示されており、オールドノリタケの技法や歴史を深く学べる場所として、コレクター・陶器愛好家の間で高く評価されています。
ノリタケの森 公式サイト|ミュージアム・常設展示情報(名古屋)

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