日本陶器ノリタケの歴史は、1876年に森村市左衛門が東京で貿易商社「森村組」を創業したことに始まります。市左衛門は「海外へ流出した日本の富を、国のために貿易によって取り戻したい」という強い使命感を持ち、弟の豊がニューヨークで経営する雑貨店「モリムラブラザーズ」へ漆器や陶磁器などの日本雑貨を送る日米直輸出貿易を開始しました。
参考)ノリタケの歴史 日本陶器合名会社の設立
当初は大八車をひいて全国の古道具屋を駆け回る日々でしたが、米国での売上躍進とともに事業は拡大していきます。1889年のパリ万博では欧米の高い製陶技術と美しい画付けに感銘を受け、日本でも純白の陶磁器を作ることを目指すようになりました。当時の日本の陶磁器は青みを帯びた灰色だったため、これは大きな挑戦でした。
参考)STORY 0 父と共に築いた “製陶王国”の礎 - 大倉和…
1904年1月1日、市左衛門たちは愛知県愛知郡鷹場村大字則武を本社所在地として日本陶器合名会社(現ノリタケ株式会社)を創立しました。この「則武」という地名が後に「ノリタケ」ブランドの由来となります。白色硬質磁器の研究は困難を極めましたが、1903年に孫兵衛らが渡欧し、オーストリアやドイツで焼成法を学び、天草陶石を用いることが白色硬質磁器の製造に有効であることを知りました。
参考)ノリタケ - Wikipedia
ノリタケの最大の特徴は「白」へのこだわりです。ノリタケが開発した白色硬質磁器は、良質な原料を使用し高温で焼成することで、硬く、白色度の高い艶やかな輝き、優れた透光性を実現しています。
白色硬質磁器は日本のように明るい照明が好まれる空間で際立ち、やや青みがかった清々しい「白」が特徴です。この美しい白さは和食との相性も抜群で、日本の漆器などと組み合わせても違和感なく調和します。1914年には日本初のディナーセットを完成させ、洋食器製造の先駆者となりました。
参考)ノリタケとは?食器ブランドとしての魅力や歴史について解説
製造工程では生地製造から絵付けまでの全工程を自社内に持ち、厳しい品質チェックを行っています。原料開発から始まり、豪華絢爛な装飾や繊細な絵付け、成形など、熟練の職人による高い技術力がノリタケの食器を支えています。
参考)特集 ノリタケとはじめる新しい暮らし
ノリタケを語る上で欠かせないのが「ボーンチャイナ」です。ボーンチャイナは18世紀の英国で最初に作られた磁器の一種で、原料に牛のボーンアッシュ(骨灰)を配合することが特徴です。日本では1932年にノリタケが初めてボーンチャイナの製造に成功しました。
参考)ノリタケのこだわり 理想の「白」を追い求めて
ボーンチャイナは原料に骨の成分が含まれるため粘度が低く、成形が難しいとされています。しかしノリタケのボーンチャイナは、しっとりした気品を感じさせる温かみのある肌合い、清純な透光性と艶やかな光沢を備えており、表面に施されたデザインを一層格調高いものにしています。
白色硬質磁器が青みがかった白色であるのに対し、ボーンチャイナはやわらかく温もりを感じさせる乳白色が特徴です。空間をやわらかく照らす間接照明の空間にしっくり馴染み、特に黄色がかった照明のもとでは美しく映えます。現在も「ノリタケの森」内のクラフトセンターでボーンチャイナの製造工程を見学することができます。
参考)クラフトセンター・ノリタケミュージアム - 文化と出会い、森…
ノリタケは200種類以上のシリーズを展開しており、用途や好みに応じて選べる豊富なラインナップが魅力です。
人気シリーズランキング
参考)ノリタケの食器はなぜ愛される?その魅力とおすすめ商品7選! …
選び方のポイントとしては、白色硬質磁器とボーンチャイナのどちらを選ぶかがまず重要です。日本のような明るい照明空間では白色硬質磁器の美しい白さが際立ち、温かみのある照明空間ではボーンチャイナの乳白色が美しく映えます。
ノリタケの食器を美しく長く使用するためには、適切なお手入れが重要です。
基本的な手入れ方法
参考)【NORITAKE】ノリタケの食器は食洗器OK?!電子レンジ…
食器洗い乾燥機の使用について
家庭用食器洗い乾燥機の使用は可能ですが、機器の取扱説明書をよく読んだ上で正しく使用する必要があります。食洗機内で食器同士がぶつかるとヒビ・カケや表面を傷つける原因になるため注意が必要です。永く美しく使用するためには手洗いが推奨されています。
頑固な汚れの対処法
茶渋などの頑固な汚れには台所漂白剤を使用できますが、絵柄に悪影響を及ぼす可能性があるため、必ず酸素系漂白剤を選び、取扱説明書をよく読んで正しく使用してください。
オールドノリタケなどアンティーク食器の場合は、シンクの底にタオルまたはマットを敷き、ぬるま湯を張って柔らかい布で一度に一品ずつ丁寧に洗うことが推奨されます。
ノリタケの食器には「金彩」「ラスター彩」「エナメル盛」「盛上」「金盛」「金点盛」「モールド」「玉子ボカシ」など、数え切れないほどの伝統技法が用いられています。
代表的な製造技法
参考)オールドノリタケ・アールヌーボー様式の製作技法|株式会社 栄…
1909年には従業員の技芸の進歩を目指し、社内教育機関として洋画科、日本画科、彫刻科からなる「技芸科」が設置されました。この技芸科は近年まで継続され、長年にわたり多くの絵付け技能者(ペインター)の育成に貢献しました。熟練技能者が手描きで絵付けした飾り皿は特に工芸性が高く、大正末期から昭和50年代にかけて製作された作品がノリタケミュージアムに残されています。
参考)ノリタケミュージアム 過去の企画展 - 文化と出会い、森に憩…
オールドノリタケの価値
1953年までに製造されたノリタケ食器を「オールドノリタケ」と呼び、アンティーク食器として高い人気があります。明治時代や大正時代のものは希少価値が高く、高額で取引されることも珍しくありません。金彩シリーズや染付シリーズなど、伝統的な技法を用いたものは特にコレクターから人気を集めています。
参考)日本を代表する食器メーカー「ノリタケ」
ノリタケは皇室御用達の高級食器ブランドとしても知られています。1910年には宮内省への納入を開始し、海軍省、三井家・住友家などの財界にも製品を納めるようになりました。
ホテル・レストラン関係への納品は1911年頃から始まり、帝国ホテル(東京)や精養軒(東京)などで採用されました。特に帝国ホテルでは、フランク・ロイド・ライト氏がデザインした有名な日本陶器製水玉模様の製品が使用されました。
一流ホテルにも選ばれる信頼のクオリティは、生地・絵付け材料の開発からデザイン、成型、絵付けなど全ての工程を自社内に持ち、厳しいチェックを行うことで実現されています。ノリタケの食器は盛り付ける料理も誤魔化しが効かないほどの美しさを持ち、「食のプロ」に愛される食器として定評があります。
グループ会社には大倉陶園という超高級食器を扱うメーカーもあり、こちらも皇室御用達として日常的に使うよりは鑑賞用としての立ち位置を持っています。大倉陶園とノリタケはともに森村財閥から生まれたブランドですが、大倉陶園はより高級路線、ノリタケは幅広い製品ラインを持つという違いがあります。
参考)大倉陶園とノリタケの違いを徹底比較|高級食器の魅力紹介
ノリタケの森で体験する文化
愛知県名古屋市西区則武新町にある「ノリタケの森」は、2001年10月5日に開場した複合施設です。「文化と出会い、森に憩う。」をコンセプトに、既存の建物を改装・補強して再利用したことが特徴です。
参考)次世代につなぐ持続可能な地域づくりに向けて ~「ノリタケの森…
施設内のクラフトセンターでは、ボーンチャイナの製造工程から絵付けまでを見学でき、絵付け体験も可能です。ノリタケミュージアムでは明治から昭和初期に作られた「オールドノリタケ」や画帖(デザイン画)をはじめ、数々のテーブルウェアが展示されています。入館料は大人500円、65歳以上300円、高校生以下無料で、営業時間は10:00~17:00(月曜休館、祝日の場合は翌平日)です。
参考)ノリタケの森 クラフトセンター
ノリタケ製品のアウトレットショップもあり、お土産選びの場としても人気です。地域貢献を目指し、市街に緑・公園を提供してものづくりを体験する場を併設したこの施設は、名古屋政財界が提唱する「産業文化観光」の拠点の一つとなっています。
参考)https://www.jalan.net/kankou/spt_23104cc3340045007/