硬質磁器は1300℃から1400℃の高温で焼成され、カオリンを多量に含む良質な粘土を原料とします。カオリンとは、中国の景徳鎮周辺の高嶺という地名に由来する白い粘土鉱物で、磁器の美しい白さを生み出すために欠かせない原料です。この高温焼成により、原料に含まれる長石が溶けてガラス化し、石英と結びつくことで、非常に硬く緻密な構造が形成されます。
参考)軟質磁器と硬質磁器の違いなどアンティーク雑貨事典で紹介|なら…
硬質磁器の素地はムライトやクオーツといった結晶鉱物を含み、吸水性がほとんどなく、叩くと金属的な澄んだ音がします。日本の有田焼や九谷焼、清水焼などが代表的な硬質磁器で、食器類や建築用タイルなど、実用的なものに多く用いられています。
参考)https://www.ceramic.or.jp/museum/contents/pdf/life06.pdf
軟質磁器は1200℃前後の比較的低温で焼成され、フリット質を多く含むため透明性が高いのが特徴です。カオリンを全く含まないか極めて少なく、長石や石灰、ガラス質の物質が多く配合されています。この原料配合により、白く緻密で透光性に優れる一方、硬質磁器と比べて軟らかくキズがつきやすい性質があります。
参考)磁器|建築の小辞典|住宅総合リフォーム アールウィル
硬質磁器と軟質磁器の製造工程には大きな違いがあります。硬質磁器は素焼品が高い吸水性を持つため施釉はディップ掛けで行い、1回の本焼で素地の磁器化と釉薬の溶融を同時に行います。一方、軟質磁器は締焼品が吸水性を持たないためスプレー掛けで施釉し、素地の磁器化(締焼)と釉薬の溶融(釉焼)を別々の温度で焼成する二段階方式です。
16世紀末からフランスやベルギーで作られたフリット磁器や、19世紀以降のセーヴル磁器が代表例ですが、焼成中に変形しやすいという欠点から現在ではあまり作られていません。
参考)軟質磁器 - Wikipedia
ボーンチャイナは18世紀半ばにイギリスで発明された特殊な軟質磁器で、牛の骨灰を陶土に混ぜて製作されます。骨灰に含まれるリン酸カルシウムがガラス質となり、磁器の性質に近づきます。通常の硬質磁器が青みがかかった白色であるのに対し、ボーンチャイナは乳白色の温かみのある下地と非常に高い透光性が最大の特徴です。
参考)http://www.harmony2.net/13/jk2.html
結晶構造が緻密なボーンチャイナは、薄く成形してもワレ・カケに強く、チッピング強度(縁強度)が一般磁器より優れています。薄さ・軽さと強度を兼ね備えているため、どんな場面でも扱いやすい素材です。また、特殊な釉薬を使用し2次焼成を低温で行うため、高温下で褪色する顔料を使用でき、より多くの色彩を演出できます。この特性により、美しい絵や微細な模様が刷り込まれた作品が多く制作されています。
参考)ボーンチャイナとは - 鳴海製陶株式会社
イギリスのボウ窯が動物の骨灰を利用して作ることに成功し、1770年に陶芸家ジョサイヤ・スポード氏が創業したスポード社が未完成だったボーンチャイナの質を向上させ完成させました。現在でも広く生産されている稀少な軟質磁器です。
参考)磁器と陶器の違いや特徴と歴史、その産地をざっくりまとめる -…
硬質磁器と軟質磁器は、それぞれの特性を活かした用途で使い分けることが重要です。硬質磁器は非常に硬く傷がつきにくいため、日常使いの食器や業務用食器に最適です。1300℃前後の高温で焼成された磁器は永く使用しても汚れや臭いが付きにくく、硬く耐久性もあるため、レストランやホテルなどの業務用にも幅広く使用されています。
参考)磁器の種類|WEBコラム|商品案内|杉田エース株式会社
一方、軟質磁器は白く緻密で透明性が高いため、高級食器や美術工芸品などに用いられます。特にボーンチャイナは、その優美な乳白色と透光性から特別な日のテーブルセッティングや贈答品として重宝されています。洋食器の多くが硬質磁器であるのに対し、軟質磁器は繊細で優雅な雰囲気を演出したい場合に選ぶと良いでしょう。
参考)「陶器」「磁器」「炻器」の違いと見分け方、種類と特徴とお手入…
選び方のポイントとして、毎日気兼ねなく使いたい場合は硬質磁器、特別な機会や鑑賞目的には軟質磁器を選ぶことをおすすめします。
参考)食卓用陶磁器って何?
硬質磁器と陶器を見分ける方法はいくつかあります。まず光透過性の確認で、磁器は薄い部分に光をかざすとうっすらと透けて見えますが、陶器は不透光性で全く透けません。次に叩いた時の音で判断でき、磁器は高く澄んだ金属的な音がするのに対し、陶器は低くにごった音がします。
参考)磁器 - Wikipedia
素地の違いも重要な見分けポイントです。磁器は陶石を砕いた粉に粘土を少し加えたものから作られ、素地が白く緻密で吸水性がほとんどありません。一方、陶器は粘土を主原料とし、吸水性があり素地が粗い特徴があります。同じサイズで比較した場合、磁器の方が薄手で軽く感じられることが多いのも判別の手がかりになります。
焼成温度も大きく異なり、陶器が900℃から1300℃なのに対し、磁器は1200℃から1400℃と高めです。この高温焼成により、磁器は原料中の長石が完全に溶けてガラス化し、素地全体が一体化して硬く焼き締まる「磁化」という現象が起こります。
参考)陶器と磁器の原材料と焼成温度の違い!「陶器と磁器の違い」
日本を代表する磁器ブランドとして、ノリタケは1904年創業の老舗で、日本初のディナーセットを完成させ世界から注目を集めました。明治期から第二次世界大戦終結までに製造された独特の美しさは「オールドノリタケ」と呼ばれ世界中で愛されています。日本らしさが感じられる繊細で気品あふれるデザインが特徴で、結婚式の引き出物や特別なギフトとして使われることが多いブランドです。
参考)【厳選】洋食器のおすすめ人気ブランド10選!洗練されたデザイ…
ナルミは1946年創業のボーンチャイナ専門ブランドで、薄く成形してもワレ・カケに強い特性を活かした製品を展開しています。有田焼の産地では、1894年創業の深川製磁が1900年パリ万国博覧会で最高峰の金牌を受賞し、時代や国境を越えた器づくりを続けています。
参考)有田焼 深川製磁|伝統と革新の陶磁器ブランド
海外ブランドでは、デンマーク王室御用達のロイヤル・コペンハーゲンが美しいブルーと白のみを使った気品溢れるデザインで人気です。日本の古伊万里に影響されたという背景もあり、レースを思わせるような繊細な絵付けが施されています。
ブランド選びのポイントとして、日常使いには国産の硬質磁器ブランド、特別な日には軟質磁器のボーンチャイナブランドを選ぶと良いでしょう。
参考)日本の有名陶器ブランド9選!人気陶磁器メーカーや伝統工芸から…
磁器は吸水性がないため、使い始めは陶器のような目止め処理は不要で、サッと洗った後すぐに使用できます。しかし、高台(器の底、テーブルと接する部分)の状態を確認し、必要に応じてサンドペーパーで磨くか、2つの器の高台同士を擦り合わせて滑らかにするとテーブルに傷がつきにくくなります。
使用後の汚れは早めに落とすことが重要です。柔らかいスポンジと中性洗剤で洗い、色絵や金彩などは傷がつきやすいため強く洗わないよう注意します。研磨剤入りのスポンジ、金属たわし、クレンザーは金彩や上絵付けに傷がついたり剥げたりする原因になるため使用を避けましょう。
参考)磁器のお手入れ
茶しぶや水垢の頑固な汚れは、酸素系漂白剤を定められた条件で使用して除去します。メタルマーク(ナイフ・フォークなどの金属跡)は、指先にざらつきを感じない程度の液体クレンザーで落としますが、完全には落ちないこともあります。特にチタン製のカトラリーは金属成分が付着しやすいため使用を控えることをおすすめします。
参考)有田焼 器のお手入れ方法|ふるさとチョイス - ふるさと納税…
洗浄後はよく乾かして、湿気の少ないところに保管することで長く美しい状態を保てます。多くの硬質磁器は食洗機や電子レンジに対応していますが、金銀彩などの装飾があるものは使用前に確認が必要です。
日本セラミックス協会の食器に関する詳細資料
硬質磁器と軟質磁器の製造工程の違いや、素地中の結晶鉱物の分析データが詳しく解説されています。
日本陶磁器工業組合連合会の食卓用陶磁器解説
硬磁器と軟磁器の分類、特徴、用途について専門的な情報が掲載されています。
ナルミ公式サイトのボーンチャイナ解説
ボーンチャイナの特性、薄さと強度の秘密、取り扱い方法が詳しく紹介されています。