アールヌーボー アールデコ 違いと陶器デザイン特徴

アールヌーボーとアールデコの違いをご存知ですか?曲線美と幾何学模様、自然モチーフと直線デザイン、それぞれの時代背景や陶器ブランドの特徴を詳しく解説します。あなたはどちらのスタイルがお好みですか?

アールヌーボー アールデコ 違い

この記事で分かること
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デザイン様式の違い

曲線的で装飾豊かなアールヌーボーと、直線的で合理的なアールデコの対照的な特徴

時代背景と流行期

19世紀末から20世紀初頭のアールヌーボーと、1910〜1940年代のアールデコの歴史的変遷

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陶器ブランドと作家

エミール・ガレやクラリス・クリフなど、両様式を代表する陶器作家の作品特徴

アールヌーボーの曲線的デザイン特徴

アールヌーボーは19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパで流行した芸術様式で、「Art(芸術)+ Nouveau(新しい)」を意味します。最大の特徴は、花や植物などの有機物をモチーフにした流れるような曲線的デザインです。ベルギーでは、このくねくねとした曲線的なデザインから「ウナギ様式」と表現されていたほど、曲線美が際立っています。
参考)https://antique-tableware.com/blogs/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%8C%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%BC-%E3%81%A8-%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%B3-%E3%81%AE%E9%81%95%E3%81%84%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%81%A9%E3%81%93%E3%81%AA%E3%82%93%E3%81%A0%E3%82%8D%E3%81%86

 

デザインは繊細でエレガント、装飾性が非常に高く、職人の高度な技術によって生み出されていました。鉄やガラスといった当時の新素材を積極的に取り入れながら、自然の美しさを表現した有機的なフォルムが追求されました。パリの地下鉄の入り口に見られる植物モチーフの曲線的な装飾は、アールヌーボーの代表的な建築装飾として知られています。
参考)https://allabout.co.jp/gm/gc/477083/

 

アールヌーボーには、モチーフによってパリ派とナンシー派という2つの流派が存在しました。中心地はベルギーのブリュッセルとフランスのパリで、そこからヨーロッパ全土へと広がっていきました。流行時期は19世紀末から20世紀初めという短期間でしたが、その影響は建築、工芸品、グラフィックデザインなど多岐にわたる分野に及びました。
参考)アールヌーボーとアールデコ — 二つの美の系譜 href="https://westwood-jp.com/apps/note/%E3%80%8C%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%8C%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%80%8C%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%B3%E3%80%8D/" target="_blank">https://westwood-jp.com/apps/note/%E3%80%8C%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%8C%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%80%8C%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%B3%E3%80%8D/amp;#8211…

 

アールデコの幾何学模様と直線美

アールデコは1910年から1940年頃にかけて流行した芸術様式で、「Art(芸術)+ Déco(装飾)」を組み合わせた言葉です。第一次世界大戦と第二次世界大戦の間に流行したことから「大戦間様式」、または1925年のパリ万博(現代産業装飾芸術国際博覧会)をきっかけに世界へ広まったことから「1925年様式」とも呼ばれています。
参考)家具における「アールヌーボー」と「アールデコ」|オーダー家具…

 

デザインの特徴は直線的で、幾何学模様を多用したモダンな表現です。中心の点から放射状に伸びる線、正円や円弧、連続的な波模様のような幾何学的パターンが頻繁に用いられました。イメージとしては機能的で合理的、装飾性はアールヌーボーと比べると抑えられており、大量生産に対応した実用的なデザインが追求されました。
参考)【3分でわかる】アールヌーボーとアールデコとの違い - アー…

 

カラーリングは金や銀、赤と黒といったメタリックな印象が強く、家具では木材や大理石のような自然素材とメタル素材の組み合わせがよく見られます。中心地はヨーロッパに加えてアメリカのニューヨークへと拡大し、クライスラービルやエンパイアステートビルディングなどの建築物にその特徴が顕著に表れています。エジプトの古代文化の影響も反映されており、葦をベースに孔雀の羽を広げたような扇形のパターンが代表的なデザインとなっています。
参考)アールヌーボーとアールデコ|住む前に知っておきたい基本知識|…

 

アールヌーボー陶器ブランドと代表作家

アールヌーボーを代表する陶器作家として、エミール・ガレ(1846〜1904)が挙げられます。フランス・ロレーヌ地方のナンシーを拠点に、ガラス工芸をはじめ陶器や家具など幅広い分野の工芸作品を生み出しました。1878年のパリ万国博覧会では、ガラス工芸と陶器の部門でそれぞれ銀賞・銅賞を受賞し、その後の万博でもことごとく受賞の栄誉に輝き、国際的な名声を博しました。
参考)アール・ヌーヴォーの巨匠エミール・ガレ。その作品・代表作の特…

 

ガレの陶器は、草花などの自然を主とするモチーフを曲線的に描くことで有機的な美を創出する、既成の枠にとらわれない自由な装飾性が特徴です。花瓶や壺には自然をモチーフとした文様が多く描かれ、美しくも奇抜な曲線美に特徴があります。グラヴュール技法と呼ばれる新技法を用い、斬新な視点と独特の感性でこれまでの芸術家と異なるアプローチを取りました。
参考)エミール・ガレの生涯と功績|19世紀フランスが生んだ偉大な芸…

 

アールヌーボー食器の特徴として、直線よりも曲線を多用し、植物や昆虫、女性の曲線的な身体などをモチーフにした有機的なフォルムが挙げられます。花びらのように広がる皿や、つる草を模した持ち手、葉脈のような模様など、自然の美しさを表現したデザインが数多く見られます。また、大量生産品ではなく手作業による精巧な装飾が施されていることが多く、ステンドグラス、エッチング、金彩、銀彩など様々な技法を用いた華麗で繊細な装飾が施されています。
参考)アールヌーボーの食器とは?【特徴や価格、購入方法をご紹介しま…

 

アールデコ陶器の代表デザイナー

アールデコを代表する陶器デザイナーとして、イギリスのクラリス・クリフが挙げられます。クリフは従来のデザインを一蹴し、一見つながりのないアイデアや技法を一つの陶器に落とし込むことに長けていました。ぐらついた形状の木々や太陽光など、さまざまなモチーフを色鮮やかなキュビズムやアールデコの技法で表現しました。
参考)アール・デコや花模様の陶器を生み出した クラリス・クリフが夢…

 

クリフの商品は、芸術作品を商業事業に体現した目新しさと、一般家庭で使うための中価格設定が特に女性バイヤーの心をつかみました。アール・デコ商品の大部分は1927〜36年に生まれており、この期間の商品は大まかに「Bizarre(奇妙)」シリーズとして知られています。市場テストでは、初めて見た人に奇妙な印象を与えながらも、その独創性が高く評価されました。
日本でも、オールドノリタケがアメリカのアールデコの隆盛の一翼を担いました。虹色に輝く「ラスター彩」をまといポップな色で彩られ、愛らしい形をした陶磁器は人気を博しました。成形したばかりの素地に布を貼り付けて焼き上げ、表面をキャンバス地のような器肌にする「布目」技法や、フランスの名窯セーヴル窯を意識した濃紺の器肌が特徴的な「コバルト」技法を使った製品が製造されました。濃紺の器肌に金色のアクセントカラーがビビッドに映える、境界のはっきりとした色調が特徴です。

アールヌーボーとアールデコの見分け方ポイント

両様式を見分ける最も簡単な方法は、デザインの線に注目することです。アールヌーボー様式は曲線的で、アールデコ様式は直線的という特徴があります。フォントで比較すると分かりやすく、アールデコのロゴやフォントは定規で引いたような直線的な特徴が見られますが、アールヌーボーは柔らかい曲線が目立ちます。
参考)アールヌーボーとアールデコの違いを徹底解説!意外とわからない…

 

モチーフの違いも重要なポイントです。アールヌーボーは花や植物などの有機物、女性の柔らかな体のラインや流れるような髪の毛がモチーフとなっていますが、アールデコは幾何学模様を基本としています。曲線の使い方も異なり、アールヌーボーは自然な曲線を自由に使いますが、アールデコでは幾何学的な曲線のみが用いられ、自由度は低くなっています。
時代背景から見ると、装飾性の高いアールヌーボーは職人技が光る一品制作が中心でしたが、アールデコは工業的で大量生産に対応したデザインへと変化しました。繊細で優雅、高貴なデザインから、モダンで低コスト、単純な模様に派手な色使いといったものへと潮流が変化していったのです。流行時期も、アールヌーボーが先で19世紀末から20世紀はじめごろ、アールデコは1910〜1940年ごろと時間的な推移があります。
参考)アール・ヌーヴォーとアール・デコの違い|しじみ |デザインを…

 

アールヌーボーと日本美術の相互影響

アールヌーボーと日本美術には深い関係があり、実は日本の木版画である浮世絵、特に葛飾北斎の作品に強い影響を受けたと言われています。1880年代から1890年代にかけてヨーロッパを席巻した「ジャポニスム」により、北斎らの浮世絵はシンプルながらも山や海など自然界の花鳥風月を描き、この有機的なフォルムが多くの芸術家に感動を与えました。
参考)アールヌーボー、アールデコ~葛飾北斎のジャポニズム

 

エミール・ガレやジェームズ・マクニール・ホイッスラーなどの芸術家は、浮世絵から大きな影響を受け、それを彼らの作品に反映させていました。ウィーンやパリでの万国展覧会では日本美術も出品され、植物文様の構成方法や造形様式は印象派やアールヌーボーに大きな影響を与えたといわれています。
一方、日本側も影響を受けています。1900年のパリ万博が開催された時、留学していた洋画家の浅井忠や洋画団体白馬会の黒田清輝もパリ万博を訪れ、アールヌーボー様式のポスターなどを日本に持ち帰りました。建築の分野でも辰野金吾のような建築家が影響を受けて、ヨーロッパから帰国後にアールヌーボー様式の作品を発表しています。アールヌーボーに触発され、橋本五葉や藤島武二ら日本の芸術家たちも創作活動をおこなっていました。
日本におけるアールデコにも、日本の美術から影響を受けた側面があります。東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)はアールデコ建築の代表例として知られており、当時の文化的な豊かさを体現しています。夏目漱石の『猫』など一連の本の装幀にも、アールヌーボーの影響を受けた日本美術の特徴が見られます。
参考)アール・デコ - Wikipedia

 

陶器コレクターが知るべき建築と家具の様式展開

アールヌーボーとアールデコは陶器だけでなく、建築や家具、インテリア全般に影響を与えた総合的な芸術運動でした。アールヌーボー建築の代表作として、ベルギーの建築家ヴィクトール・オルタがブリュッセルに建設した「タッセル邸」や、スペインのガウディが作った「カサ・ミラ」が挙げられます。これらの建築は、鉄やガラスといった近代的素材を使いながら、花や植物の茎がうねるような自由曲線など自然なモチーフを印象的に使った装飾が特徴です。
参考)アンティーク調にぴったり!アールヌーボーとアールデコの違い

 

インテリアの分野では、壁紙、ステンドグラスをはじめとする照明器具、家具など、さまざまなものにアールヌーボー様式の代表的作品があります。ウィリアム・モリスの壁紙は当時のデザインが今にいたるまで引き継がれており、繊細な自由曲線を配した家具や建具も人気のアンティークアイテムとなっています。アールヌーボーのインテリアは、鉄やガラスといった新素材と、花や植物などの自然モチーフ、曲線的なラインが混ざり合って生まれました。
アールデコ建築では、ニューヨークのクライスラービルやエンパイアステートビルディングが代表的で、装飾的でありながら無機的な要素を含んでいます。日本では旧帝国ホテルのフランク・ロイド・ライト設計の中央玄関に特徴がみられます。家具や照明器具にも幾何学的なパターンと直線的なデザインが反映されており、木材や大理石のような自然素材とメタル素材の組み合わせなど、現代でも通用するデザインが多く見られます。
参考)アールヌーボーとアールデコ

 

陶器コレクターにとって、これらの建築や家具の様式を理解することは、陶器作品の時代背景や制作意図を深く理解する上で重要です。アールヌーボーは生活に関わる全般が対象となり、建築物の外装や内装、家具や食器や装飾品まで、統一された美的世界観の中で制作されました。装飾性が高く大量生産に向かないアールヌーボーは第一次世界大戦の勃発とともに衰退し、より合理的で機能的なアールデコへと移行していきました。この様式の変遷を知ることで、陶器作品の価値や希少性をより正確に評価できるようになります。
<参考リンク>
アールヌーボーとアールデコの特徴を詳しく比較した記事です。デザインの違いや時代背景について理解を深めるのに役立ちます。

 

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