ネオジム磁石は現在市場に存在する永久磁石の中で最も強力な磁力を持つ磁石です。その磁力はフェライト磁石の約8~10倍に達し、わずか直径1~2cm程度の小さなネオジム磁石でも5~10kgの吸着力を発揮します。この驚異的な強さは、高い「磁気異方性」と「飽和磁化」という2つの特性を兼ね備えているためです。
磁石が持つことのできる最大エネルギーの上限は、飽和磁化の2乗に比例します。ネオジム磁石は一軸結晶磁気異方性を持ち、一定の方向に磁化しやすく、別方向への磁化には非常に大きなエネルギーが必要となるため、磁力が一方向に保ったまま固定されます。加えて、大きい飽和磁化を持つため、単位体積当たりの磁力が極めて大きく、小型化しても十分な吸着力を得られることが特徴です。
参考)磁石ナビ
ネオジム磁石の組成は重量比でおおよそ鉄(Fe)が60~65%、ネオジム(Nd)が23~30%、ディスプロシウム(Dy)が2~10%、ホウ素(B)が1%、コバルト(Co)が3%、および微量の銅(Cu)、アルミニウム(Al)などで構成されています。鉄を多く含有しているため錆びやすい性質を持ち、一般的にはニッケルメッキなどの表面処理が施されます。
参考)https://shimonishi.net/product/magnet_kikaku01_01/
ネオジム磁石は、その優れた特性により、エレクトロニクス、再生可能エネルギー、ヘルスケア、自動車、航空宇宙など、さまざまな産業分野で応用されています。電子機器分野では、ハードディスクドライブ(HDD)のボイスコイルモーターやスピンドルモーターに使用され、高速回転するディスク上のトラックに瞬時にヘッドを動かして読み書きする駆動用モーターとして機能しています。
参考)ネオジム磁石の多様な産業用途を明らかに - Magnetic…
家電製品では、スマートフォンやオーディオ機器のスピーカー、冷蔵庫、洗濯機、掃除機などのモーターに利用され、省電力化、軽量化、小型化などに役立っています。またハンドバッグのマグネットフック、文房具など日常生活に密着した製品にも幅広く採用されています。
産業用途では、NC工作機械の回転モーターやリニアモーター、エレベーター、リニアモーターカー、マイクロ波通信、ABS(アンチロックブレーキシステム)センサなどに使用されています。特にNC工作機械では、コンピューター制御される工作ロボットにネオジム磁石が使われ、省電力で精密制御に優れているため、無人化工場での導入が大幅に増加しています。
電気自動車(EV)やハイブリッドカー(HV)の駆動用モーターや発電機のローターの中にネオジム磁石が埋め込まれており、現代の自動車産業において不可欠な存在となっています。現在量産されているEVやHEVに使われているモーターはほとんどすべてが交流モーターであり、そのなかでも永久磁石(ネオジム磁石)を使った交流同期モーターが主流です。
参考)磁石虎の巻!!EVのモーターとネオジム磁石!詳しく丁寧に解説…
ネオジム磁石の強力な磁力により、バッテリーの電力を効率よく駆動エネルギーに替えることができるため、ほとんどのHVやEVがネオジム磁石のモーター・発電機を採用しています。EV駆動用モータには非常に強い磁気エネルギーが求められるため、永久磁石の中でもっとも強力とされているネオジムマグネットが用いられており、世界最高レベルの保磁力を達成した製品も開発されています。
参考)https://www.tdk.com/ja/featured_stories/entry_009.html
自動車用途では、モーターやセンサーシステムに加えて、ABSセンサなどの安全装置にもネオジム磁石が使用されており、自動車の電動化と高性能化に大きく貢献しています。EVのモーターにとって駆動性能はバッテリーと同様に重要な生命線となり、ネオジム磁石の強力な磁力が不可欠な要素となっています。
医療分野では、磁気共鳴画像診断装置(MRI)においてネオジム磁石が重要な役割を果たしています。1987年に製品化された永久磁石MRI装置は、80年代に開発された強力な永久磁石であるネオジム磁石の登場が大きく影響しました。それまでのフェライト磁石に対しておよそ10倍のパワーを有するネオジム磁石により、MRIガントリーの質量を10分の1に低減して実用化を加速しました。
参考)高磁能積磁石によるMRI技術革新と応用|高性能・強磁力・定制…
MRIシステムは高性能ネオジム磁石を利用して、詳細な画像に不可欠な強力で安定した磁場を生成します。小型のMRI装置にはネオジム磁石が使用され、大型のMRI装置には超電導磁石が使用されています。ネオジム磁石を使った永久磁石タイプのMRIは冷却装置の必要がないコンパクトな設計が可能で、移動検診車や町の医院に数多く導入されています。
参考)磁石ナビ
永久磁石によるガントリは、開口部の上下にネオジム磁石を配置し、その上下をつなぐ鉄製のヨークとコラムから形成される閉磁路構造となっています。この構造により、永久磁石型MRIガントリの漏洩磁場範囲はおよそ2m以下と非常に小さくでき、設置環境の制約が少なくなります。また、ネオジム磁石は医療用の鉄片除去術などにも応用されており、その強力な磁力が様々な医療技術に貢献しています。
再生可能エネルギー分野では、効率的な風力タービンと発電機の製造にネオジム磁石を利用しています。高性能ネオジム磁石は風力タービン発電機を駆動し、過酷な条件下でも最大のエネルギー効率と信頼性を提供します。風力エネルギー分野は、ネオジム磁石が使用されるようになったことで革命を遂げました。
参考)ネオジム磁石による持続可能なソリューション:グリーンエネルギ…
これらの磁石は、高効率の発電機を備えた現代の風力タービンの設計において非常に重要であり、タービンをよりコンパクトにできると同時に、磁石の強さにより、より良い設計が可能になり、風からの電力生成の効率が向上します。ネオジム磁石の優れた強度と耐久性は、風力タービンや太陽光パネルの追尾システムに不可欠です。
再生可能エネルギー部門では、風力発電だけでなく、太陽光発電の追尾システムにもネオジム磁石が応用されており、グリーンエネルギーの革新の中心となっています。ネオジム磁石により、より効率的でクリーンなエネルギーの風景を作り出すことが可能になっています。これらの技術は、持続可能な社会の実現に向けて重要な役割を果たしています。
ネオジム磁石の主成分はネオジム(Nd)、鉄(Fe)、ホウ素(B)であり、ネオジム磁石の6割程度が鉄を占めるため、錆びやすい性質を持っています。外気に触れるだけでも容易に酸化し、錆びつきます。湿気・水気も厳禁です。フェライト磁石などは素地のまま使用できますが、ネオジム磁石は素地のままでの使用は錆が懸念されるため、防錆のためニッケルメッキなどの表面処理を施す必要があります。
参考)ネオジム磁石の特徴
ネオジム磁石は完成まで常に真空状態で制作され、完成後もメッキに守られて直接外気に触れない作りになっています。錆びによる組成変化によっても減磁するため、経年劣化や温度および湿度環境によって錆びが発生すると減磁へと繋がる恐れがあります。
参考)ネオジム磁石の特徴
温度特性においては、ネオジム磁石は高温には不向きです。基本的に強磁性の金属は温度が上がると、熱エネルギーによって磁束の密度や保磁力などの特性が変化し磁力を失います。永久磁石型MRIガントリ実用化の技術的な最大の障壁は、ネオジム磁石の温度変動特性でした。数ppm以下という高精度な磁場均一性を要求するMRI装置の磁石に対して、ネオジム磁石の温度変動係数は−1100ppm/°Cもあり、極めて大きな値です。そのため、耐熱用途としてはジスプロシウムやテルビウムを添加する必要があります。
ネオジム磁石の寿命は、用途、使用方法、環境によって異なりますが、適切にメンテナンスされ、指定された範囲内で使用された場合、最大20年から100年使用できます。測定データによると、最初の6年間に測定された相対磁束損失は、2208日(約6年)付近に変曲点を持ち、基本的に軽微であることが観察されています。これは、磁石の表面や内部で酸化や腐食が始まっていることを意味し、酸化や腐食の程度は時間とともに拡大していきます。
参考)ネオジム磁石の寿命は?- ネオ磁石
磁石の寿命を磁束損失率が5%に相当する時間と定義した場合、磁石が耐食コーティングされていない表面にあったとしても、現在測定されている焼結ネオジム磁石の寿命は非常に長く、控えめに見積もっても30~50年であることが示されています。ネオジム磁石は減磁に強く、長期間磁気を保持しますが、温度、湿度、磁場強度、物理的な損傷などの要因が寿命に影響を与えます。
ネオジム磁石は、過度の熱や強い電磁場、物理的な衝撃にさらされると、破損したり減磁したりすることがあります。このような状況では、磁石内の磁区がずれて性能の低下につながる可能性があり、腐食環境や強い酸化剤にさらされると、磁石の表面が劣化し、経時的な磁気強度に影響を与える可能性もあります。破損はもちろんですが、錆びによる組成変化によっても減磁するため、適切な環境で保管・使用することが重要です。
ネオジム磁石の製造方法は粉末冶金法を採用しており、(1)合金を作る、(2)合金を粉砕する、(3)粉砕粉を磁場中で圧縮成形する、(4)焼結・熱処理を行う、(5)各種加工を行う、(6)表面処理を施す、(7)検査・着磁を行う、等の工程で構成されています。この製造プロセスは高度な技術と精密な制御を必要とします。
参考)磁石ナビ
ネオジム磁石合金はおおよその重量比で、ネオジム(Nd)23~30%、ディスプロシウム(Dy)2~10%、鉄(Fe)60~65%、ホウ素(B)1%、コバルト(Co)3%、および微量の銅(Cu)、アルミニウム(Al)などの成分から構成されています。直接の磁石原料となる金属ネオジム(Nd)は、塩化物、フッ化物、酸化物などの溶融塩電解で製造され、金属ディスプロシウム(Dy)は金属熱還元法で製造されます。
ネオジウム磁石粉(Nd-Fe-B)とエポキシ樹脂を原料成分とするネオジボンド磁石という製品も存在し、用途に応じて異なる製造方法が選択されます。製造過程では常に真空状態で制作され、完成後もメッキに守られて直接外気に触れない作りになっていることが、ネオジム磁石の品質維持に重要です。
ネオジム磁石は希土類元素(レアアース)を含むため、資源の有効活用とリサイクル技術の開発が重要な課題となっています。使用済みハードディスクドライブ(HDD)からネオジムやジスプロシウムなどの希土類を含有するネオジム磁石を、脱磁せずに物理選別する技術が開発されています。この技術は、HDD内のネオジム磁石を含むボイスコイルモーターの位置を非破壊で検知し、非磁性鋼製の打ち抜き刃により、HDDを脱磁することなくネオジム磁石部位だけを回収する物理選別技術です。
参考)産総研:使用済みハードディスクドライブからネオジム磁石を回収
磁気センサーと位置センサーを組み合わせることにより、HDDの製造年やメーカー、あるいは投入の向きや裏表にかかわらず、ネオジム磁石の格納部分を瞬時に検知できます。試作機によって切り抜かれた円盤状のボイスコイルモーター部分には、ネオジム磁石がほぼ全量含まれており、円盤の重量は全HDD重量の約10分の1であり、10倍程度に濃縮されたことになります。
永久磁石MRIのリサイクルにおいても、持続可能な開発目標(SDGs)への貢献が期待されています。電気自動車や風力タービンなど、グリーンテクノロジーの生産増加に伴い、希土類元素(REE)の需要が高まっており、使用済み永久磁石は、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、ジスプロシウム(Dy)の含有量から潜在的な二次資源と考えられています。ライフサイクルアセスメント(LCA)を用いて最も持続可能な選択肢を特定する研究も進められており、環境負荷の低減が図られています。
参考)永久磁石MRIのリサイクルでSDGsへの期待 東京エコリサイ…
産業技術総合研究所:使用済みハードディスクドライブからネオジム磁石を回収する技術の詳細情報
富士フイルム:永久磁石MRIのリサイクルとSDGsへの取り組みに関する記事
ネオジム磁石の強力な磁力は、鉱石や鉱物の分離技術にも応用されています。実験室や工場では、磁性材料と非磁性材料を分離する磁気分離にネオジム磁石が使用されており、効率的な選鉱プロセスを実現しています。磁気分離技術は、鉄鉱石などの磁性鉱物を非磁性の脈石鉱物から分離する際に有効で、ネオジム磁石の高い磁力により、微細な磁性粒子も効率的に回収できます。
参考)ネオジム磁石は何に使われるのか?- ネオ磁石
鉱石に興味を持つ方にとって、ネオジム磁石の磁気特性は非常に興味深い研究対象です。希土類元素を多く含んだ希土類(レアアース)磁石であるネオジム磁石は、主流の磁石の中で最も大きな磁力を誇り、ネオジムを含む希土類元素の特性によるものです。この強力な磁力は、鉱物学や地質学の研究において、岩石や鉱物試料の磁気特性の測定や分析に利用されています。
参考)世界最強の磁石って何?|鉄くず小僧、磁石の種類を調べる。
また、ネオジム磁石は磁気浮上式航空機や永久磁気浮上式鉄道などの先端技術にも応用されており、その磁気特性は多様な分野で注目されています。磁石が作る磁界の中にコイルを組み込んだシステムは、フレミングの左手の法則に基づいて精密な位置制御を実現し、様々な産業応用を可能にしています。鉱物資源の効率的な利用や環境負荷の低減においても、ネオジム磁石の技術は重要な役割を果たしており、今後もさらなる発展が期待されています。
参考)磁石ナビ

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