黒樂茶碗は1200℃以上で焼くと割れます。
黒樂茶碗の最大の特徴は、深みのある漆黒の釉薬と、手に吸い付くような柔らかな質感です。この独特の風合いは、一般的な陶磁器とは全く異なる製法から生まれます。
通常の陶器が1200℃以上の高温で焼成されるのに対し、黒樂は約800℃という低温で焼かれます。
温度差は400℃以上。
これは焼き芋を作る温度とオーブンで肉を焼く温度くらいの違いがあります。
低温焼成により、土の柔らかさが残ります。結果として、手に持ったときに冷たすぎず、茶を飲む際に唇に当てても優しい感触が得られます。
茶道において、この触感は非常に重要です。
黒樂の釉薬には、鉄分を多く含む独特の配合が使われます。焼成中に窯から引き出して急冷する「引き出し黒」という技法により、釉薬表面に細かな貫入(ひび模様)が生まれ、深い黒色が定着します。この瞬間的な温度変化が、他の黒い陶器では再現できない独特の漆黒を生み出すのです。
つまり低温焼成が基本です。
また、黒樂茶碗は手びねりで成形されるため、ひとつひとつ微妙に形が異なります。ろくろを使わず、土を手で押し固めながら形作るため、作り手の個性や癖が作品に直接反映されます。
黒樂の歴史は、16世紀後半の安土桃山時代に始まります。初代長次郎(ちょうじろう)が、千利休の指導のもと、侘び茶の精神を体現する茶碗として黒樂を生み出しました。
長次郎は元々、瓦職人の家系に生まれました。当時の京都では、大陸から伝わった三彩技法を用いた瓦製作が行われており、長次郎はその技術を茶碗製作に応用したのです。利休が求めた「無駄を削ぎ落とした美」を実現するため、装飾を排除し、形と質感だけで表現する茶碗を作り上げました。
現存する長次郎の作品は約20点程度とされています。そのうち7点が国宝または重要文化財に指定されています。代表作「大黒」「俊寛」「検校」などは、シンプルながら奥深い造形美で知られ、茶道具の最高峰として評価されています。
長次郎の功績はこれだけです。
興味深いのは、長次郎自身は「樂」という姓を名乗っていなかったという点です。「樂」の印章と姓は、豊臣秀吉から二代目の常慶(じょうけい)に与えられたものであり、それ以降、樂家として代々受け継がれることになりました。
初代から現在の十六代吉左衞門まで、樂家は450年以上にわたり黒樂の伝統を守り続けています。各代の当主は独自の解釈を加えながらも、長次郎が確立した精神性を継承しているのです。
樂美術館公式サイトでは、歴代樂家当主の作品や黒樂の歴史について詳しい情報が公開されています。
黒樂の製法で最も特徴的なのが、約800℃という低温での焼成と、窯から引き出して急冷する技法です。この独特なプロセスが、黒樂特有の質感と色を生み出します。
まず、黒樂用の土は通常の陶土とは配合が異なります。粘土に砂や焼き物の粉(シャモット)を多めに混ぜることで、低温でも形が崩れにくい強度を確保します。
砂の割合は約30〜40%。
これはちょうど、パンの生地に対するドライフルーツの割合くらいです。
成形は完全な手びねりで行われます。ろくろを使わず、土の塊を手で押しながら形を整えていくため、1つの茶碗を作るのに数時間から数日かかることもあります。薄すぎると焼成時に割れ、厚すぎると重くなりすぎるため、絶妙なバランスが必要です。
乾燥後、素焼きを経て釉薬をかけます。黒樂の釉薬は鉄分を多く含み、どろっとした質感が特徴です。
釉薬の厚みは約1〜2mm。
塗りムラがあると焼き上がりに影響するため、均一に塗る技術が求められます。
本焼きは約800℃で行われますが、最も重要なのは窯出しのタイミングです。釉薬が溶けて表面が赤く光り始めたら、長い火箸で茶碗を窯から引き出し、外気に触れさせて急冷します。
この瞬間の温度差が700℃以上。
これが「引き出し黒」と呼ばれる技法です。
急冷により、釉薬表面に細かなひび(貫入)が入ります。
さらに、引き出した直後に灰や籾殻をかぶせる「伏せ焼き」という技法もあります。これにより、酸素の供給が遮断され、還元焼成の効果で黒色がより深くなります。
このように複数の工程が組み合わさることで、黒樂独特の風合いが完成するのです。一般的な陶芸作品と比べて、成功率は低く、経験と勘が必要とされる高度な技術といえます。
黒樂茶碗は、作家や時代によって価値が大きく異なります。本物と偽物、また歴代樂家の作品を見分けるためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
まず確認すべきは高台(こうだい)の削りです。高台は茶碗の底の部分で、ここの削り方に作家の個性が最も表れます。樂家歴代当主の作品は、高台の削りが鋭く、かつ均整が取れています。特に内側の削り込みの深さと角度に注目すると、作家の技量が分かります。
次に、釉薬のかかり具合を見ます。本物の黒樂は、釉薬が均一すぎず、わずかな濃淡やムラがあります。
これは手作業で釉薬をかけるためです。
機械的に均一な釉薬は、量産品の可能性が高いでしょう。
どういうことでしょうか?
貫入(ひび模様)の入り方も重要な判断材料です。本物の引き出し黒では、貫入が細かく、不規則に入ります。貫入線は浅すぎず深すぎず、表面を軽く撫でると指先に感じる程度の深さです。偽物では貫入が太すぎたり、逆に全くなかったりします。
印章の確認も欠かせません。樂家の作品には「樂」の印が押されていますが、この印の形状や押し方は代によって異なります。例えば、十五代吉左衞門の印は角が丸みを帯びているのに対し、十四代覚入の印はやや角張っています。印の位置や深さも、真贋判定の手がかりになります。
古陶磁専門サイトには、時代別の黒樂の特徴や印章の違いについて詳しい解説があります。
重さも判断基準の一つです。黒樂は低温焼成のため、一般的な陶器より軽めです。同じサイズの茶碗でも、高温焼成の唐津焼や志野焼と比べると、明らかに軽く感じます。ただし、軽すぎる場合は土の配合が適切でない可能性もあります。
実際に購入を検討する場合、歴代樂家当主の作品は数百万円から数千万円の価格帯です。現代作家の黒樂風茶碗は数万円から購入できますが、樂家以外の作家による作品を「黒樂」と呼ぶことは厳密には正しくありません。「黒樂写し」や「黒茶碗」と表記されるのが一般的です。
初心者が本物を見分けるのは困難なため、信頼できる古美術商や専門家の鑑定を受けることをおすすめします。
現代の陶芸愛好家にとって、黒樂は鑑賞と実用の両面で魅力的な選択肢です。しかし、その価値と実用性をどうバランスさせるかは、個人の目的によって異なります。
美術品としての黒樂は、投資対象としても注目されています。歴代樂家当主の作品は、オークションで高値で取引されることがあり、2010年代には十五代吉左衞門の茶碗が約800万円で落札された事例もあります。
これは中古車を買える金額です。
一方で、実際に茶道で使用することを前提とする場合、高額な歴代作品を使うのはリスクが伴います。茶会での使用中に破損する可能性もゼロではないため、多くの茶人は稽古用と本番用で使い分けています。
これは使えそうです。
現代作家による黒樂風の茶碗は、数万円から購入できるため、実用性を重視する方にはこちらが適しています。伝統的な樂家の技法を学んだ作家も多く、質の高い作品も見つかります。ただし、「黒樂」という名称は樂家の作品にのみ使われるため、購入時には「黒茶碗」や「黒樂写し」という表記を確認してください。
保管とメンテナンスについても考慮が必要です。黒樂は低温焼成のため吸水性が高く、使用後は十分に乾燥させる必要があります。湿気の多い場所に保管すると、カビが発生する恐れがあります。使用後は柔らかい布で水分を拭き取り、風通しの良い場所で1〜2日乾燥させるのが基本です。
茶碗を桐箱に入れて保管する際も、完全に乾燥していることを確認してください。湿気が残ったまま密閉すると、釉薬表面に白いシミ(曇り)が出ることがあります。このシミは取り除くのが難しいため、予防が重要です。
実用面では、黒樂の保温性の低さも考慮点です。低温焼成のため土の密度が低く、熱が逃げやすい特性があります。冬場の茶会では、あらかじめ茶碗を温めておくなどの工夫が必要です。
それで大丈夫でしょうか?
はい、適切な扱い方を理解すれば問題ありません。黒樂は繊細ですが、正しい知識があれば長く愛用できる道具です。
初めて黒樂を購入する方は、まず実際に複数の作品を手に取って比較することをおすすめします。百貨店の陶器市や、京都市京セラ美術館などの美術館で開催される樂焼展では、歴代作品から現代作家の作品まで幅広く鑑賞できます。
自分の手に馴染む大きさ、重さ、質感を見つけることが、長く付き合える黒樂と出会う第一歩です。価格だけでなく、実際に使うシーンを想像しながら選ぶことで、鑑賞と実用のバランスが取れた一椀に出会えるでしょう。

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