蛍石の用途工業フッ化水素製造から製鉄融剤まで

蛍石は工業分野で幅広く活用される重要な鉱物資源です。化学工業での原料から製鉄の融剤、光学材料まで多様な用途がありますが、具体的にどのような産業で使われているのでしょうか?

蛍石の用途工業

蛍石の主な工業用途
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化学工業での原料製造

フッ化水素酸の製造原料として、フッ素樹脂や冷媒などの出発物質になる

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製鉄・冶金での融剤利用

製鉄時のスラグ流動性向上や不純物除去のための融剤として使用される

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光学材料としての応用

望遠鏡やカメラレンズなど高性能光学機器の特殊材料として活用される

蛍石のフッ化水素製造用途

 

蛍石は化学工業において最も重要な原料の一つで、フッ化水素酸(HF)の製造に使用されます。アシッドグレードと呼ばれるCaF2含有量97%以上の高純度蛍石を濃硫酸と反応させることで、フッ化水素を製造することができます。

 

参考)フッ素の産出・フッ素樹脂の製造に欠かせない「蛍石」について …

フッ化水素から製造される製品は多岐にわたります。

 

参考)https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2021/06/material_flow2020_F.pdf

  • フルオロカーボン(冷媒用途)
  • 各種フッ酸
  • フッ素樹脂の中間原料
  • その他フッ化物の製造原料

特に半導体製造工程では、フッ化水素は「エッチング工程」と「洗浄工程」に不可欠な材料として使われています。シリコンウェハーのウェットエッチングでは、2012年のフッ化水素出荷先の39%を占めるほど重要な用途となっています。属やガラスをよく溶かす性質を生かして、製品についたゴミなどを除去する洗浄や、ナノメートルレベルで削るエッチング作業に活用されます。

 

参考)【ドラマで話題】高純度のフローライトってすごいの?そもそも結…
youtube​
国内でフッ化水素の製造を行っているのは、セントラル硝子、旭硝子、三菱マテリアル電子化成の3社です。

 

参考)https://mric.jogmec.go.jp/public/report/2014-06/28.20140601_F.pdf

蛍石の製鉄冶金用途

冶金グレードの蛍石(CaF2含有量97%以下)は、製鉄所の転炉用および電気炉用のフラックス(融剤)として広く使用されています。製鉄時に発生するスラグの流動性を高め、溶鋼から硫黄やリンなどの不純物を浄化する重要な役割を果たします。

 

参考)蛍石(fluorite)

製鉄における蛍石の具体的な機能は以下の通りです。

 

参考)蛍石市場 -シェア、規模、業界動向

  • 耐火材料の溶融点を下げる
  • スラグの流れを促進させ、スラグと金属を分離させる
  • 製錬工程での脱硫・脱燐を可能にする
  • 張力と金属鍛造物を強化する

通常、金属1トンにつき20~60ポンドの蛍石が使用されます。製鋼・冶金プロセスでは、蛍石は石灰と組み合わされ、スラグの流動性を高めます。鉄鋼生産では蛍石の消費量が増加傾向にあり、2kgから10kgに増加し、石灰量の5%から10%に相当するようになっています。​
日本国内では、一貫製鉄所の転炉用と主に特殊鋼を製造する電気炉用フラックスとして使用されており、そのスラグ生成量の比は約2:1となっています。

 

参考)https://tetsutohagane.net/articles/search/files/91/1/KJ00002411602.pdf

蛍石のアルミニウム製造用途

アシッドグレードの蛍石は、一次アルミニウム業界におけるフッ化アルミニウム製造にも使用されています。アルミニウムの精錬プロセスでは、蛍石を溶鋼取鍋冶金に利用することで、機械的品質が向上し、欠陥が少ない高品質の金属を生産できます。

 

参考)https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/%E8%9B%8D%E7%9F%B3%E5%B8%82%E5%A0%B4-109666

アルミニウム産業での蛍石の役割には以下のようなものがあります。

 

参考)世界の蛍石市場 シェア、スコープ、インサイト 2033

  • 不純物を除去するためのフラックスとして機能
  • 金属の流動性を高めてプロセス効率を向上
  • エネルギー消費を削減
  • コストを削減して生産量を増加

アルミニウムは現在、最も急速に成長している量産材料グループの一つとなっており、それに伴って蛍石の需要も拡大しています。世界鉄鋼協会のデータによると、2023年のアジアの粗鋼生産量は13.6億トンに達し、前年比0.8%増となっています。このような動態を踏まえると、今後数年間は冶金用途の蛍石需要が急増する可能性が高いと予想されます。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10808056/

蛍石の光学レンズ用途

蛍石は光学材料として望遠鏡や写真レンズ、顕微鏡などの高性能化のための特殊材料として現在ではキーパーツとなっています。無色透明で紫外線~可視光線~赤外線まで幅広い波長帯域の光を透過する性質を持っているため、この特性が光学分野で高く評価されています。

 

参考)蛍石 - Wikipedia

蛍石レンズの最大の特徴は、異常部分分散性を利用することで、通常の光学ガラスと組み合わせると非常に色収差の少ない光学系を作ることができる点です。通常のガラス素材を使ったレンズは色収差という問題が生じ、色のにじみが発生しますが、凸レンズをガラス素材のレンズから蛍石のレンズに変えることで緑色の焦点のズレを大幅に軽減可能になります。

 

参考)CGL通信

具体的な光学材料としての利用先は以下の通りです。

 

参考)蛍石レンズ - Wikipedia

  • 天体望遠鏡(100億光年までの天体地図作成も可能)
  • 望遠カメラ(特に望遠レンズ)
  • 顕微鏡
  • 半導体ステッパー

キヤノンオプトロンは2005年にハーバード大学のプロジェクトで370mmもの直径のレンズを発注され、5年がかりで12枚のレンズを作成したことがあります。蛍石レンズ1枚の成長に1ヶ月、仮アニール、精密アニールにそれぞれ1ヶ月も要するほど、製造には高度な技術が求められます。​

蛍石のセラミック・ガラス製造用途

蛍石はセラミック産業においても重要な役割を果たしています。セラミック製造の原材料の融点を下げるためのフラックスとして使用され、タイル、衛生陶器、磁器などのさまざまなセラミック製品の製造に不可欠です。​
セラミックにおける蛍石の役割は以下の点で重要です。​

  • 製品の強度を高める
  • 耐久性を向上させる
  • 耐熱性を高める
  • 生産プロセスの品質と効率を向上

また、ガラス製造においても蛍石は活用されており、ガラス、セメント、エナメルの生産にも重要な役割を果たします。蛍石は融点と沸点が高いため、耐熱性が高い材料といえます。密度も高いため、比重が大きいのも特徴です。屈折率については低く、赤外線から紫外線まで幅広い波長域での透過率が高く、光学材料としてその性質が活用されることもあります。​
蛍石のセラミック用途は、冶金グレード(CaF2含有量97%以下)の蛍石が主に使用されます。世界の蛍石市場では、用途別にアンソゾナイト、ブルージョン、クロロファン、イットロセライト、イットロフルオライト、その他の品種に区分され、冶金、セラミック、化学、その他の用途に分類されています。​

蛍石のリサイクルと資源循環

近年、蛍石資源の枯渇懸念から、フッ素資源の循環利用が重要視されています。ダイキン工業では、様々なフッ素製品を製造する過程で副生するフッ素化学品を回収し、自社焼却炉で適切に破壊処理し、破壊処理の際に生成する蛍石をフッ素化学製品の原料として再利用しています。

 

参考)再生蛍石の活用

セントラル硝子では、医薬品製造プラントから排出されるフッ酸廃液を蛍石として回収する技術を確立しました。この取り組みにより、以下の成果が得られています。

 

参考)https://www.cjc.or.jp/commend/pdf/senshinjirei/h29/03_sys_02.pdf

📊 リサイクルによる削減効果

項目 削減量/回収量
回収蛍石量 年間1,650トン
天然蛍石削減量 年間1,550トン
廃棄物削減量 年間3,880トン


2022年にダイキンは不純物の多いメキシコ産蛍石から半導体用フッ化水素酸を製造する技術を開発したと発表しました。この技術によって中国産蛍石への依存度を減らすことができます。不純物が少なく高純度なアシッドグレードの蛍石は主に中国産、純度の低い冶金・セラミックグレードはメキシコ産が中心のため、日本の主な需要であるフッ化水素向けでは中国産に依存していました。

 

参考)フッ化水素はフッ素化学の重要物質|超高純度フッ化水素は日本メ…

名古屋工業大学では、フッ素を回収して、資源化できるフッ化カルシウム(蛍石)にリサイクルする研究が進められています。フッ化カルシウム(蛍石)を97%以上の純度の高い鉱物に再生する技術開発により、輸入に頼らずにすみ、温室効果ガスの削減にもつながります。

 

参考)電気加熱を用いた新たな処理技術により、フッ素の再資源化を実現…

代替フロンの完全ケミカルリサイクル技術も開発されており、HFC-125を「冷媒」から「フッ素化試薬」へと分解変換する完全ケミカルリサイクルが実現し、蛍石に依存しないフッ素化合物の持続可能な製造に道を開きました。蛍石の製造には蛍石を原料とするフッ化水素が不可欠であり、採掘に伴うエネルギー消費や二酸化炭素の排出、そして将来的な蛍石資源枯渇が国際的な課題となっているため、既存フッ素資源を循環利用する「ケミカルリサイクル技術」の開発が強く望まれています。

 

参考)代替フロンの完全ケミカルリサイクル技術 — 蛍石に依存しない…

ダイキン工業の再生蛍石活用の取り組み - フッ素化学事業における資源循環の実践例が詳しく紹介されています
セントラル硝子の廃棄フッ素資源の再生利用 - 医薬品製造プラントから排出されるフッ酸廃液の回収技術について解説されています

 


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