和三盆の「本場」だと思っていた京都は、実は製造ゼロです。
和三盆の干菓子を初めて目にした人の多くが「落雁(らくがん)と同じものでしょ?」と感じます。見た目は確かによく似ています。どちらも木型で押し固めた小さな干菓子で、繊細な模様と上品な甘さが特徴です。しかし、材料はまったく異なります。
落雁は、米・麦・豆・蕎麦・栗などの穀類由来の粉に、砂糖や水飴を混ぜて着色し、木型に押し固めてから乾燥させたお菓子です。粉をつなぎに使うので、ほどよい歯ごたえと、ほろりと崩れる食感が生まれます。
一方、和三盆(干菓子としての和三盆)は、和三盆糖という砂糖だけを木型に入れて押し固めたものを指します。つなぎとなる粉を一切使わないため、口に入れた瞬間に「雪が溶けるように」ふわっと広がる口どけが最大の特徴です。香川の老舗・三谷製糖羽根さぬき本舗では、「打ち粉やつなぎを使用しない、和三盆糖のみで作られたものが和三盆である」と定義しています。
つまり、落雁は「和菓子」、和三盆はその材料でもある「砂糖そのもの」であり、同時に「干菓子」でもあるという二重の意味を持っています。これは意外ですね。
和三盆は素材一つで勝負します。だからこそ、素材の品質が味に直結します。老舗各店が産地にこだわり、製法を守り続けているのはこのためです。
参考:和三盆と落雁の定義の違いについて、製造元の視点から解説されています。
和三盆糖の原料は「竹糖(ちくとう)」というサトウキビの在来種です。一般的なサトウキビとは異なり、細くて背が高く、収穫は11月〜12月に限られます。この竹糖が栽培されているのは、現在では香川県東部(東かがわ市・さぬき市周辺)と、徳島県板野郡の阿讃山脈周辺のごく一部のみです。
面積で言えば、竹糖の産地全体を合わせても東京の山手線内側(約63km²)をはるかに下回る狭い地域です。このため、原料の入手そのものが製造量を制限しており、和三盆糖を製造できる業者も香川・徳島合わせて数社に限られています。
製造工程もまた、手間のかかるものです。竹糖を搾汁し、煮詰め、「研ぎ(みがき)」と呼ばれる工程を繰り返します。この「研ぎ」は、砂糖を和紙に包んでお盆の上で何度もこする作業で、「和三盆」という名前の由来にもなっています(「盆の上で三回研ぐ」という意味)。一説では"お盆の上で手でこすって磨く"という製法がそのまま名称になったと言われています。
さらに、徳島産の「阿波和三盆」と香川産の「讃岐和三盆」では、色合いが異なります。阿波和三盆はやや茶色みがかった風合いで、讃岐和三盆は白く仕上がるのが特徴です。老舗によって使用する産地が異なるため、同じ「和三盆の干菓子」でも味わいや色に個性が出ます。これが和三盆選びの奥深さでもあります。
参考:竹糖の産地・製造の希少性と阿波・讃岐それぞれの特徴が詳しく解説されています。
「阿波に培った和三盆のやさしい味と伝統の製法を守りたい」(岡田製糖所)
和三盆の干菓子に美しい模様を刻む「菓子木型」を作れる職人が、今や全国で数人しかいないことをご存じでしょうか。ワゴコロの記事でも「6〜7名ほど」と紹介されているほど、極めて希少な存在です。
菓子木型は、主に山桜の木を使って手彫りで作られます。花びら一枚一枚、魚の鱗一枚一枚を、数種類のノミと彫刻刀で丁寧に彫り込みます。仕上がった木型に和三盆糖を詰めて押し出すと、精巧な和菓子が出来上がります。
香川県高松市で活動する木型職人・市原吉博氏は、四国・九州では唯一の菓子木型職人として知られています。氏の工房では、老舗の和菓子店からオーダーを受け、一点一点手彫りで制作しています。なお、国中川真知子氏の取材記事(Casa BRUTUS 2024年2月)によれば、市原氏は「四国唯一の職人」として紹介されています。
木型職人が廃業すると、その模様の干菓子は二度と作れなくなります。これは不可逆的な損失です。老舗が長年同じ木型を大切に使い続けているのは、美しさへのこだわりだけでなく、職人の技そのものを守るためでもあります。
陶器の世界で「窯変(ようへん)」が一期一会であるように、手彫りの木型から生まれる和三盆の模様にも、量産品にはない唯一無二の価値があります。陶器に魅力を感じるなら、こうした工芸的な視点で和三盆を見ると、またひと味違った感動があるはずです。
参考:菓子木型職人の技と希少性、香川の職人工房について詳しく解説されています。
Casa BRUTUS「古今東西 かしゆか商店【菓子木型】」
老舗の和三盆干菓子を選ぶとき、どこに注目すればよいのかを整理しておきましょう。チェックするのは以下の3点です。
代表的な老舗をいくつか紹介します。
ばいこう堂(香川県) は「見て感動、食べておいしい」をコンセプトに掲げ、さぬき和三盆糖の製造から干菓子の販売まで一貫して手がけています。富士山モチーフの干菓子など、季節・テーマに合わせたデザインが豊富です。
三谷製糖羽根さぬき本舗(香川県) は文化元年(1804年)創業の老舗製糖所。和三盆糖の製造から干菓子まで一気通貫で手がけ、江戸時代の伝統製法を現在も守り続けています。創業220年以上という事実は、それだけで信頼の証です。
鍵善良房(京都府) は阿波和三盆糖を使った干菓子で知られる京都祇園の老舗。素材が手に入る時期にしか作らない、季節限定製法を守っています。
末富(京都府) は茶道の世界でも名を馳せる京菓子の老舗で、和三盆糖の干菓子を「猿田彦」など独自のデザインで仕立てています。
老舗の干菓子は地方の百貨店や専門店で入手できるほか、各店の公式通販でも取り寄せが可能です。初めて試すなら、詰め合わせを選ぶと複数の形・風味を比較できるのでおすすめです。
参考:京菓子司・末富の和三盆干菓子ラインナップを確認できます。
陶器に関心がある人にとって、和三盆の干菓子を「どの器に盛るか」は非常に重要なテーマです。実は、干菓子の器選びひとつで、和三盆の見え方が大きく変わります。
茶道では、干菓子を盛る器は「菓子器(干菓子器)」と呼ばれ、塗り物(漆器)の盆や縁高(ふちだか)が使われることが多いです。ただし、茶道の格にこだわらない日常の場では、陶器の銘々皿(めいめいざら)を使う方法が増えています。銘々皿とは、一人ひとりに取り分けるための小皿のことです。
陶器で和三盆を盛るときのポイントは主に3点です。
器の産地でいえば、萩焼・唐津焼・美濃焼・信楽焼など、土ものの素朴な質感は和三盆の繊細さを引き立てます。一方、白磁の波佐見焼や有田焼など磁器系は、和三盆の形・色を際立たせたいときに向いています。
陶器と和三盆は、どちらも「作り手の手仕事が宿るもの」という共通点があります。一期一会の対話を楽しむように、器と菓子の取り合わせを試してみてください。
参考:和菓子を盛る器の種類・選び方について詳しくまとめられています。
「陶器と干菓子に何の関係があるの?」と思われるかもしれません。しかし、少し視点を広げると、和三盆の干菓子と陶器には驚くほど多くの共通点があります。
まず、どちらも「型」が重要な役割を担います。陶器は轆轤(ろくろ)や型押しで形が生まれ、干菓子は木型から形が生まれます。職人の手仕事が形になるプロセスは、まったく同じ構造です。
次に、「窯変」や「木型の一期一会」という価値観も共通しています。陶器では窯の温度変化によって二度と同じ色が出ない窯変が珍重されますが、手彫りの木型が廃業や破損で消滅すると、その模様の和三盆は永久に作れなくなります。どちらも「今この瞬間しか存在しない価値」を持っています。
さらに、器と菓子は一体でこそ完成します。昭和初期の陶芸家・河井寬次郎が茶碗と茶菓子を一体の美として語ったように、茶道の場では器と干菓子の取り合わせが鑑賞の一部でした。
陶器を好む人が和三盆の干菓子に関心を持つのは、単なる偶然ではありません。手仕事の価値観、素材の希少性、季節感の表現、そして一対一でものを選ぶという行為が、陶器と和三盆を深いところでつなげています。
老舗の和三盆を一粒、使い込んだ萩焼の小皿に乗せてみてください。結論はそこにあります。器と菓子が響き合う瞬間が、きっと体感できるはずです。

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