七事式と裏千家の茶碗・陶器の選び方と基礎知識

裏千家の七事式とはどんな稽古法なのか、また式ごとに使う茶碗や陶器の選び方について解説。「一楽二萩三唐津」の格付けや茶歌舞伎専用道具など、陶器好きが得する知識とは?

七事式と裏千家の陶器・茶碗を深掘りする

七事式の稽古では、菓子を食べずにお茶だけを点てて飲む──これを知らずに参加すると、お菓子を楽しみに持参した分の出費が完全に無駄になります。


この記事でわかること
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七事式とは何か?

裏千家八代・一燈宗室が江戸中期に定めた7つの修練式法。もてなしではなく"稽古"が目的の、茶道上級者向けの実戦形式です。

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使われる陶器・茶碗の格付け

茶人の間に伝わる「一楽・二萩・三唐津」の格付けと、式ごとの茶碗の選び方のポイントを解説します。

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七事式専用の茶道具

折据・花月札・茶歌舞伎盆セットなど、七事式でしか使わない専用道具の種類と費用の目安を紹介します。


七事式とは裏千家が定めた修練のための7つの稽古式法

七事式は、単なるお点前の稽古とは根本的に異なるものです。江戸時代中期、太平の世が続く中で茶道が大衆化し、茶の厳しさが薄れ「遊芸」として捉えられるようになりました。この状況を危惧した表千家七代・如心斎天然宗左が、弟である裏千家八代・又玄斎一燈宗室らと共に、禅の精神に基づく厳しい修練法として七事式を制定したのが始まりです。


七事式の名称は、当時の大徳寺玉琳院住職・大龍宗丈禅師と参禅の師・無学和尚が、禅語「七事随身(しちじみにしたがう)」から命名したとされています。これは重要です。


七事式を構成するのは、以下の7つの式です。


- 🌸 花月(かげつ):5人で薄茶を4服点てる七事式の根本。一回行うことを「一騎」という
- 🪑 且座(さざ):花・炭・聞香・濃茶・薄茶の順に行う。禅語「且座喫茶」に由来
- 🔥 廻り炭(まわりずみ):炉のみで行う炭手前の修練。茶は点てない
- 💐 廻り花(まわりばな):一座が交互に花を入れる。茶は点てない
- 🎭 茶カブキ(茶歌舞伎):濃茶三服を飲み比べて産地を当てる。6人が適当
- 🔢 一二三(いちにさん):亭主が点前をして、客が評価を行う
- 🔢 員茶(かずちゃ):7人以上で行い、互いに薄茶を点てていただく。七事式で唯一、干菓子が出される


注目すべきは「廻り炭」と「廻り花」は茶を点てない式だという点です。陶器や茶碗が活躍する場面が少ない式も含まれているのはあまり知られていません。員茶のみが基本です。


また、裏千家は表裏両千家で定めた七事式とは別に、「準七事式」として仙遊之式・法磨之式などを独自に考案しています。七事式の体系は実は7種類より多いということですね。


七事式の各式・偈頌・進め方について(裏千家淡交会青年部北海道ブロック)


七事式で裏千家の稽古に使う茶碗・陶器の格付け「一楽二萩三唐津」

陶器好きなら一度は耳にしたことがある「一楽二萩三唐津(いちらく にはぎ さんからつ)」。この格付けは茶の湯の世界における茶碗の頂点を示すものですが、七事式の稽古においても当然この考え方が基礎となっています。


1位:楽焼(らくやき) は16世紀後半、千利休の指導により瓦職人・長次郎が創始しました。豊臣秀吉から「楽」の印章を与えられたことから楽焼と呼ばれるようになります。釉薬の色から黒楽と赤楽に大別され、黒楽は禅の「無」の世界に通じるものとして最高格とされています。漆黒の器面が抹茶の若草色を引き立て、視覚的にも美しいのが特長です。


2位:萩焼(はぎやき) は1604年、藩主・毛利輝元の命により朝鮮陶工の兄弟が山口県萩市に御用窯を開いたのが起源とされています。土の目が荒く、釉薬のピンホールからお茶が染み込んで少しずつ色が変わる「萩の七化け」が最大の特徴です。使えば使うほど味が出る。これが陶器好きを惹きつける萩焼の魅力です。


3位:唐津焼(からつやき) は佐賀県東部・長崎県北部で焼かれる陶器の総称で、素朴でシンプルな絵柄(絵唐津)が多く、茶人好みの渋さがあります。九州では瀬戸物のことをまとめて「唐津物」と呼ぶほど親しまれてきた歴史がある焼き物です。


七事式の稽古で茶碗を選ぶ際には、この「一楽二萩三唐津」の格付けが一つの指針になります。特に花月之式のように5人が交互に茶を飲む場面では、同格の茶碗を複数揃えることが求められる場合があります。複数揃えるなら唐津焼など入手しやすいものから始めるのが実用的です。


一楽二萩三唐津の詳しい解説と各産地の特徴(栄匠堂)


七事式・茶歌舞伎に必要な専用道具と費用の目安

七事式には、通常の点前稽古では使わない専用道具が複数存在します。この点を知らずに稽古を始めると、追加の道具購入で予想外の出費が発生することがあります。


まず七事式全般に共通して必要なのが「折据(おりすえ)」です。厚紙や布でできた折り箱で、花月札を入れて使います。サイズは小・中・大の3種類があり、式によって使い分けます。価格は数千円から数万円と幅があります。


「花月札(かげつふだ)」は黒檀製で、表面に松の絵、裏面に花・月・一・二・三の絵や字が書かれたものです。花は亭主役、月は客役、一二三は順番を示します。5人の役割をくじ引き形式で決めるために使います。


茶歌舞伎に必要な「茶歌舞伎盆セット」は最も費用がかかる専用道具の一つです。セット内容は棗5個・盆・帛紗・折据・名乗紙が標準的な構成で、裏千家用では帛紗が赤(表千家は朱)になります。真塗りの本格的なセットだと約9万円前後になることもあります。これは要注意ですね。


| 道具名 | 用途 | 価格目安 |
|---|---|---|
| 折据(小・中・大) | 花月札を入れる折り箱 | 数千円〜数万円 |
| 花月札 | 役割くじ引き用の黒檀製札 | 数千円〜1万円台 |
| 茶歌舞伎盆セット | 茶カブキ用の盆・棗5個組セット | 約3万〜9万円 |
| 一二三盆セット | 一二三之式用の盆と十種香札 | 数万円 |
| 香道具七品(七つ道具) | 且座之式の聞香に使用 | 数万円 |


一度に全部揃える必要はありません。どの式から稽古を始めるかを先生に確認してから、必要な道具を順番に揃えるのが賢い方法です。


七事式の道具の種類と準備の仕方を解説した実用書(淡交社)


七事式の花月之式で陶器・茶碗を見る「独自」の楽しみ方

花月之式の最大の特徴は「無言で行う」点にあります。5人が札によって役割を決め、声を出さず、相談もせず、互いの動きだけを読んで進めていく。この緊張感の中でこそ、茶碗や陶器の質感が際立ちます。


一般的な稽古では亭主が茶碗を一客分だけ選びますが、花月では薄茶を4服点てます。つまり、複数の茶碗の「連続した使われ方」が観察できる場面が生まれます。陶器好きにとってこれは稽古でもあり観察の場でもあります。


萩焼のように使い込むことで表情が変わる「七化け」を持つ茶碗は、花月之式のような繰り返し使う稽古でこそ変化が実感しやすいといえます。稽古を重ねるほど茶碗も育っていく感覚は、陶器好きならではの楽しみ方です。


また、花月之式は「花月楼」という八畳床付の茶室が最適な場所とされています。この「花月楼」という名称自体が花月之式に由来するものです。陶器を飾る床の間の役割も重要で、茶碗だけでなく花入(はないれ)の陶磁器選びも式の見どころになります。


唐津焼や萩焼の花入を選ぶ場合は、の土感や釉薬のかかり具合が「無言の場」にふさわしい静けさを持つものを選ぶのが基本です。これが原則です。七事式の稽古を積む中で、道具の選眼を鍛えていく──そのプロセス自体が七事式の目的の一つといえます。


裏千家の七事式における許状と稽古の進め方・費用のリアル

七事式は裏千家の稽古体系において「上級」以降のステージに位置づけられています。入門から七事式の許状取得に至るまでには、相当な年数と費用が必要です。この点は事前に把握しておくべきです。


裏千家の稽古体系は段階制になっており、入門→初級(小習・茶箱点)→中級(茶通箱・唐物・台天目・盆点・和巾点)→上級(行之行台子ほか)→七事式という流れが基本です。入門から「茶名・紋許」まで取得するには目安として7年以上かかるとされています。


月謝の相場は月2〜4回の稽古で5,000〜10,000円程度が一般的です。これに加えて許状申請料が段階ごとに必要で、上級の「行之行台子」許状では7,700円(裏千家本部への申請料)が基準となっています。ただし先生へのお礼は別途かかる場合があります。


七事式は許状とは別の位置づけです。つまり許状と同列に扱うのではなく、許状取得後の実戦的な稽古法として活用するものとして考えると、体系への理解が深まります。


稽古を始める前に確認しておきたいのが、月謝・許状申請料・道具費用の3つの合計見積もりです。道具費用だけでも七事式の全式をカバーしようとすると、折据・花月札・茶歌舞伎盆セットなどを合わせて15〜20万円超になるケースもあります。稽古を始める前に先生に相談して、どの式から取り組むかを確認しておくと余計な出費を防げます。


裏千家の許状・資格の種類と許状申請料の一覧(和ごころ)