行之行台子の許状申請料は7,700円だが、先生へのお礼を含めると実質3万円以上かかることが多い。
裏千家で「奥伝(おくでん)」と呼ばれるお点前は、一般に習うことのできる最高峰の内容です。その種類は大きく4つあり、真之行台子・行之行台子・大円真台子・大円草がそれにあたります。このうち行之行台子(ぎょうのぎょうだいす)は「上級(助講師)」資格に対応するお点前で、真之行台子よりも先に習うことになる、奥伝への入り口とも言える存在です。
別名を「乱れ荘(みだれかざり)」とも呼びます。これは道具の飾り方が他のお点前とは趣が異なることに由来しており、道具組のバランスを読む眼力が問われます。
奥伝は書籍やテキストには詳細が記載されておらず、許状をいただいた方だけが直接先生から口伝で習うというスタイルで伝わっています。つまり奥伝は書籍では学べない、が原則です。
時代的な背景としても、行之行台子は利休の時代(安土桃山時代)の点前とされています。室町時代の書院文化を映した真之行台子とは一線を画し、わび茶の精神が色濃く反映されているのが特徴です。歴史の流れを一服のお茶で体感できる、奥深いお点前と言えるでしょう。
裏千家公式サイトでは、行之行台子に関する特別講習会(宗家特別講習会)が過去に開催されており、台子の意味合い・八卦・道具について多角的に解説されたことが記録されています。
参考:行之行台子に関する宗家特別講習会の記録(裏千家公式)
裏千家ホームページ 第4回宗家特別講習会 行之行台子研究
行之行台子で使う道具を一覧にすると、以下のようになります。
特に注目したいのは天目茶碗です。天目茶碗は中国・宋代に禅僧が持ち帰ったとされる碗で、漆黒の釉薬に独特の文様を持つものが多く、茶の湯の歴史においても最高格の器として扱われてきました。国宝に指定された「曜変天目(ようへんてんもく)」は現在3碗しか国内に現存しておらず、そのうちの1碗が東京・世田谷の静嘉堂文庫美術館に所蔵されています。これは日本の美術館のコレクションを考えてもきわめて希少な存在です。
これが使えそうですね。稽古で使うのはもちろん見立て品(本物のように扱う代用品)ですが、その形式・扱い方を通じて、陶器への眼を養うことができます。
また行之行台子では、真之行台子が「すべて唐物(中国由来の道具)で揃える」のとは対照的に、和物(日本製の陶器など)が主道具として入ってきます。これが陶器好きの方にとって特に面白い点です。日本の陶芸史と茶の湯が交差する地点がここにあります。
参考:天目茶碗の格式と扱いについて
台子(だいす)の基礎知識 – 栄匠堂
台子は、単なる「道具を置く棚」ではありません。その構造そのものが、宇宙の縮図とされています。これは意外ですね。
具体的に言うと、台子は天板(天)と地板(地)で乾坤(けんこん)を表し、4本の柱は東西南北・春夏秋冬の四方位・四季を意味します。そこに火の卦・水の卦・木の卦・金の卦といった陰陽五行思想が組み込まれているのです。
裏千家の家元もかつてのインタビューでこのように述べています。「台子の中に、天板・地板で乾坤があり、柱が四本で東西南北春夏秋冬になります。そこに全部陰陽五行が入っていて…」(裏千家ホームページ「家元と一問一答」より)。
さらに行之行台子で使われる八卦盆は、易(えき)の8つの卦(か)を象徴する八角形の盆です。八卦は自然界の8つの力(天・地・火・水・山・風・雷・沢)を表しており、これを茶入の下に置くことで、点前そのものが宇宙の秩序と呼応する行為として完結します。
この宇宙観こそが、台子点前の格が高いとされる理由の一つです。陶器に宿る土・火・水のエネルギーと、台子が体現する宇宙の秩序が重なり合うとき、行之行台子はただの「手順」ではなく、哲学的な実践になります。
一碗のお茶を点てる行為の背後に、これほど深い思想が埋め込まれているのは驚くべきことです。陶器好きの方が茶の湯に入門するとき、この視点を持つだけで器の見え方がガラリと変わるでしょう。
参考:茶道と易思想の関係について(学術論文)
茶道と易思想 ―澤庵宗彭の茶道観を中心にして―(聖学院大学)
行之行台子の許状を取得するまでには、具体的にどれくらいの時間とお金がかかるのでしょうか?
裏千家公式のガイドラインによると、入門から「行之行台子」許状の申請が可能になるまでの目安は2〜3年です。ただしそれは最低限のラインで、先生の判断や稽古頻度によって大きく変わります。週1回の稽古で進むのが一般的なペースです。
費用については段階があります。
しかし実際には、先生から弟子が渡す金額は別途設定されています。これは各教室・先生によって異なり、先生が間に立って取り次ぐ手間への謝礼(お礼)が上乗せされるのが慣例です。知恵袋などの投稿をみると「3万円を先生に渡した」「上級3種で5万円弱だった」という声が複数見られます。
痛いですね。ただしこれは長年の指導に対する感謝の意味合いも含まれており、日本の茶の湯文化における礼儀の一部として捉えるのが自然です。
行之行台子以上の許状を持つと、裏千家直轄の団体「淡交会(たんこうかい)」の正会員になれます。年会費は3,000円で、各支部の研究会・茶会・総会への参加権が得られます。人との繋がりが広がるため、許状の取得は単なる資格取得を超えた意味を持ちます。
参考:裏千家の許状・資格と費用の詳細
裏千家の許状や資格とは?先生へのお礼や許状申請料についてご紹介(和ごころ)
行之行台子が真之行台子と本質的に異なるのは、和物(日本の陶磁器)が主道具として登場する点です。これは陶器に興味を持つ方にとって、見逃せない学びのポイントになります。
真之行台子では唐銅皆具(からかねかいぐ)と名物道具が揃えられ、そのすべてが格式の高い唐物(中国製)で構成されます。一方、行之行台子では利休時代の「わび」の精神を受け、和物の茶入・茶碗が用いられます。これが点前全体の空気感を大きく変えます。
格の読み方という観点でいうと、裏千家では茶杓の節の位置によって格が区別されます。唐物点では「行の茶杓」、台天目や盆点では「真の茶杓」を使うのが基本とされますが、行之行台子では「元節(もとぶし)」の茶杓が使われます。竹の根元に近い節を持つ元節は、土の力強さをそのまま宿したような素朴な風情があります。
つまり陶器の土感・素材感を重視する行之行台子の道具組は一貫しているわけです。
陶器好きの方が特に意識してほしいのは、和物茶碗の「景色(けしき)」を読む力です。茶の湯では、釉薬の流れ・土の肌・窯変(ようへん)のムラなど、一見「不完全」に見える箇所を美しさとして読む眼が求められます。これは茶の湯に特有の美意識で、行之行台子の稽古を重ねることで自然と身についていきます。
これは使えそうです。茶の湯の目線で陶器を見始めると、器を選ぶ基準や好みそのものが変わります。窯元の展示や陶器市に足を運ぶ際にも、新たな発見が増えるでしょう。
参考:裏千家 奥伝の種類と行之行台子の特徴解説
裏千家の奥伝の種類【真之行・大円真・行之行・大円草】以外にもある点前(茶の湯いろは)