練上を始める前に粘土を完全に乾かすと模様が崩れます。
練上(ねりあげ)は、異なる色の粘土を組み合わせて模様を作る陶芸技法です。奈良時代に中国から伝わった「練上手」が起源とされ、正倉院の宝物にも練上技法を用いた作品が残されています。
この技法の最大の特徴は、表面だけでなく断面全体に模様が入ることです。切り口を見ると内部まで同じ模様が続いているため、使い込んでも模様が消えません。
つまり耐久性に優れているということですね。
現代では色粘土の種類も豊富になり、表現の幅が大きく広がりました。白土に酸化鉄や酸化コバルトなどの顔料を混ぜることで、赤、青、黒、緑など様々な色を作り出せます。市販の色粘土を使えば、初心者でも手軽に始められる環境が整っています。
京都市陶磁資料館の練上作品コレクションでは、江戸時代から現代までの練上技法の変遷を確認できます。歴史的な作品を見ることで、技法の可能性を知る参考になるでしょう。
初心者が最も失敗しやすいのは、粘土の水分量の違いによる亀裂です。異なる色の粘土を組み合わせる際、それぞれの硬さが違うと乾燥速度にズレが生じます。柔らかい粘土が先に縮むため、境目から亀裂が入るのです。
具体的には、硬さの差が10%以上あると失敗率が8割を超えます。どういうことでしょうか?
粘土の硬さは指で押したときの沈み込みで判断します。同じ力で押して、沈み込みの差が2mm以内(大体爪の厚さ程度)に収まるよう調整する必要があります。硬い粘土には霧吹きで水を加え、柔らかい粘土は少し乾燥させてから使いましょう。
2つ目の落とし穴は、練り不足による空気の混入です。粘土を重ねる際に空気が入ると、焼成時に膨張して作品が割れます。特に層の間に空気が残りやすく、見た目では分からないため厄介です。
空気を抜くには、粘土を重ねた後に麺棒で均一に圧着する作業が必須です。力を入れすぎると模様が潰れるため、体重をかけずに手首の力だけで転がすのがコツ。
3回程度往復させれば十分です。
3つ目は、カットのタイミングを間違えることです。組み上げた粘土を切って模様を出す際、粘土が柔らかすぎると断面が歪み、硬すぎるとヒビが入ります。触って少し抵抗を感じる程度、革のような硬さが理想的です。
このタイミングは粘土の厚さによって変わります。2cm厚なら組み上げから約30分、5cm厚なら1時間程度が目安。室温20度、湿度50%程度の環境を想定した数字ですが、季節によって調整が必要です。
最も基本的な市松模様の作り方から説明します。まず、2色の粘土をそれぞれ厚さ1cmの板状に伸ばしてください。
サイズは10cm×10cm程度で十分です。
次に、それぞれの板を1cm幅の短冊状に切ります。定規とカッターを使い、正確に切り分けることが重要です。ズレがあると市松模様が崩れるため、切る前に印をつけておくと失敗しません。
切った短冊を交互に並べて圧着します。白・黒・白・黒という順番で並べ、境目を指でしっかり押さえてから麺棒で転がしましょう。
これで横縞の板ができます。
この板を90度回転させ、再び1cm幅で切ります。すると断面が市松模様になった短冊ができあがります。これを並べ直せば、きれいな市松模様の板の完成です。
木目調の模様を作りたい場合は、粘土を渦巻き状に組み合わせます。2色の粘土を細長く伸ばし、一緒にねじりながら巻いていく方法です。切り口に年輪のような模様が現れるため、器の側面に使うと自然な表情になります。
マーブル模様は最も簡単な技法です。2色以上の粘土を適当に重ねて軽く練り合わせるだけ。練りすぎると色が混ざりすぎるので、5回程度折り畳む程度が適切です。
NHK高校講座の陶芸基礎では、練上の基本手順を動画で確認できます。初めて挑戦する方は、まず映像で手の動きを見ておくと理解しやすいでしょう。
練上で作った板を器に成形する段階では、通常の陶芸とは異なる配慮が必要です。最大の違いは、模様の向きを意識しながら作業を進めることでしょう。
ろくろで成形する場合、遠心力で粘土が伸びると模様も一緒に伸びます。縦方向の模様は横に広がり、細かい模様はぼやけてしまいます。この変化を計算に入れて、あらかじめ模様を詰めて配置しておく必要があるのです。
具体的には、ろくろで直径20cmの皿を作る場合、元の板は直径15cm程度で作っておきます。成形で約1.3倍に広がることを見越した数字です。厚さも同様に、仕上がり5mmを目指すなら7mm程度の厚さで準備しましょう。
手びねりで成形する方法もあります。こちらは模様の変形が少ないため、デザイン通りの仕上がりになりやすい利点があります。ただし、粘土を曲げる際に層の境目から剥がれやすいため、接着部分を丁寧に圧着する手間がかかります。
タタラ成形という技法も練上に適しています。平らな板状の粘土を型に押し当てて形を作る方法で、模様が歪みにくく初心者向けです。石膏型や木型を使えば、同じ形の作品を複数作ることもできます。
どの成形方法を選ぶにしても、作業中は粘土を乾燥させないよう注意が必要です。霧吹きで適度に湿らせながら作業を進め、休憩時にはビニールで覆っておきます。
乾燥による亀裂を防ぐ基本ですね。
練上作品の乾燥は、通常の陶芸作品より時間をかけて行います。異なる色の粘土は収縮率が微妙に異なるため、急激に乾燥させると境目から割れるリスクが高まるのです。
理想的な乾燥方法は、作品をビニール袋に入れて口を少し開けた状態で放置することです。2〜3日かけてゆっくり水分を抜き、その後袋から出して完全に乾燥させます。室温15〜25度、湿度40〜60%の環境が最適です。
冬場や乾燥した日は、新聞紙で包んでからビニール袋に入れる方法も有効です。新聞紙が余分な水分を吸い取り、さらにゆっくりとした乾燥を実現できます。これは陶芸教室でもよく使われるテクニックですね。
素焼きの温度は通常より低めの700〜750度に設定します。どういうことでしょうか?
高温で素焼きすると、色によって収縮率の差が顕著になり、層の境目に微細な亀裂が入る可能性があるためです。低温でゆっくり焼くことで、粘土同士をしっかり結合させられます。
本焼きは1200〜1250度で行いますが、昇温速度を通常の8割程度に落とすのがポイントです。1時間あたり100度ずつ上げていくイメージで、焼成時間は12〜13時間程度かかります。時間はかかりますが、これで失敗率が大幅に下がります。
釉薬を掛ける際は、透明釉を選ぶと模様がはっきり見えます。色釉を使う場合は、下の模様が透けて見える薄掛けにするか、部分的に掛ける方法がおすすめです。全面に濃い色釉を掛けると、せっかくの練上模様が見えなくなってしまうので注意が必要です。
伝統的な練上技法を現代のライフスタイルに合わせた作品作りも広がっています。特に注目されているのが、幾何学模様を取り入れたモダンな食器です。
従来の市松模様や木目調に加えて、三角形や六角形を組み合わせた立体的なパターンが人気です。これらは3Dモデリングソフトで設計してから粘土で再現する方法も使われており、精密な模様が可能になっています。
アクセサリーへの応用も増えています。練上で作った板を小さくカットし、ピアスやペンダントトップに加工する作品です。陶器のアクセサリーは軽量で肌に優しいため、金属アレルギーの方にも適しています。
企業のノベルティとして練上の箸置きやコースターを作る事例もあります。会社のロゴマークを練上で表現し、記念品として配布するのです。一つ一つ手作りのため高級感があり、受け取った側の満足度も高いと評判です。
インテリア小物としての壁掛けパネルも注目されています。絵画のように壁に飾れる陶板で、練上の複雑な模様が空間のアクセントになります。サイズは30cm×30cm程度が主流で、重さは1kg以内に抑えるのが一般的です。
こうした現代的な作品を作る際も、基本の技法は同じです。模様の企画段階で完成イメージをしっかり持ち、粘土の配色や組み合わせ方を計画することが成功の鍵になります。
練上は一見難しそうに見えますが、基本を押さえれば初心者でも美しい作品を作れる技法です。粘土の水分管理、丁寧な圧着、適切な乾燥という3つのポイントを守れば、失敗のリスクは大きく減らせます。まずは簡単な市松模様から挑戦し、徐々に複雑なデザインに進んでいくのがおすすめです。