鎬手は削った跡をあえて残すので汚く見えます。
鎬手(しのぎで)とは、陶芸の装飾技法の一つです。ろくろで成形した器の表面を、カンナやヘラを使って規則的に削り取ります。削り跡が筋状の凹凸として残り、光の当たり方によって陰影が生まれるんですね。
この技法は、単調になりがちな器の表面に表情を加えます。削った部分と削らない部分の高低差は、わずか1〜2mm程度です。つまりシャープペンシルの芯の太さくらいの差が、器全体の印象を大きく変えるということですね。
鎬手を施した器は、光の角度によって見え方が変わります。朝の斜めからの光では削り跡が強調され、昼の真上からの光では柔らかな印象になるんです。使う場所や時間帯で表情が変わるのが魅力です。
伝統的には、李朝時代の朝鮮半島で発展した技法とされています。日本には茶道文化とともに伝わり、現代でも多くの陶芸家が取り入れています。シンプルな技法ながら、奥深い表現が可能なんですね。
鎬手に必要な道具は、主にカンナとヘラです。カンナは金属製で、刃の形状によって削り跡の表情が変わります。V字型の刃なら鋭い線が、U字型なら柔らかな曲線が生まれるんですね。
ヘラは竹製や木製が一般的です。金属製カンナより削りが浅く、優しい印象の鎬手になります。初心者の方は、まず竹ヘラから始めるのがおすすめです。力加減の調整がしやすく、失敗のリスクが低いためですね。
削り方には、縦削り・横削り・斜め削りがあります。縦削りは器の高さを強調し、すっきりとした印象を与えます。横削りは安定感が生まれ、どっしりとした雰囲気になるんです。
斜め削りは動きのある表現ができます。
削る間隔も重要なポイントです。間隔が狭いと繊細で緻密な印象に、広いとダイナミックで力強い印象になります。一般的には5mm〜1cm程度の間隔が使われることが多いですね。つまり消しゴムの厚みから、人差し指の幅くらいの範囲です。
削る深さは、器の厚みとのバランスで決まります。薄手の器なら0.5mm程度、厚手なら1.5mm程度まで削ることができます。削りすぎると割れの原因になるので注意が必要です。
鎬手を施すベストタイミングは、土が半乾きの状態のときです。
陶芸用語では「革硬」と呼ばれる状態ですね。
この状態だと、削り跡がきれいに残り、器が変形しにくいんです。
土が柔らかすぎると、削ったときにダレてしまいます。逆に乾きすぎていると、削った部分が割れやすくなるんですね。触ってみて、指に土が付かず、軽く押しても跡が残らない状態が理想です。
革硬の状態を見極めるコツは、器を軽く叩いてみることです。「コンコン」という澄んだ音がすれば、削るのに適しています。「ボスボス」という鈍い音なら、まだ水分が多すぎるんですね。
季節や湿度によって乾燥の速度が変わります。夏場は成形から3〜6時間、冬場は12〜24時間が目安です。急激に乾燥させると、器にひびが入る原因になります。新聞紙やビニールで覆って、ゆっくり乾燥させるのが基本です。
削るタイミングを逃した場合は、霧吹きで器を湿らせて一晩置きます。全体に均一に水分が戻れば、再び削ることができるんですね。ただし、何度も繰り返すと土の粘りが弱くなるので注意が必要です。
美しい鎬手を作るには、削る力加減が最も重要です。力を入れすぎると削り跡が不揃いになり、弱すぎると浅くて存在感のない仕上がりになります。
一定の力で、リズムよく削るのがコツですね。
削る方向を統一することも大切です。途中で方向が変わると、光の反射が乱れて雑然とした印象になります。最初に削り始める位置と方向を決めてから作業を始めるんです。
器を回転させながら削る場合は、ろくろの速度を一定に保ちます。速度が変わると削り幅が変わってしまうんですね。手動ろくろなら、ゆっくりと均等に回すことを意識します。
削り跡の間隔を測りながら作業すると、仕上がりが整います。最初の数本は定規で測って、その感覚を体に覚えさせるんです。慣れてくると、目測でも均等な間隔で削れるようになります。
削った後は、柔らかいスポンジで軽く表面を撫でます。これにより、削り跡の角が取れて、手触りが滑らかになるんですね。ただし、強く擦りすぎると鎬手の表情が失われるので、軽く撫でる程度にします。
鎬手に釉薬をかけると、削った部分と残った部分で色の濃淡が生まれます。これが鎬手の魅力を最大限に引き出すんですね。凹んだ部分には釉薬が溜まり、凸部分は薄くなります。
透明釉や半透明釉を使うと、土の色が透けて見えます。削った部分が影になり、立体感が強調されるんです。白い土に透明釉なら、光沢のある白と落ち着いた白のコントラストが生まれます。
色釉薬を使う場合は、濃い色ほど鎬手の効果が目立ちます。青磁や飴釉では、削り跡に色が濃く残り、美しいグラデーションができるんですね。淡い色の釉薬では、鎬手の存在感が弱くなることもあります。
釉薬の厚さも重要なポイントです。薄くかけると鎬手の凹凸がはっきり見え、厚くかけると凹凸が釉薬で埋まってしまいます。一般的には、通常より少し薄めにかけるのがおすすめです。
複数の釉薬を組み合わせる技法もあります。削った部分だけに別の色の釉薬を塗ると、削り跡が強調されて個性的な表現になるんですね。ただし、釉薬の相性によっては焼成時に剥がれることがあるので注意が必要です。
鎬手は、様々な器に応用できます。茶碗やぐい呑みなど、手に持つ器に施すと、指に削り跡の凹凸が伝わって心地よい触感が生まれるんですね。
使う楽しみが増えます。
皿やボウルに鎬手を施す場合は、内側よりも外側に入れるのが一般的です。料理を盛り付けたときに、外側の削り跡が見えて器の存在感が増すためです。内側に入れると、料理の邪魔になることもあります。
花器に鎬手を施すと、花との相乗効果が生まれます。縦方向の削り跡は、茎の伸びる方向と調和するんですね。
横方向なら、安定感のある印象になります。
大きな作品ほど、鎬手の効果が際立ちます。大皿や壺に施すと、削り跡が作る陰影が空間を演出します。小さな豆皿でも、細かい鎬手を入れることで繊細な表情が生まれるんです。
鎬手とその他の装飾技法を組み合わせることもできます。例えば、削っていない部分に化粧土を塗ったり、象嵌を入れたりすると、より複雑な表現が可能になります。削り跡が基本のリズムを作り、他の装飾がアクセントになるんですね。
初めて鎬手に挑戦する方は、小さな器から始めるのがおすすめです。小鉢や湯呑みサイズなら、短時間で作業が終わり、失敗しても次に活かせます。慣れてきたら、徐々に大きな作品に挑戦していくといいですね。
鎬手の技法を習得すると、シンプルな形の器でも個性的な作品が作れます。削り方や間隔を変えるだけで、無限のバリエーションが生まれるんです。自分だけの鎬手のスタイルを見つける楽しみがあります。