灰鉄輝石特徴と産地スカルン鉱物の見分け方

灰鉄輝石は鉄を豊富に含む輝石で、スカルン鉱床によく見られる鉱物です。その特徴的な結晶形態や産地、透輝石との違いについて、詳しくご存知でしょうか?

灰鉄輝石の特徴

灰鉄輝石の主な特徴
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化学組成と結晶系

CaFe2+Si2O6の化学式を持つ単斜晶系の鉱物で、カルシウムと鉄を含む単斜輝石です

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外観的特徴

暗緑色から褐緑色の柱状結晶で、繊維状または長柱状の集合体を形成します

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主な産出環境

スカルン鉱床や火成岩中に産出し、花崗岩と石灰岩の接触部で形成されます

灰鉄輝石の化学組成と結晶構造

 

灰鉄輝石(hedenbergite、ヘデンバージャイト)は、化学式CaFe2+Si2O6で表されるケイ酸塩鉱物です。透輝石のマグネシウム(Mg)が二価の鉄イオン(Fe2+)に置換されたものに相当し、単斜晶系に属します。この鉱物は、スウェーデンの化学者アンデシュ・ルードヴィグ・ヘーデンベリにちなんで名付けられました。

 

参考)灰鉄輝石 - Wikipedia

結晶構造的には、モース硬度が5.5~6.5程度で、比重は3.5~3.6です。二方向に完全なへき開を持ち、これはほぼ直角に交わる特徴的な性質として観察されます。この鉱物は透輝石と連続固溶体を形成し、マグネシウムと鉄の比率によって両者の間を連続的に変化します。

 

参考)http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~rika/tigaku/nature/mi_mineral%20htm/hedenbergite.htm

結晶形態としては、単純な四角柱状の自形結晶が多く見られますが、普通は繊維状ないし長柱状結晶の集合体として産出します。灰鉄輝石の結晶は、扇状集合や放射状集合を形成することも特徴的です。

 

参考)灰鉄輝石(かいてつきせき)とは? 意味や使い方 - コトバン…

灰鉄輝石の産地とスカルン鉱床

灰鉄輝石は主にスカルン鉱床中に産出する代表的なスカルン鉱物です。スカルンとは、花崗岩が石灰岩に貫入することで形成されるカルシウム・マグネシウム珪酸塩鉱物の総称で、約500度前後の高温条件下で生成されます。

 

参考)https://www.cpustudy.net/minerals/fukainfo.html

日本国内では、岐阜県の柿野鉱山や洞戸鉱山が灰鉄輝石の著名な産地として知られています。特に柿野東洞では、灰鉄輝石の美晶が「菊寿石」という名称で採掘されていた歴史があります。また、岐阜県飛騨市の神岡鉱山では、灰鉄輝石を多く含むスカルン鉱石が「杢地鉱」と呼ばれていました。

 

参考)灰鉄輝石とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書

その他の産地としては、島根県笹ヶ谷、福岡県一ノ岳、岡山県高梁市備中町布賀などがあります。これらの産地では、灰鉄輝石は灰礬ざくろ石、緑簾石方解石閃亜鉛鉱方鉛鉱などの鉱物と共生することが一般的です。

 

参考)https://trekgeo.net/m/s/hedenbergiteAKATANI.htm

海外では、ノルウェーのBambleなどからも濃緑色の柱状結晶が産出することが知られています。

灰鉄輝石と透輝石の違いと普通輝石

灰鉄輝石と透輝石は、化学組成の連続的な変化によって結ばれる固溶体系列を形成します。透輝石の化学式はCaMgSi2O6で、マグネシウムを主成分としていますが、そのマグネシウムが徐々に鉄に置き換わっていくと灰鉄輝石になります。

 

参考)【第75回】透輝石 : 地球のかけら- アナヒータストーンズ

この二つの鉱物はグラデーションのように移り変わっていくため、明確な境界を引くことは困難です。かつては、透輝石と灰鉄輝石の間の組成を持つものを「サーラ輝石」(salite)や「鉄サーラ輝石」(ferrosalite)と称していましたが、現在ではこれらの名称は使用されていません。

一方、普通輝石(augite)は、カルシウムの割合が透輝石や灰鉄輝石よりも少なくなった組成を持つ輝石です。普通輝石は中性から塩基性の火成岩中の重要な造岩鉱物であり、マグネシウムに富むものから鉄に富むものまで組成の変化が著しい特徴があります。火山岩中の自形結晶は、粒度が大きい場合には普通輝石か透輝石であることが多いですが、肉眼では両者を区別することは困難です。

 

参考)普通輝石(ふつうきせき)とは? 意味や使い方 - コトバンク

色の違いとしては、透輝石は比較的淡色であるのに対し、灰鉄輝石は鉄分の影響で暗緑色から褐緑色を呈することが一般的です。

灰鉄輝石の風化と変質の特徴

灰鉄輝石は鉄分を多く含むため、風化や変質を受けやすい性質を持っています。特に注目すべきは、灰鉄輝石が分解しやすく、粘土鉱物の一種であるノントロン石に変化することが多い点です。この変質現象は、灰鉄輝石が地表付近で水や酸素と接触することで進行します。

灰鉄輝石の風化が進むと、結晶の周辺や表面が褐色に変化する様子が観察されます。これは鉄分が酸化されることによるもので、灰鉄輝石の集合体の中で褐色の部分として視認できます。このような風化現象は、標本の保存状態や採集時期によっても異なり、新鮮な灰鉄輝石と風化の進んだものでは外観が大きく変わることがあります。

また、灰鉄輝石はスカルン鉱床という特殊な環境で形成されるため、その後の地質変動や熱水の影響を受けやすい状況にあります。鉄に富む変成岩、花崗岩、閃長岩、各種火山岩などにも産出しますが、それぞれの産出環境によって風化や変質の程度も異なってきます。

偏光顕微鏡による鑑定では、灰鉄輝石は緑~青緑色を示し、独特の光学的性質によって他の鉱物と区別することが可能です。この性質は、風化が進んでいない新鮮な試料において特に明瞭に観察されます。

 

参考)charts

灰鉄輝石の鉱物コレクションと地質学的価値

灰鉄輝石は、鉱物コレクターにとって興味深い標本の一つとなっています。特に「菊寿石」として知られる岐阜県柿野産の標本は、放射状に配列した針状結晶の美しい集合体として高く評価されています。これらの標本では、母岩の方解石の中に灰鉄輝石の透明結晶が含まれ、さらに磁硫鉄鉱を伴うこともあります。

 

参考)http://mineralhunter.jp/higasihora.html

灰鉄輝石は、地質学的にはスカルン鉱床の形成条件や鉱化作用を理解する上で重要な指標鉱物となります。スカルン鉱床は、花崗岩マグマと石灰岩の接触部で形成されるため、灰鉄輝石の存在は高温の接触変成作用が起こったことを示す証拠となります。

 

参考)[ID:120811] ヘデンベルグ輝石(灰鉄輝石) : 資…

また、灰鉄輝石スカルン帯中には、銅や鉄などの鉱石鉱物が鉱染していることが多く、資源探査の観点からも重要な意味を持ちます。釜石鉱山のような大規模鉱山では、灰鉄輝石-透輝石系単斜輝石がスカルン鉱物として産出し、鉄鉱床や銅鉱床との密接な関係が認められています。

 

参考)https://tohoku.repo.nii.ac.jp/record/96141/files/T2S530433.pdf

鉱物標本としての灰鉄輝石は、柱状結晶や繊維状集合体として観察でき、方解石や石英などの随伴鉱物とのコントラストも美しく、教育的価値も高い標本となります。特に、緑水晶(草入水晶)に灰鉄輝石の針状結晶が内包された標本は、その独特な外観から珍重されています。

 

参考)https://www.tennenseki-akuse.com/?mode=f85

 

 


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