有害大気汚染物質一覧と発生源や健康影響

有害大気汚染物質にはどのような種類があり、私たちの健康にどんな影響を与えるのでしょうか?優先取組物質23種類を中心に、発生源から対策まで詳しく解説します。鉱石採掘との関連も含めて、知っておくべき情報をお伝えしますが、あなたの生活環境は大丈夫ですか?

有害大気汚染物質一覧

📋 有害大気汚染物質の主要分類
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揮発性有機化合物(VOC)

ベンゼン、トルエン、キシレン類など大気中で気体となる有機化合物。工場や自動車排気ガスから排出される。

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重金属類

ニッケル化合物、ヒ素、カドミウム、クロム化合物など。鉱石精錬や工場から発生し、発がん性を持つ物質が多い。

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塩素系化合物

トリクロロエチレン、ジクロロメタン、塩化ビニルモノマーなど。洗浄剤や溶剤として使用され神経系への影響がある。

環境省が指定する有害大気汚染物質は、低濃度でも継続的に摂取すると人の健康を損なう可能性がある物質です。現在、「有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質」として248物質が定められており、その中でも有害性の程度が高いと考えられる23物質が「優先取組物質」として選定されています。これらの物質は、大気中に排出され、一生涯という長期にわたる曝露により発がんなどの健康影響が現れる可能性があることが特徴です。

 

優先取組物質23種類は以下のように分類されます。環境基準が設定されている物質として、ベンゼン(0.003mg/m³以下)、トリクロロエチレン(0.13mg/m³以下)、テトラクロロエチレン(0.2mg/m³以下)、ジクロロメタン(0.15mg/m³以下)の4物質があります。また、指針値が設定されている物質として、アクリロニトリル、アセトアルデヒド、塩化ビニルモノマー、塩化メチル、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,3-ブタジエン、ニッケル化合物、ヒ素及びその化合物、水銀及びその化合物、マンガン及びその化合物の11物質があります。

 

有害大気汚染物質の優先取組物質リスト

 

環境省が定める優先取組物質は、健康リスクが高く優先的に対策を講じる必要がある23種類の物質です。これらは環境基準や指針値の有無によって分類されており、自治体や事業者はこれらの物質の大気中濃度を定期的にモニタリングしています。

 

環境基準設定物質(4種類)
ベンゼンは石油精製や化学工場、自動車の排気ガスから排出され、白血病などの発がん性が認められています。労働環境において高濃度曝露により発がん性が確認されており、年平均値で0.003mg/m³以下という厳格な環境基準が設定されています。トリクロロエチレンとテトラクロロエチレンは金属部品の脱脂洗浄やドライクリーニングに使用される溶剤で、神経系への影響が知られています。ジクロロメタンは塗料剥離剤や接着剤に含まれ、中枢神経抑制作用を持ちます。

 

指針値設定物質(11種類)
アセトアルデヒドとホルムアルデヒドはアルデヒド類として、建材や家具から揮発しシックハウス症候群の原因物質となります。アセトアルデヒドの指針値は120μg/m³以下です。塩化ビニルモノマーはプラスチック製造時に発生し、肝臓がんとの関連が指摘されています(指針値10μg/m³以下)。重金属類では、ニッケル化合物(0.025μg-Ni/m³以下)、ヒ素及びその化合物(6ng-As/m³以下)、マンガン及びその化合物(0.14µg-Mn/m³以下)が指定されており、いずれも発がん性や神経系への影響が懸念されています。

 

物質名 環境基準/指針値 主な発生源
ベンゼン 0.003mg/m³以下(環境基準) 石油精製、自動車排気ガス
トリクロロエチレン 0.13mg/m³以下(環境基準) 金属脱脂洗浄、溶剤
アセトアルデヒド 120μg/m³以下(指針値) 建材、自動車排気ガス
ニッケル化合物 0.025μg-Ni/m³以下(指針値) 金属精錬、燃焼施設
ヒ素及びその化合物 6ng-As/m³以下(指針値) 鉱石精錬、燃焼施設

有害大気汚染物質の主な発生源と排出経路

有害大気汚染物質の発生源は、大きく固定発生源と移動発生源に分類されます。固定発生源には工場・事業場があり、石油化学コンビナート、金属精錬施設、化学製品製造工場、塗装施設、印刷施設などが該当します。これらの施設では、製造工程での化学反応や燃焼、溶剤の使用により多様な有害物質が排出されます。

 

移動発生源の代表は自動車です。自動車の排気ガスには窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)のほか、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドなど多数の有害物質が含まれています。特に都市部では交通量が多く、自動車由来の大気汚染が深刻です。研究によると、自動車製造工場における作業環境では、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなどの揮発性有機化合物(VOC)や銅、マンガン、アルミニウムなどの金属フュームへの曝露リスクが確認されており、非発がん性リスク指数(HQ)が基準値を超える物質も存在します。

 

工場・事業場からの排出
石油精製施設や化学工場では、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素が製造工程で揮発します。金属精錬施設では、銅、亜鉛、鉛などの精錬過程でカドミウム、ニッケル、ヒ素などの重金属化合物が排出されます。塗装施設や印刷工場では、トルエン、キシレン、酢酸エチルなどのVOCが溶剤として使用され大気中に放出されます。廃棄物焼却施設では、燃焼過程でダイオキシン類、ベンゾ[a]ピレン、水銀などが発生します。

 

自動車排気ガスの寄与
自動車から排出される有害大気汚染物質は、不完全燃焼により生成されるものと、燃料に含まれる成分が直接排出されるものがあります。ガソリン車からはベンゼン、トルエン、ホルムアルデヒドなどが、ディーゼル車からは粒子状物質に結合した多環芳香族炭化水素(PAH)やニトロ多環芳香族炭化水素(NPAH)が排出されます。車内空気の調査では、アセトアルデヒド(3.81-36.0μg/m³)、ホルムアルデヒド(3.26-26.7μg/m³)、トルエン(4.23-78.3μg/m³)が検出されており、内装材からの揮発も問題となっています。

 

有害大気汚染物質と健康への影響

有害大気汚染物質による健康影響は、急性影響と慢性影響に分けられます。急性影響は高濃度の短期間曝露により生じ、目や粘膜の刺激、頭痛、めまい、吐き気などの症状が現れます。一方、慢性影響は低濃度でも長期間の継続的な曝露により生じ、発がん性、神経系への影響、呼吸器疾患、生殖への影響などが懸念されています。

 

発がん性物質
国際がん研究機関(IARC)により、大気汚染そのものがグループ1(人に対して発がん性がある)に分類されています。ベンゼンは白血病との関連が確立されており、労働環境での高濃度曝露により骨髄性白血病のリスクが増加することが知られています。多環芳香族炭化水素(PAH)の一種であるベンゾ[a]ピレンは、肺がんの原因物質として知られ、自動車排気ガスや工場の燃焼プロセスから排出されます。ヒ素及びその化合物は肺がん、皮膚がん、膀胱がんとの関連が報告されています。

 

トリクロロエチレンは実験動物において、ラットでは腎臓・精巣の腫瘍、白血病が、マウスでは肝臓・肺・リンパ造血系の腫瘍が確認されています。人への影響としても、腎臓がんや肝臓がんとの関連が疑われています。塩化ビニルモノマーは肝臓の血管肉腫という稀ながんの原因となることが確立されています。

 

神経系への影響
トリクロロエチレンとテトラクロロエチレンは、労働環境での高濃度曝露により中枢神経系の抑制作用を示し、眠気、頭痛、倦怠感、認知能力や行動能力の低下を引き起こします。視神経や三叉神経への影響も報告されています。高濃度曝露では心室細動を引き起こし死に至った事例もあります。マンガン及びその化合物は、長期曝露によりパーキンソン病様症状を引き起こす可能性があり、神経系への毒性が知られています。

 

呼吸器系への影響
PM2.5(微小粒子状物質)は、粒子径が2.5μm以下と非常に小さいため、肺の奥深くまで到達し、肺炎、気管支炎、喘息の悪化などを引き起こします。WHOのIARCはPM2.5をグループ1の発がん物質に分類しており、肺がんとの関連も確立されています。ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドは刺激性があり、目や鼻、のどの粘膜を刺激し、シックハウス症候群の主要な原因物質となっています。

 

有害大気汚染物質の測定とモニタリング方法

有害大気汚染物質の大気中濃度を把握するため、環境省は「有害大気汚染物質測定方法マニュアル」を策定し、全国の自治体が定期的にモニタリング調査を実施しています。測定方法は物質の性状により異なり、適切なサンプリングと分析が必要です。

 

揮発性有機化合物の測定
ベンゼン、トルエン、キシレン類などのVOCは、容器採取法または固体吸着法によりサンプリングされます。容器採取法では、キャニスターと呼ばれる真空容器に大気を採取し、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で分析します。固体吸着法では、活性炭やテナックスなどの吸着剤を充填した管に大気を通過させ、熱脱着によりGC/MSで分析します。連続測定が可能な装置も開発されており、MAX-iAQシステムでは15秒間隔でリアルタイムに数百成分を同時モニタリングできます。

 

アルデヒド類の測定
ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドは、2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)を含浸させたカートリッジに大気を通過させ、生成したヒドラゾン誘導体を高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分析します。この方法は選択性と感度が高く、ppbレベルの低濃度測定が可能です。

 

重金属類の測定
ニッケル、ヒ素、カドミウム、クロム、マンガンなどの重金属は、ハイボリウムエアサンプラーを用いて大気中の粒子を石英繊維フィルターに捕集します。捕集した試料を酸分解し、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)または原子吸光光度計で分析します。水銀は専用のサンプリング装置により金アマルガム捕集法で採取し、加熱気化原子吸光法で測定します。

 

千葉県では約30-40地点で月1回の測定を行っており、東京都や大阪府などの大都市圏ではさらに多くの測定地点を設けています。測定結果は環境基準や指針値と比較され、超過が確認された場合は発生源対策が検討されます。

 

有害大気汚染物質の規制と事業者の対策

大気汚染防止法では、有害大気汚染物質対策として、事業者の自主的取組を基本としつつ、特に重要な物質については規制的措置が導入されています。指定物質であるベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンについては、排出施設ごとに排出抑制基準が定められています。

 

排出抑制基準
ベンゼンを排出する乾燥施設などでは、新設施設で50-600mg/Nm³、既設施設で100-1500mg/Nm³の抑制基準が適用されます。トリクロロエチレンとテトラクロロエチレンを使用する洗浄施設やドライクリーニング機では、新設で150-300mg/Nm³、既設で300-500mg/Nm³の基準が設定されています。これらの基準を超過した場合、事業者には改善命令や使用停止命令が下される可能性があります。

 

揮発性有機化合物(VOC)の排出規制
VOCを排出する化学製品製造、塗装、接着、印刷における乾燥施設、吹付塗装施設、洗浄施設、貯蔵タンクなどには、施設ごとに400-60,000ppmCの排出基準が適用されます。事業者は排ガス処理装置(スクラバー、活性炭吸着装置、燃焼装置など)を設置し、適切に運用する義務があります。

 

事業者の自主的取組
大気汚染防止法では、248物質の有害大気汚染物質全体について、事業者に自主的な排出抑制の努力義務を課しています。具体的には、低VOC塗料や水性塗料への転換、密閉設備の導入、回収装置の設置、作業方法の改善などが推奨されています。業界団体では自主行動計画を策定し、VOC排出量の削減目標を設定して取り組んでいます。

 

鉱石採掘と有害大気汚染物質の関係

鉱石の採掘・精錬プロセスは、有害大気汚染物質の重要な発生源となっています。特に金属精錬施設では、鉱石中に含まれる様々な金属元素が高温処理により大気中に放出されます。鉱石に興味を持つ方にとって、採掘や精錬が環境に与える影響を理解することは重要です。

 

金属精錬からの重金属排出
銅、亜鉛、鉛の精錬施設では、鉱石の燃焼や化学的処理によりカドミウム、ヒ素、ニッケルなどの重金属化合物が発生します。これらの物質は大気汚染防止法により排出基準が定められており、カドミウムは1.0mg/Nm³、鉛は10-30mg/Nm³以下に規制されています。精錬プロセスでは集じん機やバグフィルターを設置し、排ガス中の粒子状物質を除去することが義務付けられています。

 

石灰石の採掘現場では、粉じんの発生が問題となります。鉱石の粉砕、選別、運搬の過程で大量の粉じんが舞い上がり、周辺環境への影響が懸念されます。対策として散水設備、集じん機、防塵カバー、フードの設置などが実施されています。

 

レアアースと放射性物質
レアアース希土類元素)の鉱石は、現代のハイテク製品に不可欠な資源ですが、その採掘と精錬には深刻な環境問題が伴います。レアアース鉱石の多くはトリウム232やウラン同位体などの放射性物質を含有しており、採掘や製錬の過程で放射性廃棄物が大量に発生します。中国では環境規制の緩さから処理コストが抑えられていますが、周辺地域では土壌汚染や水質汚染が深刻化しています。

 

レアアースの精錬過程では、硫酸や塩酸などの強酸を大量に使用するため、酸性の廃液や有害ガスも発生します。環境負荷を低減するため、日本では都市鉱山(使用済み電子機器からのリサイクル)の活用や、環境負荷の少ない新しい抽出技術の開発が進められています。

 

石綿(アスベスト)鉱石の特殊性
石綿は天然に産する繊維状鉱物で、かつては建材や断熱材として広く使用されていました。しかし、石綿繊維を吸入すると肺線維症(石綿肺)、肺がん、悪性中皮腫などの重篤な健康被害を引き起こすことが判明し、現在では特定粉じんとして厳格に規制されています。建築物の解体時には飛散防止措置が義務付けられており、事業場の敷地境界で濃度10本/リットル以下の基準が設定されています。石綿による健康被害は曝露から20-40年という長い潜伏期間を経て発症するため、過去に石綿を扱った労働者の健康管理が継続されています。

 

環境省の大気汚染防止法に関する詳細情報(法令の全文や最新の改正内容が掲載されています)
環境省の有害大気汚染物質モニタリング調査結果(全国の測定データと経年変化が確認できます)
厚生労働省のシックハウス症候群に関する情報(室内空気質の指針値と対策方法が説明されています)

 

 


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