タングステン酸(H2WO4)は、三酸化タングステン(WO3)の水和物として存在し、常温の水に対してはほとんど溶解しません。その溶解度は約3.75mg/Lと極めて低く、黄色の固体として析出する性質があります。この難溶性は、タングステン酸の結晶構造に由来しています。
参考)タングステン酸 - Wikipedia
タングステン酸の構造は、タングステン原子に酸素原子が八面体配位した形を基本単位とし、一部の酸素が単位間で共有されることで層状構造を形成します。この強固な結晶構造が、水分子との相互作用を制限し、溶解度を低下させる主要因となっています。比較として、一般的な無機酸の導電率が10^-6Ω^-1cm程度であるのに対し、タングステン酸の水溶液は極めて低い導電率を示すことからも、その溶解度の低さが確認されます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kogyobutsurikagaku/32/6/32_452/_pdf
タングステン酸は密度5.5g/cm³の黄色斜方晶系結晶として存在し、融点は100℃、沸点は1473℃という高い熱安定性を持ちます。加熱すると2WO3・H2Oを経て、高温ではWO3へと変化する脱水過程を示します。
参考)7783-03-1・タングステン酸・Tungstic Aci…
タングステン酸は水には難溶性ですが、アルカリ性溶液に対しては全く異なる挙動を示します。液性が塩基性になると、タングステン酸はWO4^2-イオン(タングステン酸イオン)を形成して水溶液中に溶解します。この溶解反応は、アルカリによるタングステン酸の解離反応であり、タングステン酸ナトリウムやタングステン酸アンモニウムなどの可溶性塩を生成します。
参考)タングステン酸ナトリウム - Wikipedia
水酸化ナトリウム溶液では、タングステン酸は徐々に溶解し、濃い溶液ほど溶解速度が速くなります。一方、アンモニア水への溶解性も注目されており、29%の高濃度アンモニア水であっても溶解には時間を要することが報告されています。しかし、適切な条件下では、酸化タングステンのアンモニア水への溶解率は80%から95%に達することが実証されています。
参考)https://patents.google.com/patent/JP6143417B2/ja
pH条件による溶解性の制御は、工業プロセスにおいて極めて重要です。タングステン酸ナトリウム水溶液を製造する際、pHを8.5以上10以下の範囲に調整することで、最適な溶解状態を維持できることが知られています。この pH範囲を外れると、沈殿が生じたり、不純物の混入が増加したりする可能性があります。
参考)https://patents.google.com/patent/WO2010104009A1/ja
タングステン酸の溶解と沈殿は、pH値によって可逆的に制御できる重要な化学的特性です。アルカリ性溶液中に溶解したタングステン酸イオンは、酸を加えてpHを低下させることで、再びタングステン酸として沈殿させることができます。工業的には、pH=1程度まで酸性化することで、加水分解によってWO3の沈殿を得るプロセスが採用されています。
参考)https://mric.jogmec.go.jp/public/report/2008-05/needs_18_01.pdf
タングステン酸ナトリウム水溶液を硫酸によりpHを6.5に調整すると、イオン交換樹脂との反応性が最適化されることが報告されています。この中性付近のpH条件では、タングステン酸イオンとバナジン酸イオンなどの不純物イオンとの分離が効率的に行えます。さらに、pH9以上の塩基性溶液では、複合ポリ酸イオンがタングステン酸イオンとバナジン酸イオンに分解する現象も確認されており、精製プロセスに応用されています。
参考)https://patents.google.com/patent/JP5651164B2/ja
中和反応におけるpH制御は、タングステン酸化合物の形態にも影響を与えます。タングステン酸ソーダの水溶液を2N硫酸で中和してpHを約7に調節した場合、電解による電気抵抗の変化が観察され、溶液中のイオン状態の変化を示唆しています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1950/9/8/9_8_288/_pdf/-char/ja
自然界において、タングステンは灰重石(CaWO4)や鉄重石(FeWO4)といったタングステン酸塩鉱物として産出します。これらの鉱石からタングステンを抽出する工業プロセスでは、タングステン酸の溶解特性が中核的な役割を果たします。
参考)灰重石 - Wikipedia
最も一般的な抽出方法は、鉄マンガン重石などの鉱石を水酸化ナトリウムあるいは炭酸ナトリウムと共に700℃以上850℃以下の温度で融解させる手法です。この高温処理により、鉱石中のタングステン化合物は酸化されてタングステン酸ナトリウムとなり、その後水酸化ナトリウム水溶液で抽出することで、可溶性のタングステン酸ナトリウム水溶液が得られます。
参考)タングステン酸ナトリウム
苛性ソーダによる加圧浸出法も近年注目されており、160℃、苛性ソーダ濃度100g/L、処理時間2時間、液固比2.5:1という条件下で、WO3の浸出効率94.97%を達成した研究があります。この方法では、難溶性のCaWO4やFeWO4も効率的に溶解させることが可能です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11866204/
鉱石処理における重要なポイントは、反応生成物を接触界面から除去し続けることです。これにより新鮮な鉱石表面が常に反応剤と接触し、溶解効率が向上します。また、融解物を水に溶解させた後に生じる不溶性物質は、濾過によって除去する必要があります。
タングステン酸の溶解挙動は、温度によって大きく影響を受けます。三酸化タングステンの構造自体が温度依存性を示し、-50℃から17℃では三斜晶系、17℃から330℃では単斜晶系、330℃から740℃では斜方晶、740℃以上では正方晶と、温度域によって結晶構造が変化します。この構造変化は、溶解性にも影響を及ぼします。
参考)三酸化タングステン - タングステンオンライン
熱水に対しては、常温の水よりもわずかに溶解性が向上することが報告されています。しかし、タングステン酸カルシウムなどの塩については、温度上昇に従って溶解度が低下する逆温度依存性を示すことが知られています。150℃の方が低温時よりも溶解度が低くなる現象は、特定のタングステン酸塩の特性として重要です。
参考)タングステン酸
工業的な電解プロセスにおいては、高温条件が推奨されています。タングステンの電解溶解では、70℃に温度を調整することで、電流効率がほぼ100%に達することが実証されています。温度が高いほど溶解速度が向上し、処理時間の短縮と効率化が実現します。
参考)https://patents.google.com/patent/JP2013036111A/ja
パラタングステン酸アンモニウムは、20℃時の溶解性が303.99g/100g H2Oと極めて高い水溶性を示しますが、20℃未満では難溶性となり、水への溶解性が2%程度まで低下します。この温度感受性は、結晶化や精製プロセスの設計において重要な考慮事項となります。
参考)パラタングステン酸アンモニウムのFAQ - パラタングステン…
アンモニア水を用いたタングステン酸の溶解は、環境負荷が低く、精製プロセスが簡便であることから、工業的に注目されています。苛性ソーダによる溶解と異なり、アンモニア水を使用する場合、溶液中からナトリウムを除去するための溶媒抽出やイオン交換処理が不要となります。
酸化タングステンのアンモニア水への溶解プロセスでは、濃度25%、温度70℃のアンモニア水が効果的であることが実証されています。この条件下で、溶解率は80%に達し、さらに酸化処理条件を最適化することで95%まで向上させることが可能です。溶解率は、酸化処理による原料混合物の粉体から酸化タングステンへの変換率と、酸化タングステンのアンモニア水への溶解率との積で算出されます。
逆中和法によるタングステン酸化合物の調製では、硫酸タングステン水溶液を10質量%から30質量%のアンモニア水溶液中に添加する手法が採用されています。アンモニア濃度が10質量%以上であれば、タングステンが溶け残りにくくなり、完全な溶解が達成されます。一方、30質量%以下という上限は、アンモニアの飽和水溶液付近の濃度であるため、安全性と実用性の観点から設定されています。
参考)特許7554935
タングステン酸アンモニウム水溶液の製造では、陰イオン交換樹脂を用いた精製工程が組み込まれています。この工程により、バナジウムなどの不純物を効果的に除去し、高純度のタングステン酸アンモニウム水溶液を得ることができます。溶液の酸化タングステン濃度は20g/Lから150g/L、バナジウム濃度は15mg/Lから1000mg/Lの範囲で処理されることが一般的です。
タングステン酸および酸化タングステン層の耐薬品性は、使用環境や用途によって重要な特性となります。酸化タングステン層は、アルカリには溶解しますが、酸に対しては酸の種類によって異なる耐性を示します。
参考)https://www.nittan.co.jp/products/tanmoriQamp;A_002_001.html
具体的には、タングステン酸は水や一般的な酸には不溶ですが、フッ化水素酸には可溶であり、濃塩酸にはやや可溶です。この選択的な溶解性は、精製や分離プロセスにおいて利用されています。一方、水酸化ナトリウム溶液には徐々に溶解する性質があり、この特性がアルカリ溶解法の基礎となっています。
三酸化タングステン(WO3)は、濃縮アンモニアまたはアルカリ溶液中にゆっくりと溶解することができますが、ほとんどの無機酸には溶解しません。ただし、フッ酸に加えて、熱した硝酸には溶解性を示すことが報告されています。また、濃縮した後に水を加えた際の再溶解度は、塩酸の方が硝酸よりも大きいという特性があります。
参考)https://ir.lib.shimane-u.ac.jp/3486/files/9436
タングステン酸塩の処理においては、塩酸と硝酸の選択が重要です。タングステン酸では硝酸の方が良好な溶解性を示すのに対し、タンタル酸では塩酸の方が良好であるという違いがあります。この酸の選択性を理解することは、効率的な金属回収プロセスの設計に不可欠です。
タングステン酸の溶解挙動を正確に評価するには、適切な分析技術が必要です。電気化学的手法として、電解による電気抵抗の変化を測定する方法が古くから用いられています。タングステン酸ソーダの水溶液を2N硫酸で中和してpHを約7に調節し、電解を行うと、溶液の電気抵抗が変化することで、イオン状態の変遷を追跡できます。
クエン酸ナトリウムとタングステン酸の相互作用を調べる際には、λ1/2値(半波電位)の測定が有効です。タングステン酸水溶液にクエン酸を添加すると、pH5.0における半波電位が変化し、これにより錯体形成の程度を評価できます。この技術は、タングステン酸のメッキ浴における挙動解析に応用されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1950/20/3/20_3_105/_pdf
現代的な分析手法としては、X線回折(XRD)、走査電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDS)、X線光電子分光法(XPS)などが利用されています。これらの手法により、タングステンの存在形態(CaWO4、FeWO4など)や、ケイ酸塩粒子中への分散状態を詳細に解析することが可能です。
溶解度の定量的評価には、溶液中のタングステン濃度を測定する必要があります。酸性母液中に残存するタングステンの損失量を評価することで、沈殿分離プロセスの効率を算出できます。工業プロセスでは、酸を加えてpH=1として三酸化タングステンを沈殿分離する際、廃液となる酸性母液中のタングステン含有量を最小化することが経済的に重要です。
タングステン酸の溶解特性は、様々な工業製品の製造プロセスに応用されています。媒染剤、分析試薬、触媒、水処理剤として利用されるほか、耐火・防水材料の製造、リンタングステン酸塩、タングステン酸ホウ素などの合成にも使用されます。
参考)タングステン酸の用途 – CF タングステン
繊維産業では、タングステン酸は媒染剤として機能し、染色の定着性を向上させます。また、タングステン酸と硫酸アンモニウムなどの混合物を用いて、繊維に防火性や防水性を付与することができます。この処理により、難燃性のレーヨンやレーヨンを製造することが可能になります。
金属表面処理の分野では、タングステン酸ナトリウムが電気めっき皮膜の防食に使用されています。特に、ニッケル-タングステン合金メッキ浴において、タングステン酸はクエン酸と錯体を形成し、メッキ特性を制御する重要な役割を果たします。
エナメル産業では、タングステン酸は色を導入するための共溶媒として使用され、焼成温度の低下と補色効果をもたらします。また、顔料、染料、インク、皮革のなめし剤としても利用されており、その多様な用途は溶解性の制御可能性に基づいています。
金属タングステン、タングステン酸、タングステン酸塩の製造においては、タングステン酸の溶解が中間プロセスとして不可欠です。石油産業や航空宇宙材料の製造においても、タングステン化合物の合成と精製にタングステン酸の溶解技術が活用されています。
タングステン酸の溶解処理を行う際には、環境への影響と安全性の確保が重要な課題となります。歴史的なタングステン鉱山の尾鉱では、灰重石(CaWO4)の風化によってタングステンが地下水や表層水に移行する現象が観察されており、長期的な環境モニタリングの必要性が指摘されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7044260/
タングステン自体の毒性に関する報告はありませんが、タングステン尾鉱や残渣は環境や人の健康に深刻な脅威をもたらす可能性があります。特に、高濃度のタングステン酸イオンが水系に存在すると、環境と人体健康に悪影響を及ぼすリスクがあるため、適切な処理と管理が求められています。
参考)https://www.mdpi.com/1660-4601/19/12/7280/pdf?version=1655197721
アルカリ溶解法では、高濃度の水酸化ナトリウムやアンモニアを使用するため、作業者の安全確保が重要です。特に、アンモニア濃度が30質量%に近い高濃度溶液を扱う場合、飽和水溶液付近であることから、蒸気圧の上昇やアンモニアガスの発生に注意が必要です。
高温条件での処理では、700℃から850℃という高温での融解操作が伴うため、熱管理と安全設備の整備が不可欠です。また、融解物を水に投入する際の急激な発熱反応にも注意が必要であり、加圧容器内で融解物を押し出す方法や、容器を傾けて注ぐ方法など、安全な操作手順が確立されています。
廃液処理においては、酸性母液中に残存するタングステンを回収するか、適切に処理する必要があります。pH調整によって沈殿分離する際に生じる廃液には、まだ少量のタングステンが含まれているため、これを環境中に放出する前に、さらなる処理や回収プロセスを検討することが望ましいでする処理や回収プロセスを検討することが望ましいです。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/a8945ec56a3a62056a50ded5a2abd03539dde8bb

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