蒸気圧と温度には密接な関係があり、温度が上昇すると飽和蒸気圧も増加します。この現象は、温度上昇によって液体分子の運動エネルギーが増加し、より多くの分子が液体表面から気体へと蒸発できるようになるためです。密閉容器内で液体と気体が平衡状態にあるとき、その気体が示す圧力を飽和蒸気圧(または蒸気圧)と呼び、この値は温度によって一意に決まります。
参考)飽和蒸気圧(求め方・温度との関係・計算問題の解き方など)
飽和蒸気圧と温度の関係を表したグラフを蒸気圧曲線といいます。この曲線は物質ごとに異なる特性を示し、例えば水とエタノールを比較すると、同じ温度ではエタノールの方が蒸気圧が高く、より蒸発しやすい性質を持っています。蒸気圧曲線上の任意の点において、その温度と蒸気圧の交点が飽和蒸気圧を示しており、圧力が外気圧と等しくなる温度がその物質の沸点となります。
参考)【完全解説】飽和蒸気圧ってなに?
体積一定の条件下で温度を上げていくと、気体は徐々に蒸発して気相中の気体分子数(モル数)が増加します。これに伴い圧力(飽和蒸気圧)が増加し、この関係を示す曲線が蒸気圧曲線です。重要な点として、飽和蒸気圧は密閉容器の体積や液体の物質量には関係なく、温度のみによって決まる物性値であるという特徴があります。
参考)蒸気圧とは(蒸気圧曲線・蒸気圧降下・温度・沸点・計算)
クラウジウス-クラペイロン式は、蒸気圧と温度の定量的な関係を理論的に示す重要な式です。この式は次のように表されます:ln(P₂/P₁) = -ΔHₘ_vap/R × (1/T₂ - 1/T₁)。ここで、P₁とP₂は状態1と状態2における純物質の蒸気圧(Pa)、T₁とT₂は温度(K)、ΔHₘ_vapはモル蒸発潜熱(J/mol)、Rは気体定数(8.314 J/(mol・K))を表します。
参考)【クラウジウス-クラペイロンの式】を解説:蒸気圧と蒸発潜熱の…
この式の主な使用方法は2つあります。1つ目は、温度T₁における既知の蒸気圧P₁から、温度T₂における未知の蒸気圧P₂を算出することです。2つ目は、2つの異なる温度T₁、T₂における蒸気圧P₁、P₂からモル蒸発潜熱ΔHₘ_vapを算出することです。クラウジウス-クラペイロン式は理論的に導出可能な蒸気圧の推算式として知られていますが、実用的にはアントワン式の方が推算精度が良いため、産業現場ではアントワン式が多用されています。
クラウジウス-クラペイロン方程式は、物質の蒸気圧(P)と温度(T)の定量的な関係を示し、単位温度の上昇に伴う蒸気圧の上昇率を予測します。液体とその蒸気の平衡は系の温度に依存し、温度が上昇すると液体の蒸気圧も上昇するという基本原理に基づいています。この式を用いることで、ある温度での蒸気圧データから他の温度での蒸気圧を推算でき、化学工学や物理化学の分野で広く活用されています。
アントワン式は蒸気圧を計算する3定数の経験式で、クラウジウス-クラペイロン式よりも高い計算精度を持つため、気液平衡の計算に広く利用されています。式の形は log₁₀P = A - B/(t + C) で表され、Pは蒸気圧(mmHg)、tは温度(℃)、A、B、Cはアントワン定数と呼ばれる物質固有の定数です。
参考)蒸気圧の基本とプラントでの活用方法 - ケムファク
アントワン式を用いると、任意の温度における蒸気圧を計算できます。計算には物質固有のアントワン定数が必要で、これらの値は化学工学便覧などの参考資料に多数掲載されています。例えば水のアントワン定数は、A=7.19611、B=1730.630、C=-39.724という値が使用されます。この式の便利な点は、逆算も可能で、蒸気圧が分かっている場合に沸点を算出したり、沸点が分かっている場合に蒸気圧を算出したりできることです。
参考)アントワン式を用いた蒸気圧計算ツール - ケムファク
実務レベルでは、アントワン式の精度は十分に高く、化学プラントのプロセス設計や安全性評価に利用されています。プロセスシミュレータでも蒸気圧の推算にアントワン式がデフォルトで設定されており、特に非理想性が強い系でなければユーザーが設定を変更する必要がありません。また、オンラインツールも開発されており、物質と温度を入力するだけで簡単に蒸気圧を計算できるようになっています。
参考)【純物質の蒸気圧】推算方法を解説:Antoine式が精度高い…
蒸気圧の測定方法には様々な技術があり、最も古典的な方法はマノメトリック法です。この方法では、液体を密閉容器に入れて平衡に達した後、平衡蒸気圧を直接圧力計(マノメーター)で測定します。低圧から中圧の範囲で正確な測定値が得られるため、研究室レベルで広く用いられています。
参考)蒸気圧:基本と例
簡易な実験装置を用いた水の蒸気圧測定も可能です。実験では、密閉容器内の温度をデジタル温度計で測定しながら、温度を徐々に下げながら容器内の水蒸気圧を圧力センサーで測定します。この方法により、水の蒸気圧曲線の概要を得ることができ、教育現場でも活用されています。実験結果から蒸気圧と温度の関係を直接確認でき、理論式との比較検証が可能です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/56/2/56_KJ00007514915/_pdf
高精度な測定には特殊な装置が必要です。例えば、水の三重点における蒸気圧を測定する場合、循環系を持つ特殊な装置と精密水銀マノメーターが使用されます。実際の三重点条件を確立するため、蒸留した液体を垂直井戸上に凍らせた氷のマントルに流し、不揮発性汚染物質を減らす工夫が施されます。このような高精度測定により、水の三重点における蒸気圧は611.657 Paという値が得られています。
参考)https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/jres/80A/jresv80An5-6p775_A1b.pdf
飽和蒸気は産業分野で極めて重要な役割を果たしており、温度と圧力の制御が容易であることが大きな利点です。飽和蒸気では温度が決まれば圧力が決まり、逆に圧力が決まれば温度が決まるため、温度と圧力の調整により容易に目的の条件を実現できます。この特性を活用して、食品・飲料業界では加熱、乾燥、蒸し・加湿、焼成、濃縮、蒸留、滅菌・殺菌、洗浄といった各種生産工程で飽和蒸気が使用されています。
参考)蒸気の基礎知識
蒸気の熱伝達性の高さも産業利用の重要な理由です。蒸気は均一な温度で機器内に充満し、一定の温度で凝縮・熱伝達するため、電気やガスと比べて伝熱面における温度ムラがありません。また、蒸気潜熱を利用した応用も広範囲に及び、ジャケット加熱などの熱源として蒸気を凝縮させて他へ熱を与える用途や、クーリングタワーや打ち水のように水を強制的に蒸発させて他から熱を奪う冷却用途があります。
日常生活でも蒸気圧と温度の関係は身近に活用されています。例えば、洗い終わった食器が自然に乾くのは、食器についた水分が空気中のエネルギーによって水蒸気に変わる蒸発現象です。工業設備では蒸発冷却が熱を効果的に冷却するために使用され、クーリングタワーでは冷却水を外気と接触させて一部の冷却水を蒸発させ、残りの冷却水の温度を下げています。これは水が蒸発する際に周りの熱を奪っていく気化熱の原理を利用したもので、冷やされた冷却水は再度利用できる効率的なシステムです。
参考)水が蒸発する仕組みは?蒸発の身近な例や活用方法も解説
鉱物や金属元素の蒸気圧と温度の関係は、高温プロセスや材料合成において重要な意味を持ちます。50種類の一般的な純元素について、蒸気圧と温度の関係が評価され、10⁻⁸ atmから10 atmまでの広範囲な蒸気圧範囲に対応する推奨式が提案されています。この研究では、文献に報告された測定値とクラウジウス-クラペイロン関係を用いて計算された沸点以上の値を統合し、遺伝的アルゴリズムを使用して各元素の拡張蒸気圧範囲における温度関数としての蒸気圧データの最適フィッティングが行われています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9821539/
高温下での鉱物や金属の挙動を理解する上で、蒸気圧の制御は欠かせません。例えばGaSeの結晶成長では、制御されたSe蒸気圧下での液相エピタキシー法が用いられており、適切な蒸気圧条件が結晶品質に大きく影響します。同様に、CZTSSe材料の製造では、制御されたSe蒸気圧下でのアニーリングが太陽電池への応用において重要な役割を果たします。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/a090ac966cfcba73905d5dd59c1a485dcb80c053
地質学的プロセスにおいても、温度と圧力の関係が鉱物の形成に影響します。温度が上がるにつれて、氷が水に、さらに水が水蒸気になるように、物質は高温状態ほど多くのエネルギーを確保しています。地下で発生したマグマの温度は1500℃以上にもなると考えられており、マグマ中に溶けている元素も高温のうちは多くのエネルギーを得て単独に存在できます。このような温度・圧力・蒸気圧の相互関係が、様々な鉱物の生成条件を決定する重要な要因となっています。
参考)岩石や地層のでき方|地質を学ぶ、地球を知る|産総研 地質調査…
飽和蒸気圧の詳しい解説と計算問題の解き方
このリンクでは、飽和蒸気圧の基本概念から実践的な計算問題まで、体系的に学べる内容が提供されています。
クラウジウス-クラペイロンの式の理論的導出と応用
蒸気圧推算の理論的背景と実用的な推算式の比較について、化学工学的な視点から詳細に解説されています。
化学プラントにおける蒸気圧の実務的活用方法
アントワン式を用いた実際のプラント設計や安全性評価での活用事例が紹介されており、実務に直結する情報が得られます。

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