撥油剤非フッ素で陶器を守る選び方と安全な使い方

陶器に撥油剤を使うなら、非フッ素タイプが今や主流です。でも種類が多くて何を選べばいいか迷っていませんか?シリコン系・炭化水素系・有機シラン系の違いや食器への安全性、選び方のコツを詳しく解説します。

撥油剤・非フッ素タイプを陶器に使う前に知っておきたいこと

非フッ素の撥油剤でも、食器に使えないタイプがあるとあなたは損をします。


📋 この記事の3ポイント要約
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非フッ素撥油剤の種類を知る

シリコン系・炭化水素系・有機シラン系など、非フッ素でも複数の系統があります。陶器への密着性や撥油性能がそれぞれ異なるため、用途に合った選択が重要です。

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食器への安全性に注意が必要

陶器の食器に使用する場合は、食品衛生法の規格基準に対応した製品を選ぶことが大前提。「非フッ素だから安全」とは限りません。ラベルの確認が必須です。

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PFAS規制で選ぶ理由がさらに増加

日本では化審法によりPFOS・PFOA・PFHxSの製造・使用が原則禁止。環境面・健康面の両方から、非フッ素撥油剤を選ぶメリットが大きくなっています。


撥油剤とは何か、非フッ素タイプが注目される背景

撥油剤(はつゆざい)とは、対象物の表面に油をはじく性質を与えるためのコーティング剤のことです。陶器の表面に塗ることで、調理油・皮脂・食品の油分が染み込みにくくなり、汚れの付着防止や洗いやすさの向上につながります。陶器は表面に微細な孔(気孔)を持つ多孔質素材であるため、使い続けるうちに油や色素が浸透しやすく、シミや臭いの原因になりやすいという特性があります。そこで登場するのが撥油剤です。


従来、撥油剤の主流は「フッ素系」でした。有機フッ素化合物(PFAS)を使ったタイプは、撥水性・撥油性ともに非常に高く、工業用から食器・繊維製品まで幅広く使われてきました。これが基本です。


ところが近年、フッ素系化合物の一部であるPFOS・PFOAなどが「永遠の化学物質」として、体内に蓄積されやすく、肝臓や免疫機能への悪影響が指摘されるようになりました。日本では化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)によって、PFOS・PFOA・PFHxSの製造・輸出入が2010〜2024年にかけて段階的に原則禁止されています。さらに2026年4月からは水道法が改正され、PFASに対する規制はさらに強化される見込みです。


こうした流れの中で、「非フッ素系の撥油剤」への注目が一気に高まっています。意外ですね。環境や健康への配慮だけでなく、「フッ素系原料(蛍石)の価格高騰・供給不安定」というコスト面も、非フッ素化が進む実務的な理由のひとつです。陶器を扱う方にとっても、この流れを押さえておくことが今後の材料選びのポイントになります。




以下の参考リンクでは、農林水産省によるPFASと食品安全に関する情報がまとめられています。陶器製食器を日常的に使う方にとって、PFASが食品を通じてどのような影響を持ちうるかを確認できます。


農林水産省|食品中のPFASに関する情報


非フッ素撥油剤の主な種類と陶器への適合性

非フッ素系の撥油剤は、大きく「シリコーン系」「炭化水素系(長鎖アルキル系)」「有機シラン系」の3種類に分けられます。それぞれに撥油性能・耐久性・密着性の特性が異なり、陶器に使う際には用途によって適切に使い分けることが大切です。


シリコーン系撥油剤は、主成分がポリジメチルシロキサン(PDMS)であり、撥水性が非常に高い一方で、撥油性はフッ素系に比べてやや劣る傾向があります。陶器への密着性は一定程度ありますが、油脂を多く含む食品を扱う食器には少し物足りないケースがあります。価格が比較的手ごろで汎用性が高い点が魅力です。


炭化水素系(長鎖アルキル系)撥油剤は、フッ素もシリコーンも使わないタイプで、レゾナック(旧昭和電工)などが工業用途向けに「長鎖アルキルによる撥水・撥油性付与」を実用化しています。撥水・撥油性能はシリコーン系と同等かやや劣りますが、環境負荷が低く、安全性の面でPFAS規制に対応しやすい特性があります。つまり安全面では選びやすいタイプです。


有機シラン系(ゾルゲル法)撥油剤は、産業技術総合研究所(産総研)が2012年に発表した技術に代表されるもので、「アルキルトリアルコキシシランとスペーサーシランの混合塗液」を常温乾燥させることで、フッ素を一切使わずにフッ素系を上回るはつ油性を実現しています。動的接触角(接触角ヒステリシス)がわずか3°という非常に優れた数値を示しており、油滴が表面にピン留めされずスムーズに滑落することが確認されています。これは使えそうです。


陶器への適合性という観点では、有機シラン系はガラス・金属・樹脂に加えて多種の基材に対応でき、陶磁器表面とも密着しやすいシラン結合を利用している点で注目です。ただし、市販の陶芸用・家庭用製品としてはまだ普及途上のため、入手性を含めて比較検討する必要があります。


| 種類 | 撥油性能 | 耐久性 | 安全性 | 陶器への密着性 |
|:------|:--------:|:------:|:------:|:-------------:|
| フッ素系 | ◎ | ◎ | △(PFAS規制あり) | ○ |
| シリコーン系 | ○ | ○ | ◎ | ○ |
| 炭化水素(長鎖アルキル)系 | △〜○ | △〜○ | ◎ | △〜○ |
| 有機シラン系(ゾルゲル) | ◎ | ○ | ◎ | ◎ |




産総研による非フッ素はつ油技術の詳細については、以下のプレスリリースが参考になります。「フッ素を使わずにフッ素系を上回る撥油性」という事実の根拠が丁寧に説明されています。


産業技術総合研究所|はつ油性に優れた透明塗膜(非フッ素系表面処理技術)


陶器の食器に非フッ素撥油剤を使うときの安全確認のポイント

陶器製の食器に撥油剤を使う場合、「非フッ素だから大丈夫」という思い込みは危険です。日本では食品衛生法によって、食器・容器に使用できる材質・成分の規格基準が定められており、その基準に適合していない処理剤を食器に使用することは許可されていません。非フッ素であっても、例えばシリコーン系や炭化水素系の一部製品は「食品に触れない用途専用」として明記されているものがあります。


食器用の撥油・防汚コーティング剤を選ぶ際は、以下の3点を必ず確認してください。


- 食品衛生法対応(ポジティブリスト適合) の記載があるか
- 「食器可」「食品接触面に使用可」といった用途表記があるか
- 使用後の焼成(素焼き・本焼き)が必要かどうか(陶芸用撥釉剤の場合は焼成で成分が飛ぶため安全性が変わる)


陶芸における「撥釉剤(はつゆうざい)」は、主に釉薬の付着を防ぐために施釉前に塗布するものです。これらは焼成工程で有機成分が燃え切ることを前提として設計されています。一方、完成した食器に後から塗る「コーティング型撥油剤」は、焼成を行わないため、成分の安全性確認がより重要になります。目的に応じた製品を選ぶことが原則です。


有限会社新昭和コートが販売する陶磁器用コーティング剤のラインナップでは、食器として使える水溶性タイプと、花器・タイルなどの「食器不可」フッ素系タイプが明確に分類されています。陶器の食器に使う際は必ず食器対応品を選ぶこと——これだけ覚えておけばOKです。




日本化学工業品検査所(NITE)の食器関連法規制のページでは、食品衛生法に基づく食器の安全基準がわかりやすくまとめられています。


NITE(製品評価技術基盤機構)|食器に関連する法規制等


陶器の目止めとの組み合わせで撥油効果を高める方法

陶器を使い始める前の伝統的な処理として「目止め(めどめ)」があります。米のとぎ汁に含まれるデンプン質が陶器表面の微細な気孔を埋め、汚れや油の染み込みを防ぐ役割を果たします。しかしこれは、あくまで「一時的な物理的コーティング」であり、繰り返し洗うことで効果が薄れやすいという限界があります。


非フッ素系の撥油剤を目止めと組み合わせることで、より長期にわたる防汚効果が期待できます。具体的な手順としては、まず新しい陶器の使い始めに米のとぎ汁で目止めを行い、乾燥後に食品衛生法対応の撥油コーティング剤(シリコーン系または有機シラン系)を薄く均一に塗布する方法が有効です。この順序が条件です。


特に釉薬の貫入(かんにゅう・焼成時に釉薬に生じる細かいひび)がある陶器や、素地が粗い陶器は吸水性が高いため、同じ使い方をしても汚れ方に差が出やすいです。そのような器ほど、非フッ素撥油剤の効果を実感しやすい器といえます。


実際に使う場面での工夫として、使用前に器を水にくぐらせてから使うことも、一時的な防汚策として有効です。水分が気孔を先に埋めることで、食品の油や色素が入り込みにくくなります。これは一翠窯(issui pottery)などの陶器作家・窯元も公式に推奨している方法です。厳しいところですが、毎回の手間がかかるのが難点です。


本格的に撥油性を維持したい場合は、市販の食品衛生法対応・水溶性タイプの目止めコーティング剤(例:食器用目止めキット)の使用が現実的です。「一度手当てをしておく」だけで日常のメンテナンス頻度を大幅に下げられます。




陶器のお手入れと目止めの具体的なやり方については、以下のページが実用的な情報を提供しています。


和食器専門店|陶器・磁器を長く使うためのお手入れとは?


陶芸家・作家が知っておきたい、釉薬工程での撥釉剤との違い

陶芸を実際に制作する立場では、「撥油剤」と「撥釉剤(はつゆうざい)」はまったく別の役割を持つ素材として区別して理解することが大切です。この2つを混同すると、完成品に思わぬトラブルが起きることがあります。


撥釉剤は、釉薬の施釉工程において「釉薬を付着させたくない部分」(主に作品の底部など)に塗布するものです。代表的な製品には「CP-E(青・油性タイプ)」「CP-E2(強力タイプ)」などがあり、これらはフッ素系有機溶剤を使用しているものが多く、使用の際は火気厳禁・換気必須・保護具着用が必須となっています。素焼き後・本焼き前に塗布し、本焼きで成分が焼き切れる仕組みです。


一方で、水性タイプの撥釉剤も市販されています。水性タイプは油性に比べて撥水力はやや弱いものの、溶剤臭がなく、洗い落としも可能(お湯で対応可)というメリットがあります。初心者や自宅の陶芸スペースで使う場合には、水性タイプのほうが扱いやすい選択肢です。非フッ素を意識して選ぶなら水性タイプから検討することをおすすめします。


なお、陶芸ショップ「陶芸ショップ.com」や「陶芸.com」などの専門店では、用途ごとに整理された撥水剤・撥釉剤のラインナップが確認できます。選ぶ際は「油性か水性か」「フッ素系か非フッ素系か」「食器用か非食器用か」の3軸で絞り込むと迷いが少なくなります。これが基本の選び方です。


また、釉薬添加型の特殊な撥水剤も存在しますが、使用方法を正しく理解していないと予期しない焼き上がりになるリスクがあります。この種の製品を初めて使う場合は、少量の試し焼きで効果を確認してから本番作業に臨むことを強くおすすめします。




陶芸専門店の商品ラインナップでは、撥水剤・撥釉剤の種類と使い分けが整理されています。実際の製品選定の参考にどうぞ。


陶芸ショップ.com|撥水剤・撥釉剤の一覧(陶芸用品専門店)