万博のチュニジア館で買った壺、そのまま飾ると3日で崩れます。
チュニジアは北アフリカに位置する国で、陶器文化の歴史は非常に長く、古代ローマ時代にまでさかのぼります。特に有名なのが「ナブール焼き」で、ナブールという都市はチュニジア北東部・ボン岬半島の南東に位置する地中海沿岸の街です。人口は約5万6000人ほどのこの街は、陶器とオレンジの産地として知られており、白と青の美しい街並みが印象的です。
驚くべきことに、日本の愛知県瀬戸市とナブール市は、陶器を縁として2004年に姉妹都市提携を結んでいます。「せともの」という日本語の語源である瀬戸市と、チュニジアの陶都が「焼き物」でつながっているというのは、なかなか感慨深い話です。2024年には姉妹都市提携20周年を迎え、ナブール市には「瀬戸公園(Jardin de Seto)」の建設起工式も行われました。
ナブール焼きの特徴は、地中海沿岸で採れる陶土を使い、青・緑・黄色など鮮やかな色彩と幾何学模様や植物モチーフを組み合わせた点にあります。この釉薬技法は17世紀にアンダルシアの職人によってチュニジアに伝わったとされており、イスラム芸術の影響を色濃く受けています。色ごとに地域のイメージがあり、水色は「シディ・ブ・サイドのチュニジアンブルー」、黄緑は「オリーブの産地ジェルバ島」を表すなど、チュニジアの風景が色に込められているのです。
一方で、万博でも展示されたもう一つの陶器「セジュナン陶器」は、さらに原始的な魅力を持ちます。つまり2種類の陶器が存在します。
大阪・関西万博(EXPO 2025)では、チュニジアパビリオンが会場内のセービングゾーン・西ゲート近くに設置されました。万博の開幕から閉幕(2025年10月)までの間に約50万人が訪れ、チュニジア文化に触れる貴重な機会となりました。ジェトロ(日本貿易振興機構)の取材によると、館長のサミー・ハッセン氏は「ナブールの陶器、セジュナンの陶器、ガフサのタペストリーなどを展示し、チュニジアの食文化を体験してもらうコーナーも設けた」と述べており、工芸品の展示に力を入れていたことがわかります。
ジェトロ:大阪・関西万博、チュニジア館の館長インタビュー(展示内容・訪問者数・日チュニジア関係)
外務省:陶磁器で結ばれた縁、瀬戸市とナブール市姉妹都市提携20周年記念
万博チュニジア館の目玉の一つが、パビリオン出口付近に設けられた野外の実演販売ブースでした。赤と白のチュニジア国旗を背景に、職人が「蹴ろくろ」と呼ばれる足で蹴って回す伝統的なろくろを使い、粘土をみるみるうちに壺の形に仕上げていく光景は、多くの来場者を立ち止まらせました。
壺は高さ10cmほど(はがきの横幅くらい)のコンパクトなサイズで、フォルムも水差しタイプや丸みのあるものなど様々。価格は1個500円です。欲しい形を英語で職人に伝えると、その場でアラビア語で名前を彫ってくれるサービスも付いています。伝えにくい場合はスマートフォンのメモ帳に名前をアルファベットで書いて見せるとスムーズです。
購入後の支払いは館内レジで「買いました」と申告する流れです。ここで重要な注意点があります。
この壺は「焼成されていない状態」、つまり陶芸でいう「生素地(なまきじ)」の段階で提供されます。釉薬もかかっていないため、そのままでは水を入れると粘土に戻って崩れてしまいます。いわば、まだ「粘土の成形品」の状態なのです。乾燥が進んでから30〜1時間程度は外面が落ち着いて硬化しますが、それでも「完成品の陶器」ではありません。購入直後は非常に柔らかく、人込みの中での持ち運びには細心の注意が必要です。
購入時には段ボールの小さな台に乗せて渡されます。あらかじめ紙袋や持ち帰り用のケースを持参しておくと安心です。会場内で1時間ほど乾燥させると、段ボール台から自然にはがれるくらいには固まります。ただし3日ほどで乾燥しきっても、完全に水に強いわけではありません。乾燥しすぎるとヒビが入るリスクもあります。
また、実演ブースに職人が常駐しているとは限りません。休憩中や不在のことがあり、特に雨天時は屋外での実演が行われない可能性もあります。「会えたらラッキー」くらいの気持ちで訪問するのが正解です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 価格 | 1個500円 |
| サイズ | 高さ10cmほど(はがきの横幅程度) |
| 状態 | 未焼成(生素地) |
| 名入れ | アラビア語でその場に彫刻(英語で伝えればOK) |
| 支払い場所 | 館内レジで申告 |
| 持ち帰り | 紙袋・ケース持参推奨 |
未焼成のまま家に飾っていると、いつかひびが入ったり、誤って水がかかれば崩れてしまいます。万博から帰った後、「どうすればいいの?」と途方に暮れた人は少なくありませんでした。そこで注目を集めたのが「陶芸教室・工房への持ち込み焼成」という方法です。
焼成の手順を簡単に説明すると、陶芸の焼きには2段階あります。まず「素焼き」は800度前後の低温で焼き、水分を飛ばして粘土を丈夫にする工程です。次に「本焼き」は1,200〜1,300度の高温で焼き締め、釉薬をガラス化して美しい仕上がりと強度をもたらす工程です。万博の壺を900度以下で素焼きするのが安全とされており、複数の陶芸家からそのようなアドバイスがされています(職人本人も焼成温度として「900度」と答えていました)。
注目したいのが、大阪市北区中津にある「エフロノット」の陶芸部「とんぼ窯」です。エフロノットはヘブライ語で「鉛筆」という意味を持つユニークなヘブライ雑貨・文房具のお店で、その陶芸部門がこのサービスを提供しています。万博記念として、無期限・無償でチュニジアの壺の焼成を受け付けているのです。これは使えそうです。
素焼きのみで仕上げることも、釉薬をかけて本焼きまで行うことも、指定通りに対応してくれます。申し込みはエフロノットのXアカウントへDMを送るか、直接持参する形です。焼き上がり次第、XのDMで連絡が来るので、発送または直接引き取りに行けます。最寄りは地下鉄御堂筋線・中津駅の2番出口から徒歩約2分です。
未焼成の壺を自分で絵付けして持ち込むことも可能です。万博のカラーである赤と青で幾何学模様を施したり、ナブール焼き風の植物モチーフを描いたりすると、本当に世界に一つだけの陶器が完成します。陶芸教室に通っている人は、自分の通う先生に相談してみるのも手です。
壺の焼成を検討している際の行動は、まずエフロノットのXアカウント「@efronot_nakatsu」にDMを送ることで始められます。
エフロノット「とんぼ窯」でのチュニジア壺焼成体験レポート(申し込み方法・完成写真あり)
万博のチュニジア館で展示されたのは、ナブール焼きだけではありません。もう一つの陶器文化「セジュナン陶器」も大きな注目を集めました。
セジュナン陶器は、チュニジア北部に位置するセジュナン村の女性たちが代々作り続けてきた陶器です。その歴史は3,000年以上にわたり、紀元前3,500年頃(新石器時代)とほぼ変わらない製法で今も作られています。驚くべき点は、ろくろや特殊な道具を一切使わず、すべて手びねりで成形するという点です。先住民ベルベル人(アマジグ)の伝統技術が受け継がれ、地元で採れる土と天然の顔料だけを使用しています。結論は「自然素材のみ」が原則です。
文様は植物の汁を絞った液で描かれ、ベルベル独自の幾何学的なパターンが特徴的です。プリミティブでありながら見飽きない不思議な美しさがあり、2018年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。これはチュニジア初の世界無形文化遺産登録でもあります。
一方、ナブール焼きとの違いを整理すると以下のようになります。
セジュナン陶器は日本でも入手できます。たとえばエスニック・地中海インテリアを扱うブランド「SOLOW(ソロウ)」がセジュナン陶器をベースにしたインテリアアイテムを取り扱っており、デザイナーのエッセンスを加えた花瓶やボウルが展開されています。価格帯は13,200円〜35,200円ほどで、アートピースとして飾りたい人に向いています。
万博でチュニジア陶器の世界に触れたなら、ぜひセジュナン陶器の歴史的背景まで掘り下げてみてください。焼き物への眼差しが変わるはずです。
SOLOW:セジュナン陶器の詳細と購入ページ(歴史・製法・各種アイテムラインナップ)
陶磁器好きにとって意外と知られていない事実があります。チュニジアのナブール市と日本の愛知県瀬戸市は、日本・チュニジア間で唯一の姉妹都市関係にあります。「せともの」という日本語の語源になった瀬戸焼の産地と、アフリカ最北端の陶都がなぜ結ばれたのか。興味深いですね。
その経緯を辿ると、1997年に当時の駐日チュニジア大使が瀬戸市を訪問したことがきっかけです。その後「瀬戸市・ナブール市交流展」、ナブールで開催される国際陶磁器フェスティバルへの参加、陶芸家同士の交流と段階的に絆を深め、2004年に正式な姉妹都市提携を締結しました。2005年には愛・地球博(愛知万博)に合わせて「ナブール月間」が開催され、瀬戸市の末広町商店街にナブール市から贈られたタイルを使ったモニュメント「ナブールの庭」が作られました。これは今も実際に訪れることができます。
ナブール市では毎週金曜日の午前中に「陶器市」が開かれています。国内各地から買い付けに来る業者や観光客で賑わうこの市には、花瓶・壺・食器・タイルなど、様々なナブール焼きが並びます。チュニジアを旅する際には、この金曜市を目がけて訪れるのが、陶磁器好きにとっての正解です。
また、両市の市章にはどちらも「壺」がデザインされています。愛知の瀬戸市もチュニジアのナブール市も、まちのシンボルが「壺」というのは偶然ではなく、焼き物文化の深さを象徴しています。瀬戸市は名古屋市の北東約20km、瀬戸蔵や深川神社のすぐ近くに「ナブールの庭」があり、チュニジアのタイルモザイクを間近で見ることができます。陶磁器好きならば、万博をきっかけに瀬戸市も訪ねてみてください。国内にいながら、チュニジアの陶器文化を感じられる場所があるということです。
さらに、瀬戸市は景徳鎮市(中国)、リモージュ市(フランス)、ナブール市(チュニジア)、利川市(韓国)の4都市と姉妹・友好提携を結んでおり、すべて「やきものの産地」という共通点を持ちます。世界の陶磁器文化が瀬戸に集まっていると考えると、陶器への見方がまた変わってきます。
チュニジア観光局公式:ナブールの陶器市や街の情報(金曜陶器市の様子を含む)